第81話 いつもの

「ふぅ。こんなものかな・・・?・・・あれ?・・・やっ・・ぱりこうなる・・よね・・・」





ドサ





姫崎を注射器一本で沈黙させたメーシーだがその後突然倒れ込んでしまった。





「メーシー!」





「せんせ!どうしたんや!?」





姫崎が倒れた事によって俺たちの前に作られていた炎の壁も消え、ライーザさんと西城に続き俺もメーシーの側に駆け寄った。





「メーシー、大丈夫か?ひょっとするとさっき自分に打ち込んだ注射・・・俺の推測だがあれはドーピング、それで今の状態はその副作用的なものなんじゃないのか?」





「あはは。流石だねギンジ君。例の能力で視たのかな?そうだよ。さっき使った薬は使用者の速度を一時的に引き上げる効果があるんだ。ただ今の私のスペックだと筋肉とか骨が持たなくなっちゃうみたい。スキルを持たないエルフの必死な努力って訳。」





横になりながらも俺の答えに満足気な顔で正解を出すメーシーだったが一発でここまで身体を酷使するとは効果が高い分リスクも大きいのだろう。





「確かに元の値の3倍くらいの数値になっていたからな。・・・あ、そういえば筋肉や骨に異常が出てるのなら回復魔法でなんとかならないのか?」





身体的なものだったらライーザさんの魔法で回復しその後俺がマジックギフトすればいい。いわゆるいつものやつだ。





「そこまで視えるんだね。ギンジ君の言う通り団長殿の中級回復魔法なら動ける様になると思うけど・・・そんな大きな魔力を今使わせるわけにはいかないよ・・・って何?皆して変な顔して。」





「ライーザさん、須藤!いつもの頼むわ!」





「ですね。『清らかなる水の精霊よ。我に従い癒しの水泡にて彼の者の傷を復し癒したまえ。<<ツヴァイヒーリング>>』」





メーシーからの返答と同時に西城は「いつもの」を注文してきた。ライーザさんも即詠唱してるし。結果そうするから問題ないんだけど。





「ちょ、ちょっと・・?!今そんな魔力を使ったら・・・あぁ、ありがとう。戦闘は難しいかもしれないけど動けるようにはなったかな。でも・・・!」





余計な事をするなと言わんばかりに詰め寄るメーシーを俺は手で遮る形で「いつもの」を使用した。





「心配するな。・・・[差し伸べる手マジックギフト]よし。ライーザさん、終わったぞ。」





「ありがとうございます。ギンジ殿。ギンジ殿から魔力を貰うたびに少しずつ魔力総量が増えているような気がしますよ。」





「ええなー。ウチも須藤の魔力が欲しいなー、なんて。」





「ん?西城なんかいったか?」





「な、なんでもない!」





「皆何やってるの・・・?」





いつものを終えた俺たちを見てメーシーがわけが分からないと言った顔をして頭を傾けているな。





「ライーザさんたちから聞いていなかったか?俺はリオウと契約した事によって新たなスキルを得た。その一つがこの相手に俺を魔力を贈与する事が出来る差し伸べる手マジックギフトだ。」





「は?魔力を贈与?そんな事出来るの・・・?」





説明を聞いても納得しかねるようだ。まあこれは体験しないと分からないやつか。





「俺も驚いてるけどな。それなりの魔力量とオートMリカバーがあるからこそって奴だが。メーシーもさっきの戦いで魔力を使っただろ?ちょっと待っててくれ。」





俺はそう言いながらメーシーにもスキルを使った。2度続けての使用で少しだけ魔力が減った様な感覚があるがそれもすぐにリカバーしてくれた。





「・・・!?ほ、ほんとに魔力がキタ!何これ!こんな一瞬で魔力が全快するなんて・・・!卑怯だよ!?」





卑怯って。俺が悪いのか?まぁ俺がいれば残り魔力を気にしないで魔法打ち放題な訳だしチートと言えなくもないが。





「まーまー、せんせ。いい事尽くめなんやからええやん?」





西城はメーシーの肩をぽんぽんと叩きながらなだめるがメーシーはまだぶつぶつ言っている。これについては理解してもらうしかないな。





「そういえばメーシー、一つ聞いてもいいか?」





「ん?何?」





「メーシーの称号にあったオールマジックって何だ?」





先ほど龍眼で視た気になる称号について聞いてみた。





「ああ。それね。私もよく分かってないんだけど・・・なんか私は全ての属性の魔法が使えるっぽいんだよね。」





「なに!?全ての属性だと!?」





やっぱりそういう事だったのか。ライーザさんは相当驚いているようだが。そんなに珍しいのかな?





