第89話 再来
勇人の叫びに呼応するようにガラスが割れる様な、破裂音?破砕音?とにかく何とも形容しがたい音が謁見の間に鳴り響いた。
この聞きなれないが不快な音・・・俺たちは確かに聞いたことがある。
「皆!気を付けろ!あいつが、あいつらが来るぞ!」
「なんや須藤!あいつらって・・・」
ピギャアアオアォォアアア!!!!
この世のものとは思えない奇声を発し、空間の裂け目からあいつらは現れた。
外敵。
ビシエ遺跡攻略の際、リオウの施した封印を解除しあと少しでリオウの待つ魔法陣にたどり着くという所で現れ、俺たちを壊滅させたやつら。
こいつらの襲来がなければ俺はあんな目には・・・!
以前見た時と同様に腐った魚の様なやつが大多数、虫の様にカサカサ動き回っているやつと巨大化した腕を持つ腐った死体の様なやつが数十体いる。
そいつらは皆、顔の部分は髑髏であり体のどこかしらに核の様なものが見て取れる。
「なっ!?が、外敵ですって!?」
「まさか・・・!?今まで王都の中になんて・・・!メーシー!結界はどうなっている!?」
「わからない!でも私が捕えられるまではちゃんと機能していたはずだけど・・・」
王女に続きライーザさん、メーシーも困惑しているようだ。
確か以前メーシーは王都に外敵が現れない様な結界を作ったと言っていたな。
それが効いていないという事は結界が壊れたかあるいは・・・
「こ、これは!?・・・そうか、もうこれ以上猶予は貰えねぇ、か。」
勇人が何やらブツブツ言っている。かすかに猶予?がどうのこうのと聞こえた気がするが・・・
「おい!勇人!猶予って何だ!?お前、
勇人に対して詰めようとすると勇人は剣を持っている片手をすっと上げた。
その瞬間、無数の外敵たちが俺たちと勇人の間にずらっと、まるで勇人を守るかの様な陣形を作り上げた。
「外敵が命令を聞いた!?コミュニケーションなんて取れるはずが・・・!」
メーシーは目の前の光景に唖然としている。自らの目的と違ったとしても研究者として王国にいる以上、メーシーにとって外敵の研究は責務であった。その長年の研究の末出した結論は外敵はコミュニケーション能力を持っていない、というものだった。
それが今、目の前で覆された。
「・・・こうなっちまったらもうなりふり構ってらんねぇんだ・・・!
グゲッ!グゲーッ!
勇人が掲げていた手をぶんっと振り下ろすと外敵たちは奇声を上げながら俺たちに向かってきた。理の眷属?理・・・どういう意味だ?
「クソッ!東雲さん!危険だぞ!下がってろ!」
先行してきた魚型外敵は先程勇人の前に立ちはだかり一番前にいた東雲さんに群れとなって襲いかかろうとしている。
俺は全力で彼女の前に出ようと足に力を込める、が・・・
「大丈夫!銀次君見てて!私も前より強くなったんだよ!」
そう言いながら東雲さんは何も持っていない状態で弓を引く動作を見せる。
一見エアー弓道に見えるがよく見ると彼女の周囲に魔力が集まっていくのが見える。
あれは・・・俺の魔力剣と同じ・・・魔力弓か!
「[マジックアロー:
薄紫色に輝く魔力弓から東雲さんの十八番マジックアローが炸裂した。
俺が今まで見ていたマジックアローと少し系統が違うな。
風燕と呼ばれたそれは文字通り風で燕を象ったものの様だ。
風燕は迫りくる外敵に向かって行き翼にぐっと力を込める。
スパン
風の燕が魚外敵をそのまま一直線に貫く。外敵たちは自分を何かが通り過ぎたかの様に感じたらしく一瞬顔にはてなを浮かべた、様に見えた。
ピギィィ!?
