第93話 デッカイ人達
「とりあえずはなんとかなった、か・・・」
俺はふぅ、と息を吐きながら腰を落とした。
纏わりついていたプレッシャーから解放された途端に一気に疲労が襲ってきたな。
「死ぬかと思った・・・結局、あいつらは何やったん?杏奈ちゃんも神宮寺に連れて行かれてしまったし。まゆまゆは何か知ってる?」
「ううん・・・私もずっと変だったから。考える事が出来ないというか自分が自分じゃないみたいな感じで。でもあの声どこかで・・・」
西城と東雲さんもあいつの事は分からないらしい。二人とも疲労の色が濃い。
外敵との戦闘もあったし無理もないだろう。
「それにしてもまゆまゆ、また胸大きくなったんちゃう?さっき戦ってる間ぷるんぷるんしてて気になって仕方なかったで!」
ぷるんぷるん・・・?
「そ、そんな事言われれも・・・ブラだって着けてないし・・・!か、香織だって大きくなったんじゃない!?分身のお尻ぷりんぷりんしてたよっ!」
分身がぷりんぷりん・・・??
「なっ・・・!人が気にしてる所を!いくらまゆまゆでも許せんで!そんな白衣一枚でウチの攻撃から守れると思わんといてや!・・・えいっ!こんな羨まけしからんモノ!このっ、このっ!こうしたる!」
「ちょ、ちょっと香織!やめてよー!ひゃん!」
「ぐへへへ・・・ここがいいのんかー?」
西城は着ている物が白衣のみで見えないように必死な東雲さんに対してあれやこれやとまさぐっている。まるでエロ親父だ。
俺は見てはいけない気がしてすぐに目を逸らした。声は聞こえてきてしまうが・・・
「やっぱまゆまゆの抱き心地最高や!・・・でも・・・ホンマに無事でよかった。」
「香織・・・ごめんね。それと変だった私の事見ててくれて本当にありがとう。」
痴態騒ぎは治まったぽいので二人に目を向けると西城と東雲さんはお互いの手を取って笑っていた。
西城にとって東雲さんを助けるのが第一の目的だったようだしそれがかなって良かったと思う。
俺としては東雲さんには聞きたい事がいくつかあるが・・・それは後にするか。
もし彼女が俺を裏切ったのなら・・・西城にはつらい思いをさせてしまうかも知れない。今までの流れを見ると少し違う様な気がしないでもないが、本人の口からきちんと聞かない事にはな。
「ご主人様ー!お怪我はありませんですかー!?」
一際甲高い声でそう言いながらスララが俺の頭の上に飛び乗ってきた。
そう言えばこいつには助けられた。こいつが来なければ今頃こうしている事が出来なかった可能性が高い。
「スララか。今回は助かった。礼を言う。」
そう言いながらスララを頭から降ろし身体をなでてやった。後でチーズをやってもいいな。子犬に過剰に物を与えるのはよくないがスララはよく動くし問題ないだろう。
「くぅ~ん。ご主人様のピンチでちたので!急いで来まちたのです!ワンワン!」
スララは撫でられて気持ちよさそうに目を細めている。でも気になる事があったな。
「そういえばなんでお前は一度も来た事が無い
転移の竜言語魔法は一度訪れた事のある場所にしか行けないはずだ。スララと城下町に来た事はあるが城の中に入ってはいない。
「んー。なんでと言われても・・・ご主人様が危ないって感じがちて、行かなきゃ!って思って、そちたらブゥンって・・・」
スララはうーん、と首を傾げながら色々と説明するがどうも要領を得ないな。
「要はなんとなく飛んだらここだったんだな。わかった。」
本人が分からないものは仕方がない。それは良いとしてもう一つ・・・
「後はさっきのグレインってのがスララを見て「器」と言っていた。俺の竜眼でもスララの称号に「力の器」とある。リオウ、お前は何か知っているか?グレインの事も含めて話せるのなら話して貰いたいんだが。」
グレインと因縁のあるリオウなら何か知っているかもしれない。
あの圧倒的な力を持ったやつがスララを見て退いたんだ。かなり重要な何かがスララにはあると思う。
『・・・・』
「おい、リオウ。聞いてるのか?」
『む。すまん。少し考え事をな。この聖獣の「器」についてだったか。なんとも言いようが難しいが「器」は「器」だ。それ以上でもそれ以下でも無い。』
「全然分からん。」
『すまないがそうとしか言えぬのだ。ヤツの言葉を借りるのは癪だが時が来ればおのずと分かるだろう。ヤツ・・・グレインについては落ち着いたら必ず話す。本当はまだ早い気がするのだがそうも言っていられなくなった。』
時が来れば、ね。確かにグレインもそんな事を言っていた。抽象的すぎて今は理解できないな。
「おっ!スララちゃん!さっきはありがとうな。あんなヤバそうなやつを追い返すなんて大手柄やん!」
「ん?香織は誰に話してるの?わーカワイイー!さっき助けてくれたワンちゃん?ありがとう。」
ひとしきり再会を喜んでいた二人がこちらにやってきた。東雲さんはスララを見てカワイイとなでようと手を伸ばしている。
スララの事を知らない東雲さんにとってはタダの小さい子犬だ。モフりたくなるのもわかるが。
「あたちは聖獣なのです!犬じゃないのです!ワンワン!」
「えっ!?ワンちゃんが喋ったよ!カワイイー!」
スララはいつもの様に犬じゃないと言いながらワンワンと吠えている。
それを見た東雲さんはスララが喋れる事に一瞬驚いたようだがその後、俺の目から見ても恐ろしいスピードでスララを捕まえ自らの胸に抱き寄せた。
「わ、わっ!いつの間に・・・?離しやがれなのです!むぐぐ。埋もれるのです・・・ご、ご主人様!助けて!肉の壁に殺されちゃいます・・・」
東雲さんは自分が今、全裸に白衣だけという前衛的すぎるファッションでいる事を忘れているのだろうか。スララはみるみるうちにその2つの双丘の間に吸い込まれていった。
羨ましいなんてそんな事・・・ない訳じゃ無い。ただ一つ確かなのは少し前に見る事になってしまった姫崎の情事なんかよりは俺にとって刺激が強いという事だ。
「東雲さん。離してやってくれないか。これ以上はスララが死んでしまう。」
「あっ!ごめんね!私ったらつい・・・よいしょ、っと。スララちゃん?でいいんだよね?ごめんね。苦しくなかった?」
俺が離すように促すと東雲さんは胸の中で暴れているスララをすぽんと抜き、地面に置いた。そして全体を優しく撫でながらもう一度、助けてくれてありがとう。と感謝の言葉をかけた。
「ふ、ふん!苦しくない訳ないでしょ!?あたちはご主人様を助けにきたのです!乳ばかりデッカくてあたちの話を聞いていたのですか?そっちのお尻のデッカい勇者といい、勇者はご主人をたぶらかす事しか頭にないのですね!全く、ワンワンなのです。」
「なんでウチがお尻の事でとばっちり受けなあかんねん!」
まあスララはああ言っているが東雲さんに撫でられて気持ちよさそうにしているし照れ隠しみたいな物だろう。しかし、全くワンワンってなんだ?
その時俺はスララのしっぽがうっすら光っている事もそれが何を意味するのかも分かっていなかった。
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