第108話 獅子奮迅の行方


「これでぇ!終わりだああぁぁぁ!![パワーナックル]!!」


亮汰は叫びながら自らの力を上げるバフをかける。

その金色のオーラを一層膨らませ、牙を剥く光竜を蹴り上げた。



「加瀬ーーーッ!!行っけーーー!!」



西城の祈る様な声援を聞きながら俺も・・・


亮汰、頼む。


体力も魔力も底をついた俺は心底そう願いそのまま意識を失った。



ん・・・――――はっ!?ここは・・・?ん?視界が・・・むごっ!?く、苦し――――



なんだ!?何が起こっている!?落ち着け。良く考えろ。

確か俺は、竜装化が暴走してレオン達と戦ってその後・・・そうだ。


全魔力を使い竜言語魔法を放った。それを亮汰が止めて、それから・・・気絶していたのか。


となると俺は今どこにいるんだ?意識はある。下は、ベッドか。頭の下になんだかふにっとした何かが置いてある気がするが。誰かが運んでくれたのか。という事はあの場にいた皆は助かったのか?俺が生きているんだ。多分そうなのだろう。


身体が動かせないな。竜装化の代償か?目の前も真っ暗だ。まさか五感が・・・?いや、顔に触覚はあるな。妙にツルツル、スベスベ?した感覚だ。何かが俺を圧迫しているらしい。そのせいで呼吸も・・・まずい、息がもう――――



