第97話 改めて霹靂
サルパが他の獣人たちを連れて俺の屋敷へとやってきた。
そこには獅子族のレオン、鴇族のミズホ、鰐族のガジュージと猿族のサルパを合わせて獣老の全員が集まってくれている。お、レオンの妻でハビナの母親でもあるプラネも来てくれているな。
プラネは族長のレオンよりも強いみたいだし先のルマハン草原でも活躍してくれたのだろう。
「おお!ギンジ殿!首尾よく結果が出せたようだな!こちらも犠牲者もなくほぼ完璧だと言っていいだろう。」
屋敷へ到着するなり大きな声を張り上げ戦果を報告してきたのは獅子獣人のレオンだ。
「ああ。レオン達も流石だな。まああの程度の同盟軍ならレオンたちが後れを取るとは思っていなかったけど。」
スペックで言えば獣人たちに勝てる人間はなかなかいない。数で封殺出来れば話は変わってくるかもしれないがあの程度の練度ではレオン率いる獣人たちに完封負けを期しただろう。
「逆にやり過ぎないようにまとめる方が大変だったよ。主にプラネさんとハビナちゃんがね。」
鰐族のガジュージがため息をつきながら疲れた顔でそう言った。ガジュージにはレオンの補佐をして貰っていたが正解だったようだな。
「ちょっと待ってくれ!私はちゃんと爪を立てずに殴っていたぞ!ギンさんと約束したしな!」
「爪なしでもハビナちゃんのスペックでファングクラッシュを出したら死んでしまうかもしれないんだ。ハビナちゃんはそれをわかっていなかったのかな?」
「うっ・・・鎧来てたから大丈夫かなぁって・・・ごめん。皆で戦っている事で興奮してたかも知れない。」
ハビナが私は殺ってない!と割り込んできたが、すかさずガジュージのツッコミが入る。なるほど、興奮してヒャッハーしちゃったのか。
「修行が足りないぞ。ハビナよ。いかなる時も冷静に相手を分析する事を忘れないのが鉄則だぞ?」
「いや、プラネさん?あなたも
「む・・・。あれは・・・殺撃流舞では・・・そう!殺撃流舞もどきだ!ゆえに急所に当たらなければ死にはしない!」
「・・・」
「すまなかった。以後気を付ける。」
プラネはハビナに母親として、獅子族最強の獣人としてアドバイスをしているつもりがまたもガジュージから突っ込まれている。母娘揃ってヒャッハーとか。言い訳した後、空気を察して謝ってるし。
「・・・ガジュージも本当にご苦労様だったな。奢るから今度一緒に飲むとしよう。」
「あら~。獣人が皆で戦うなんてほとんどないから昂ぶっちゃうのも仕方ないのよ~。同胞を取り戻す、なんて戦いなら尚更ね~。」
鴇族のミズホがまぁまぁ、と言いながら場を取り直したがぶっちゃけ同胞はすでに魔法陣で転移済みだったはずだが。
ま、皆無事だったんだ。良いとしよう。
「ほっほっほ。ところでギンジ殿。そろそろそちらの面々をご紹介願いたいのぅ。これからの事を話すのにもお互いを知る事が必要じゃろうて。」
サルパがそう提案する。俺はそうだなと言いエミリア王女たちに自己紹介を頼んだ。
「はい。お初にお目にかかります。ヴァルハート王国第11代目国王が娘、エミリア・M《ミーサ》・ヴァルハートと申します。この度は勇者ギンジ様の助力で五大獣老の方々にお会いする事が出来、恐悦至極に存じます。」
まず初めはエミリア王女が名乗りをあげドレスの端を持って丁寧にお辞儀をする。
この辺りの所作はさすが王女という事だろう。
「次は私かな。メーシー・ローイング。見ての通りダークエルフ。一応、王女様の先生って事で王国には研究者として在籍してました。ギンジ君の友人としても奴隷にされている獣人たちを助けたいと思ってる、思ってます。」
続いてメーシーの自己紹介だ。メーシーは丁寧な言葉が苦手なのかちょっと噛んだ。
なんだかメーシーのそういった所を見るのは新鮮だな。
「あら~?エルフのローイング?ローイング・・・ローイング・・・どこかで会った事あったかしら~?ああ、私はミズホ・アーニフェンデ。よろしくね~。」
メーシーの名前を聞いた途端、なぜかミズホが反応した。知り合いだったりするのか?
