第82話 思わぬ収穫

「・・・ふん。こんなもんか。」








「あれ?・・・ウチ生きてる・・・?





俺が西城と姫崎に剣を振るい終わると西城は瞑っていた目を開いて自分が無傷な事を確かめる様に自分の全身をペタペタ触りだした。





「はぁ~・・・須藤あんた何したん?」





その後西城は全身の力が抜けたのかその場にペタンと座り込んだ。





「あー!カオリちゃん、なかなか似合うじゃん!」





「そうですね。より活発に見えますよ。」





「???」





メーシーとライーザさんが西城を見て感想を述べる。当の本人は何の事だかわかっていない様だが。





「だからなにしたって・・・あーー!!ウチの前髪無くなってるやん!こら!須藤!何してくれてんねん!」





そう。西城とすれ違う瞬間に手に形成した魔力剣で西城の前髪を少し整えたのだ。


今まで少し長い前髪を横に流していた西城だったが眉毛にかかる程度までカットした。





まあ俺は美容師じゃないから変になってしまわないか心配だったがメーシーとライーザさんの反応を見る限り大丈夫そうだな。





「邪魔するのなら容赦しない。後悔するな、と言ったはずだが?それとも本当に斬られたかったのか?」





「うー・・・そりゃあ死ぬのは嫌やけど・・・」





「とは言っても俺だって仲間を殺したいなんて思う訳ないだろ?それに西城は前髪が短い方が似合うと思ったんだが・・・うん。こっちの方が良いと思うぞ。」





ライーザさんや西城も信頼していた人たち、国から裏切られた口だ。


そんな経験をしてなおこの国の為に闘おうとする人間を俺が裏切る事は無い。





「に、似合う///?そ、そうなん///?ま、まーしゃーない!髪は女の命やけど動き回る時少し邪魔やったからな!許したる!」





西城はそう言い顔を真っ赤にしながらふいっとそっぽを向いた。








「となるとキザキ殿は・・・」





「あ!そうや!アンナちゃんは無事な・・・あー。これは派手にやったな須藤も。」





「容赦ないね・・・」





3人とも倒れている姫崎を見てうげーと言う顔をしているな。


女性陣がそう思うのも無理は無いかもしれない。俺は西城同様に姫崎の髪の毛も魔力剣で切ったのだから。





「杏奈ちゃん長い金髪が自慢やったからなぁ。こりゃあ発狂するかもしれんで・・・」





「それだけギンジ君の想いが強いって事かぁ・・・」





「カオリ殿はより可愛くして貰ったのにこれは・・・」





姫崎については元々のウェーブのかかった長い金髪をベリーショートに近いくらいバッサリ切らせてもらった。





「俺は腕を焼かれ、切り飛ばされ、目も潰されたんだぞ?それに比べれば・・・!元々死ぬより辛い目に合わせるつもりだったんだ。その頭であいつの前に突き出してやろうと思ってな。」





