第80話 ドーピング
「この姿になったわたくしに勝てる者はおりませんわ!」
固有スキル[
俺の嫌な予感があたってしまった。はっきり言って関わりたくないレベルだ。
「杏奈ちゃん・・・ああいうのが趣味なんか・・・」
西城もその姿に引いているようだが無理もない。普通はあんな格好して違和感のない奴なんか・・・んー、まあいいだろう。
一瞬俺の頭の中にミズホがあら~?と言いながら手を振っていたがすぐさま振り払った。
「・・・まずは先程わたくしをガキだなんだと馬鹿にしたメーシー先生!これでも喰らうといいですわ![キャンドルサービス]!」
そう言いながら変態姫崎が手にしている大型の蝋燭に灯っている炎にふぅと息を吹きつけた。姫崎の息によってゆらいだ炎はなぜかそのまま火炎放射器の様にメーシーに向かって伸びて行った。
「魔法名でないという事はスキルによる攻撃かな?悪いけどまた相殺させて貰うよ!<<アイスランス>>!」
メーシーはやれやれといった感じで迫りくる炎に対して氷の槍で相殺を試みたが・・・まずい!
「メーシー!それは危険だ!回避しろ!」
「えっ・・・?こ、この威力は・・・!きゃあっ!」
変態姫崎の放った炎はメーシーの氷槍を飲み込みその勢いを弱める事なくメーシーに襲いかかった。
先程と同様魔法で止められると予想していたメーシーは回避が間に合わず炎を受けて大きく吹き飛ばされてしまった。
「せんせ!大丈夫!?」
「メーシー!ここは私が!・・・くっ!炎が・・・!」
西城とライーザさんがメーシーに駆け寄ろうとした瞬間、変態姫崎が再びろうそくから炎を放ち炎の壁を作り上げた。
それによって二人はそれ以上先へ進むことが出来なくなってしまった。
「おーほっほっほっほ!あなた達は少しそこでおとなしくしていて下さる?どうでしょう、先生。わたくしのキャンドルサービスのお味は。勇人様との結婚式ではこの愛の炎で勇人様と一緒に各テーブルを回りますのよ?」
こんなキャンドルサービスはお断りだ。そんな恰好で披露宴やるつもりかよ。
しかし先程のろうそくから炎を出すスキル、キャンドルサービスだったか。どうにも威力が高いように思えた。メーシーの魔法も一瞬で飲み込まれてしまったしな。
アンナ・キザキ(変態)
人間 女性
レベル 28
物攻 250
魔攻 250
防 100
敏 220
スキル 腐食鞭 キャンドルサービス
(変態)って。おいおい。なんだかステが上昇してるぞ。ほとんどの数値がメーシーの上をいってしまっている。
変身したからか・・・だが防は極端に下がっている。あんな格好だ。そうなるのが普通だろう。
「メーシー!何だか知らないが姫崎のステータスが膨れ上がっている!攻撃、素早さ共に高い!まともに受けるなよ!逆に防御は下がっているからなんとかして当てれば勝機はある!」
「そ・・・そうなんだ。わかった。ありがとうギンジ君!」
メーシーは俺が竜眼で視た情報を伝えると。少しふらつきながら立ち上がって変態姫崎の方を向いた。
しかしこれ以上メーシーが傷つく事になりそうだったら俺が出る。はっきり言ってこんな炎の壁、俺からすれば無いような物だ。
不安そうな西城の隣でメーシーを真っ直ぐに見つめているライーザさんの方を見ると彼女は俺に向かって無言で頷いた。
メーシーなら大丈夫です。と言っているのだろう。
「あら須藤さん。本当にステータスが視えるのですね?わたくしの美しいこの姿の特徴を捉えるとは。これは勇人様にきっちり報告しておかなくては・・・ああ、でもここで全員倒してしまえばその必要もありません事ね!」
変態姫崎は何が可笑しいのかまたも高笑いしながら鞭をぴしゃりぴしゃりと鳴らしている。
「お前が俺たち全員を倒すだと?笑わせるな。お前のその変態姿がいつまで持つのか知らんが闘いは数値だけで全て決まる訳じゃない。世間知らずなお前らしいがな。」
「ウチはともかくライーザさんや須藤を倒すやって?杏奈ちゃんそりゃ無理な話や。特に須藤は化けモンやで。」