「アーニフェンデ・・・?あ!もしかして鴇族の?・・・そ、その説はどうも・・・」
「・・・その様子だと色々あったみたいね~。ああ、皆ごめんなさいね。気にしないで先へ進めてちょうだい~。」
「ん?なんだ?知り合いだったのか?」
「ごめんね。ギンジ君。今度ちゃんと話すから。」
多分だがあえて鴇族と名乗らなかったミズホの種族を当てたって事はメーシーとミズホは昔あった事があるみたいだな。
メーシーは若干焦っている様にも見える。気にしないで、って言われても気になるが・・・メーシーがそう言うなら待つとしよう。
「じゃあ最後は私。東雲真弓です。銀次君や香織、亮汰君と同じで異世界から召喚された勇者、って事になってるみたいです。弓と魔法が得意です!よろしくお願いします!」
東雲さんはそう言って深く頭を下げた。なんだか面接を受けてる様な感じだ。
「ほう。この娘がシノノメか。貴殿はギンジ殿を裏切った張本人と聞いているが?」
「あ・・・いえ、それは、その・・・」
レオンがギロリと東雲さんを睨み付ける。その迫力に東雲さんも気圧されている様だ。
「待て。彼女は西城がどうしてもと言うからまず確保した。後で俺が直接尋問する。もし黒だと判断したその時は・・・きっちり逆襲する。」
「銀次君・・・そうだね。」
「須藤。信じてるで。」
俺がそうはっきりと言うとレオンは東雲さんと西城を交互に見つめ、分かったと言いソファーに腰を下ろした。
「ギンさん・・・」
ハビナは何か言いたそうだったが二度頭を振ると黙って下を向いてしまった。
その後獣人側からも一通り自己紹介をして貰った。名前と種族名だけのさらっとしたものだったが特に問題ないだろう。
ちなみにスララはチーズを食べた後、お昼寝中だ。
「よし、紹介が終わったところで現状の問題と今後の課題だが・・・まず奪還した奴隷にされている獣人達。これは帝国の奴らにつけられた魔具を破壊しなくてはならない。方法は恐らくこれで、って言うのはわかってるんだが確証がまだない。」
「私につけられていた魔具を破壊したやり方でいいのでは?」
プラネがピシッと手を挙げながら言う。発言する時は手を挙げる。小学生の時に言われた気がするが見た目がいいな。いや、他のやつに強要するつもりはないけどさ。
「確かにプラネとエミリア王女の魔具は同じ方法で破壊出来た。だが念には念を入れるべきだし、現状では俺しか無効化出来ないだろう。他にも出来る奴がいた方がいい。欲を言えば誰でも出来る様にしたい。」
「誰でも無効化が出来る様になれば僕たち獣人も奴隷化に怯えずに大森林の外に出られるようになるかもしれないな。」
俺の言葉にガジュージが腕を組みながら頷いている。
「俺もそうなって欲しいと思っている。だからこそ少し時間がかかるかもしれないがメーシーに研究して貰って人間が獣人を使う、奴隷なんていうくだらない制度そのものをぶっ壊すんだ。」
「うん!任せておいて!ギンジ君が王女様の魔具を破壊した時の事は見てるし聞いて原理はほぼ理解したよ。まだ仮説だけど時間はそうかからない内になんとか出来ると思う!」
大森林の獣人たちが俺を受け入れてくれた様に奴隷なんてものが無くなれば人間もきっと獣人を受け入れてくれるはずだ。
メーシーもすでに魔具無効化の理論は出来ていると言う。心強い事この上ないな。
するとエミリア王女が一歩前へ出て少しよろしいでしょうか?と皆の視線を集めた。
「取り急ぎヴァルハートに駐屯している帝国軍は撤退させ、同盟も解消致します。大森林の獣人の方々についてヴァルハート方面に関して安全と自由を保障できるように努めてまいりたいと思っています。」
エミリア王女は姿勢を正しはっきりとした口調で宣言した。
「儂らは大森林を出ようとは思っておらんが行商等で危険がないのはありがたいのぅ。じゃが失礼かもしれぬが・・・そのような案件、王女のそなたが決めて良いのかの?」
サルパは顎鬚をさすりながら厳しい口調で詰める。普段のエロ爺モードでは見られない目つきだ。それだけ獣人の事を思っているのだろう。
「はい。有事の際は親等が近い者に権限が与えられます。お父様、いえ、国王が亡くなられたこの状況で王女である私が国政を司らせて頂きます。王妃は私が小さいころに病死しておりますので。」
なるほど。となると王女様は速めに王国に戻さねばならないか。
城主不在で無法の街になっても嫌だし、彼女ならきっちり国を治めてくれそうだしな。
「ふむ。お若いのにしっかりした王女様じゃの。ぶしつけな質問を許して下され。」
サルパの顔が元の優しそうな翁顔に戻っている。少しは王女を信用したのかな。
「と、言いましても私もまだまだ未熟。王国の民や大森林の方々に信頼・信用される程の器では無いですし、その様なカリスマもございません。先に申し上げたお約束とそれに付随する雑処理を終えたのち、然るべき方に国王になって頂こうと思っております。」
へえ。然るべき方って誰だろうか。王女の言う信頼・信用・カリスマを持ち合わせている人物か。一度見て見たいもんだが。
「王女様、まさか・・・なるほど。それは妙案です。」
ライーザさんは王女の目を見て悟った様だ。ライーザさんも良しとするのか。
「はい。と言う訳でギンジ様にはヴァルハート王国の国王になって頂きたいと思っております。」
ん?
ちょっと待て、何言ってるんだ?
「・・・っと。おいおい!いつの間に皆集まってたんだ?ってなんだこの空気。」
俺が理解できず数秒フリーズしていると無敵スキルの副作用で寝ていた亮汰が起きてきた。
ここで少し前の冒頭に戻る訳だ。全く意味がわからないが。
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