第105話 ドラゴンインパクト


『さて、この暴走している銀次を止める方法。かなりシンプルなのだが・・・』


「なんだよ!早く教えろよ!暴走した銀次が退避させてある獣人達を攻撃でもしたらやべぇじゃねーか!」



もったいぶる様な言い方をするリオウに亮汰が急かす。亮汰は帝国から奪還したが今だ奴隷化を解除出来ていない獣人たちの心配をしている。



「確かに普段のギンジ殿ならばありえない所だが今はその可能性も視野に入れなくてはならないか・・・」


「出来るだけ早く止めなくてはなりませんね。」



レオンとカジュージはそう言うと額の汗をぐっとぬぐった。



『まあ、そう焦るな。こうしている事にも意味はあるのだ。今の銀次を止める方法は一つ、銀次の魔力を使い果たさせる事だ。魔力が切れれば竜装化りゅうそうかも解ける。しばらく寝込むだろうが銀次のスキルもある。死ぬことはない。』


「銀次君の魔力を使い果たす?」



真弓はリオウの言ってる事にしっくりこないのか少し頭をかしげている。


「・・・なるほど。要はギンジ君の魔力が切れるまで私達で凌ぎ切れって事か。リオウ様。その為には・・・」


メーシーは若干苦笑いをしつつゴクリと喉を鳴らす。



『察しが良いな。エルフの娘よ。本来この竜装化は莫大な魔力を必要とする。ただ成っているだけでもな。銀次の場合、例のスキルで魔力を回復してしまうが・・・スキルによる回復量は消費と同程度か竜装化にかかる消費の方が気持ち多い。』



メーシーとリオウの解説を聞き真弓も頷きプラネも何をすべきか悟った様子で答える。



「そうか。だがそれはかなりのリスクを伴うな。」


『うむ。先程の様な範囲殲滅を使われぬ様、時に攻め時に守らねばならぬ。その中で一撃でも貰えば致命傷となろう。』



リオウのその言葉に一同は再度顔を見合わせて頷くと少ない時間で作戦を練る事にした。




『うむ。そろそろ我の抑えている時間も限界だ。出来れば誰も死ななずにいると良いが・・な・・・』



「グッ・・・!一体何ダった・・・!!」


徐々に視界が戻ってきた。突然意識が途切れた様に感じたが・・・


目の前には先程と変わらぬメンバーが俺を見ながら戦闘態勢を取っている。

何故邪魔をする?そんなに死にたいのか。



「まあイイ、コイツで終ワりダ!!」



俺は湧き上がる破壊衝動をぶつけるべく再度魔力球を精製しようと左手を掲げる、が。


「もう一度それをやらせる訳には行かないっ!ハァ![ファングクラッシュ]!!」



突如プラネがダッシュスキルを使い俺の目の前に迫りスキルを繰り出してきた。


ファングクラッシュというスキルは以前ハビナが狼男の様な魔獣相手に使用したスキルだ。確かなかなか高威力なスキルだったはず。ならば・・・


「遅イ!」


プラネの爪は俺の首筋寸前まで迫っていたが俺は瞬時にスウェーでかわしその後一歩距離を取る。

チッ、今ので魔力球の精製が中断されてしまった。



「簡単に当たるとは思っていなかったがああも簡単に避けられると少々傷つくな。」



プラネは再度構えるが中々動こうとしない。不意打ち気味に来たのに追撃はしないか。



「よし!まずはマユミちゃん!鰐のガジュージ君、でいいかな!?お願い!」



「わかりました!先生!『清らかなる水の精霊よ。我に従い数多の水弾となれ。彼の者達に激流の裁きを。<<スコールレイン>>』!」


「承知した!おおっ![ダイタルウェイブ]!!」



メーシーの指示が飛び東雲、さんとガジュージが魔法とスキルを放ってきた。

これで俺を止めるつもりか。



「フン!こノ程度!!」



俺は以前勇人のスキル、閃洸砲牙せんこうほうが、だったか。あれを止めた時の様に魔力の壁を展開した。若干違うのは以前は正面を防ぐ壁だったが今は全体を覆うドームの様な分厚い壁だ。



「軽イぞ!・・・何?」



東雲さんの強烈な水弾が雨の様に振る魔法、スコールレインとガジュージのダイタルウェイブは俺を通り過ぎると周囲の炎に向かっていった。



それなりの範囲の森が焼けていたが強力な魔法とスキルによって鎮火され、辺りからはシュウシュウと水蒸気の煙が立ち上っている。


最初から俺に当てる為ではなく森の鎮火の為、だったという事か。しかし・・・



「ナラば!モット広範囲を、大森林全てヲ焼き尽くシテやろウ!!」



上空から燃やし尽くしてやろうと地面を蹴り空へと向かおうとする。が、またか!



