第84話 汚した手
ズドン
重く巨大な大扉が崩れる音が響く。
俺たちの眼前に広がる謁見の間には数か月前にこの異世界へと召喚された時と同じく踏めば沈み込みそうな明らかに極上品であろう赤い絨毯が玉座に向かって延びていた。
その先にいる人物─────
「勇人ぉぉぉぉぉ!!」
神宮寺勇人。同期であり、爽やかイケメンであり、仕事も出来る、異世界に召喚されても勇者としての才能をいかんなく発揮していた男。
しかし自分の欲しいものを手に入れるために俺を裏切り、殺そうとした。帝国と手を組み獣人を奴隷にし、国王を、殺した。
正直国王については俺個人としては怒りと言うかあまり実感がない。が、国を裏切ったと言う事はその国を大事にしている仲間たちを裏切ったのと同じだ。
俺は・・・!こいつを・・・・!
「『
俺はその場で火竜を象る竜言語魔法をぶっ放した。本能的に打ったのでそこまでの威力はないかもしれないが。
「!?何だこれは・・・!火竜・・・?魔法か!チッ![ホーリーシールド]!・・・ぐぐぅ!威力が高い・・・!・・・はあぁぁ!!」
勇人は俺の見た事のないスキルで竜言語魔法を防いだ。聖なる盾か。勇人の聖剣技の一つだろうか。
「貴様ら何者だ!?この俺をヴァルハート王国と帝国の同盟軍を束ねる総帥であり勇者である神宮寺勇人と知っての狼藉か!!・・・チッ!暗部のやつらは何をやっている!」
そう傲慢で偉そうな態度で言う勇人は一人の女性の手を強引に引いている様だった。
その女性は長い桃色の綺麗な髪色をし、水色を基調としたドレスを着ている。あれは・・・
「王女様!!」
「エミリア王女様!!」
メーシーとライーザさんが女性を見るなり叫んだ。そう、あの女性は俺たちを異世界へ召喚する為の召喚魔法を使った張本人、エミリア王女だった。
ちなみに姫崎はライーザさんが背負っていたものを降ろして壁近くに置いてある。
「ッツ!!ライーザさん!?先生!?何故ここへ!?・・・生きていらしたのですね・・・!本当に・・・本当に良かった・・・!」
王女は二人が生きている事に涙を流して喜んでいる。死んだと言う情報を聞いていたのかもしれないな。
「ウチもいるで!王女様!」
「あぁ・・・!カオリ様も・・・!神に感謝を・・・」
西城も忘れないで、と一歩前に出てアピールしている。
「ライーザ・キューラックに西城香織、やはり貴様らか!あの書状を書いたのはお前たちだな!?あの人質交換は囮・・・本命はメーシー・ローイング、エミリア王女、東雲真弓の奪還、そうだろう!?」
勇人はさも誇らしげに顔をにやけさせている。お前たちの考えなんてお見通しだと言わんばかりの。
「んー、残念。神宮寺、こっち来てからちょっと頭わるなったんちゃう?」
「何だと!?じゃあなんだって言うんだ!」
西城の答え合わせに勇人は納得しかねる様子で額に血管を浮かばせている。
「答えは両方が本命だ。お前から獣人も周りの人間も全て奪う。何一つ残さない。」
「何ぃ?奪う、だと?貴様は俺に魔法を打った奴だな!?何者だ!?」
「何者だ、か。記憶力まで駄目になってるとはな。」
俺はそう言って半分失笑に近い笑みを浮かべた後、勇人に向けてギラリと強く睨み付けた。
「何が可笑しい!俺はさんざん焦らされた
最後、だと?それに楽しむって・・・げ。
そう言いながら王女の胸を揉む勇人の股間ははち切れんばかりに誇張していた。
「あれって・・・うわ!キモ!!」
「あんな奴が勇者とは!」
「アンナちゃんと言い・・・全く・・・」
女性陣から侮蔑の視線を向けられる勇人。それも仕方がない。この状況に置いてそうなれるってのは尊敬に値するかも知れな・・・いや、無いな。
西城の言葉を借りるのなら間違いなくキモい、だ。
「ライーザさん!カオリ様!助けて!!お願いします!」
エミリア王女はこれからされる事を想像して顔を真っ青にしながら懇願している。
なぜ得意の魔法で反撃しないのだろう?いや、多分出来ないのだろう。王女の両腕には薄赤く光る腕輪の様な物が取り付けられていた。
あれからはプラネが奴隷にされていた時につけられていた魔具と似たような気配を感じる。
「俺が誰かこれを見ても思い出せないか?────[
俺は大扉を切り裂いたスキル、双飛竜を再度勇人へ向けて放った。
もう以前の様に魔力が貯まるのを待つ必要はない。俺が有り余る魔力を刀に送ってやればいいだけだ。あの頃は考え付かなかったのが悔やまれるが元々はこういう使い方をするのだろう。
「なっ・・・!?その刀!それにこのスキルは・・・!」
この一撃は元から当てるつもりは無かった。勇人に捕らわれている王女にも危険が及んでしまうからな。
俺は勇人が双飛竜に怯んだスキにステータスを敏に振り一瞬で背後に回り込んだ。
「俺が貰ってやるよ。全部な。」
俺は勇人にそう耳打ちすると勇人の隣にいる王女を抱えて元の位置にまで戻ってきた。
背後に回り込んでから時間にすると1秒から2秒程の出来事だっただろうか。
「ひゃっ。え?私はいつの間に・・・ありがとうございます!あなたは一体・・・?・・・!?も、もしや・・・ギンj」
抱えていた王女を下におろすと王女は俺を見て一瞬誰だか分からなかった様だったがすぐに気が付いたらしい。
そんな王女が俺を呼ぶより速く・・・
「銀次ぃぃぃぃぃ!!!貴様ァ!!何故!何故生きている!!!」
ありえない、そんな思いのこもった怒号が勇人から飛んできた。
「何故?お前にやり返すまでは死んでも死にきれないんだよ!」
俺は勇人をもう一度強く見据え拳を握った。
「嘘だ嘘だ!確かに殺した!真弓が焼いた腕は俺が切った!外敵に目を貫かれ即死だったはずっ!!じゃないと・・・うわあああああ!!」
勇人はそう絶叫した。
「神宮寺・・・やっぱりあんたが・・・」
西城は俺の話を信じてなかった訳では無いと思うが心の底では同期がそんな事をしたという事実を認めたくなかったのだろう。
しかし勇人の発言を聞いて心底落胆した、そんな表情を浮かべて顔を伏せた。
その後勇人は頭を掻き毟りながら何やらブツブツ言っている様だ。
しばらくして半分嬉しそうな半分残念そうな良くわからない笑みを浮かべながら言葉を発した。
「ひひひ・・・そうか。わかったよ、銀次。へへへ・・もう一度・・・もう一度だ!今度こそ確実に、俺の手でぶっ殺してヤルよ!!」
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