第104話 暴走

「東雲さん・・・!う、うおおおぉぉぉぉ!!」



そうか。俺は東雲さんを。いいのか?わからない。



自分の感情にけじめをつけられないまま手にした刀を東雲さんに向かって振り下ろす。そこでふと見た彼女の表情は静かに笑っていた。





――ガッ――――ザンッ





無意識の内に目を逸らしてしまっていた様だ。刀から人の肉を切る嫌な感触を感じた。


一瞬何か違和感を感じたが・・・やってしまった・・・ついにこの手で。


俺の目的の一つを達したと言うのに・・・もう俺は――――





「・・・え?な、なぜ・・・!」




俺の目の前にいた人物は、先程まで話していて自らを投げ出すような表情をしていた東雲さん、ではなかった。



「よかった・・・間に合った・・・ギ、ンさ、ん・・・」



両腕に装着していた爪をクロスさせて防ごうとしていた様だが俺の刀は無慈悲にも爪を叩き折りハビナを襲ってしまっていた。


「ハビナ!お前・・・何故こんな事をッ!!」


「ハァ、ハァ、ごめん・・・ギンさん・・・あのままじゃ・・きっと・・・うっ!」


ブシュウ、とハビナの上半身から血飛沫が飛ぶ。ハビナはそのままテラスに倒れ込んだ。



「ハビナちゃん!ハビナちゃん!!ごめん・・・!ウチのせいで!」


「西城・・・」



いつの間にか来ていた西城が泣きながらハビナに駆け寄っていた。

西城のせい?どういう事だ?



「ハビナちゃん!今回復を・・・!マジック・・・ううん、やっぱり他の人に・・・香織!回復魔法が得意な人は誰!?」


「まゆまゆ・・・え、ええと回復はライーザさんとガジュージ君が得意なはずや!」



東雲さんは左の矢筒から矢を取り出しハビナに向けて放とうとしたが躊躇し先程までいた広間へ人を呼びに駈け出して行った。


癒しのマジックアローを使おうとしたみたいだったが・・・


俺はハビナの血がついた刀を手にしたままその場から動けなかった。俺はまた・・・前に森の異変の時にも俺の不注意でハビナを傷つけてしまった。今回も・・・何も関係ないこいつをこの手で・・・



そんな俺が国王になるだと?英雄だと?笑わせる。


無力感、ふがいなさ、やりきれない自分への怒り。



「ハビナちゃん!しっかりしい!傷は浅いで!・・・そうや!須藤!前にハビナちゃんに血のなんたらってスキルを使って助けたんやろ!それを・・・ん?なぁ聞いてるんか!?あんたのせいでハビナちゃんが・・・!」


「ああ、聞いてるよ。」



東雲さんだって俺を裏切ったのは何か理由があったのかもしれない。だがその理由次第で俺自身が納得してしまったら今までしてきた事が否定されてしまう気がして聞けなかったんだ。


「須藤?」


もし恐れずに聞いていれば東雲さんを殺そうとはしなかったかも知れないしハビナは間違いなくこうはならなかっただろう。


そうだ!俺のせいだ。・・・そもそも俺に力があれば裏切りなんてもんは無かったんだ!!力さえあれば・・・!




俺の中で何かがキレたのを感じた。


内側からゴボゴボと粘液性の高い感情が湧き上がってくる。

それと同時に周囲の大気が震えているかの様に唸りを上げていた。



『む。これは・・・!銀次!捕らわれるな!・・・駄目か。おい娘。そこの獣人の娘を連れてどこかに避難しておけ。と言ってもこの辺り一帯どこにいても同じかもしれぬが。後は・・・祈れ。』


「え?リオウちゃん?避難って・・・須藤に何が・・・」


『いいから早くしろ。それと、リオウ「ちゃん」はよせ。』



西城がリオウと何かを話した後、傷ついたハビナを引きずりながら広間に入っていったがもう俺の目にも耳にも入って来なかった。



「ぐ、おおおおオオオオオオ!!」



身体の先から中心にかけてパキ、パキ、パキ、と銀色の鎧状の何かに覆われていく。


竜装化りゅうそうかだ。頭の片隅ではまずいと分かってはいるのだが自分でも止められない。



『我も内から抑えてみるが・・・後は銀次、お前次第だぞ。』



完全に竜装化した俺は背中に生えた翼を使いふわりと空へ浮かんだ。


今なら全てを滅ぼす事が出来そうだ。



「ガアアアアアアァァァ!!!」



魔力が、力が溢れる!俺は咆哮と共に赤い塊を空中から大森林へと吐き出した。


広大な大森林の一部が燃える。だが全く足りない。空を翔け自らが燃やした森の中へ降りた。



「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!」



燃えさかる炎の渦の中、俺は辺り一面の木々をなぎ倒し、そこらにいた魔獣共を引き裂き破壊の限りを尽くしていた。



『無意識の内に屋敷から距離を取ったか。やはりお前は優しい奴だ。しかし銀次の中でもそうだったがまだまだ解けぬか。む、あいつら・・・避難しろと言ってやったのだがな。よっぽど死にたいのか。』