「うぅ、ん・・・くすぐったいよぉ。はぅ・・・ちょっと、銀次く、ん・・・?」



誰かの声が聞こえるがそれどころではない。鼻と口が完璧に塞がれており脳に酸素が供給されていかない。


「むぐー!うー!」


覚醒したばかりの意識が再度遠のくのを感じた俺は力を振り絞って体をゆすり、声にならない声を上げてみた。



「あぁ!!銀次君!!目が覚めたんだね!!よかった・・・ぐすっ・・・」


「ぷはっ!ハァー、はぁ、し、東雲さん・・・?」



死ぬかと思った。突如開けた視界に目を細めるとそこには二つの双丘が広がっていた。

そのせいで顔を確認出来ないが俺を呼ぶ声で東雲さんだろうと判断した。

そしてこれは、ああ、膝枕と言うやつだな。頭のふにっとした感触はコレだったのか。

という事は俺の呼吸と言う生命維持に必要不可欠な行動を妨げていたのは・・・



「ごめんなさい!!私ったら寝ちゃって・・・苦しく、なかった・・・?」


「ああ。いや・・・死ぬかと思った。」



恐らく東雲さんが俺を膝枕をしたまま寝入ってしまったのだろう。

その為、彼女は前かがみになりその双丘が俺の顔に。


とんでもない役得だがもしそのまま死んでしまったら恥ずかしすぎる死因じゃないかと思う。

それにしてもこの世界に来てから俺がぶっ倒れて起きた後はだいたい東雲さんがいるよな。

言いかえばそれだけぶっ倒れてる訳だ。



「ほ、ホントにごめんね・・・よいしょ、と。やっと目が覚めたのにまず見るのが私じゃ目覚め、悪いよね。」



彼女は俺の頭を支えていた足をそっと外して立ち上がり、俺に背を向けながらそう言った。


「あ・・・いや、俺は・・・」


俺が暴走した夜からどれほど経っているかわからないがその原因、と言うかきっかけは俺が彼女を殺そうとしたからだ。


結果彼女を切る事は無かったが代わりに俺はハビナを・・・


あの時、俺に明確な殺意はなかった、と思う。ただ俺の求めていた、こうであって欲しかった「彼女は俺を裏切ってなんかいない、何かの間違いだった」という答えでは無く



―――――私は銀次君を裏切った、と思う―――――



現実を突き付けられ、一気に感情の波に流された。

元々覚悟はしているつもりだった。絶対に許さない。そう思っていたはずだった。


暴走した竜装化が解ける直前。俺の内から溢れたあの感情。

全てを守りたい。だとしたら俺は・・・




「じゃあ私、皆を呼んでくるね。皆凄く心配してるから。」


やはりこちらを向かず、床を見ながら彼女はそう言い部屋から出て行こうとする。

なぜかここで彼女を行かせてしまってはいけない、そんな気がした。


「東雲さん。その前に少し、いいか?」


「えっ・・・?銀次君が良ければ全然いい、よ。」



東雲さんに声をかけると彼女はドアノブを回し掛けていた手を止めてこちらへ振返る。


こちらへ向き立っている彼女を見ると俺が暴走した時とは違う格好をしている事に気が付いた。


確かあの時はメイド服を着ていたはずだが今はシルクっぽい赤いサテン地に細かい黄色の刺繍が施してあるチャイナ服を着ている。

サイドに太もも近くまである深いスリットが妖艶な雰囲気だ。思えば髪の毛もロング髪も二つのお団子にしているな。


裸ワイシャツにメイド服、それからチャイナ服。どれもコスプレっぽいがなぜ彼女はそういった服装になるのだろう。



「あ、この服?ミズホさんが貸してくれたんだ。銀次君の所のメイドさんと間違えちゃうからって。チャイナ服って初めて来たけど動きやすいんだね。メイド服よりちょっと恥ずかしいけど。」



目線を感じたのか東雲さんが服について説明してきた。そんなにジロジロと見てたつもりは無いんだけど、見てたのかな。


ミズホの服か。確かにあいつの来てた白い服もチャイナドレスっぽかったな。

なるほど通りで胸の部分がキツ・・・っと、なんだか寒くなってきた。これ以上はやめておこう。それよりも聞きたい事がいくつかある。



「そうか。似合ってると思うよ。それよりまず、昨日?俺が意識を失ってどれくらい経ってるか分からないが、あの後どうなった?・・・それとハビナの容体は?俺の竜言語魔法を亮汰たちが体を張って止めてくれていた途中までは分かっている。まぁ窓から見る景色もいつものままだ。大森林はなんとかなったんだろうけど・・・」


「あぁ。うん、それはね。私も途中で気を――――」



「ちょっとまったぁ!それはウチらが話したるわ!」



突然部屋の扉が開け放たれた。聞き覚えのあるこの声は・・・



「西城。・・・っ!それに・・・ハビナか・・・」


「ハビナちゃん!?もう大丈夫なの!?」



東雲さんも驚いた表情をしている。ハビナはあの時の様に傷から血が滲んだりはしていないが上半身は包帯を巻かれておりお世辞にも万全であるとは言えないのは明らかだ。今も無理をしているのだろう。



「ふん。大丈夫に決まっているだろう?貴様の様に土壇場まで動けない様な奴とは気持ちが違うんだ。」


「そうだね・・・ハビナちゃんは凄いよ。あんな傷であそこまで来てくれて・・・ハビナちゃんがいなかったら私は今頃・・・」



東雲さんはまたも下を向き小さい声で答えた。確かにもしあの時ハビナが来なければ東雲さんは奮い立てず、亮汰を回復させることも無く、あのまま全滅だっただろう。

でも気持ちで怪我が治れば回復魔法は必要ないぞ。



「だがまぁ、その後の働きは良かったみたいだな。それだけは誉めてやろう。」


「ハビナちゃん・・・」



ハビナはまたもふん、と鼻を鳴らし東雲さんから顔をそむける仕草をした。



そう、東雲さんが亮汰以外を回復させていたら。あの暴れ狂う光竜は亮汰(無敵状態)じゃなければ受ける事さえできなかったはずだ。


最良の、と言うかそれ以外の選択肢はバッドエンド確定だ。良く亮汰のスキルの事知ってたな。あ、俺たちがヴァルハートから帰ってきた時に使ってたのを見たのか。



「まぁまぁ。それでな、須藤。須藤がブンブンした時から今はちょうど5日くらい経ってるんよ。レオンさん、プラネさん、ガジュージ君は翌日の1日目、まゆまゆとメーシーせんせがその次の日、でハビナちゃんがその次の日に目が覚めたって感じや。」



ブンブン?多分竜装化が暴走した事を言っているのだろう。5日か、せいぜい2~3日くらいかと思っていたな。体力と魔力も底の底をついたって事かな。



「そうか。という事は俺の光竜は無事に防げたんだな?」



「加瀬ーーーッ!!行っけーーー!!」


「任せろ!!竜は空を泳いでた方が絵になるぜ!!おらぁぁぁぁ!!!」



―――――0



GyAAAAAAAAAAAAAAAA!!


タイムリミットとほぼ同時に超巨大光竜は吠えながら大森林を照らす2つの月に向かって昇って行き―――――



空高く、爆音と共に弾けた。




「ん。ああ、そうやね。加瀬が頑張ってくれたわ・・・」



俺の問いに西城が答える。本当に亮汰がいてくれて良かった。

あいつには今度何かしてやらないとな。亮汰が喜ぶ事か。


何が良いだろうか?ヴァルハートで酒でもご馳走しようか。でもあいつが俺と行って喜ぶだろうか?

まあいい。後で直接聞いてみるとしよう。

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