第99話 乾杯

西城の腹の虫に吊られた感はあるが急に腹が減ってきた。



「確かに腹は減ったな。風呂も入りたいし話はその後か明日以降にするか。王女様も一度城に戻った方が良いだろう?」


「そうですね。国民に不安が出るのはよくありません。民あってこその国ですから。ですがせっかく獣老の方々にお会い出来たのです。食事だけでもご一緒させて下さい。」



王女としては獣人たちと協力する為にも出来るだけパイプを作りたいって所か。

まあ王女だけ、じゃあなって言うのも悪いかな。



「そうだな。俺だけだったら適当に済ませるんだがこのメンツじゃそうもいかないな。ん~、どうするかな。悪いが、サルパかレオンの所で・・・」




「はーーーい!!獣老、並びにヴァルハートからお越しになった皆様!お待たせいたしましたー!」


突然リビングの奥にある扉がバッターンと開き、そこからコックさんの服を着た女性獣人が現れた。お、あれは・・・



「ハナちゃん!どうしてここに?それにその恰好は・・・?」


「おぉ!ハナちゃん似合ってるぞ!」



そこにはサルパの侍女でハビナの友人でもある猿獣人のハナちゃんが、ワ―っとテンション高めに入って来た。



「それはですね。皆様がルマハン草原に向かってから私やサルパ様たちは奪還されるであろう同胞の受入準備をしていました。」



確かにサルパたちは後方支援をしてくれていたはずだな。



「しばらくするとサルパ様がもうすぐ皆はお腹を空かせて戻ってくるはずじゃからご馳走を頼むぞい、と言ったので手の空いている者たちとご飯を作っていました!」



ハナちゃんはそう言うと手を両手に上げてクルクル回っている。何かハナちゃんのキャラが変わってないか?


俺の知ってる彼女は謎の古代書物を使ってハビナに謎知識を授けたりもするが出来るOLって感じだった。それがなぜあんな事に・・・



「ほっほっほ。彼女は料理を作るのが大好きなんじゃよ。特に大人数分を作るのが好きみたいじゃてそう言う時はあんな調子になるんじゃ。もちろん腕も申し分ないぞよ。」



サルパは顎鬚を触りながら微笑ましい感じでハナちゃんを見ている。



「そうか。しかしサルパはよく俺たちが腹を空かせてくるって分かったな。」


「ほっほ。そりゃあ闘いの後は腹が減るもんじゃて。昔からそう決まっておる。じゃからレオン坊たちも食べずに待っておったぞ。」



他の皆も食べずに待っててくれたのか。いくら負けてないと言ってもあの人数の同盟軍と戦った後なのに申し訳ないな。

流石に獣老以外の兵士には食べさせたようだが。



「そう言う事です!それでは皆様、用意は出来ておりますのでどうぞこちらへ!」



俺たちはハナちゃんに促されるまま部屋へ進むことにした。



「おお・・・これは、凄いな。」



そこは大広間の様で真ん中にはかなりの大きさのテーブルがあり、その上には様々な料理が満漢全席の様に所狭しと並べられていた。向こうの世界ではで満漢全席なんて食べた事ないけど。



「うおっ!肉魚どれも美味そうだ!」


「ホンマやなー!あかん・・・目の前にしてしまったら余計にお腹が・・・」



亮汰と西城も目の前のご馳走によだれが止まらないといった様子だな。



「本当にどれも美味しそうですね。」


「うぅ・・・これ以上待つのは拷問かも。」



ライーザさんと東雲さんも同じみたいだ。かく言う俺も流石に限界になってきた。

しばらくすると獣人メイドさんが皆に飲み物を持ってきてくれた。

大森林のエール。俺の好きな酒だ。




「それではこの度の立役者であるギンジ殿に乾杯の音頭を取って貰おうかの。」



サルパが突然乾杯をしろと振ってきた。あんまりそう言うの得意じゃないんだけどな。

まあ、まだあまり実感はないが一応は俺の屋敷だし俺は家主って事になるのだから仕方ないか。

あ、そうだ。やっぱり一人じゃキツイから巻き込んでしまおう。



「ああ。わかった。けどその前に、レオンとエミリア王女、ちょっといいか?」



とりあえず馬鹿デカいテーブルの上座に立った俺はレオンと王女を呼んで俺の両側に立たせた。二人とも顔にはてなを浮かべているな。


その後二人に主旨を告げると二人ともそう言う事なら、と笑顔で引き受けてくれた。



「んじゃあとりあえず俺から。皆、今日は本当にお疲れだった。今回は元々俺の思いつきだった作戦にもかかわらずきっちり成果を出してくれて感謝している。まだ問題は山積みだがこれからは、少なくともここにいる獣人と人間はお互いに協力して生きたいと思っている。」



これから先、勇人やグレイン率いる帝国と戦う為には皆の力が必要になるだろう。

それに俺も一応は獣老の一人だ。今なお帝国に奴隷として捕えられている獣人達を放って置くのは憚られるしな。


俺の言葉の後レオンが一歩前に出る。


獣人代表としてレオンに、ヴァルハート代表としてエミリア王女にも一言貰おうという訳だ。何を言うかは本人任せだけどな。



「我々はギンジ殿に何度も助けられた!森の異変、各獣老間の転移魔法陣、捕らわれていた同胞の奪還。本当に感謝したい!」



レオンは持ち前の大声で叫ぶ。


森の異変は俺の、というかリオウのせいだし俺が何とかするのは当然なんだけどな。

奴隷にされていた獣人の奪還も俺は転移魔法陣を描いただけだ。


その後エミリア王女も前に出てレオンに並んだ。


「ギンジ様にはヴァルハート王国についても、捕らわれ、後少し遅ければ恐ろしい目に合いそうになっていた私を救ってくれ、帝国と共謀し、父である国王を殺害し、王国を乗っ取ろうとした者たちを排除して頂きました!」


エミリア王女も目に涙を浮かべて叫ぶ。


確かにもう少し行くのが遅れれば王女は勇人に犯されていたかもしれない。

だがグレインを退けたのは俺じゃない。スララがこなければ今頃は・・・



「そんな稀代の英雄、獣老スドウギンジ殿に、」


稀代の英雄とか、恥ずかしすぎるからやめてくれ。


「そして新たなる国王、スドウギンジ様に、」



ん?新たなる?・・・待て待て!




「「乾杯!」」




――――――バキン



突如目の前が白く染まる。


なんだ!?これは!?まさか――――――


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