第74話 脱・暗部
ギャレスの剣の軌道が変化するスキルによってライーザさんに刃が届いたかと思った瞬間。
ガイィィン!!
直後、剣と剣がぶつかる鋭く大きな音が響き渡った。ライーザさんが切られたとしたらおかしな音だ。
音の出処を見て見るとギャレスの剣はライーザさんが発動させたライトニングセイバーによって右首筋ギリギリで止められていた。
その光り輝く剣はエネルギーをバチバチとほとばしらせている。
「・・・!?なぜ蛇影斬の軌道が・・・!このスキルは団長にも見せた事は無いはず・・・!」
「昔稽古の時に言った事を忘れたのか?お前は最後の最後に自分の攻撃したい所を見る癖がある、と。一対一の戦いの時に致命傷になるとあれほど言っただろう。」
「ッッ!確かにそう言われていやしたね・・・ガハッ!」
ギャレスがそう言い終わるかいなかのタイミングでライーザさんは受け止めていた自らの剣を逆手に持ちズドンという鈍い音と共にギャレスの鳩尾へ剣の柄頭を叩き込んだ。
ライトニングセイバーの使用はキャンセルしたようだな。
「ギャレスよ。この程度の実力では部隊の長など務まるはずがないぞ。それに騎士たるもの仕えるべき相手はきちんと見極めるべきだな。」
「団長・・あっしは・・・騎士の誇りを捨ててココを選んだ!それに対して後悔はしていない!うおおおおお!」
先の一撃で相当のダメージがあったのだろう。ギャレスの足取りはおぼつかないが目に力を宿してライーザさんに向かっていった。
「ギャレス・・・それがお前と言う一人の人間としての答えか。間違ってるとは言わん!それでも私にも引けぬ理由があるのだ!はああああ!!」
ライーザさんも同様にギャレスに向けて駆けだした。直後、二人が交差するとダメージ、剣技の差なのかギャレスはまたも膝をついた。
「ぐ・・・!ま、まだだ!あっしは・・・あっしが倒れたらココの命が!・・・ギンジ殿がいなくなってからなにか皆バラバラになった・・・帝国軍は次々と流入してきて軍を牛耳り初め、団長もいない!自分の部下を食べさせるのに必死になっていた時にココが人質に取られた!あっしはアイツに従うしか無かったんだ!!」
苦しく悲痛な表情でギャレスは叫んだ。ライーザさんと西城も悲しい顔をしているな・・・
俺がいなくなった事で王国が分裂し始めたようだ。
それを裏で糸を引いていたのが勇人って訳か・・・あのまま俺が死んでいたら本当に勇人の思い通りになっていったのだろう。
そんな事絶対に許せるはずが無い。
「おい、ギャレス。あんたの娘はいまどこにいる?」
「ココですかい・・・ココは今酒場の2階の部屋に黒騎士の見張り付で軟禁されているはずですが・・・」
ああ、あの酒場か。なら話は早いな。他の所だったら面倒だったが。
「あんたがこれ以上俺たちの邪魔をしないというなら娘の安全を保障してもいい。というかその手助けをするから自分で娘を守れるか?」
「は・・・?な、何を言ってるんです?見張りについている黒騎士連中は帝国からきた中でも屈指の実力者。不意打ちでも難しいですし何よりあっしのこのダメージでは相打ちすら・・・」
ギャレスの話によるとギャレスの娘、ココを見張ってる連中はギャレスでさえ手強いと言わしめる連中らしい。
勇人の奴めギャレスを使うために抑えるところは徹底的に抑えているようだ。
「ああ、ダメージは心配するな。ライーザさん、回復を。」
「はい。・・・・『<<ツヴァイヒーリング>>』。」
「な・・・だ、団長!これからもまだ戦いが控えてるってのに中級の回復魔法なんて使っちまったら魔力が・・・!」
ギャレスがあたふたしているな。まあこの局面で仮にも敵に魔力消費のデカい回復をかけるなんてどうかしてると思うのが普通だろうが。
「その辺りは心配しなくてもいい。[
「はい。ありがとうございます。全快ですね。」
「・・・は?」
ギャレスのやつ、今度は口をぽかんと開けて何が起こってるか分からないという顔をしている。
その辺はおいおい説明すればいいだろう。
「さて、ギャレスの言う様に時間が無い。さっさと酒場に行って来てから王女と東雲を回収しなくちゃならないからな。ん?ギャレスは何ぼーっとしてるんだ。早くしたいんだが。」
「・・・ギンジ殿。あっしは何が何だかさっぱりでさぁ。ですが団長はギンジ殿を信じているようだ。あっしも一人の人間としてギンジ殿を信じさせて貰ってもよろしいですか?」
