第101話 滅ぼす力


「ガア゛ア゛ア゛ァァァ!!死ネ!!壊レろ!!全部!!」



一体どのぐらいこうしているのだろう。数時間?数日?それとも数年?わからない。


俺は湧きあがる衝動にまかせて魔力を放出したり時折ある真っ白い岩山を力の限り砕いていた。



「ハァー、ハァー、はぁ・・・もっと・・・モットだ・・・憎い・・・誰ヲ?・・・ウルサイ!俺は・・・!?」




ぐらり




突然視界がぼやけて頭もフラフラしてきた。


ドサ、という音と共に俺は地面へひっくり返った。



「ゼェ、ゼェ、な、何だったんだ一体・・・」


「今のが竜装化りゅうそうかだ。やはり銀次でも今のままでは捕らわれるか。それにしても驚いたぞ。あそこまで維持できるとは。普通ならば瞬時に魔力枯渇に陥るのだがな。」



頭の上から声がする。リオウは俺の中から出てきたらしい。

俺もいつの間にか元の姿に戻っていた。


といってもここは俺の心の中な訳で。

心の中の俺の中に入ったリオウが外へ出てきた、のか?何だかよく分からなくなってきたな。



「捕らわれる、って今の黒く気持ち悪い感情の事か?」



起き上がろうにも体に力が入らない。悪いが仰向けのまま話すしか無いようだ。


さっきまではなんだか全てが憎く破壊したい感情に染まっていく様だった。本当に全てを。



「うむ。竜装化は使用した者に全てを滅ぼす程の膨大な力を与えるがその力の制御が難しい。そしてその制御を誤れば自身をも滅ぼしかねぬ。」



確かに自分のステータスを確認するどころではなかったがもし視る事が出来ていたらとんでもない数値になっていたかもしれないな。



「そんな危ない力を強引に使わせるなよ!リオウの言う通り俺があのまま死んだらどうするつもりだったんだ?」


「ここでなら問題は無い。だが外でああなればあの場にいた全てを破壊するまで銀次は止まらなかっただろうな。」


「マジか・・・しかもリオウの言い方だと俺のオートMリカバーは優秀みたいだな。良くも悪くも。」


「本当にな。」



リオウはそう言って少し笑った様な気がした。


しかし、リオウの言葉を信じるのなら外で竜装化を行った場合、ハビナや他の獣老達、西城やライーザさん、そして東雲さんも・・・俺が手にかけてしまう可能性があったって事か。


そんなはずは・・・!と言いたいがさっきのを体験してしまうと否定できないのが恐ろしい。



「じゃあせっかく教えて貰っておいて何だが、使えそうにないな。」


「心配はいらぬ。我の封印された残りの2つを取り戻せばその力、使いこなせるようになるだろう。」


「そうなのか。と言っても残りの力がどこにあるか見当もつかないんじゃ時間がかかりそうだな。」



一つ目の「時」の力があんなに近くにあった事は奇跡だ。どうにかして情報が欲しい所だが。



「うむ。残りの力の一つについては近い内に判明するだろう。」



リオウは何か心当たりがあるようだ。まあどちらにしても力を取り戻さない事にはな。



「後は、そうだな。段階的に解放していけば影響も少ないやもしれぬな。」


「段階的、ねぇ。その言い方だとローリスクローリターン的なやつか?」


「まあそんな所だ。ここまで竜装化を制御出来る竜は我以外そういないのだぞ?おっと、心配は無用だ。正式に契約を結んだ者でしか竜装化は使えぬ。」



リオウは偉そうに胸を張っているがドラゴンの事は俺には良く分からないんだが。


リオウの言いたい事は分かった。グレインと勇人は隷属関係だった。俺とリオウの契約とは違う。



「それは朗報だな。あの勇人がこんな力を使ったら面倒この上ないからな。」



「さて、そろそろ銀次から貰っていた魔力も尽きる。他にも伝えたい事もあったのだが・・・思いのほか銀次の竜装化が長引いたからな。」



いや、それはリオウが勝手にやった事だろう?と口に出しかけたがぐっと飲み込んだ。


それよりも聞いておきたい事があった。



「なぁリオウ。お前は、俺でよかったのか?・・・・・・・・・


「・・・・・」



ヴァルハートでグレインと戦った時、ヤツは勇人に対して人選を間違えたか?と言っていた。リオウと同じドラゴンであるグレインがだ。



リオウはグレインはこの世界で何かやろうとしていると言っていた。


元々リオウはグレインに復讐する事が目的だと言っていたが、何かそれだけでは無い様な気がしたのだ。なんとなくだけど。



「銀次よ。心配するな。我はお前を選び契約した事に後悔は何一つない。それだけでグレインに対して勝ち誇る事が出来る程だ。」


「・・・そっか。なら安心したよ。で、俺はどうすれば元いた場所へ戻れるんだ?」



リオウが呼んだんだ。リオウに戻してもらう事になると思っているんだが。



「もうじき戻る。銀次よ。この先・・・何があっても見誤るなよ。」


「見誤る?どういう意味―――――」



リオウの言葉を聞き返そうとするとリオウの身体は徐々に半透明化している所だった。





              銀次よ。信じているぞ。







「「乾杯!!」」




――――――カシャン!!




大テーブルの各々でグラスがぶつかる小気味良い音が響く。



「はいはーい!皆様!お料理はガンガン作っていますからジャンジャンお代わりして下さいね!」


猿獣人のハナちゃんがコックの衣装でせわしなく厨房と広間を行ったり来たりしているな。


どうやら無事に俺の心の世界とやらから戻ってくることが出来たらしい。

時間はこちらでは1秒も経っていない、という事か。



「どうしました?ギンジ様?ぼーっとされて・・・」


エミリア王女が俺の顔の前で手をパッ、パッと振っている。


「あ、ああ。何でもない。王女様がまた新たなる国王とか言い出したからビックリしただけだ。」


「申し訳ありません。その方が話の締りが良いと思いまして。」



王女は本気なのか冗談なのかどちらとも取れる表情をしている。

が、なんとなくわかる。王女は本気だ。どうしたものか・・・



「ガハハハ!英雄ギンジ殿がそんなしけた顔ではいかんぞ!まだ全てが解決したわけでは無いが今日は喜ぶべき日だろう!」



レオンは乾杯したばかりなのにすでに手持ちのエールが空になっている。



「そうだな。今日は飲むか!」



レオンの言う通り問題はまだある。だがここいる奴らとならば色々な問題も乗り越えていけそうな気がする。


その為にも・・・まずは彼女に話をしなくてはならないな。俺にとって辛い現実が待っているかもしれないが。



俺は手にしていたエールを一気に煽ると同期である彼女、東雲真弓の元へ向かった。

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