第90話 勇者勢無双



四方からワラワラと集まってくる外敵に対して迎撃を試みる。





「喰らいやがれ![双飛竜そうひりゅう]!」





己の魔力を刀に送り、青白く光る刀身を振るいスキルを放つ。×の字に重なった二つの斬撃が飛び掛かってくる兵士ポーン級を次々に切り裂いてゆく。





「チッ!以前より固くなっているのか。」





直線上にいる全ての外敵を貫通させる予定だったが上半身のみで浮いている巨腕の外敵がその膨れ上がった腕を盾にして斬撃を止めた。


流石に無傷、とはいかなかった様で盾にした腕からブシュウと体液の様な物が噴出しているな。





司教ビショップ級と呼ばれた巨腕外敵は自分に傷がついたのが気に入らなかったのかその巨腕を振り上げて俺に迫ってきた。





「ふん。一丁前に怒ったか。来い、相手してやるよ!」





ヴゥバアォオ! 





巨腕外敵が猛りながら巨大な腕を振り下ろしてくる。俺はその腕を受けるつもりは無く手にした刀をそのままかち上げた。




以前剣を使ってゴブリンに切りかかり身体の途中で剣を止めてしまった事もあったが今はそんな事はない。


ゴブリンの数倍、数十倍は固いであろう外敵の巨腕をバターを切るように切り飛ばした。





ヴァオオオオ!!





「デカい声だ。亮汰より五月蠅いぞ。消えろ!」




俺は断末魔の様な叫び声をあげている巨腕外敵の核を刀で斬り砕く。


核を砕かれた外敵はキラキラと光の粒子を残して消えていった。





「良し。他の連中は・・・大丈夫そうだな。」







「よっしゃあ!まゆまゆ!まずは景気づけにやっちゃって!」




「うん!張り切って行こう![マジックアロー:炎陣えんじん]!」





西城と東雲さんは共闘して外敵に当たるようだ。





まずは東雲さんのマジックアローで兵士級を焼き払う。


炎陣のマジックアローは文字通り中級の精霊魔法であるフレイムサークルと同等の効果があり範囲殲滅には持って来いと言えるだろう。





「ヨシ!大丈夫。もう誤射なんてしない、絶対に!」





腐った魚の様な兵士級の外敵はぶすぶすとまるで焼き魚を呈して焦げ黒い煙を上げている。間違っても口に入れたいとは思わないがな。





「さすがまゆまゆ!さんきゅ!残りはウチがお掃除や!」





間髪入れずに西城が軍勢の前に躍り出る。





「さぁ行くでー!![分身]!!」





───ヴン、という効果音と共に西城の姿が4人に増える。


4人の西城が流れる様に次々と焼け焦げ動きの鈍くなった外敵の核を砕いてゆく。





この分身は西城自身が4人に増えるのではなくスキルによって作られた自分の残像一つ一つを本体が制御している、らしい。


なんかそう聞くと西城が凄く頭の良い子に思えてしまうぞ。恐らくはなんとなく、というか感覚で制御しているんだろうが。





「そりゃそりゃあ!・・・っと、またあんたか。以前みたいに手こずらせるんやないで!」





兵士級を光の粒子に変えていく西城の前に、司教級と呼ばれた虫外敵がカサカサと不快な音をたてて数匹立ちはだかった。





キシシキシシシ!シャ――!!





虫外敵は鳴き声を上げながら鋭い鎌のような腕を振りかざし西城に迫る。





「前は速さ比べで互角やったけどウチらは、成長したんや!はあっ![フォールダガー]!!」





西城も突っ込んでいき飛び掛かってくる虫外敵と交差する。そしてすれ違いざまに切った相手を重くするスキル、フォールダガーを正確に一太刀ずつ浴びせて行った。





ギ、ギシ、ギギ・・・?





