第109話 許す者、語る者


大森林の様子は分かった。


それともう一つはっきりさせておかなくてはいけない事があるが、ハビナが来た事でまず先にすることがある。



「そうなのか。皆無事で本当に、良かった・・・うぐっ!」



俺は今だ全身が軋む様な痛みを堪え身体を起こし何とか立ち上がった。



「ギンさん!まだ安静にしていなくては!」


「いや・・・大丈夫だ。ハビナ・・・今回の事は本当にすまなかった。お前はもちろん、レオンやプラネ、それに皆には謝っても許される事じゃない。どんな罰でも受ける。獣老を解任、大森林を追放、なんでも言って欲しい。」



俺はそう言って深く頭を下げた。大森林を滅ぼしかけたのだ。

話を聞く限り皆、無事な様だが、もし誰かが死んでしまっていたら俺は・・・



「頭を上げてくれ!あれは私が勝手にやった事だ!ギンさんが気に病む必要はない!」


「病まないはずがないだろ!下手をしたら全員、俺が殺してしまったかも知れないんだ・・・!それにまた暴走してしまったら・・・」



3人の表情は暗い。レオンも復活しているのなら獣老間で何かしらの話はしているはずだ。それによって色々と決まって来るだろう。




「それについては緊急の獣老会議で結論が出た。ギンジ殿の今回の件は不問とする。」


「は?サ、サルパ?それに不問って・・・」



再度部屋のドアが開き訳の上記の様な訳の分からない事を言いながら獣老の一人、サルパが部屋に入って来た。



「ほっほっほ。じゃから、獣老会議で決まったんじゃ。」


「なぜだ!?俺はある意味お前たちを裏切ったんだぞ!?あれだけの事をして・・・もしまた暴走したら次は誰かを、いや、全員死んでしまうかもしれないんだ!」



俺は先程ハビナに言った事と同じ事をまた叫んでいた。仕方が無いだろう。

あれは本当にヤバい。俺自身に止められる術が無いのだ。


「そう言われてものぅ・・・」



『銀次よ。案ずるな。竜装化の全てを開いてしまった我にも責任がある。ついてはやはり今はまだ制限を掛けた方が良いだろう。それにお前は乗り越えた。もう安易に飲まれる事は無いはずだ。我も最大限注意しておく。』


「リオウ、か。再度制限を?本当にそれで大丈夫なのか?」



サルパの手には刀が握られていて刀からリオウの声が響いた。

リオウが責任を持って俺の竜装化を管理するらしい。



「そう言う事じゃ。それにギンジ殿には大恩がある。一度の過ちで見切ってしまっては獣人の名折れじゃて。しかもそれが病気に近い発作の様な物であればなおさらじゃ。」


「サルパ・・・そんな、いいのか・・・?」



サルパは老体にこの刀は堪えるのぅ、と言いながらリオウを俺に手渡してきた。

刀を手にした瞬間少しだけ心が落ち着いた様な気がした。リオウの言う制御が効いているのだろうか。


過ちを犯しても見捨てない、そう言った獣老、それに大森林の獣人たちの思いに目頭が熱くなった。



「さっすが!父上やミズホ様たちだ!同じ獣人として誇りだ!」


それを聞いたハビナはパァっと笑顔になりサルパの肩をバンバンと叩いている。

やはりハビナには笑顔がよく似合うな。



「い、いたっ!ハ、ハビナちゃんや。痛いんじゃ!それと儂とガジュージも獣老じゃし、おとがめなしには儂らも一致で賛成したんじゃが・・・」


「細かい事は良いんですよ!サルパ様!ありがとう!」



感極まったハビナはサルパを思いっきり抱きしめた。サルパはそのままハビナの胸に埋もれている。そんなに強くしたら傷に響くぞ。



「おぉぅ。この感触は・・・!ハビナちゃんの成長を感じられて儂も嬉しいぞい!」



ハビナの成長?を感じられてサルパはご満悦の様だ。



「ふぅ。100歳は若返った気分じゃ。それとギンジ殿、エルフのメーシー殿から奴隷化の解除の目処がたったそうじゃ。体調が戻ったら改めて色々と話したいの。レオン坊たちもギンジ殿程ではないにしろまだ万全じゃないようじゃからな。」



サルパはその後、忙しいからとそのまま部屋を出て行った。きっとまた仕事を溜めこんでいるのだろう。お付きのハナちゃんがオーバーアクションで急かしている姿が目に浮かぶ。



「そうか、メーシーがやってくれたか。早く話しをしないとな。」



俺の事を許すと言った皆に報いる事が出来る様、俺に出来る事は全力でやろう。



そしてもう一つ。先も言ったがきちんと向き合おう。


「東雲さん。」


「ん。何かな?」



俺の問いかけに彼女は少し怯える様な笑顔で答えた。



「あの時、東雲さんは俺を裏切った、と言った。」


「うん・・・そうだね。」



改めて確認すると彼女は辛そうにそう頷いた。それを見るとまたも胸の奥にズンと何かがのしかかる様な感じがした。


でも、ここで折れてはいけない。この先をしっかりと聞かなくては。

そしてそこで何があったとしても、もう俺は飲まれない。



「・・・理由、を聞かせてもらう事は出来ないだろうか。何があなたをそうさせたのか。」



なぜ彼女が俺を裏切る必要があったのか。勇人の様に俺が気に入らない、自分が一番でいたい。と言うのなら甘んじて受け入れよう。そして抗って見せよう。


俺の意志を上塗りする竜装化ではなく、俺自身の手で。


でも、そうじゃない様な気がした。もし俺が邪魔なのなら先程まで意識が無かった俺だ。看病なんてせずに殺すなりすればいいのだ。きっと何か別の——————


ん?今しがた圧殺されかけた様な・・・?



「それは・・・そうだね。言い訳にしかならないと思うけど・・・あの時の事、ちゃんと話すね。」



彼女はそう言って軽く目を瞑り、静かに話し出した。

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