「その辺りは好きにしてくれ。ただし一度それを口にした後裏切った、なんて事があったら・・・絶対に許さない。」
「わかりました。」
ギャレスはごくりと喉を鳴らしてからしっかりと頷いた。そろそろ本格的に時間が無いな。
「やっぱり同じ使いっ走りでもアイツより団長やギンジ殿の方が気持ちがいいもんでさ。」
「そうか?まぁいいや。よし、じゃあ行ってくる。西城、ライーザさん。ああそうだ、この部屋にメーシーがいるはずなんだよな?もしいたら確保して状況を説明しておいてくれ。」
「わかりました。メーシーには私から話しておきます。」
「気を付けていってくるんやで!ま、ほとんど心配してへんけどな!」
俺は二人に目で頷くとギャレスと共に王都内にある酒場へ転移した。
・・・・・・
そのまま酒場の中に転移するのはまずいかと思いとりあえずは酒場の裏手に出た。
ミズホと来た時もここに転移したよな。別にマイフェイバリットスポットでは無いんだけどな。
「こ、ここは酒場ですかい!?まさか転移魔法・・・少し見ない間にギンジ殿はとんでもない事になっていやすね・・・」
「・・・こうならない方が良かったけどな。さぁちゃっちゃと終わらせよう。」
俺たちは酒場へ入りそのまま2階へ昇って行った。2階へ行こうとした時に雇われているであろう酒場の店主がお客さん、2階は困りますと行って止めに来たがギャレスの顔を見るとニヤリと笑って身を引いた。
2階には部屋が広めの部屋が一つありそこの出入り口を2人のガタイのいい黒騎士が守っているようだった。
相変わらず黒騎士共は兜をかぶっていて竜眼は使えない。
黒騎士はこちらに気づくとギャレスの顔を見てイライラしながら文句を言ってきた。
「おいおい!暗部の長であられるギャレス様じゃないですか。何をしに?娘の顔はこの間見せてやったでしょう?こっちはルマハン草原で獣人相手に暴れられると思ってたのにこんな所で小娘を見張っていろだなんて言われてむしゃくしゃしてんだよ!」
「全くだぜ!とっとといつもみたいに天井裏でねずみみてぇにこそこそ情報収集してろってんだ!それとも何か?そこのなよなよした兄ちゃんと一緒に俺たちのストレス解消に付き合ってくれんのか!?」
黒騎士二人はギャハハハハ!と下品な笑い声をあげた。全く・・・やっぱ話し合いなんて無理な様だな。
「チッ・・・!ギンジ殿、どうしやす?こいつらこんなんでも実力は本物で・・・」
話し合いや説得など時間の無駄だと判断しとりあえず無力化する事にした。
というか初めからそうするつもりだったが。
敏に若干ステータスを振った俺は手に魔力を集め、右側の黒騎士の腹を鎧の上から思いっきり殴りつけた。
物攻に振らなかった理由は思いっきり殴りたかったからだ。竜眼で確認してはいないが振らなくても通ると思った。
ドンッ!
「は?・・・あばぁっ!!」
魔力で覆った拳は黒騎士の鎧を突き破って生身の腹を直撃した。拳にメキメキと骨が砕ける妙な感覚が不快だった。
「おい!てめぇなにやtt・・・」
「五月蠅い。」
ドゴォッ!
「ぶべぇっ!!」
返す体でもう一人の黒騎士の顎を下から突き上げるアッパーの様な形で振りぬく。
こちらも顎が砕けるぐしゃっとした音と共に黒騎士は高く宙を舞った。
「ふぅ。なんだ。ギャレスが言うほどでもないな。多分ギャレス一人でも余裕だったんじゃないか?娘が人質に取られていると思って知らずに尻ごみしてたんだよきっと。」
「は、はぁ・・・そ、そうですかね・・・?多分違うと思いやすが・・・」
初めて感情に任せて人を殴ったかもしれない。元々ヲタク気質の俺は向こうの世界では馬鹿にされても一気に感情が振り切れる事も無かった。
だが今はっきりわかった事は恐らく勇人に対しては今以上に感情の制御が出来なくなってしまうだろうと言う事だ。
「じゃあ娘、ココだったか?お迎えに行くとしよう。」
「わ、わかりやした・・・ギンジ殿、あなたはいったい・・・」
ギャレスは倒れている黒騎士二人と俺を交互に見て目を丸くしているな。
西城とライーザさんが待っている。急がなくては。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます