第73話 団長VS副団長




「久しぶりだな、ギャレス。元気そう・・・でもないか。なんだ?その被り物は。結構ダサいぞ。」





「・・・その態度や目つきの悪さは変わりやしたが・・・ギンジ殿で間違いなさそうですね。よく御無事で。」





ギャレスは俺の変貌ぶりに驚いたようだったがすぐに俺が生きていた事を喜ぶような態度を見せた。顔は被り物をしている為、見えないがなんとなくそう感じた。


だが現在ギャレスは向こう側。被り物のせいで竜眼も使えない。





「ある意味ご無事じゃなかったけどな。」





「そうですか。・・・さて、皆さん方。あっしがここにいるって事はどういう意味か言わなくてもお分かりでありやしょう?」





ギャレスはそう言いながら腰に差してあった長剣をスラリと抜き俺たちに突き付けてきた。





「ああ。そう言う事だな。ただギャレス、一つ聞かせてくれ。なぜお前ほどの男がライーザさんを裏切って勇人あいつなんかに付いている?」





「・・・物事には順序ってもんがあるでさぁ。」





順序?ギャレスの中で優先順位があるって事なのか?誇りにしていただろう騎士団を天秤にかける程の何かが。





「順序か。ギャレスよ。以前お前に襲われた時も言っていたが・・・もしかしてお前の家族の身に何か・・・」





「・・・」





ギャレスの言葉を受けライーザさんがそう訪ねた。ギャレスは苦虫を噛み潰したような顔をしているな。


見えないけど。





「家族?」





「ええ。ギンジ殿はご存じ無いかも知れませんがギャレスには一人娘がいます。妻は病で早くに亡くなってしまいましたが・・・ギャレス、ココちゃんはどうしている?」





「元気ですよ、団長。元気すぎて手を焼いているぐらいでさぁ。あっしはアイツかわいさに団長を裏切ったんだ。軽蔑してくれてかまいませんよ。」





ギャレスに娘か。このいかつい風貌からは想像出来ないが早くに妻を亡くして一人娘。目に入れても痛くないのだろう。





「ココちゃんかー。ウチも数回遊んだけどホントにカワイイもんなあ。」





「サイジョウ殿にはよくなついてましたね。団長はなぜか恐がられてたみたいですがね。」





「仕方がないだろう!私は子供は好きだがなぜか近づくと皆泣き出すんだ!」





ライーザさんは顔を赤くしながら怒っている。なんだろうな。なんとなく想像できる。





「その大事な一人娘の命を勇人に握られてるって訳か。」





「・・・まあそんな所です。そんな訳であっしにはもう退路は無いんですよ。暗部の長としてあの方に従ってこの国の、いや、あの方の敵を排除するしか道はねぇんだ!」





ギャレスはそう叫びながら突きつけていた剣を俺に繰り出してきた。


かなりの速度の突きだな。回避出来ない程ではないが・・・





ギィン!





俺が紙一重で避けるつもりでいると横からライーザさんが鋭い切り上げでギャレスの突きを打ち上げた。





「ギャレス副団長!お前は私がもう一度鍛えなおしてやろう!」





「あね・・・ライーザ元団長殿。あっしはもう騎士団の副団長じゃない!総帥直下、暗部の長だ!『優雅なる風の精霊よ。我に従い円刃と化したまえ。我が標的を抉り刻め!<<サークルエッヂ>>』!」





ギャレスは中級魔法であろう風の円刃をライーザさんに向けて放った。


ライーザさんはギャレスの魔法を確認するとすうっと片膝を地面に落とし手にしていた剣を鞘に納めた。左手は鞘を握っていて、この形は・・・





「・・・騎士団はもう無いかもしれない。だが私の心に騎士の誇りは在り続ける!お前も本当はそうだろう!?ギャレス!・・・はあぁっ![雲切之剣くもきりのけん]!」





ライーザさんが剣を鞘から高速で抜く。その勢いを利用するように振りかぶった剣を両手で持ち風の円刃であるサークルエッヂを正面から切り裂いた。





(ほう。魔法を切るか。やはりあの人間相当な技量のようだな。)





