第77話 QSK




「よっ・・・と。着いたな。うん、確かに俺が以前ヴァルハートにいた時に使わせて貰っていた部屋だな。」





「うわー!!ホントに転移したよ!感動的だ!どうにかして研究を・・・!いやいや今はそれどころじゃないんだ!・・・でも・・・」





メーシーは初めての転移に興奮しているが・・・


ライーザさんも以前いっていたが研究者としては垂涎ものの魔法なのだろう。





「全く・・・確かにギンジ殿の転移は素晴らしいがこれで大森林に設置してある転移魔法陣を見せたらどうなる事か。」





「せんせ、鼻血出して倒れるかも知れんな!」





ライーザさんと西城はあきれ顔だ。





「転移魔法陣の設置だって!?まさか一度設置すれば誰でも転移が可能って事!?」





「ま、まぁ若干の縛りはあるが概ねそうだな。」





メーシーが俺の顔数センチまで近づいてきて問い詰めてくる。ち、近いんだけど・・・





(ここまで食いつきがいいと我も気分が良いぞ。銀次よ、このエルフの娘、贔屓にするがいい。)





リオウは自身の創った竜言語魔法を気に入られてご満悦の様だ。贔屓にするがいいって何をだよ。メーシーは凄すぎる・・・!とか言ってるし。





「メーシーさんや。それは置いておいてこれからどうするつもりなんだ?見た所この部屋に暗部や黒騎士はいない様だからまだいいけど。」





まあいたらこんな話にはなっていないだろうが。





「ああ・・・!ゴメンゴメン!今はもっとしっかりしなきゃね・・・よし!もう大丈夫だよ!」





メーシーは自分の両頬を掌でパンパンと叩くと目にグッと力を入れ真剣な眼差しで答えた。





「この部屋には天井裏に通気口があるんだ。その通気口はマユミちゃんの部屋と繋がっている。」





「えっ!?そうだったん!?加瀬や神宮寺なんかにこの部屋使わせなくて良かったなぁ。まぁあいつらにまゆまゆを夜這いする度胸なんて無いと思うけどなー。」





西城が言う事も分かる気がするけど亮汰はともかく当時の勇人はそんな気配全く出してなかったと思うんだけどな。





「とりあえず部屋割り決める時に王女様と相談して決めたんだよ。ギンジ君ならこの部屋でも安心だろうって。」





あの短い期間でそんな事決めていたのか。なんだか逆にヘタレ認定されてたって事で複雑な気分だな。いや、夜這いなんてしないし出来ないけど。





「何でもいい。この通気口を通って東雲の部屋に直接行けるって事なんだな?だったら早くするぞ。」





先も言ったがとっとと獣人たちの所へ戻ってやりたいのだ。出来るだけ早く。





「そうだね。・・・えいっと。」





メーシーが天井にある通気口らしき蓋へ投げナイフを投げつけると蓋についてる鍵がパキンと砕け蓋がキィと開き通気口が垂れ下がった。





「じゃあ一人ずつ通気口へ。天井までそれなりの高さだけど皆のスペックだったら梯子なんていらないでしょ?ぴょーんって行っちゃって!」





「はいはーい!ウチが一番乗りやで!ぴょーんっと!」





「あっ、おい!西城!俺が先に言って安全の確保を・・・チッ。行っちゃったよ。俺も行くから二人とも付いてきてくれ!」





「了解です。メーシーは行けるか?」





「大丈夫だよ!馬鹿にしないでよね!」





「はいはいはい。」





「ハイは一回で・・・ってどっかで聞いた事あるセリフだね。」





ライーザさんとメーシーはお互いを見ながら微笑んでいる。ライーザさんもメーシーと合流出来て嬉しいのだろう。


俺はそんな二人を横目に天上の通気口に飛び込んだ。





通気口の中は大人一人が屈んで通れるほどの広さしかない。四つん這いの形になって移動するしかないな。





「須藤ー!このまま進んでったらええの?」





少し離れた所から西城の声が聞こえる。全く、俺が知ってる訳ないじゃないか。俺はメーシーとライーザさんが来るのを待ってから西城の声のする方へ這って行った。





「一人で先に行くんじゃない。メーシーが言うには距離は多少あるが道なりに進めばそのまま着くらし・・・ってこれは・・・!マズイぞ・・・!」





この通気口の広さは先に言った通りで四つん這いで移動する程しかない。それを西城が先にいるって事は・・・もろに西城の尻が目の前に来るって事だ。


西城の大きくも形のいい尻が俺の視界を塞いでいる状況になってしまった。