「そんな事言ってギンジ君だってアンナちゃんも彼に騙されているかもしれないって思ったから殺さなかったんでしょ?」





そう言いながらメーシーは俺の顔をんー?と少し嬉しそうに覗き込んできた。





「・・・元々ここで殺すつもりは無かった。それでも現にこいつはライーザさんや西城を襲ってるんだ。こいつは俺の敵だよ。」





「今はそれでいいと思うよ。彼に会って全部喋って貰おう。」





「そうや!まゆまゆも助けんとな!」





「エミリア王女の安否も気がかりです。」





そうだな。今の俺たちの目的は東雲と王女の奪還だ。俺の本懐である逆襲を遂げる事ではない。


が、きっとあいつに会う事になる。そんな強い予感が俺の中で膨らんでいた。








「さて、そう言えばメーシーさんや?お前ここが東雲の部屋だって言ってたのになんで姫崎がいたんだ?まさか騙した・・・とかじゃないよな?」





俺の元使っていた部屋から通気口を伝い西城のQSKを受けて来たって言うのに・・・





「騙す訳ないじゃない!私が捕えられている間に部屋が変わったんだよきっと!」





メーシーは慌てて否定している。まぁ本気で疑っている訳じゃ無いが。





「そうか。じゃあ隣の部屋でも見て見るか。っと。とりあえず姫崎こいつをどうするかだな。抱えていくのは嫌だし、とは言ってもここへ置いていくのもな・・・」





メーシーの薬で深い眠りに入っているようだが放置はまずいよな。





「ならわたしがキザキ殿を連れて参りましょう。」





ライーザさんはそう言うと姫崎をさっと背負って立ちあがった。


本来は俺がやるべきなんだろうがちょっとな・・・申し訳ないが頼むことにするか。





俺は姫崎が使っていた鞭などを使って姫崎の手足を縛りライーザさんに固定した。


これで目が覚めてもすぐに事を起こすことは無いだろう。





「よし、じゃあ行くか。ライーザさん。いざとなったらそいつは肉壁にしてもいいぞ。」





「しませんよ!一応勇者殿ですから。」





「一応、ね。とりあえず隣の部屋は・・・」





俺たちは一度姫崎の部屋から出て隣にある部屋へ向かった。





「改めて見るとホントにでっかい城やなぁ。隣の部屋まで結構あるもん。」





「そうだよな。俺が向こうの世界で住んでたアパートなんて隣の家まで0秒だからな。壁、というか板に穴が開いていてお互い冷蔵庫で隠してたし。」





「そっか、須藤は一人暮らしやってんな。戻ったら一度遊びにいってもええ?いつも居酒屋やったからたまには家飲みもええやん?」





「ん?俺の家?別に構わないが狭いぞ?ここ異世界の解放感を味わってしまうとちょっとな。」





それに俺は女子を部屋に入れた事なんてないし。それなりに掃除はしてあったはずだけど・・・





「お?カオリちゃん?ずいぶんと露骨にアピールするね?さっきのお尻といい一気に距離が縮まったのかな?」





「あ、アピールってそんなんやない!同期皆でって事や!なんで須藤の家にウチが一人でいかなきゃならんねん!そんな、こ、恋人みたいな事・・・」





メーシーと西城は何やらギャーギャーやってるがここが敵陣のど真ん中って事を忘れてるんじゃないのか?


緊張しすぎて変に固くなるよりはいいのだろうが。





「お前らいい加減にしとけよ。ここが東雲の部屋か・・・ん?なんだ?この感覚は・・・!?」





東雲の部屋であろう部屋の前に着いた途端なにやら呼ばれるような感覚がした。





(む?この気配は・・・銀次よ。これは思わぬ収穫があるやもしれぬぞ。)





リオウも何かを感じ取っているようだな。それも悪くは無い予感だ。何かこう少し懐かしいような・・・





「よし。開けるぞ。俺が先に入るが一応皆警戒しておいてくれ。」





「待っててや!まゆまゆ!今いくで!」





豪勢な造りをしたノブに手をかけゆっくりとドアを開けた。





ガチャリ








その先には────








「なんや。誰もおらんやん。まゆまゆはどこ行ったんや!」





「うーん。少なくとも私が見たり聞いたりした時は一人で出歩く様な感じじゃなかったはずだけど・・・」





「連れ去られた、という事でしょうか?」





東雲の部屋は誰もいない無人だった。どこへ行ったんだ?この広い王城を闇雲に探すのは厳しいものがあるぞ。皆少しばかり焦りの表情を浮かべている。





「チッ。いないものは仕方がない。とりあえず王女の方へ・・・おや?あれは・・・?」





「まゆまゆのベッドの上で何か光ってるで!」





西城の言う通りベッドの上には淡くぼうっと光る何かが置いてあるのが分かる。


その何かは俺と、というよりは俺の中の・・・リオウと共鳴しているかのようだった。








「・・・こ、これは!何故こんな所に・・・!」





(やはりか。・・・ふむ。ボロボロに朽ちていると思っていたがずいぶんと手入れがされている。)





近づいてみるとそこにあったのは俺たちが以前ビシエ遺跡攻略の際に二重底宝箱から入手し、勇人に次元の裂け目に落とされた際に奪われたはずの刀が綺麗に手入れされて置いてあった。





「俺が使っていた時よりピカピカに手入れがされているな。まあほんの少ししか使っていなかったが・・・!?」





刀を手にした瞬間、理解した。この刀の手入れをしてきたのは東雲らしい。





「西城、安心しろ。多分東雲は無事だ。というか少し前までここにいたらしい。」





「は?ホンマか!?なんでそんな事がわかるん?」





「この刀は所持者の魔力を吸い続ける性質があるのを覚えてるか?今この刀には魔力が満タンに充填されている。この魔力は、東雲の魔力だ。感覚でしかないが充填されたばかりに感じる。」





「ッッッ!!まゆまゆ!よかったぁ・・・!うぅぅ・・・」





西城は安堵したのか半べそをかいている。





「これでギンジ殿の戦力がさらにアップしたと言う事ですね。これ以上強くなってどうするのかという思いもありますが・・・」





いや、そんな事言われてもな。でも刀が戻った事は素直に嬉しい。


魔力剣でもよかったがやはり刀を持った方がしっくりくる。これは王国にいた時も同じだったな。





「剣と刀で違うかもしれないが今度稽古を頼むよ。・・・しかし東雲がいないとなると王女も自室にいるか怪しいな・・・」








『案ずるな。勇者の居所は我がわかるぞ。』





「!?」





「誰や!」





「敵か!?」





「今ギンジ君の方から聞こえた気が・・・」





突然俺たち4人以外の声が聞こえた。深く腹に響くような声だ。姫崎はまだ眠っているようだし一体誰が?


聞き覚えがある声だったんだが・・・





『何を驚いている。以前言っていただろう。我の思念体が劣化して何かの武具に宿った、と。』





「お、お前、リオウか!?」





刀に付いている鍔の竜部分から俺と契約して俺の中に同化しているはずのドラゴン、リオウの声が確かに聞こえた。

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