第85話 激突

「そうかよ・・・やっぱり俺の邪魔をするのは銀次・・・!お前だったって訳か!クソが・・・!今度こそ、確実に、俺の手で殺してやる!ヒャハハハ!」





俺たちと対峙する勇人がそう言葉を発した。


そこには今まで俺たちに見せていた聡明でクールなイケメンの面影はもう無く、偉く歪んだ醜悪な笑顔を浮かべている勇人の姿があった。





「それがお前の本当の顔かよ。まるで別人だな。だがいかにも下衆、って感じで俺もやりやすくて助かるぜ!・・・西城、ライーザさん、メーシー、お前ら手を出すなよ!あいつは・・・俺がやる・・・!!」





「須藤・・・やる、って殺・・・や、やっぱりあかんよ!人殺しなんて・・・!」





「承知しました。ギンジ殿の悲願、是非この目で。」





「手を出せそうな雰囲気じゃないね。邪魔しないようにするよ。」





ライーザさんとメーシーは納得してくれたようだが西城は殺すのは駄目だと言う。


向こうの世界の論理感では仕方がないのだろうが。





「西城、俺だって人殺しをしたいだなんて思わない。だけど、絶対に許せない奴ってのは存在するんだよ・・・!」





「・・・須藤の気持ちはわかる、ううん。そんな事軽々しく言えんけどやっぱ須藤には出来れば殺さないで欲しい・・・」





西城はそう言って俺のマントの端をキュッと握った。





「・・・ふん。お前は優しいんだな。そんなに甘いといつか足元を掬われるぞ。」





「須藤!気を付けてや!」





出来るだけ善処する、そう意味を込めて勇人に向き直る。西城も意味を感じたのか少しだけ嬉しそうだな。





「・・・殺す、だって・・・?誰が?誰を?殺すんだ?言ってみろよぉぉ!銀次ぃぃぃぃ!!![ホーリーバインド]!」





俺たちの会話が気に入らなかったのか勇人は激昂しスキルを使用してきた。


確か魔の者によく効くと言っていた拘束スキルだ。





「ぐっ・・・!こんな、ものでぇぇぇ!!」





パァン!





一瞬動きを止められてしまったが力づくで勇人の拘束から抜け出した俺は反撃に転じようとした。が、目の前には勇人が怒涛の勢いで迫っていた。





「ほう・・・俺のバインドから抜け出すとは少しはレベルを上げたようだな!だが!」





勇人は突進の勢いを利用して手にした騎士剣を振りかざす。





「もう一度その腕切り飛ばしてくれる!はあああ!聖剣技[ダブルスラッシュ:崩牙ほうが]!」





以前見たただの2連撃と違いまるで獣の牙のように上下からほぼ同時に剣戟が襲いかかってくる。





「遅いんだよ!」





ガィン!ガイィン!





瞬時に勇人の聖剣技を上段下段共に刀で受ける。


正確には切りおろしを打ち上げ、切り上げを打ち落とす。並大抵の速度では難しいだろう。それ程に勇人のスキルは速く重さがあった。


はっきりいってリオウとの契約をせず以前の俺ならば間違いなく今ので終わっていた。





「なっ・・・!俺の聖剣技を・・・しかも崩牙を受ける・・・だと・・?貴様、本当にあの低スペックで足手まといでしかなかった銀次か!?」





勇人はスキルを受けられた事がショックだったのか目を丸くして驚いているな。


以前の俺しか知らない勇人ならばそれも仕方がないか。





「お前が知っている銀次は死んだ。お前に殺されたんだ。・・・全てを失い俺は!新たな力を手に入れた!」





俺は淡く銀色に輝く左手を勇人に向けて、放った。





「『激流爆翔げきりゅうばくしょう』!!」





「これは・・・!?さっきの魔法とは別の・・・![ホーリーシールド]!」





3体の水竜が勇人に襲いかかる。


先程の魔法の盾の様なスキルで俺の竜言語魔法を防ぐ勇人だったが衝動で撃った初めの炎滅せし剛竜波ドラゴンキャレスとは違ってそれなりの魔力を込めた竜言語だ。





「チッ!重・・・!ぐ・・・!なんだよ!これは・・・!き、汚ねぇぞ!!」





バリン





2体目の水竜で魔法の盾が砕け残りの1体が勇人に直撃しその身体を大きく後方へ吹き飛ばした。





「が、あああああ!!」





魔力を練って撃った激流爆翔の水竜を2体まで受けるとは結構な防御力を持った盾スキル、それに本人のスペックもなかなかの値を持っているのだろう。


腐っても勇者って訳か。








「神宮寺・・・死んどらん、よね・・・?」





「なんという闘い・・・ギンジ殿は流石の一言だがジングウジ殿もあそこまでやるとは・・・」





「あの手合いはしつこいからね。まだ気配はあるから生きてる、とは思うよ。」





西城たちは一連の流れを目をパチパチさせながら見ている。


確かに以前聞いた勇人のスペックよりも高くなっている印象がある。


下手したらあの獣老たちよりも・・・








『ほう。我の竜言語魔法を受けてほとんど傷を付けぬとは。』





手にした刀から発したリオウの言葉を聞き前を向くと吹き飛ばされた勇人が若干ふらつきながらだがゆらりと立ち上がった。





「ふ、ふざけんなよ・・・銀次ぃ!なんでお前が!そんなに!強力な!攻撃が出来んだよおぉぉ!」








ドン!!








勇人がそう叫ぶと勇人を中心に空気が変わった。


力を解放した、そんな感じが勇人から伝わってくる。望むところだ。あんな一撃で終わられたんじゃ俺の気持ちは収まらない。





「来いよ。勇人。ここで決着を着けてやる。」





「来い、だと!?ふざけんな!世界の主人公は俺だ!てめぇは脇役!力を持つのは俺だけだ!その他のモブ野郎が俺様に来いだとか言ってんじゃねぇ!」





俺が挑発気味に言うと勇人は怒りを顕にし叫んだ。


何が主人公だ。この世界にはいろんな人たちが生きている。人間、獣人、エルフ、まだまだ俺たちが知らない事が山ほどあるだろう。


世界は誰の者でもない。いくら俺たちが元々この世界の住人で無かったとしても、断じてこの世界を好きにしていい訳がない。





『む。この力は・・・!?銀次よ!竜眼であやつを視て見るがいい!』





勇人の力を感じたリオウが突然竜眼を使う様に俺に指示した。


リオウがこんな事言うのはめったにないんだが・・・





確かに勇人を目の前にして頭から抜け落ちてしまっていたが妙に高い攻撃力や防御力が気にはなるな。








ユウト・ジングウジ





人間 男性





レベル 35(隷属)





物攻  600





魔攻  500





防   400





敏   400





スキル 聖剣技 ホーリーバインド ホーリーシールド セルフミラージュ





称号  転移者 調律者 隷属者











「なっ・・・!隷属!?それに勇者の称号が・・・」





竜眼で視た勇人のスペックには勇者の称号は無くその変わりに調律者と言う謎の称号があった。


さらには俺がリオウと契約した事で得たスキルの一つ、「血の契約」によってハビナやスララについている隷属者の称号もあった。





「勇人・・・お前は一体・・・」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る