第110話 闇の操者

「あの時の理由、聞かせてくれないか?」


そう言った俺の問いかけに東雲さんは静かに語り始めた。




「あの時、ヴァルハートのビシエ遺跡で外敵が現れて、皆で頑張って、後少しって所であのおかしな外敵が出てきたよね?」


「ああ。身体から黒いオーラの様な物を出していたデカい奴だな。あいつが現れて俺は・・・!」



あれが現れて、手も足も出なくて、頼みの双飛竜も効かなくて・・・その後、東雲さんの矢が俺を襲った。次いで勇人に腕を切り飛ばされて・・・あの時を思い出すと怒り、焦り、恐怖色々な感情が押し寄せてくる。


だが今は感情に流されてはいけない。

それにあの外敵が全身を包んでいた黒いオーラ。あれは—————



「ごめん。思い出させちゃったかな・・・」


「いや、大丈夫だ。」



俺は無意識の内に震えていた拳の力を抜き、東雲さんの話の続きを待つ。



「それでね。銀次君があの外敵に攻撃されたのを見て、助けなくちゃってすぐに癒しのマジックアローを使ったの。でもそれが・・・」


「攻撃、炎のマジックアローだった。と言う訳だ。あくまで俺を助けようと回復したつもりが間違えて攻撃をした。つまりは誤射だったと言う事か。今まで標的を外した事の無い、ましてや攻撃と回復を間違えた事の無い東雲さんが。」


「ッ!・・・うん。」



俺の言い方が厳しかったのか彼女は一瞬ビクッと震えその後小さく頷いた。



「須藤!そんなわざと間違えた様な言い方せんでもッ!あっ・・・ごめん。」



西城も俺の言葉が気に入らなかったのだろう。突っかかってきそうな気配だったが俺の身体を心配したのか自分が今入るべきじゃないと思ったのか分からないがすぐに元の場所に戻った。



「言い方が良くなかったかも知れないが俺が言いたいのはなぜ今まで百発百中だった彼女があの場面だけ誤射をしたのかって事だ。彼女の言ってる事が嘘じゃないのなら何かあるはずだ。テンパりましたってのならそれまでだけど。」


「・・・あの時の記憶が少し、曖昧で・・・何か見た気がするんだけど、気が付いたら私は矢を放っていて・・・」



そう言うと東雲さんは少し黙ってしまった。



「思い出せ!シノノメマユミ!その何かって言うのは何だ!?人か?魔獣か?貴様が何も理由無くギンさんを討てるはずがない!私にはわかる!お前と私。ギンさんを想う気持ちは同じだ。気に入らないがな!」



今まで腕を組み黙って静観していたハビナが声を荒げた。

想うって。改めて言われるとどうにもむず痒い。



「えっと、うーん。人・・人・・・そう!人がいた!全身ローブを纏っていて顔は見えなかったけど。あれ?あの人の感じどこかで・・・」


「人?それにローブを・・・?」



あの場にいたのは俺たち勇者6人(厳密には勇人は違うが)とライーザさん、ギャレス、メーシー、それと騎士団の連中だ。その中にローブを着ていたやつはいなかったはずだ。一体誰が・・・



「うーん・・・!?思い出した!あの人、私達が初めてこの世界に来た時に王女様とかと一緒に離塔にいたお爺さんだ!」



東雲さんは少し考え込んだ後、突然大声を上げた。



「俺たちが召喚された時に離塔にいた老人?そんなやつ―――――いた。いたぞ!目があった後一瞬で消えてしまったが確かにいた!」


「そうやったっけ?ウチ全然記憶にないわ。」



西城は覚えていないらしいがザ・魔術師の様な格好をした老人がいた事は確かだ。

その老人はあれから見かけていない。もちろん前述した通りビシエ遺跡攻略メンバーにはいなかった。



「一体なぜそんな奴があの場に・・・?しかも俺たち全員に分からないように。遺跡に行く前にライーザさんに一緒に行く騎士団のメンバーは紹介してもらったはずだ。」



いざと言う時に見た事が無い人間がいてはいけないという事でライーザさんに名前付きで紹介して貰っていたのだ。申し訳ないが死んでしまったスコットと言う青年しか今は覚えていないが。



『・・・娘よ。おっと、娘は三人いるな。東雲よ。これは憶測になるが・・・遺跡にてその老人とやらが現れた時。お前に何かしなかったか?例えば―――――』



急にリオウが会話に入ってきたと思ったら突然、持っているリオウが宙に浮きふわふわと移動し西城の目の前でぴたりと止まった。



「リオウ?何を・・・」



俺の問いかけを無視しリオウが何かぶつぶつ言っている。



『深遠なる闇の精霊よ。我に従い闇を一層濃くしたまえ。其の深濃なる闇にて彼の者を魅了せよ。<<ダークファシネイト>>』



「・・・須藤。ウチ、おっぱいは小さいけどお尻には自信あんねん。ちょっと恥ずかしいけど見てくれへん?須藤にはこの前、顔突っ込まれてしまったんやけど。」



「・・・は?」



西城が突然、四つん這いになりグラビアで言う雌豹のポーズ?みたいな恰好をしだした。履いているホットパンツに手をかけて尻を振っている。いや、何やってんだこいつ。



「ちょ、ちょっと香織!どうしたの!?って顔でお尻って何!?」


「カオリ・・・お前、積極的なのはいいが今じゃないだろう・・・」



東雲さんとハビナも西城の突然の痴態に戸惑っているな。いや、ドン引きか。



「なぁなぁ。須藤?早くさわっ・・・・ん?ってウチ何やって・・・?ってわああああああ!!何でズボン半分脱げてるんや!?しかもなんであんな変態みたいな事言って!やめろ!見るな!この変態!スケベ!!記憶から消せ!」



訳の分からない行動をしていた西城がまたも突然正気に戻った様に暴れている。

俺に言われても・・・今のはリオウがやったのか?何か魔法を唱えた様に聞こえたが。




「あ・・・!確かにあの時・・・あのおじいさんが今のリオウさんが言った言葉を言ってた気がする!その後、気が付いた時にはもう・・・」


『ふん。決まりだな。今のは闇魔法の一つダークファシネイトだ。対象者を意のままに操る事を目的とするものだな。闇魔法の中でも特に扱いが難しいこれを対象者の記憶を抑制出来る程使いこなせるのは・・・ヤツしかいない。』


リオウは東雲さんの返答を聞き心底嫌そうにそう言った。



「対象者を意のままに操るだと?そいつはこれで東雲さんを操って俺を・・・」


『恐らくは。我は闇魔法は辛気臭くて苦手でな。時間も短くしか出来ぬし対象者の操られている間に起こっていた記憶まで消せぬのだ。なにより肌に合わぬ。やはり魔法は竜言語に限る。』



肌って。お前今は刀だろう。



「リオウちゃん!!なんちゅう事命令してんねん!!って言うか何でウチやねん!?頼む、後生や・・・皆の記憶を消して・・・無理ならウチの記憶を消して・・・それも無理ならいっそ殺してや・・・」


『我をちゃんづけするからだ。』



西城は自分のやらかした事を思い出して泣いている。そりゃあそうだ。

俺だってあんな事やった記憶があるなら死にたい。


まぁ、さめざめと泣く西城は置いておいて、だ。



「リオウがヤツと呼ぶそいつはまさか・・・」




『ああ。間違いない・・・グレインだ。』


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