「なんや?須藤。とりあえず進んでええん・・・って、ギャー!見るな見るな!スケベ!順番変われや!戻って!戻れ!」





「ちょ、ちょ!?待て!後ろに二人いるんだぞ!?下がって来るな!おい!聞いてるのか・・・!うわっぷ!もがもが・・・」





西城は俺に尻を見られるのが嫌なのか取り乱し俺を戻らせようと四つん這いの態勢のままバックしてきた。


俺の後ろにライーザさんとメーシーがいる事もあり、急に尻が迫ってきたのでQSK対処できず思いっきり顔面に西城のヒップアタックを受けてしまった。





「わー!わー!何すんねん!動かんといて!ちょっと・・・!んっ・・・!暴れ・・・はぅ・・・!」





「そんな事言っふぁっへお前が・・・!んー!おい!・・・いい加減に落ちつけ!!」





しばらく暴れて尻をぐりぐりしていた西城だったがようやく落ち着いたようだ。王女と東雲を奪い返すまえに俺の意識が奪われる所だったぞ。





「カオリちゃん良かったね!自慢のお尻をギンジ君に味わって貰えて!」





メーシーが後ろからにししと冷やかすように言った。味わって、とか。確かに弾力が凄くてまるで張りのあるマシュマロみたいな・・・って俺は何を考えてるんだ。





「せんせぇ・・・うー・・・めっちゃ恥ずかしいけど先に勝手に行ってしまったウチが悪いねんな・・・須藤!とりあえずここから出るまで前を向かんで下だけ見て来てな!わかった!?」





「んな無茶な。」





そんな事で俺たちは通気口の出口までたどり着いた。


西城はその都度前を向くなと言って来たので下を向いて進んでいたら何度か尻に頭をぶつけた。それでも見るなと言うんだから勝手にしてくれ。





「おっ!ここがまゆまゆの部屋の上かな?須藤、せんせに確認してや!」





西城の言葉を受けメーシーに確認する。距離的にはこの辺りだという事らしい。





「この辺りでいいらしいぞ。上から見て誰かいるかわかるか?」





「ちょっと待っといて。あれは、杏奈ちゃん?何やって・・・あー・・・えーっと・・・こ、ここにはまゆまゆはおらん見たいやけど・・・」





通気口の上から部屋を確認した西城が何か挙動不審な態度をしている。今杏奈って言わなかったか?姫崎か。西城とライーザさんの話では勇人について二人を襲ったらしいな。





「姫崎だって?奇襲して締め上げた方がいいだろう。また邪魔されたら面倒だ。」





「それはそうなんやけど・・・今はちょっと・・・」





「何を言ってるんだ?敵の事情に付き合ってる暇は無いぞ。ちょっと前に行ってくれ。西城がやりにくいなら俺が無力化する。」





こんな所でもたついている暇は無いんだ。西城のはっきりしない態度に若干イラついた俺は西城を少し進ませ通気口から下を覗いた。





「姫崎。久しぶりにあって早々で悪いが少し眠って・・・あー・・・えーっと・・・どうする?」





天井の通気口から下を確認すると確かに姫崎がベッドに横になっている。


姫崎はベッドで下半身だけ衣服を脱ぎ棄てて一人遊びにふけっていた。くちゅくちゅと水っぽい音を立てながら事を致している。





「・・・あ・・・勇人様・・・あんっ・・・わたくしは・・・あっ、あっ、あんな女たちよりも・・・わたくしの方が勇人様を・・・んんっ!!」





女性のこんな所見た事もない俺は奇しくも西城と同じ態度になってしまった。





「須藤!あんたもう見るなって!ホンマに男子は!」





「いや、見たくて見てた訳じゃないんだが・・・西城、お前何とかしろよ!」





「いいから!ってウチもこんな場面に突撃できる訳ないやんか!」





「お、お二方!そんなに暴れると部屋にいる人間にばれて・・・!」








ガチャン!








「あ・・・」








「!?だ、誰ですの!?天井!?出てきなさい!神宮寺総帥の第一秘書、勇者杏奈の部屋を盗み見するだなんて万死に値しますわよ!」





「しまった・・・!」





ライーザさんの心配通りに通気口に足がかかり蓋が開いてしまいその音で完全に姫崎にばれてしまった。


気づかれず速やかに無力化したかったが・・・そもそも部屋が違ってるじゃないか。





見つかってしまったものはしょうがないな。俺たちはしぶしぶ通気口から降りるのだった。

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