次の瞬間、風燕が走ったその一直線の軌道上にいた魚外敵は上下半分に別れてぼとぼと、と地面に転がっていた。しかもほぼ全ての敵の核を砕いている様だな。
「固い外敵を一撃で・・・しかもあの数を・・・」
「さすが、勇者ってやつ?」
「ウチもいちお勇者やねんけど・・・まゆまゆ・・すご・・・!」
ライーザさんたちはその威力に驚いている。
確かに一月やそこらでここまで威力があがるのだろうか?
マユミ・シノノメ
人間 女性
レベル 32
物攻 200
魔攻 500
防 250
敏 250
スキル マジックアロー 折れぬ意志
称号 転移者 勇者 半隷属者
死地を求めて闘っていたと言うだけあって東雲さんのレベルが高いな。
大森林にいる間、範囲魔法で魔獣を倒して回っていた俺と同レベルだ。
やはり特筆すべきは魔攻の高さだろう。他の数値と比べると明らかに違う。といっても他の数値も総合的に高い。確か東雲さんは魔攻重視の魔法使いタイプで他はそこまで高い印象はなかったのだが・・・
スキルはお馴染みのマジックアローと折れぬ意志?なんのスキルだろう。だがスキル名からも力強さが伝わってくるな。
そして称号だ。転移者、勇者、は良い。だがこの半隷属者ってのはなんだ?俺は彼女に血の契約を使っていない。まさか竜言語魔法を使う勇人に何かされたのか?
『銀次よ。安心するがいい。あの娘からはヤツの力は感じぬ。我の思念体の力が一部流れた、と言ったであろう?その影響で半分隷属状態になった様だ。スペックが高くなっているのもそのせいであろうな。』
「なるほど。俺のスキルではなくリオウから直接力を得たって感じか。要は俺の契約してないバージョンだ。正式にリオウと彼女が契約していたらどんなスペックの契約者が誕生していたのだろうな・・・」
俺はそれを想像すると少し寒気がしてごくりと唾を飲み込んだ。
『それは無いな。どんなにスペックが高くなろうがそれを揮えなければ意味が無い。高威力の竜言語魔法を数発撃ってダウン、では話にならないからな。』
「そうか。リカバーに感謝するとしよう。」
「チイィッ!!
勇人は自身の手駒の一部ををあっけなく倒された事に苛立ちを隠せない様だな。
勇人が合図を出すと巨腕の外敵と虫の様に這い回る外敵が
やはりこいつらが小隊長の様な役目をしているようだな。
「須藤!ウチもやるで!ウチも勇者や!」
「これ以上ヴァルハートの地を汚させる訳にはゆかぬ!それに私はギンジ殿の騎士だ!」
西城とライーザさんも武器を握りしめながら外敵と戦うために俺の左右に並んでくれた。
「私は戦えない王女様を守るから安心してやっつけて!」
メーシーは魔力を封じられている王女を守る為全開でシールドを張る様だ。助かる。
「お前たち!無理するなよ!互いを背にして死角を消すんだ。」
俺の指揮に東雲さんを含む三人は頷き四方の外敵に対峙した。
「クソが!俺たちは仲間だ!みたいな陣形をしやがってよぉ!うぜぇんだよ!」
勇人は激昂している。ああ、そうか。あいつは今まで何でも一人でこなしてきた。こなせてしまっていたんだ。
恐らく勇人の中に本当の意味で仲間と力を合わせて頑張る。という経験、発想がないんだろう。そんな勇人は今の俺たちを見てムカつくのだ。
「本当なら最低でもあと一人確保したかったんだがな。もういい!終わりにしてやるよ!もの共、かかれぇぇぇ!!」
ヴゥバアォオ! キシギギシシャー!
勇人の号令と共に外敵の大群がワラワラと群がってくる。
「来るぞ!全員気合を入れろよ!絶対に死ぬな!」
「うん!銀次君も!」
「わかっとる!負けへんでー!」
「私はあなたの剣!来る敵は全て討つ!」
やってやる。もう絶対に俺から何も奪わせはしない!
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