第95話 帰還
「『
俺は転移の竜言語魔法を使い謁見の間にいた皆と共に大森林へと帰還した。
正確にはひょんな事から五大獣老の竜族族長になってしまった俺の領地へと。
時刻はルマハン草原を出発した正午から結構経っているらしく空はほんのりと赤く色づいていた。
「これが転移ですか・・・ライーザさんたちから聞いていましたが体験すると驚きしかありませんね。」
エミリア王女は初めての転移に目を丸くしているな。自分でも便利すぎると思うが。
「うーん、やっぱ大森林の空気は最高やなー!ヴァルハートもええけど空気が濃いと言うか。」
「ホントだねー。何となくだけど精霊達も元気な気がする!」
「水や食べ物も慣れてしまうと戻れないといいますか。」
大森林についた途端に西城は深呼吸をしながらぐーっと伸びをした。東雲さん、ライーザさんも同じように目をつぶって天を仰いでいる。
確かに現代日本、特に東京なんかと比べてしまうとヴァルハートも相当綺麗な所なのは間違いないが大森林の圧倒的な超自然力みたいな物には適わないだろう。
「ここが大森林ですか・・・なんというか力強さを空気から感じますね。」
「そっか。王女様は初めてなんだ。気を付けないといきなり獣人が後ろからガブッ、なーんて事になっちゃうかもだよ?」
「えっ?そうなのですか?ちょっと怖いですね・・・」
エミリア王女は大森林に入るのは初めてらしい。
王族として外交なんかもやっているはずだが意外だな。獣人を見た事はあるのだろうか?メーシーの脅しにも少し困惑しているようだが。と言うかメーシーは初めてじゃないような口ぶりだ。だがそれよりも・・・
「おい、メーシー。冗談でもそう言う事はやめろ。そういった間違った概念が獣人と人間の溝を深める一端になっているみたいだからな。」
ルマハン草原で勇人の姿をしていた影武者、名前は何だったか忘れたがそいつが兵士を焚き付ける際にそんな事を言っていたんだよな。獣人は野蛮で卑怯だ、と。
見た目とその強力なスペックで無意識的に獣人=怖いという図式が人間にはあるのかもしれない。実際は誇り高く、仲間思いの良い奴らだ。俺の知っている限りではあるが。
「あ、ごめん。少しでも緊張を和らげようとしただけなんだ。でもこれから種族間で仲良くしようって時に良くない冗談だったね。」
メーシーはやってしまった、という顔をしてぺこりと頭を下げた。俺の思っている事を理解してくれたようだ。
「いや、わかってくれればいいんだ。現に急に噛みついてくるような野蛮な獣人はいないし・・・むごっ!?」
突然俺の視界が暗転した。背後から何かが襲ってきたようだ。何が起きた!?まさか外敵が!?いや、攻撃にしてはやけに顔いっぱいに何か柔らかいもので包まれている様な・・・
「ギンさん!やっと帰ってきたのだな!待ちくたびれたぞ!最近ずっと待ってばかりだ!これからは駄目だと言っても付いていくからな!」
「ほっほっほ。やはりギンジ殿たちじゃったか。ハビナちゃんが急にギンさんの匂いがする!と飛んで行ってしまったんじゃが正解じゃったの。」
「むぐぐ・・・ぷはぁっ!サルパか!こいつを・・・ハビナをどうにかしてくれ!や、やめろ!耳を噛むな!」
どうやらハビナは俺の気配を察してきたらしい。それを五大獣老の一人で猿獣人であるサルパが追って来た様だ。
視界が遮られたのは胸に挟まれたからか。どうりで心地が良く・・・ってそうじゃなくて。
背後から飛び掛かかられて俺が気づかないとは。油断してたつもりはないんだが。
それにいきなり襲ってくる様な輩はいないと啖呵を切った俺の立場が・・・
「お、おっきい・・・あれが獣人・・・!」
「むむむ!あの子もですか・・・!マユミ様?あの子は多分手強いです!」
なんだ?ふと殺気がして振り向くと東雲さんの背後に氷の魔人、王女の背後に炎の魔人の様な物が見えるんだが。
「ええい・・・いい加減に離れろ!」
じゃれつくハビナを強引に引きはがす。全くずっと待ってたと言っても半日も経っていないんだぞ。
「おかえり!ギンさん!父上を始め皆待ってる。スララちゃんも無事でよかった!急にご主人様が危ないって転移しちゃったから心配したんだぞ!」
悪びれもせずに話し始めるハビナだがまあいい。スララもハビナ達に何も言わずに転移してきた様だ。
「ああ。ハビナたちもご苦労だった。レオン達も無事な様だな。あの程度の奴らにやられる事はないだろうと思ってはいたけど。奴隷の方はどうだ?」
「うん。今は簡易的な小屋をいくつか作っていてそこでカセが見ている。交替で私たちが見回ってるけどアイツ意外としっかりしてるな。」
亮汰もこっちに来ているのか。王国と帝国の同盟軍に捕虜の解放として渡したが結局戻って来たか。
「ハビナちゃん、サルパおじいちゃんただいま!スララちゃん今回お手柄やったんやで?」
「ほっほ。カオリちゃんおかえりじゃ。スララちゃんも偉かったのぅ。後で新しいチーズをあげようかの。」
「わーい!ワンワン!」
西城がスララの活躍を伝えるとサルパがスララを抱いて撫でている。スララも嬉しそうにしているな。スララがお手柄だったのは本当だ。
「おかえり!カオリとライーザさんも目的を達した様だな!後ろの三人がそうだろう?・・・ふん、あれが裏切り者のシノノメマユミと王女エミリアか。すぐにでも八つ裂きにしてやりたいがギンさんがそうしていないのなら理由があるのだろう。もう一人は、エルフの方か。」
「ハビナちゃん・・・」
ハビナが東雲さんとエミリア王女を睨み付けるのを見て西城は悲しそうな顔をしている。西城としては東雲さんがハビナに嫌われるのが辛いのだろう。
「私は裏切ったりなんて!・・・でもそうだよね。銀次君からすれば私は・・・」
「そう言われてしまうのも仕方ありません、ね・・・」
東雲さんとエミリア王女も気まずそうな顔だ。
だが俺の話を信じているハビナからしてみれば東雲さんは俺を裏切った張本人だ。俺も現段階では違うと否定出来る材料はない。東雲さんには後でしっかり話を聞かせて貰うつもりだ。
「とりあえずここで話してても仕方が無い。奴隷の件を含め一度獣老に集まって貰いたいんだが。場所は任せる。」
「うむ。承知した。儂が声をかけて来よう。転移の魔法陣のおかげで集合には時間はかかるまいて。ギンジ殿達はまず新しい屋敷で休んでいるのがよいじゃろ。」
そう言うとサルパは魔法陣へ乗り出かけて行った。そういえば目の前には大きな屋敷がほぼ完成していた。職人のゲンたちが頑張ってくれたみたいだ。
奴隷の事、勇人の事、外敵の事、問題はたくさんあるが一つ一つ乗り越えていかなくては。
だが今は色々あって本当に疲れた。まずは腰を落ち着けたい所だ。
俺たちは若干重い足取りで屋敷へ向かって行った。
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