第79話 変態

「メーシー!気を付けろ!姫崎のスキル、何やら得体が知れないぞ!」





俺は竜眼で姫崎のスキルを確認すると言い知れぬ不安が募ったのでメーシーに注意を促した。





既に二人は戦闘態勢に入っていてメーシーは俺の方へ目だけ向けて答えた。





「ん?ああ、ギンジ君は相手のステータスが視えるって話だったね。ライーザ団長殿から聞いた時には眉唾だと思っていたけど。」





「ホンマやで!せんせ!須藤には視えるんやで!・・・多分。」





西城も言っているが他人からしたら多分でしかないんだよな。ステータス紙の様に物質として残せれば他のやつらとも共有できるんだが。





「まあそんな事で嘘つく意味が無いし信じる事にしたけど・・・」





「何をごちゃごちゃ言っているのかしら!?あなたたちを勇人様の元へ行かせる訳には参りませんわ!『<<アイスランス>>』!」





西城との会話途中に姫崎は魔法による氷の槍を打ち込んできた。人の話を聞かない姫崎らしいっちゃらしいが・・・





「こら!今話てる途中でしょ!詠唱もしないから威力も出てないよ?『<<フレイムランス>>』」





姫崎の放った氷の槍はメーシーの炎の槍でジュッ!と音を立てて立ち消えた。


やるな。メーシー。あえて魔法を姫崎と同威力にして相殺させたようだ。





「ぐっ・・・!なら、これならどうですの!?『深遠なる闇の精霊よ。我に従い暗き闇の球となりて我が標的を掻き飛ばせ。<<シャドウボール>>!」





「さすがアンナちゃん、闇魔法は難しいのに。マユミちゃんの次に魔法の扱いが上手かっただけはあるね。『輝ける光の精霊よ。我に従い眩き光の球となりて我が標的を弾き飛ばせ。<<ライトニングボール>>』!」





姫崎は闇の球体を放ちメーシーは光の球体をそれにぶつけた。ぶつかった二つの球体は一瞬形を互いにグウゥっと歪ませながらパァンッ!と弾けた。





「チッ!!流石先生!魔法では分が悪いですわね・・・!」





「それはそうでしょ。なんて言っても皆がこの世界に来てから魔法を教えたのは王女様と私だよ?もっと言うと王女様の先生は私だしね!」





メーシーはそう言うとふふんと誇らしげに胸を張った。


確かに魔法の基礎は王女とメーシーに教わったな。あのビシエ遺跡以降より高度な魔法を姫崎たちは教わったのだろう。俺は闇魔法や光魔法は詠唱さえ知らないしな。





(銀次よ。闇魔法や光魔法が使いたいのか?我と契約したお前には竜言語魔法と言う素晴らしい魔法が・・・)





「あ、ああ・・・わかってるよ。リオウ。光魔法なんか殲滅する光アトミックレイがあるからな。」





口に出してなかったはずだがリオウが突然突っかかってきた。確かに利便性を考えれば竜言語魔法の方が良いのは間違いないんだが。








「ふん!なら先生にスキルは使えるかしら!?」





姫崎はそう言い、鞭をバシンバシンと鳴らしながらメーシーの周りを叩いている。


攻撃するタイミングを分かり辛くしているのだろう。なかなかの鞭捌きだ。





「確かに鞭の先端の速度は時に音の壁を超えるって言うからね。なかなか目視では避けるのは大変そうだ。」





そういってメーシーは目をすっと目を閉じた。どうするつもりだ?


って俺は姫崎の鞭の軌道を普通に目で追えるんだけど・・・この辺りはスペックが物を言うのか?





「せんせ!危ない!」





「・・・取りましたわ!先生!お覚悟![ポイズンウイップ]!」





「うっ・・・!」





西城の叫びも空しくメーシーは姫崎の鞭に捕らわれてしまった。


ポイズンウイップ、毒の鞭がメーシーの身体を蝕んでいる様で彼女の手足が徐々に紫色に変色していく。





「おーほっほっほ!やりましたわ!この毒の鞭に捕まったら最後。他の3人も纏めて勇人様の前に突き出してやりますわ!」





姫崎はメーシーを捕えていた鞭を解き高笑いをしている。そのままメーシーは膝をついて蹲ってしまった。





チッ!自信ありそうだったから任せたがやはり俺がやるべきだったか・・・!