突如重たくなり思うように動けなくなった自分の身体に外敵は戸惑っている様だな。


相変わらず強力なスキルだ。





「これでもうカサカサ出来ひんやろ?さぁ、分身ちゃんたち!やっておしまい!なんちて。」





西城の号令を皮切りに3人の分身たちはとりゃー!とか、えーい!だとかいちいち掛け声を上げながらスキルによって動きが鈍くなった外敵を攻撃していく。


元気の良い西城らしいな。





動けなくなった外敵は分身たちに嬲られやがて核を砕かれたらしく光となって消えて行った。





「ふふん。どうや!もうウチらは負けへんよ!もう誰も奪わせたりせえへん!なぁ、まゆまゆ?」





司教級を倒した西城は弾けるような笑顔で東雲さんの方へ振り向き親指をグッと立てた。





「うふふ。そうだね!・・・でも香織?急に前髪短くしたりしてどうしたの?」





「ん?ああ、これ?須藤が切ってくれたんや。なんか短い方が似合うとか言って・・・ってまゆまゆ?ど、どうしたn」





「へぇ・・・銀次君が?香織の髪を?似合うから?ふーん・・・」





おや?東雲さんからまた凍気が出ているんだが・・・西城と何か話しているようだけど周りが五月蠅くてよくわからないな。





「ちょ、ちょ、ちょ、まゆまゆ!落ち着いてや!ほ、ほら!ライーザさんの加勢にいかんと!」





「・・・後でちゃんと聞かせて貰うからね?香織?」





スゥー、と東雲さんから凍気が消えたな。ライーザさんの加勢に向かう様だが・・・





まぁいい。後はライーザさん、か。俺も沸いてくる外敵を蹴散らしながら横目で窺ってはいるが特段心配はなさそうだけど。


一応俺も行ってみるか。何かあってからでは遅いからな。






「ライーザさん!加勢にきたで!」




「怪我はありませんか!?」




ライーザさんに群がる兵士級を払いながら西城と東雲さんが問いかける。




「ハッ!おお!お二方!もうあれだけの外敵を倒してきたのですか。流石、と言うほかありませんね。となると私も本気でかからねば。」





恐らくだがライーザさんは西城と東雲さんの方へ敵が集中しないようにあえて戦線を維持していたのではないだろうか。


その証拠に二人が戻ったと分かってからは一人で兵士級の群れを押し始めていた。





「加勢は、必要なさそうだな。」




「ギンジ殿。心配をかけてしまったようですね。すぐに終わらせます![ライトニングセイバー]!」




ライーザさんはそう言うとさらにギアを上げた様だ。ライトニングセイバーを発動させ近づく外敵をなぎ倒していく。





「香織、なんか・・・ライーザさん前より強くなってないかな?」





「そうやな・・・確かに動きのキレと言うか無駄が全く無いと言うか・・・」





確かに以前ビシエ遺跡で外敵の大群に襲われた時はライーザさんと言え手こずっていたはずだ。切り札、と言っていたトールハンマーも使った。今は鎚を持っていないので使えないとは思うが。





「ギンジ殿から魔力を贈って貰ってから体の動きが良くなっているのです。力や魔力の使い方がスムーズに行えるといいますか。」





ひとしきり兵士級を倒した後少し間合いを空け、ふぅ。と息を付きながらライーザさんは言った。





「そうなのか。東雲さんの様に俺の、と言うかリオウの力が流れた可能性もあるのかな?」





『可能性としては無くは無い、と言った所だな。魔力を贈与した事で元々の素質を後押ししたと見る方が良いかもしれぬ。』





リオウの見解はそう言う事らしい。とするとライーザさんに至っては見た目のスペック以上に強くなっているのかもしれないな。





「虫の様にちょこまか動かれても面倒ですね。一気に片付ける!精霊よ。私に力を貸してくれ!はあぁぁぁ!!」





ライーザさんがギュッと力を込める様に剣を握ると騎士剣の周りを覆っていたライトニングセイバーは数倍の大きさに膨れ上がった。


まるでバスターソード、いやそれ以上の大きさだ。





「あの時もここまでやれていれば!あの時に散って行った騎士団員の無念を受けるがいい!!」








───ザン








まさに一閃。司教級の虫外敵、巨腕外敵の数体をまとめて核毎切り裂いた。


外敵たちは断末魔さえ上げずに光となっていった。かなりの威力があったみたいだな。





「・・・ぐっ!少々使いすぎましたか。まだまだ精進が足りませんね・・・」




ライーザさんはそう言いながら少しふらりとよろめき地面に片膝を付けた。





「流石ライーザさんだ。[差し伸べる手マジックギフト]」





「いつも申し訳ありません。騎士として仕えると言った身で・・・」





「気にしないでくれ。戻ったら剣の稽古を頼むよ。」





ライーザさんにマジックギフトをかけながら本心でそう思う。


西城はええなーとか言っているし東雲さんは何やらはてな顔だ。








「理の眷属たちが・・・それも司教級までもが壊滅、だと・・・?クソ!クソクソクソ!!うぜぇ!!うぜぇんだよお前ら!!」





勇人は外敵たちが壊滅させられたのを見て苛立ちを隠せない様だな。


しかし本当に外敵と勇人が繋がっていたとは・・・!





「・・・チッ!騎馬ナイトルークは出せない、か・・・!分かったよ・・・少しの間遊んでやるよ!お前らはどうせもう終わりなんだ!!」





勇人が叫び俺たちに剣を突きつけてくる。


魔力圧縮炉メルトマジックの事もあり今は勇人を殺すことは出来ない。どうすればいい・・・?




当初の目的である王女たちの奪還を優先するべきなのだろうが・・・俺は・・・!!

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