第98話 閑話休題

「ちょっと待て!勝手に決めるな!そもそも俺は現在、大森林の五大獣老の一人として獣人側だ!そんな俺が人間の国の王になるなんて獣人たちが良いと言うはずが無いだろ!」



獣人にとって人間は過去の鴇族の乱獲や人間による獣人たちの奴隷化もあり、長らく良い感情を抱いていないはず。


その感情は一朝一夕で払拭する事は難しいだろう。


「ガハハハ!流石ギンジ殿だ!獣老のギンジ殿が人間の国の王となれば大森林とヴァルハートは良い関係を築けるだろう!」


「あら~。そうなればまた帝国軍が攻めてきてもバッチリね~。」


「今度はこちらが連合軍になる訳か。人間の奴隷としてではなく真の意味での同盟軍だね。」


「ほっほっほ。人間と獣人の共存。いい事尽くめじゃのう。」


大森林の五大獣老であるレオン、ミズホ、ガジュージ、サルパの獣人'Sも誰も反対する者はいない。なぜだ?お前たちは人間が好きという訳ではないだろう?



「ギンさんが国王?という事は・・・私は獣老の妻で国王の妻?二足のわらじを履くことになる?私にそんな大役が務まるだろうか・・・いや!やってみせる!父上、母上!私、頑張ります!」



ハビナはなにやら一人で悩み、一人で完結している。レオンとプラネも頑張れよ!とか言ってるし。


駄目だこいつら・・・早く何とかしないと・・・



「おい!リオウ!お前からもなんとか言ってやってくれ!獣老に加えて国王になんてなったら残りの封印されている力を探しに行く事も大幅に遅くなるぞ!?」



獣老共はドラゴンであるリオウの言葉には弱いだろう。獣人側がダメだと言えば獣老の引き抜きなんてものは決裂するはずだ。



『ふむ。別に良いのではないか?我も元々獣老の一人であったがろくに管理・統治等もしていなかったぞ。人間のまつりごととやらも銀次は適当に指示だけ出して置けば良いだろう?』


「人の上に立つ国王が適当じゃ駄目だろ!!」


クソッ!こいつも駄目だ!リオウはこの辺の事に興味が無いらしい。



「獣老の方々に加えドラゴンのリオウ様のお墨付きも頂けるとは流石ギンジ様ですね。ギンジ様ならばきっと素晴らしい国王になれます。帝国から王国を救った勇者であり獣人の方からの信頼も厚い。これ以上の適任はどこを探してもいないはずです!」



エミリア王女はリオウの声を聞きここぞとばかりに畳み掛けてきた。なんかめっちゃ早口なんだが。


と言うかライーザさんやメーシーから色々聞いたにせよ王女もリオウの事普通に受け入れすぎだろ。刀から声出てるんだぞ?



「だがしかし・・・」


「あら~。ギンジ君。別に私たちはノリで言っている訳じゃないのよ?さっきサルパおじいちゃんからギンジ君が人間の王女様達を連れてきたって聞いた時に皆で話したの。馴れ合う訳じゃないけどもしギンジ君から頼まれたら人間と協力してもいいよね~って。」



渋る俺を見てミズホがこんな事を言ってきた。


確かに俺はグレインや帝国の事もあり人間と獣人は手を取り合う、とまでは行かないまでもお互いに敵視はしないで徐々に理解しあった方が良いと言うつもりではいた。



人間側からすると獣人は力があり乱暴で恐ろしいと言うイメージがあるだろう。


だがハビナや獣老の面々を初め獣人たちはこんなにも良い奴らなのだ。嫌な奴にはあった事がない。今のところはだが。



獣人としては恨みや憎しみは簡単に水に流すことは出来ないってのは俺自身がよくわかっている。が獣人から見た人間のイメージも西城やライーザさんで大分変ったのかもしれない。



「ミズホたちがそう言ってくれるのは願ったりだし、種族間の協力の為に俺が橋渡しをする事はやぶさかではないが・・・でもそれが国王ってのはやりすぎだろ!」



俺の目的は「俺を裏切った奴に逆襲する」「その為に力をくれたリオウに協力する」この2つだ。


それ以外では俺を受け入れてくれた獣人達を手伝う事、かな?でもこれはなぁ・・・



「・・・あれ?ちょっと待って。銀次君が王様って事は王女様であるエミリア王女とけ、け、結婚するって事!?そんなのダメ!・・・って私が言う事じゃないかもしれないけど・・・」



