第72話 王都再び
やがて全ての獣人奴隷たちが魔法陣に乗った事を確認してからピーちゃんも亮汰を王国側へ降ろし解放した。
「よし!カセ殿の安全は確保した!同盟軍の兵士達よ!世界の希望である勇者を騙し攫った卑劣な獣人たちと勇者を語る偽物を皆殺しにせよ!そして我らの労働力である奴隷も取り戻せ!」
偽物野郎はそう言うと懐からなにやら水晶玉の様な物を取り出し魔力を込めた。
その水晶玉がぼうっと光ると先程西城やライーザさんの言葉に動揺し戦意を半分失っていたヴァルハートの兵士たちが変に目を輝かせ猛り始めた。
ガああアア!!
殺セ!殺せ!
オカスコロス!!
なんだあれは?何かの魔具、なのか?確認すると兵士のスペックは特段変わっているようには見えないが・・・
「なんや!?神宮寺!あんた・・・!」
「貴様!外道な!お前たち正気に戻ってくれ!!」
「レオンさん!どうします!?」
「チッ!やはりギンジ殿達以外の人間はこうなのか!?・・・ギンジ殿!」
「ああ!任せろ!」
今は考えても仕方がない。まずは獣人たちを奪還しなくては。俺は獣人奴隷たちが乗った魔法陣に意識を集中させた。
魔力は既に充填してある。もう魔力を持っていかれる事もない。後は起動するだけだ。
「行くぞ!『
・・・・・
シュゥゥゥゥという音と共に200~300人いた獣人奴隷たちは一瞬で大森林へと転移した。まさか全員一度に転移させるなんて思ってもみなかっただろうな。
「な、なんだと・・・!き、消えた・・・!獣人共め!何をしやがった!奴隷を返すふりをして奪い返す作戦が・・・!ど、どうすれば・・・」
偽物野郎は慌てふためいているな。さて、これからどう出る?
「・・・クソが!もういい!数はこちらが圧倒的だ!半分殺して半分は奴隷として奪え!そうすりゃ元より奴隷が増える!皆の者!かかれーーー!!」
うおおおおお!!
偽物野郎は考えていた作戦がダメだと悟り兵士をこちらに突撃させてきた。
確かに数は同盟軍の方が勝っている。それにどんな方法なのかわからないが王国の兵士は正気を失っているようだ。
「ギンさん!ここは私たちに任せてギンさんたちは王国へ飛んでくれ!」
ハビナが俺にそう言うが・・・
「心配ないぞ!この程度のやつら蒼炎状態になるまでもないわ!ガハハ!」
「うむ。特別気になる様な存在もいないな。黒騎士共が少しだけ楽しめるくらいだ。」
「僕はレオンさんとプラネさんがやり過ぎないように注意しておくよ。」
レオンたちがそう言うのなら問題はないだろう。
「・・・わかった。やり過ぎないようにしてやってくれ。ライーザさんの元部下たちは本当は意外といいやつらだ。」
「わかった!爪は立てないでおくぞ!だから早く戻ってきてくれ!」
ハビナはそう言いながら俺に一度ギュッと抱きついてきた。
「なるべくそうするつもりだ。スララ!何かあったら王国まで転移で来てくれ!城へはお前なら入り込める。」
「あい!ご主人様!任されました!」
スララはゲートが使える。一度酒場までは行ってるからそこまで飛べば後は何とかなるだろう。
同盟軍の軍勢が目の前に迫って来ようとしている。
そういえば王国へ飛ぶ前に一つ伝えておかなくてはならない事があったな。
「よし!っとその前に。あっちでふんぞり返っている総帥は偽物だ。訳の分からん奴が変装か変身しているんだ。能力も低い。俺が思うに可能性は低いが、本物は別に隠れている事もありえる。注意してくれ!」
「えっ!?あいつ神宮寺ちゃうんか!?言われてみれば確かにあいつより頭悪そうに見えてきた。」
「まぁどっちでもいいわ~。ギンジ君頼んだわよ。王国にいる人間が本当の奴隷解放にかかせないんでしょう?」