「へぇー・・・ってそれって凄い事なんか?」





「ええ。普通は1~2属性、かなりの実力者でも4属性を扱えたら国のお抱え魔術師に抜擢されるでしょう。」





確か以前聞いた話では地水火風闇光の6属性だったはずだ。竜言語魔法、は入れないでおくか。





「そりゃあ凄いな。・・・今ふと思ったんだがさっきの回復も自分でやれば良かったんじゃないのか?」





副作用で身体的に傷ついたのなら自分で回復させれば良かったのだ。まぁ俺たちが有無を言わさずやった事なんだけどさ。





「そうしたいのは山々なんだけど恥ずかしながらオールマジックなんて大層な称号を貰ってても回復は初級しか使えないんだ。練習すれば多分出来る様になる自信はあるけど回復は消費が大きいからね。」





「なるほど。何事も努力が必要って事か。」





偶然にもリオウと契約し突然力を手に入れてしまった俺は周りから見たら卑怯なのかもしれないな。


そりゃあ竜言語魔法の練習はかなりしたけど・・・それも貰った力だしな。





「・・・ライーザさん、今度ちゃんと剣を教えてくれないか?今の話を聞いて我流じゃなくてしっかりと剣を覚えておかないといざと言う時に困る事があるかもしれない。」





「もちろん!ギンジ殿ならば素晴らしい剣士になれるでしょう!」





ライーザさんは嬉しそうだ。


そんな事を言いながら少しの間だけメーシーの調子を戻すために休んだ。











「さて、とりあえず姫崎こいつの件だ。メーシーが眠らせてくれたが俺個人としてはこいつをこのまま放っておく事は出来ない。」





俺はそう言いながら姫崎を睨み付け手に魔力剣を形成した。こいつは俺を裏切ったんだ。直接何かされた訳では無いが勇人の仲間だって言うのなら俺の敵だ。





「ちょ、ちょっと待ってや!須藤!何するつもりなん!?杏奈ちゃんは同期なんやで!?」





俺が姫崎に近づいていくと西城は何かを察したのかあわてて俺の前に立ち塞がった。





「どけ。これは俺の問題だ。俺はあの日から絶対にこいつらに報いを受けさせると決めてきた。」





「い、いやや!どかへん!確かに杏奈ちゃんはワガママで高飛車やけど根は良い子なんや!ちゃんと話せばきっと解ってくれる!殺すなんて!」





西城はそう大きな声で叫びながら目にいっぱいの涙を浮かべ手を大きく広げて姫崎をかばうように仁王立ちをしている。





「しかしカオリ殿。彼女らには王殺しの疑いが強い。あ、いやキザキ殿が関わっているかどうかは定かではありませんね。まだ証拠がないですから・・・」





「ギンジ君がされた事を考えれば当然そうなる・・・よね。その思いはギンジ君にしか分からないかもしれない。でも・・・」





ライーザさんとメーシーも煮え切らない感情の様だ。なんだ?俺が悪者扱いなのか?





「早くそこをどけ。時間が無いんだ。」





「ど、どうしてもって言うんやったら、う、ウチを倒してからいきや!」





西城は大きく広げた両腕はそのままに目をギュッと瞑りフルフルと震えている。瞑った目から先程まで溜まっていた涙が頬にポロポロと零れた。








「・・・・わかった。後悔するなよ。」





「ッッッ!!」





そう言いながら一度西城から少し距離を取った。西城は俺が何かする気配を感じたのか瞑っていた目をさらに強くギュッと閉じている。





「西城。もう一度言う。お前が俺の前に立ったんだ。後悔するなよ。」





「うぅ・・・まゆまゆ・・ごめんな・・・」





「じゃあ行く、ぞ!」








そう言い終わると同時に倒れている姫崎とそれに立ちふさがる西城へ向かって魔力剣を掲げながら一気に距離を詰めた。





「ギンジ君!」





「ぐっ!ギンジ殿!」





メーシーとライーザさんの叫びを背中で聞きながら一瞬で西城の目の前に近づき────








ザン








「あ・・・須藤、あんた・・・」








そのまま西城の後方に倒れている姫崎へ────








ザクン ザクン

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