「[闘気拳オーラナックル]!銀次!てめぇ何一人で勝手に空飛ぼうとしてんだよ!地面で勝負しな!」



亮汰が自らの闘気をレーザーの様に放出するスキルで妨害してきた。


さらに亮汰はこちらへ走って近づいて来る。



「亮汰!ソンな燃費ノ悪いスキルを使っテ後が持たナいぞ?」


「うるせぇ!大森林を燃やしちまったら後でお前が辛えぞ!?さっさと目を覚ましやがれ![パワーナックル]!」



亮汰は叫びながら自己バフスキルを使い連打を仕掛けてくる。

だがいくら強化されていると言っても俺にとって亮汰の攻撃はそこまでの脅威ではない。



「後で、ダと?そんナもの俺にはモウ関係ナイ!全て破壊シテヤル!!」



亮汰の連打を片手で全て捌き、腹に一撃を叩き込んだ。


亮汰の身体がズドンと言う音と共にくの字に折れ曲がる。そのままレオン達がいるところまで地面と平行に吹っ飛んで行った。



「ゲハッ!!な、なんつー力だよっ・・・!前に殴られた時とは比べ物にならねぇ・・・!ッ!?ゴボッ!!」


「亮汰君っ!?大丈夫!?」



亮汰は内臓がやられたのかかなりの量を吐血しているな。

俺の・・・邪魔を、するからだ・・・亮汰、すまん・・・



俺はなぜ亮汰に謝罪の気持ちが出たのかわからないままゆっくりとあいつらの方へ向かっていく。追撃をするのだろう、多分。



「ま、真弓、ちゃん・・・大丈夫な、訳ないじゃん・・・?早く、回復・・・」


「う、うん!あ・・・でも、わたし・・・」



亮汰は顔を白くさせながら今にも気絶しそうだが中級の回復魔法か東雲さんのマジックアローならば回復出来るだろう。


だが彼女は慌てるばかりでマジックアローを使おうとはしなかった。



「ガハッ!ま、ゆ・・・ヒュー、ヒュー、」


「あ、あぁ・・・亮汰君・・・!」


「いかん!どいてくれ!『清らかなる水の精霊よ。我に従い癒しの水泡にて彼の者の傷を復し癒したまえ。<<ツヴァイヒーリング>>』」



亮汰の呼吸が怪しくなってきた時、ガジュージが中級の回復魔法を亮汰に施した。

亮汰の顔色は一気に良くなりすぐに起き上がり、前を向く。


あれだけのダメージの後、すぐに向かってくるとはな。見上げた根性と言っていいのか、喧嘩バカなのか。



「よっ、と。サンキュー!ガジュージさん!マジで死ぬかと思ったぜ!」


「礼を言われる事でもないさ。前線に出る人数が減るとこちらも困るんでね。だが先程のスキルと今ので僕の魔力も心もとない。あとの回復はシノノメ殿に任せたいんだが。」


「は、はい!ごめんね。亮汰君。すぐに回復出来なくて・・・」


「ああ!次は頼むぜ!」



亮汰は自分の両拳をガン、ガンと打ち付ける。




その後しばらくレオン、プラネ、亮汰がヒット&アウェイで攻撃してきながら間にメーシー、ガジュージ、スララが初級、中級魔法で牽制してくる。


東雲さんは弓を構えたまま動こうとはしないがスペックの上がった彼女のマジックアローは若干注意が必要かもしれない。

まあ、俺にとっては決定打にはならないとは思うが、いい加減鬱陶しくなってきたな。



「それにしてもギンジ殿の魔力は底なしか・・・!」


「こちらの魔力は・・・もうそれほどの余力は無いな。」


「でも、やるしかねぇよ!」



「こんな時、やっぱりギンジ君の差し伸べる手マジックギフトが恋しくなるね。」


「やっぱりご主人様は凄いのです!ワンワン!」



前線の3人は驚嘆するように呟きにメーシーとスララが茶化すように乗っかる。



「だが今はそうは言っていられまい!行くぞ![蒼炎撃流舞]!」


「[殺撃流舞]!」


「[パワーナックル]!」



3人が同時に3方から攻撃を仕掛けてくる。そろそろ茶番は終わりにしよう。



「・・・邪魔ダ!!ガアアア!!」



魔力障壁を展開する。ドン!と言う衝撃と共に俺の近くにいた3人は吹き飛ばされた。

それと同時に今までの魔力球とは違うアレを放つ。



「『激流爆翔げきりゅうばくしょう』!」



竜装化しながら竜言語魔法を使う。魔力消費が少ないのがウリの竜言語魔法だが中々の魔力を消費する様な感覚があるな。その分威力はかなりのものだろう。


3体の水竜がそれぞれ3人に襲いかかった。



「この威力・・・!これが竜装化の力・・・!ぐあああっ!!」



レオン達は竜言語魔法の直撃を喰らい一気にダメージを負った様だな。


それを見て俺の心は躍って・・・いなかった。なぜ、何のために俺はこんな事を・・・しかしそんな思いはすぐにまた暗い衝動に塗りつぶされていくのを感じた。



「クソッ!」


「ハァ、ハァ、ハァ、うぐっ・・・ハビナ。お前の思い人はとんでもない人間だったようだ・・・」


「まだ、やれる!・・・!?くっ!足が・・・!」



亮汰、プラネ、レオンも立ち上がろうとするがダメージは深刻な様ですぐに膝を付いてしまっていた。


援護するメーシー達の魔力も限界が来ているようだ。



「マユミちゃん!回復を!」


「はい!今・・・!」



東雲さんはメーシーに促され癒しのマジックアローを構える。


(―――――この矢は回復?でも、もし、また間違えてたら・・・)


が、弓を引き絞る手は震えなかなか放とうとしない。その後東雲さんは膝を付き地面に突っ伏すように下を向いてしまった。


彼女の手から離れた弓矢はカラン、カラン、と音をたて土に濡れた。



「シノノメ殿!?なぜ――――」



ガジュージが目を丸くし信じられないと言う表情で叫ぶ。

ガジュージの叫びに被せる様に東雲さんも絶叫するように声を上げた。



「ダメッ!出来ない!もう私は人に弓を向けられないッ!」


「マユミちゃん・・・あなた・・・」



東雲さんの叫びにメーシーは悲しそうに呟く。でも俺は・・・


静かに空へ浮かび満身創痍の彼らを眼下にみる。


そして俺は内から来る、止めなくてはならないが止められない思いを魔力に変え吐き出した。

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