第88話 懺悔

背筋に冷たくも威圧感のある闘気、凍気とでも言えばいいだろうか。西城と俺はそんなプレッシャーを感じ恐る恐る振り向く。




「香織、それに銀次君・・・?いつの間にか随分仲良くなったみたいだね・・・?」




そこに立っていたのは先程勇人が可視化した光る球体の中に捕らわれていた人物。





東雲真弓その人だった。





「東雲、さん。」




「まゆまゆ!良かった!無事だったんやね!」




俺は突然の事に現実感が無くなんとなく彼女の名前を口にした。




本当に彼女が俺を裏切ったのか?何かそうしなくてはいけない理由があったのか?聞きたい事がたくさんあるはずなのに言葉が出てこない。


さらに彼女を直視出来なくて俺はふっと目を伏せた。





西城は待ちわびた友人との再会に喜びを隠せないといった感じで彼女に飛び込み抱きつきを決めている様だ。





「うん。もう大丈夫。二人とも、それに、皆さん助けに・・・来てくれたんだよね?ありがとう!」





彼女はそう礼を言いながらぺこりとお辞儀をした。・・・全裸で。





「マユミ殿、お怪我はありませんか?」





「マユミ様!よく御無事で!・・・えっと、まず、何かお召しになったほうが・・・」





「ライーザさん!それにエミリア王女様も!え?お召し?・・・っていやああぁぁぁ!!!」





東雲さんは王女の言葉にやっと自分が全裸だと気がついた様できゃーきゃー言いながら走り回った後地面にぺたんと座り込んでしまった、みたいだ。





そう。先程は勇人の言葉で怒り、頭に血が上ってしまって忘れていたが光球の中にいた時も全裸だったんだよな。なんらかの理由であのまま光球から出て来れたのだとしたら当然そうなる。








「ふふふ。おかえり。マユミちゃん、これを使って。ああ、危ないモノは抜いておいたから安心してよ。」





「ああ!メーシー先生!ありがとうございます!」





メーシーは自分が来ていた大きめの白衣を脱いで東雲さんに手渡した。


彼女は手渡された白衣をいそいそと着だしボタンを全て止めると顔を赤くし恥ずかしそうにちらっと俺の方に目を寄せた。





「・・・見た?」





見た?と言うのは?





すぐに目を伏せたからはっきりとは見ていない、はずだがやっぱりあの双丘にはインパクトがあるし、下も・・・思い出そうとすればバッチリ思い出せてしまう。





「い、いや。見てない、はずだ。」





それ以上はまずい。直感的にそう思った。





「そっか。・・・銀次君。私ね、銀次君に・・・」









「!?チッ!話は後だ!」







「手前ぇらあぁぁぁ!俺様を無視して何やってんだよおおォ!![閃洸砲せんこうほう]!!」








東雲さんが俺に何かを話そうとした瞬間、レーザー砲の様な太く白い光が俺たちを襲った。恐らく勇人のスキルだろう。中々の威力がありそうだ。


俺は素早くみなの前に立ち左手に魔力を込め、その魔力を壁の様に展開した。思いつきだが何となく防げるような気がした。





「アースウォール!?ううん!私のアースウォールなんかよりずっと厚くて、固い!」





メーシーはこの魔力壁について良好な見解を示してくれている。上手くいったと見ていいだろう。





「でやああぁぁぁぁ!!死ねぇぇぇぇ!!」





勇人がスキルに威力を込めるたびに少し壁が押される感覚があったが破られる事は無くやがてスキルが中断された。





「はぁ、はぁ、はぁ、何で、届かねぇ!クソが!気に、いらねぇ!銀次ぃ!何涼しそうな顔してんだよ!それは俺の役だ!お前は悔しそうに地面に這いつくばって俺の足を舐めてりゃいいんだ!!」





勇人はそう叫びながら俺たちに向かってくる。その手には騎士剣が2本握られていた。


1本で駄目なら2本で、という事か。





「・・・面倒だな。」





「勇人君っ!もうやめて!」





迫りくる勇人とそれを迎撃しようとする俺たちの間にぶかぶかの白衣を纏った東雲さんが両手をバッと広げて立ちふさがった。





大きめの白衣のはずだが両手を広げた衝撃か、持っているスペックの差だろうかはわからないが白衣の上二つのボタンがパツンと勢いよく飛んでいった。





弾けたボタンがカン、カン、カン、と地面を鳴らす。勇人はそれを目で追った後、目の前の人物が誰かという事に気がついたようだった。





「ま、ま、真弓!?なんで・・・!?俺の・・・あの方に教えて貰った不可視の牢獄インプリズンからどうやって!?それに、何しても無反応だった意識が戻って・・・?」





勇人は目の前にいる東雲さんと先程まで彼女を光球で捕えていた場所を何度も見返しながら目を丸くしている。





インプリズン、あの光球の事か。あの方に教えて貰ったって事はやはりあれも竜言語魔法の一種か。





あの時の東雲さんの状態を鑑みると捕えられていたと言うよりは、封印されていた。が正しいのだろう。リオウと初めてあった場所と同じ感じがした。


リオウが数百年誰にも気づかれず大森林の深部にある湖で封印され続けていたあの封印だ。





「・・・初めはあの球の中に入れられて何も見えない、聞こえないで外の事は一切わからなかったよ。私ここで死んじゃうのかなぁって。・・・私ね?あの日から自分を悔いて悔いて悔やんでも悔やみきれなくて、私も死のうって思ったけどそれで楽になっていいのかな、なんて考えたりしてきた。」





「まゆまゆ・・・」





あの日、とはあのビシエ遺跡で俺の腕を焼いた時の事か。その言い方はやはりあの時の東雲さんは偽物の類では無かったと言う事、だろう・・・





「だったら、せめて誰かの為に戦って死のうってそれだけを考えてたんだ。魔獣でも外敵でも戦ってその結果死ぬのなら・・・彼も、銀次君も少しだけ許してくれるかなぁって。」





「・・・東雲さん、俺は・・・」





「だからあそこまで無理を・・・」





東雲さんの懺悔にも近い様な独白にライーザさんがそう呟く。確かに以前ライーザさんから聞いた話ではそんな事を言っていたな。死に場所を探しているようだ、と。





「でも銀次君は生きてた!生きていてくれた!!ほんの少し前から感覚も何も無かったあの中で銀次君と繋がった気がした!」





『銀次がこの刀を手にした時、だな。あの娘が常に魔力を充填していたのだろう。我の力が一部だけだが娘に流れたようだ。』





刀を通じて俺の存在を感じたと。そんな事があるのか。しかしこの刀を手にした時に感じた魔力はやはり東雲さんだった様だな。








「だからもう!銀次君を、ううん!誰も死なせない!絶対に!!」








ドゴォッ!!








東雲さんの決意を示す言葉に呼応するように彼女から凄まじい闘気が立ち昇っていく。








「あ、あ・・・なぜ・・・?何故、皆、銀次じゃなく、俺の前に立つんだ・・・?教えてくれよ・・・真弓ぃぃぃぃ!!」








────バ キ゜ン








勇人の慟哭にも似た叫びとほぼ同時に耳慣れないが確かに聞いた事のある、あの音が聞こえた。

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