第87話 胸に秘めた爆弾



「『可視化アンテ』!」








勇人の、恐らくは竜言語魔法による詠唱後、勇人の指先から伸びた一筋の光が球を形どった。


その光球は強い光を放ちそこに現れたのは・・・








「ま、まゆまゆ!!」





「マユミ様!?」





「マユミちゃん!」





そう、俺たち6人で共にこの異世界に召喚された同期。東雲真弓が裸体に膝を抱える体制で眠る様に光球に捕えられていた。





「東雲・・・さ、ん。」





なんだろう。彼女も俺を裏切った張本人のはず。なのになぜか勇人に抱くような黒い炎が俺の中に沸いてこない。








あの時の彼女は偽物だった・・・?








ルマハン草原にて勇人に成りすましていた、名前はもう忘れたがあのモノマネ師の様に?いや、そんな感じはしなかったはず・・・では一体なぜ・・・?








「ヒャハハハハ!!どうした!銀次!あこがれの東雲さんの裸だぞぉ!?勃○してんじゃねーのかぁ!?おっと、お前の腕を焼き尽くした東雲さんでもあったなぁ!?」





下卑た笑いで勇人が煽る。


安い挑発だと分かっているはずなのに勇人に対しての怒りで俺の目の前は赤黒く染まっていく。





「勇人おおおおお!!!」





俺は怒りのままに勇人へ向かって刀を手に突進していた。





「なっ・・・!速っ・・・!やはりこいつ魔法だけじゃなくスペックも・・・!?」








「須藤!あかん!殺すのは!」





「ギンジ様・・・!」





『む・・・?銀次!待て!』





五月蠅い。西城たちの静止も俺の耳に入ってはくるが言葉ではなく音の様に聞こえた。


俺は勇人こいつを・・・!!








勇人の目の前まで迫り刀を振りかざす。俺の力任せの切りおろしを受けようとする勇人の姿がスローモーションで俺の目に映る。こいつは俺のスピードについて来れていない。








殺れる








そう確信しそのまま刀を振り抜──────








「銀次君っ!ダメッ!」








「ッッ!?」








────バキャアァッ!!








咄嗟に剣速を落とし、さらに刀を返し刃と逆にある峯の部分で勇人の騎士剣をぶっ叩く形になった。





「ぐおおおっ!!クソッ!俺様の剣が!」





勇人は衝撃に耐えきれず大きく吹き飛ばされながら持っている剣はベキンと音を立てて二つに割れた。





今の声は・・・?西城とも違う。一体誰が・・・いや、誰であれ止めてくれて良かった。あのまま殺していたらあいつの背後にいるであろう人物の情報も得る事が出来なくなる所だったな。





『銀次よ。さすがの我も少し焦ったぞ。』





「すまん、リオウ。頭に血が上った。リオウの探していたヤツの情報を掴まないといけないな。」





『それは別にいい。大方の予想はついている。問題はあの男の心の臓に魔力圧縮炉メルトマジックが埋め込まれているようだ。』





「メルトマジック?」





なんだそれは。リオウの言葉から想像すると魔力を凝縮して溜めこむタンクの様な物を想像するんだが・・・まさか・・・!?





『察したようだな。あの男がなにかしらの要因で心の臓を止めた場合、圧縮された魔力が急速に膨張し超大規模な魔力爆発を発生させることになるだろう。・・・ヤツめ、面倒な物を仕掛けたものだ。』





「何!?ちなみにその超大規模な魔力爆発はどの程度の威力なんだ?」





『恐らくは・・・この王城と城下町は軽く消し飛ぶであろう。』





「ッッ!?何だって・・・!?」





チッ!危なかったな・・・もしそんな事が起きたら俺たちはもちろんの事、城下町にいる大勢の住民の命が・・・せっかく助ける事が出来たギャレスやその娘のココも犠牲になっていただろう。








「クソが!お気に入りの剣だったのによぉ!変わりの剣は・・・こんなモンしかねぇのかよ!」





勇人は先程の俺の攻撃によって折れた剣の変わりをその辺を物色している。


あいつは自分に仕掛けられている魔力圧縮炉の事を知らないのか?





『恐らくヤツは心の臓の鼓動に合わせて巧妙に隠しているのだろう。あそこにいる男は何も気づいていないはずだ。ヤツらしい汚い手口よ。』





「・・・そうか。」





少しだけ、ほんの少しだけ剣を探してキレている勇人が哀れに見えた。





が、だからと言って勇人を許して、なんて話には絶対にならないがな。


しかしこれで勇人を殺すことは出来なくなったな。あくまで現状ではと言う但し書きを付ける必要があるが。








「よ、よかった!須藤!ホンマに神宮寺を殺してしまうんやないかと思ったで・・・思いとどまってくれてありがとな。ひょっとしてウチの声が届いたんかな・・・?」





そんな思案をしていると西城が側にやって来て俺が殺人を犯さなかった事に安堵したのか少し顔を赤くしながらマントの端をキュッと握った。





「思いとどまったと言うか、な。怒りで西城たちの声は音みたいにしか聞こえなかった。それ以外の何か優しくて綺麗な声が止めてくれた気がするんだが・・・」





「は?音?ウチの想いが止めたんやなかったんか!?誰や!そいつ呼んでこいや!」





「お、おい!や、止めろ!」





西城は何故か怒りながら俺の胸ぐらを掴みガクガクと揺らしだした。急になんなんだ?


勇人がまだ向こうでガチャガチャやっているからいいものの・・・





・・・・ヒュオオオォォォ・・・・





「・・・ん?なんだか寒いな。」





「ホンマや。背筋が凍る様な・・・」





何やら突然、背後に強烈な寒気を感じた。どうやら西城も一緒らしいな。


勇人の反撃か!?・・・いや、勇人はようやく折れた剣の変わりを探し当てた所の様だ。








「香織・・・?銀次君・・・?二人で何をそんなにイチャイチャしてるのかな・・・?」








「何?」





「へ?この声は・・・!」





俺たちが同時に振り向くとそこに立っていた人物は───











「まゆまゆ!!」





「・・・東雲さん、なのか?」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る