リオウも唸るとは普通では出来ない技術のようだ。雲切之剣と言っていたが・・・以前見た竜眼では確認出来なかったはず。その後習得したか今の際で閃いたのか。




「何っ・・・!?魔法を・・・!む!?今の衝撃で・・・!?」





ライーザさんのスキルの余波だろう。ギャレスが付けていた趣味の悪い被り物がパキパキと音をたて割れた。





「ようやく顔を見せてくれたな。ギャレス。少し痩せたか?」





「以前と違ってストレスの多い職場でしてね。」





そう言ってライーザさんの問いに答えたギャレスは恥ずかしい様な辛い様な何とも言えない表情をした。








ギャレス・ギュニン





人間 男性





レベル 43





物攻 270





魔攻 200





防  190





敏  180





スキル 気配断ち 蛇影斬





称号 騎士団副団長 








被り物が無くなったのでギャレスのステータスを見て見る。


驚いた。ライーザさんとほとんど変わらない数値じゃないか。レベルについてはライーザさんより上だ。


相当な努力をしたのだろう。スキルは気配断ちハイドアンドシークに蛇影斬?じゃえいざん、だろうか?





「ギンジ殿。その顔はギャレスのステータスを見たのですね?この状況で申し訳ないが私にその情報は与えないで頂きたい。ギャレスとは正面から勝って曲がった性根を叩きなおしますから。」





「わかった。ライーザさんの言うとおりにしよう。だが一つだけ言わせて貰う。ギャレス、あんたやっぱりまだ騎士の誇りっていうか思いは無くなっていないじゃないか。称号には騎士団副団長、とある。どこにも暗部がどうのなんて書いてない。認めてないんだよ。世界も、なによりギャレス、お前自身が!」





「・・・!?ギンジ殿・・・!なぜそんな事が・・・!あっしは・・・俺は・・・!うおおおおお!!」





ギャレスは激昂しながらライーザさんに向かって突進していった。


先程までの洗練されていた剣筋とは違い妙に荒っぽい、いや俺の目から見ても単調な剣になっている。





「どうした!常に冷静に周りを見て判断しろと言っていたはずだぞ!気配を消すお前は戦場で感情を捨てろと!」





「ぐっ・・・!う、五月蠅い!」





ライーザさんはギャレスの剣を弾きながら説教している。まるで剣術の稽古の様だ。





「こうしていると昔を思い出すな?ギャレス。私達が騎士団に入る前だ。」





「はぁ、はぁ、・・・ええ。あの頃のあなたはまるで男みたいに荒れていましたっけね。お堅い騎士団なんかに入るとは夢にも思いませんでしたよ。」





「その話はよせ!っと私が言いだしたんだったな。」





ふうん。あのライーザさんがね。元々騎士の家系みたいなもんだと思っていたが違うのか。





「何々?あの二人何の話してるん?よく聞こえんわ。」





西城にはよく聞こえないらしい。俺はリオウのおかげで五感のスペックも上がってるのだろうか。


その後も打ち合いは続いていたがしばらくして二人は少し距離を取った。





「時間も無い。そろそろ終わりにしようか。ギャレス副団長。」





「元、ですよ。元団長。・・・いや、あなたはいつまでも騎士団団長なのかも知れませんな。」





ライーザさんは剣に魔力を集めている。スキル、ライトニングセイバーを使う気か。


対するギャレスは気配断ちハイドアンドシークを使う訳でもなく剣を構えている。





「気配断ちは使わないのか?まあ一対一の状況では効果は薄いであろう。」





「その辺の兵士ならいざ知らず団長相手には通用しないのは承知ですからね。あっしも奥の手って奴は持ってるんでさ。」





そう言いながらギャレスはじりじりとライーザさんへと距離を詰める。ライーザさんはじっとギャレスを見つめながら魔力が集まって輝いた剣を構えている。





互いの距離が2~3メートル程になるとギャレスは間合いを詰めるのをやめ一つ呼吸をついた。


その直後今までのギャレスの動きの中でも特段速い動きで一気にライーザさんへと切りかかった。





「おおおおおお!!団長!覚悟!![蛇影斬じゃえいざん]!」





ギャレスは鋭い左の袈裟切りを繰り出しその剣がライーザさんの肩にかかろうとした瞬間にギャレスの剣先がユラリと揺れた。





消え・・・?いやそっちか。どういう理屈かは分からないが剣先が蛇の様に曲がってライーザさんの右の首筋に迫っていた。

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