突然、東雲さんがとんでもない事を言い出した。が、確かに国王になるって言う事はそう言う事なんだよな?だったら尚更受ける訳には・・・



「何!?そうなのか!?それは認められないぞ!」



ハビナも強烈なカットイン。だがなんでハビナの承認が必要なんだ。まあ今はいいか。



「エミリア王女、そう言う事で国王なんてめんどくさ・・・いや、王女様も結婚とかになると話は変わってくるだろう?王族は政略結婚とかもよくあるのかもしれないがやはりそう言うのはちゃんとした相手の方がいいぞ?」



俺は努めて冷静かつ丁重にお断りをすることにした。王女だって人間と獣人の事を先に考えすぎて結婚まで頭が回らなかったに違いない。



「あぁ。それは問題ありません。私は王女であって王妃ではありません。もちろんギンジ様が望むのならば王妃とさせて頂いてもよいのですが!」



エミリア王女はそう言いながら手を祈る様に胸の前で組み目をキラキラさせている。

どういう意味かわからないけど。



「・・・まずは既成事実さえ作ってしまえば・・・うふふ・・・」



「ん?何か言ったか?」



エミリア王女が何かぼそっと言った気がするが聞き取れなかったな。



「なんや王女様、一瞬凄い悪い顔しとった様に見えたで?」


「い、いえ!そんな事はありませんよ!?カオリさん!?先にも言った通りすぐにと言う訳ではありませんのでしばらくお考えになってみて下さい!」



エミリア王女はそう言うとふぅ、とソファーに腰を下ろした。

考えてみてって言われてもなぁ。答えは変わらないと思うんだが。



「・・・まぁ国王に関しては少しおいておいて、だ。皆にはもう一つ重要な事を話しておきたい。これは人間、獣人だけじゃなくこの世界における問題だと思う。」



俺の発言に全員の空気がピリッとしたものに変わる。これから話す内容が重要な意味を持つ事を察した様だな。


お昼寝中のスララも耳がピクっとした様に見えた。あいつ寝たふりしてるのか?偶然か。



「まず・・・俺はヴァルハートである人物と戦い、負けた。」




「!?」


「まさか!ギンジさんが・・・」


「・・・嘘だ!ギンさんが負けるなんて・・・」


「あら~。負けた、なんて言ってる割に元気そうじゃない?」



獣人たちは口ぐちに信じられないと言い驚きの表情だ。

獣人'Sはリオウと出会ってからの俺しか知らないからな。



「嘘じゃない。はっきり言って手も足も出なかった。ちなみにリオウを封印したのも同一人物らしい。」


『・・・・』



そう。俺はあいつ、グレインに負けたのだ。あそこでスララが来ていなかったらどうなっていたかわからない。あの時リオウは「何か」をするつもりだったみたいだが。



「ほっほっほ。リオウ殿を封印し、ギンジ殿が完敗と言うのなら儂らはお話にならんの。して、それは何者なんじゃ?」



サルパは髭をさすりながらそう言った。その目は少しでも情報を聞き逃すまいと言う様な真剣な目だ。


他の獣人たちも同じ目をしている。本当に獣人たちは強さに敏感だな。



「ああ。そいつの名はグレイン。帝国の皇帝で支配者。俺が視えたのはこれだけだ。他のスペック等は分からなかった。そいつが他の勇者と結託してヴァルハート前国王を殺し、王国を支配下に置こうとしていたらしい。」



「領地を拡大し奴隷を増やす為に、ですか!?」



プラネが震える拳を握りながら言った。その声も若干震えている。プラネは実際に奴隷にされていた獣人たちをたくさん見ているからだろう。


「それもあるだろうが詳しくは分からない。」


『奴隷を増やす事は手段であって目的ではないだろう。我を封印した事もそうだがヤツは最終的に何かやろうとしている。この世界にとっていい事ではなさそうだが。』



つまりグレインはそのある目的を達成するためにリオウが邪魔だったと言う訳か。



「その何かって何だよ!?世界にとって良くない事って!そんな事にあいつは、勇人は手を貸してやがるのかよ!?」



亮汰は特有の大声で叫ぶ。その発言からも勇人の事は気にかけている様だな。



『はっきりとはわからぬが恐らくは・・・』




ぐぅ~~




ん?突然誰かの腹の虫が鳴った。中々ワイルドな音だな。


「ご、ごめん!昼前に軽く食べただけやってその後何も口にしてないもんやから、つい・・・」


「すみません。実は私も・・・」



犯人は西城か。ライーザさんも限界ですと言わんばかりの表情でお腹を押さえている。


でも言われてみれば俺を含めヴァルハートからの帰還組は動きっぱなしで食べてないし腹は減った。


腹が減ってはなんとやらと言うし、これだけのメンツが集まってるんだ。皆さえよければ飯を食べながら話してもいいかな。

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