「ギンジ殿!」


「ギンジ君!!」


「ご主人様!それは・・・駄目なのです!」


「銀次君・・・」


「銀次!お前!目ぇ覚ませ!」



なんだ?俺を呼ぶ声のする方を見て見るとレオン、プラネ、ガジュージの獣人達とエルフのメーシー、それとスララに東雲さん、最後に亮汰が息を切らせながらやってきた。



「オレの邪魔ヲするな・・・!!」



俺はレオン達に向かって魔力球を放つ。俺の前に立つな。どうなっても知らないぞ。


あいつ・・・ハビナの様に・・・



「[蒼炎撃流舞そうえんげきりゅうぶ]!ギンジ殿!正気を保つのだ!」


レオンは獅子の咆哮レオ・ハウリングを使い蒼炎の武人状態になり俺の魔力球を弾き飛ばした。


「ぐっ・・・!蒼炎でもこのダメージか!やはりギンジ殿は半端ではないな!」


蒼炎状態になっているのにもかかわらず魔力球を弾いたレオンの拳は傷つき煙を上げている。


「邪魔をスルなと言ってイる!!ガアアアア!!」


俺は衝動のまま地面を蹴る。そのまま誰を標的にするでもなく赤い魔力を纏った拳を突き出した。


「この力は!ここまでとは・・・!くっ!・・・あぁっ!!」


俺の拳を受け止めたのはプラネだった。プラネもレオンとは違うが白色の闘気の様な物が体を覆っている。本気でやればレオンよりも強いとされるプラネも数秒俺の拳を止めたもののそのまま吹っ飛ばされていった。



「レオンさん!プラネさん!大丈夫ですか!?今回復を!・・・それにしてもあのドラゴンの様な姿に禍々しい力・・・本当にギンジさんなのか・・・?」


「ガジュージか。助かる。良くわからぬが・・・ハビナが震える声で言ったのだ!ギンさんを止めてあげて、とな!」


「愛する娘が信じた男だ!私達も信じる!」



レオンとプラネは立ち上がり俺の方を向きグッと構える。


そうか。どうしても俺の邪魔をすると言うのか。俺の邪魔?俺は何をしようとしてるんだ?俺の目的?まあいい。今はただ・・・



「破壊スル!!」



俺は魔力球を上空へ放ち滞空させる。その後魔力球から赤く細かい魔力が雨の様に大森林へ降り注いだ。


広範囲を魔力が穿っていく。小さくとも高速で高威力の魔力にレオン達も全てを捌ききれない様子だ。



「皆!こっちへ!『大いなる土の精霊よ。我に従い鉄盾と化したまえ。より硬く剛壁となれ!<<アイアンウォール>>』」



メーシーが皆を呼び土の中級魔法だろうか。防御壁を展開している。以前見たアースウォールよりも分厚く頑丈な防御壁の様だ。


「うぐぐ・・・これ以上は・・・!」


メーシーはしばらく自らの力を注ぎこみ魔力砲弾の雨を凌ぎった。



「ありがとう!先生!大丈夫ですか!?」


「マユミちゃん・・・いやー。厳しいね。ほとんど魔力を使っちゃったかも。でもそうまでしないと一瞬で抜かれてたよ。もし次もこれがきたら・・・まずいね。」


と同時にぺたりと地面に座り込む。


「チッ!どうすんだよ!このままじゃ俺たちもやられちまうぜ!」



亮汰が奥噛しながら地面をダンッと踏み鳴らす。


「もう良いダろう・・・コレで終ワ・・・グッ!なんダ!?魔力が・・・!」


俺は終わらせようと再度上空に魔力球を打ち上げようとしたが突然魔力が切れた様な感覚に襲われ視界がブラックアウトした。




『聞くがいい。お前たち。今は我が内から銀次を抑えている。だが長くは持たないだろう。そこで銀次を止める可能性が一つある。少々危険、いや、下手をすれば命は無いが・・・どうする?』


「その声はリオウさん!?もちろん!今度こそ銀次君を助ける!皆もいいよね!?」


東雲真弓はそう言い皆を向くとその場にいた全員が頷く。


『そうか。ならば我も尽力するとしよう。このまま放っておいてその後の銀次を見るのは楽しいものでは無いしな。方法はいたってシンプルだ。それは――――』

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