第94話 帰還の前に

「ギンジ殿。話は落ち着かれただろうか。エミリア王女様がギンジ殿に是非お礼が言いたいと・・・」



「いやはや、王女様を待たせるとはギンジ君も相当やり手だね。」



ふと声のする方に振り向くとライーザさん、メーシーがいて、そのすぐ後ろにヴァルハート王国の王女であるエミリア王女が若干俯き加減で立っていた。



いや、王女の事を忘れていた訳じゃない。ライーザさんとメーシーには俺があの日から何があってあれから何をしていて、今大森林で何が起きているのかを話しておくように言っておいたのだ。



何度も同じ事を言うのは疲れるしライーザさんにとっては王女の奪還が悲願だった。


それにお互い積もる話もあるだろうからな。



「ギンジ様。このたびは助けて頂きまして本当にありがとうございます。もう少し遅ければ私は・・・いえ、私の事よりも・・・」



エミリア王女は目に涙を浮かべながら言葉を詰まらせている。


この世界を救ってくれると信じて自らが召喚した勇者が自分の親、国王を殺したのだ。年端の行かぬ王女には辛い現実だと思う。最も、殺した男は勇者では無かったのだが。



「王女、国王のことは・・・」



「お父様の、国王の事はいいのです!もちろん、悲しくない訳ではありません。最近はどこかおかしな所もありましたが本当に優しい父でしたから・・・それよりもあの日・・・ギンジ様があの様な事態になるのを防ぐ事が出来ず・・・申し訳ありませんでした!」



そう言いながら深々と頭を下げる王女。この様子を見ても王女が俺への裏切りに加担していたとは考えにくい、か。



「王女様、頭を上げてくれ。ライーザさんやメーシーから話は聞いている。その二人があんたを信じてくれ、と言った。ならば俺も信じる。」



「ギンジ殿・・・」



「ギンジ君、ありがとう。」



ライーザさんとメーシーは喜んでくれているみたいだ。



「だが、一度きちんと自分の口で答えてくれ。・・・王女様、あんたは俺を裏切ったのか?」



俺は一呼吸おいていつもの様に言葉に力を込めて王女に問いかけた。



「私はギンジ様を裏切ってなどいません。王女として、エミリア・ミーサ・ヴァルハートとして誓いましょう。」



エミリア王女は姿勢をぴっと正し凛として答えた。これが嘘であったなら俺を含めライーザさんたちも見る目が無かったと諦められるだろう。


俺は無言で頷きこれからの事を伝える事にした。



「よし、現状はライーザさんたちから聞いているな?王女様はこの国が気がかりかもしれないが一度皆大森林へ来てもらいたい。そこで改めて今後、獣人と人間がどうして行くべきかを話したいと思う。」



「わかりました。最早人間、獣人などと言っている場合ではありません。是非連れて行って下さい。それではさっそく失礼して・・・」



エミリア王女はそう言いながらなぜか俺の腕にギュッと抱きついてきた。


転移の事はライーザさんたちから聞いているのだろうが流石に近すぎる。そんなにされるとむ、胸が・・・しかも西城や東雲さんには分からない角度で、だ。



「いや、触れていなくてもある程度の範囲なら一緒に転移出来るんだが・・・」



久しぶりに見たが王女の胸も東雲さんに負けず劣らずのサイズなんだよな。


まぁサイズがどうのより俺には刺激が強すぎる。視覚的にも触覚的にも。



「えっ?そうでしたか!すみません。私はイメージ的にてっきりギンジ様に触れていないと置いて行かれてしまうものだと。」



そう言いながら王女は絡ませた腕を解いた。少しもったいない気もするがやっぱり恥ずかしいからな。





「さっきまで大森林にいたっちゅうのに随分たってる気がするわ。早くハビナちゃんや皆に会いたいな!」



「獣人さんかぁ。香織の感じだと皆いい人達みたいだね!楽しみだなぁ。」



そう言いながら二人がこちらにやってきた。確かに西城の言う通りやけに大森林がなつかしく感じるな。東雲さんは獣人を見た事が無い様だが彼女なら多分問題なく打ち解けるだろう。



「じゃ、じゃあ転移で行くぞ。・・・おっと、忘れていた。王女様、ちょっと腕を貸してくれ。」



「腕、ですか・・・?」



王女は不思議そうに腕を前に出した。その白く細い腕には勇人に無理やりつけられたであろう薄赤く光る核がついた魔具が取り付けられている。



「ああ、少し動くなよ。」



俺は魔具に付いた核に魔力を送る。差し伸べる手マジックギフトではなく赤い魔力の方だ。



「えっ・・・?あ、魔具が・・・!」



するとパリンと乾いた音をたて核が砕けた。予想通りプラネについていた奴隷用の魔具と同じ仕組みだったようだ。



「これで大丈夫なはずだ。魔力は使えそうか?」



「は、はい!やってみます!・・・よかった!ちゃんと魔法も使えそうです!こんなモノさえなければもう少し抵抗出来たのに・・・」



王女様は魔力を出し入れして感触を試している。確かに王女くらいの魔力があれば勇人にみすみす捕まったりしなかったのかも知れない。




「ちょっ!ギンジ君!?奴隷化の魔具がこんなに簡単に・・・!?どうやったの!?教えてくれるよね!?仕組みさえわかればこんなモノ・・・!」



魔具を破壊したのを見てメーシーが乗り出すように俺に問い詰めてくる。

研究者のサガだろうか。なんにせよメーシーにはそれを期待してたんだ。



「落ち着け。もちろんだ。大森林にいる奴隷全部の魔具を効率よく外す方法を探って貰おうと思っている。」



「へぇ。魔力を送る・・・オーバーフローを狙うのか・・・でもそうすると魔力の伝達が・・・やはりギンジ君の赤い魔力がカギに・・・」



とりあえずメーシーに概略を伝えるとぶつぶつと独り言を言いながら考え出した。この分ならすぐに何か考えてくれそうだ。



「さあ、改めて一度大森林へ、皆の所へ戻ろうか。」



俺はそう言いながら転移の竜言語魔法を詠唱した。

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