第92話 カットイン



「おい・・・メーシー・・・あれは・・・あれはなんだ・・・・・・?」


「わ、わからない・・・でもあれは普通じゃない・・・外敵?ううん・・・そんなの比べ物にならないよ・・・」


「この暗い、冷たい感じ・・・気持ち悪い・・・」


「だ、大丈夫や!ま、まゆまゆはウチが守るからな・・・!」



ライーザさん以下皆あいつの放つ得体の知れない空気に飲まれているな。


確かに氷の様な冷たい手に心臓を鷲掴みされている様なプレッシャーが目の前の人物からは発せられている。



「リオウ、あいつがお前の・・・敵なのか?」



俺も刀に憑依しているリオウに話しかけながらもグレインと呼ばれた人物から目線を切る事が出来ないでいた。目を逸らした瞬間に殺される、そんなイメージを全身に叩きつけられているようだ。



『・・・敵、か。ああ、そうだ。奴が我の全てを・・・!』



リオウは少しだけタメを作った後、怒気を込めた口調で答えた。何かしら事情があるのかも知れないがリオウが敵だと言うのなら俺にとっても敵だ。そういう契約だからな。


「リオウ。それが現在の貴様の名か。元の名よりよほど良いではないか。」


グレインはその掴みにくい表情のまま冷やかすように言う。



『まあな。これはこれで気に入っている。永劫この名でも良いくらいだが・・・お前への礼も済んでいない手前、そうもいくまい。』


「礼?元の姿ならばいざ知らずその様な武具に宿っているだけの身で私に何か出来るとでも?何かプレゼントでも貰えるのかね?」



リオウの言葉にふざける様な態度で答えるグレイン。危険かもしれないが少し、試してみるか。もしここで倒すことが出来れば・・・



「そんなに欲しけりゃ俺がくれてやるよ!『殲滅する光アトミックレイ』!!」



俺は若干震える身体を動かしステータスを魔攻に振り戻して竜言語魔法を放った。

魔力も出来るだけ込めた強力な一撃だ。


光線に似た銀色の竜が一直線に唸りを上げてグレインに向かって飛んでゆく。



「やはり竜言語魔法を授けたか。さて、どうするか。・・・まあ良い。『滅絶する闇ダークエクスティン』」



グレインは右手を伸ばすと迫りくる銀竜に向けて魔法をぶつけてきた。

輝く銀竜とは逆に全てを飲み込むような暗い色の竜が出現し俺の銀竜とぶつかる。


この魔法は・・・!?



「竜言語魔法か・・・!」


『銀次!直撃はまずい!もっと魔力を込めろ!』



リオウからの檄が飛ぶ。俺は銀竜に魔力を込める。・・・だが、じりじりと闇の竜に押し返される。



「わかってる!ぐっ・・・!!この威力は・・・!魔攻にかなり振ってるはずなのに!」


「ほう。中々筋が良い。・・・ふむ。」



突然グレインが放つ闇竜の威力がふっと軽くなった。


『銀次!今だ!』


リオウの声に従い魔力を振り絞る。ステータス変動もフルに魔攻に振っている。


「おおおぉぉぉ!!!」


パァン!!と小気味いい音と共に2つの竜言語魔法は弾け飛んだ。



「なっ・・・!グレイン様の魔法と互角だと・・・!?」



先程まで跪いていた勇人が立ち上がり目を丸くしているが・・・



「はぁ、はぁ、はぁ、・・・クソッ!!」



チッ!互角?違う!明らかに手を抜かれた。あのまま行けば今頃俺や俺の後ろにいた西城たちも・・・!



「―――――[ダークネスバインド]」



「!?」



突然身体の身動きが封じられた。ダークネスバインド・・・勇人のホーリーバインドと同じ様な拘束系のスキルか。・・・ぐっ!ダメだ。振りほどく事が出来ない。いや、物攻に振れば行けるか?