西城もなんとなく雰囲気が勇人と違うのを感じたようだ。
亮汰を置いてきたミズホも合流し俺に発破をかけてくれた。考えてみると亮汰はどうしてるんだろう?まぁ形式上は向こうの人間だ。何かされる事もないか。
「よし!西城!ライーザさん!王国まで飛ぶぞ!皆、また後でな!」
王国にいるメーシーたちを奪還するため俺は再び王国へ転移した。
・・・・・
ルマハン草原から一転、俺たち3人はヴァルハート王国の城内にある兵士たちの訓練場に転移した。
やはりここが一番イメージしやすいな。
「ふー。やっぱり須藤の転移は便利やなぁ。さっきまでの喧騒が嘘みたいやね。」
「本当に驚かされます。さて、ここから一番近いのは・・・メーシーの捕えられている離塔ですね。」
「そうだな。事前に計画を立ててはいるが何が起こるか分からない。単独行動はせずにきっちり一人ずつ回収していくぞ。」
二人は力強く頷いた。
西城の言う通り辺りは先程まで怒号が飛び交っていたルマハン草原と違い城内は不気味なほど静まり返っている。
草原に全兵士を投入したのだろうか?いや、あそこの場に勇人がいなかったんだ。
勇人は西城たちが絡んでいる事を知っている。だとすれば西城とライーザさんの目的であるメーシー、王女、東雲の奪還を読んでいてもおかしくない。
俺たちは急いでメーシーが捕えられているという離塔へ向かった。
つい数か月前に俺たち同期6人は仕事終わりの飲み会の途中で異世界へ召喚された。
その時初めて見た異世界があの離塔の小部屋だ。なんだか色々ありすぎてもう数年以上たっている様な気がするが。
そんな事を考えていると離塔にある例の小部屋の前に到着した。
「ギンジ殿!ここです!ここにメーシーが・・・またあいつの軽口を聞かねばならないと考えると憂鬱だが。警備は・・・姿が見えないな。」
ライーザさんが口ではああ言いながら若干嬉しそうな表情で部屋の扉に手をかけようとした。
(む、銀次・・・!気づいているか?)
「ああ、リオウ。囲まれた、な。ライーザさん!伏せろ!!」
「!?クッ!あれは!」
リオウの警告と同時に俺も狙われている気配に気が付いた。
俺の叫びにライーザさんが伏せると先程までライーザさんの頭のあった場所に炎の矢が数本突き刺さっていた。
「やはりあのお方が言った通り現れやしたね。ライーザ元騎士団長殿、勇者カオリ殿。この程度の奇襲に気づかないとは・・・鈍りやしたかぃ?そこの御仁がいなけりゃどうなっていたか。お前たち、下がって逃がさないようにしろ。気取られてからではお前たちに勝ち目はない。」
周りを見るとキツネかタヌキか良くわからない妙な被り物を被った連中が数人俺たちを取り囲んでいた。
リーダー格の男は手で合図を出しながら他の兵を下がらせた。ライーザさんたちの実力をしっかり評価しているようだな。
こいつらが西城たちや亮汰が言っていた勇人の私兵、暗部か。
そして今の特徴的な喋り方は・・・
「チッ・・・!ギンジ殿、カオリ殿すまない!私としたことが油断した!」
「ええって!ウチも気づかんかったしな!須藤、サンキュな!」
ライーザさんと西城はそう言いながら剣を抜き暗部の奴らと対峙する。
「なに?ギンジ・・・?スドウ・・・?ま、まさか・・・ギ、ギンジ殿?あのビシエ遺跡で生死不明になった勇者ギンジ殿・・・ですかぃ?」
やはりな。俺たちにギリギリまで気取らせない実力、俺を知っていてこの喋り方・・・
「ああ、そのまさかだよ。元騎士団副団長ギャレス・ギュニン。」
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