「カオリ殿。あの変な格好をしたキザキ殿の雰囲気を感じて見てもカオリ殿の方が下とも思えないのですが。」
「へ、変態姿ですって!?それに変な格好!?よくもこのわたくしに向かって・・・!覚えておきなさい!」
「アンナちゃん!よそ見は厳禁だよ!それっ!」
俺たちに向かって激昂する変態姫崎にメーシーが袖口から取り出したメスを二つ投げつける。あれを見ると初めて会った時を思い出すな。
「・・・ふん。そちらへの警戒は解いていませんわ!この様な物![キャンドルサービス]![
変態姫崎はメーシーの投げたメスを確認すると一つを火炎放射でもう一つは手にしていた鞭で叩き落とした。
あの速度で飛んでくるメスを叩き落とすとは変態の癖になかなかやるな。
「へえ。反応速度も上昇してるんだね。と、なると・・・あれ?なるほど腐食鞭か。」
鞭に落とされたメスに目をやると紫色の煙を出しながらジュウジュウという音と共にメスが朽ちていった。
変態姫崎の鞭スキル腐食鞭。物体を腐らせる効果があるという事か。
毒に麻痺に腐食、どうにも勇者っぽくないスキルばかりな気がするが。
「気づきましたか。遠くからキャンドルサービス、近づけば腐食鞭。このコンボに死角はありませんことよ!おーほっほっほっほ!」
「・・・まあ確かに悪くは無い作戦だと思うよ?でもね?・・・えーっとこれかな。」
遠近両方をカバー出来る変態姫崎に対しメーシーは先程と同じく自らの白衣をまさぐると一本の注射器を取り出した。
「それはなんですの!?妙な真似をしたら容赦なく焼きつくしますわよ![キャンドルサービス]!!おほほほほ!これで近づけませんわね?」
「威力はあるけど直線的すぎる。そんな凄い力もっと上手く使わないともったいないよ?」
ろうそくに息を吹き続け火炎放射を連発する変態姫崎に対しメーシーはギリギリの所で炎を避けている。しばらく防戦が続くメーシーだがこのままではジリ貧だぞ。
「はぁ、はぁ、そろそろ限界ではなくて先生?」
「そうかもね・・・運動不足かな。でもそういうアンナちゃんも息が上がってるけど?」
「わたくしはまだやれますわ!勇人様の為にも負けられないのです!」
「王を殺し獣人を奴隷に使う様な人がそんなにいいの?」
「そ、それは・・・!この世界を救うにはわたくしたちを騙していた悪しき王達を倒し、人間を食べるために襲う獣人は奴隷にするしかないと勇人様が・・・!」
俺たちを騙していた?それに王「達」とは・・・?
しかし獣人が人間を食べるだって?よくもそんな出鱈目を吹き込んだもんだ。
信じる方もどうかしてる。まあ自分が信じている者にそう言われたら仕方がない事なのかも知れないが・・・
「そう。話は平行線だね。アンナちゃんは少しわがままだけど最後はきっと分かってくれると思う。今は少し休んでいて。・・・これでよし、と。」
メーシーは変態姫崎に諭すように言うと手にしていた注射器を自分の二の腕に刺した。
一体何を・・・!?こ、これは・・・
「もういいですわ!メーシー先生!覚悟![キャンドルサービス]!」
ありったけの力を込めたのか先程とは比べ物にならない太さの炎がメーシーに迫っていく。だが俺はその炎がメーシーに届くことは無い事を知っていた。
「────遅いよ。」
「えっ?」
「せんせが消え・・??」
「このスピードは!?」
メーシーは一瞬で変態姫崎の背後に回り込みいつの間にか新たに手にしていた注射器を姫崎の首筋に刺し込んだ。
スピードがウリの西城も今のメーシーに着いていけず消えたように映った様だ。
俺の竜眼がおかしくなっていなければメーシーが自分に注射をしたとき彼女の敏の値は400を超えていた。今は元の数値に戻っているが。
「うっ・・・い、意識が・・・先生?何をなさったの・・・?」
「エルフの国に伝わる強力な眠り薬だよ。大丈夫。起きたら全部終わってるから。」
「あ・・・ゆ、勇人・・・様・・・」
ドサリという音と共に倒れた変態姫崎は
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