「なんや!?身体が急に・・・」


「クッ・・・!動けん!」



西城やライーザさん・・・チッ、他の全員もか。全員がグレインの拘束スキルを受けて身体の自由を奪われている様だ。


一度にこの広範囲にいる人数を対象にするのか。どれだけチートなんだよ。


グレインがゆっくりとこちらに近づいて来る。



『ふぅ。まだ使いたくなかったのだがな。』



リオウは、さてと。ぐらいの軽く感じる様な言い方で何かをしようとしているようだ。



「おい!リオウ!何するつもりなんだ?」



「ふふふ・・・これで世界も、‱〷㍵‴〷⊿も・・・」



グレインは俺の近くまで来ると右手を伸ばす。その手は俺の左目に向かっている様だ。

何か非常にマズイ気がする・・・!





「ダメ!」



「・・・む!?」



グレインの手が数メートル先まで迫った所で突如、ドンッ!という衝撃と共にグレインが後ずさりをした。


グレインが下がった事によるスペースには何者かが立って・・・いや、お座りをしている。



「ご主人様には指一本触れさせはしないのです!ワンワン!」


「スラ、ラ・・・?どうしてここに・・・?」



そこには以前リオウが封印されていた湖でリオウの奪われた力の一つである、「時」の力を門番として守護していた聖獣のスララが現れた。


俺の竜眼でも聖獣となっていたから間違いないと思うが要は子犬だな。


「ルマハン草原の方がひと段落したのでチーズを食べていたらご主人様がピンチの予感がしましたので飛んできたのです!」



スララはそう言いながらくりくりの目をキラキラさせ、しっぽをぶんぶんと振っている。そうか。向こうは何とかなったのか。良かった。


それにスララは転移が使える。ここへ来るのは一瞬だ。何故来た事の無いこの謁見の間に飛んでこれたのは謎だが・・・



「ご主人様に手を出す奴はあたちが許さないのです!」



ヴーッと威嚇しながらスララは見栄を切る。その姿は頼もしく・・・は見えないな。子犬だし。



「こやつは・・・「器」か。なるほど・・・これは使えるかも知れん。」



グレインは口元を吊り上げながらそう言い漆黒のローブを翻して俺たちに背を向けた。

まさかスララにビビって・・・と言う事はないだろうが。


同時にグレインによる拘束も切れた様だ。



「勇人。帰還するぞ。」



「グ、グレイン様!何故!?あいつらを放って置くのですか!?ここは騎馬ナイトルークを出して叩くべきかと・・・」


「帰還する、と言った。聞こえなかったのか?貴様は役目を果たせ。」



グレインはギロリと勇人を睨み付ける様に勇人の提案を一蹴した。


その目は冷ややかで確かな殺意の様なものが見て取れる。



「ヒッ・・・!お、仰せの通りに!」


「・・・人選を間違えたかも知れんな。」



睨みを受けた勇人は無様にも尻もちをついて震えている。

グレインは人選?と言っていたか。どういう事だ?



「ま、待て!逃げるのか!?お前の、お前たちの目的は何だ!何の為にヴァルハートへ進行してきた!?」


「・・・いずれ分かるさ。嫌でも、な。また会おう———リオウ。・・・勇人、これ以上待たせるな。」



グレインはそう言うとすぅと空間の裂け目に姿を消した。


同時に謁見の間を支配していた暗く冷めたプレッシャーが一気に緩んでいくのを感じる。


「お、お待ちください!・・・クッ!畜生!『可視化アンテ』!」


勇人は動揺しながらも先程まで隠していた東雲さんを視認させる時に使った竜言語魔法を唱えた。まだ何かを隠していたのか?・・・あれは!?



「しまった!姫崎か!しかもまだ分身がいたのか・・・!」



竜言語魔法を唱えた勇人の隣には、エルフの秘薬により深く眠らせ、謁見の間の入口付近に置いておいた姫崎を抱えた勇人の分身体が立っていた。



存在を隠す竜言語魔法、確か不可視の牢獄インプリズンだったか。それを分身と姫崎にかけていたようだ。チッ。姫崎は完全にノーマークだった、というか忘れてたぞ。



「銀次ィ!次会った時はもう容赦しねぇ!絶対にもう一度てめぇから奪ってやる!金も女も命もなぁ!ギャハハハハ!!」



勇人はそう言うとグレインを追って空間の裂け目へと姫崎を抱えた分身と共に飛び込んでいった。その後すぐに空間の裂け目は閉じた。


俺たち以外いなくなった謁見の間には安堵、驚き、それと得体の知れない敵に対する疑念が合わさった妙な静寂が広がっていた。

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