「ライーザさん!メーシーに回復を!俺はマジックギフトを・・・」





「ま、待って・・・」





俺たちがメーシーに駆け寄ろうとするとメーシーは顔を青くしながら立ち上がった。





「無駄ですわ!無理に動けばその分早く毒が回りますわよ!しばらく寝ていて下さいな![パラライズウイップ]!」





「うぐぅ!!」





姫崎は立ち上がるメーシーにもう一つ麻痺を引き起こす鞭を喰らわせた。


メーシーは毒と麻痺を受けガクガクと痙攣しだした。


姫崎は動けないメーシーを鞭で嬲るように締めている。まずい・・・これ以上喰らったら・・・





「・・・もう、いい、かな・・・?」





ん?あれは・・・?俺の目が変になったのか。蹲って痙攣しているメーシーの顔が笑っている様に見えた。





「ひ、一人遊びが趣味の・・20歳そこそこのガキンチョに負け・・る事は無いって・・・言ったでしょ・・・?」








何だ?メーシーが何かを探すように白衣をまさぐっているが・・・





「あら先生?一体何をしているのかしら?毒と麻痺のコラボレーションでおかしくなってしまいましたの?ガキに負けるのはお辛いでしょうけど?」








挑発的な姫崎をよそにメーシーは震える身体で自ら来ている白衣の中から二つの試験管を取り出し中の液体を一気に飲み干した。





「・・・よいしょっ、と。・・・ふぅ。よし、もう大丈夫かな。」





「な、なんですって!?そんな馬鹿な!?」





試験管の液体を飲んだメーシーの顔色は青紫色からすぐに元の浅黒い褐色の肌に戻っていった。手足の色も戻っているし震えも全く無くなっていた。


姫崎は信じられないという顔で呆然としている。





「初めて受けたけどさすが勇者のスキルは効くね。なかなかの毒性だったよ。でも私にかかればこんなもんかな。」





「さっすがせんせや!」





「まあそんな事だろうと思っていたが。」





西城はガッツポーズをして喜んでいる。ライーザさんはさほど心配していなかったような顔をしているが。





「おい、メーシー。その試験管の中身はなんなんだ?」





両手を上にして伸びをしているメーシーに試験管の中身を聞いてみた。


彼女はよくぞ聞いてくれましたという顔でこちらを向いて答えた。





「ふふーん。わたしの目的はエルフの奇病を治す事って言ったよね?研究者でもあるわたしの頭には無数の病気や毒、細菌の事が入ってる。当然その対処法もね!」





「へぇ。という事はその中身は・・・」





「ご明察。アンナちゃんのポイズンウイップから出される毒とパラライズウイップから出る神経毒の中和剤だよ。何が効くのか確かめるのには喰らうのが一番早いからね。」





なるほど。病気や毒を知るという事はその対処法も同時に理解するという事か。


というかポイズンもパラライズも両方毒だったんだな。





「ちゅ、中和剤ですって・・・?わたくしの、勇者のスキルが・・・!そんな事・・・絶対に許されませんわ!」





「許す許さないは関係ないよ。勇者だって神様じゃない。対処法は必ずある。自分自身の長所と短所、そう言った事をきちんと教えていくべきだったんだね。アンナちゃんやジングウジ君にも。」





姫崎のなおも傲慢な言い方にメーシーは諭すように静かに答える。





「五月蠅い!五月蠅い!わたくし達・・・いいえ、勇人様が勇者で一番強くて一番偉いんですのよ!」





「全く・・・結局自分が一番じゃないと気に入らないガキって事になっちゃうよ?」





「関係ありませんわ!」





「・・・とりあえずそろそろ終わりにしようか。威力は抑えるけどちょっと熱いよ?『熱く迸る火の精霊よ。我に従い無数の炎と化したまえ・・・」





なおも激昂する姫崎に対してメーシーは終わらせようと魔法の詠唱に入った。


メーシーの周りに無数の火球がポゥン、ポゥンと浮かんでくる。なかなかの威力を持った魔法の様だな。





「この魔法は・・・!」





「あ!以前暗部からウチらを逃がしてくれる時に使ったヤツや!あんなん受けて杏奈ちゃん大丈夫なんか・・・?」





へぇ。聞いた話だと爆発が爆発を呼ぶ大規模な魔法だったみたいだが。屋外ならまだしも部屋の中で使っていい代物なのだろうか?





「・・・先生、心苦しいですがわたくしも勇人様の為に負けるわけにはいきませんの!わたくしの切り札、使う時が来たようですわね!」





切り札?まさか例の謎のスキルか!?





「メーシー!気を付けろ!何かしてくるぞ!」





なおも集中し詠唱を続けるメーシーに届いたかはわからない。





「もう遅いですわ!せいぜい後悔致しなさい!」





「─────[変態メタモルフォーゼ]」





姫崎がそう静かにスキルを発動させると姫崎を中心にカッと目を開けていられない程の強い光が部屋中に広がっていった。





「うわっ!」





「なんや!目が!」





「クッ・・・?!」





チッ!メーシーはあまりの光に詠唱を中断させられてしまった様だ。


目くらましでは無い様だが・・・今メタモルフォーゼと言ったか?メタモルフォーゼ・・・確か変身とかって意味だった気が・・・ん?あれは・・・!








光が治まり徐々に姫崎の姿が顕になる。何かヤバい雰囲気がプンプンしやがる!








・・・・!あ、あれは!





「え?」





「は?なんや・・・アレ。」





「これは・・・?」





「おーほっほっほっほ!こうなってしまったが最後、あなたたちに勝ち目はありませんわよ!」





そこには先程までの赤いドレスの様な上着に短めのスカートで戦っていた姫崎の姿は無く


局部以外に布地が異様に少ない露出度が高すぎるハイレグなボティスーツ、


足は網タイツを履き、片手には先がたくさん付いている黒い鞭、


片手にはバレーボール大程の炎が灯っている大型の赤いろうそくを持ち、


極めつけは姫崎の顔を覆うほどの大きさの華蝶仮面を顔と、股間に付けている。








「へ」





「へ、へ、へ、」





変態へんたいだーーーー!!」








俺たちの震える様な叫びをよそに姫崎は高笑いをしながら黒い鞭をぴしゃりと鳴らした。

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