第69話 女王様

王国に対して奴隷解放宣言を突きつける事を決めてから俺たちは準備に奔走した。





俺は指定場所予定の草原地帯に王国にいる奴隷数百人を大森林へ転移させるための魔法陣作りに出かけた。


結論から言って魔法陣の構築には成功した。リオウの言う通り一日かけて大規模な魔法陣を描き、そこに魔力を流し込んだ。


予想通り、いや予想以上の半端じゃない魔力量を持っていかれて俺はその場で意識を失った。


スララを連れて行って正解だったな。スララに転移魔法で俺の領地へ運んでもらって気が付いたら丸二日たっていた。





レオンたちは戦いになった場合の兵士の選定、サルパたちは奴隷を受け入れる為の仮住居作り、西城たちは王女たちを奪還するために経路の確認などの打ち合わせ、スララは転移で往復できるように魔力量強化、(使い果たしては俺が回復するか寝るかなんだが。)などあわただしく時間が過ぎて行った。





亮汰については現状こちら側に入れる事も出来ないため暇だ暇だ、と言っていたが獣人の子供たちと遊んでいたようだ。あいつ意外と面倒見がいいみたいで子供たちからはなつかれていたみたいだな。








そしてついに5日後。ヴァルハート王国にいる勇人に対して書状を持っていく日となった。五大獣老と人間勢が俺の半分完成した屋敷に集まっている。





「それじゃあちょっとこれを勇人総帥殿に渡してくるぞ。」





「なんや須藤!また一人で行くんか?須藤やったら心配するだけ無駄かもしれんけど・・・」





「ぞろぞろ行っても怪しまれるだけだ。・・・と言っても獣人の誰かと行った方がインパクトがあるかもな。」





俺一人で行ってもそれこそいたずらで終わってしまうかも知れないな。勇人がこの書状を見れば一発だが見ないで終わっては困る。





「はいは~い。だったらわたしが一緒にいってあげる~。ここ最近わたしはあまりお手伝いしてなかったし~。」





そう言いながらミズホが手を挙げながら立候補した。うーん、ミズホか・・・獣人には違いないし実力も申し分ないんだがなんかこうふわっとしてるんだよなぁ。





「一応宣戦布告に行くようなものだぞ?観光気分では・・・」





「あら~。大丈夫よ~。わたしも意外と使えるのよ~?」





「いや、実力を疑ってるわけじゃない。」





しぶる俺にミズホはまかせなさいと胸を叩いた。まぁいいか。





「はぁ。それじゃ行くとするか。すぐに戻るから皆は各自待機しててくれ。・・・『同空間転移カオスゲート』!」








・・・・・








とりあえず俺とミズホはヴァルハート王国の酒場の裏手、亮汰を拉致した場所へと転移した。ここなら人はほとんどいない。





「あら~。久しぶりに人間の町に来たけど人間臭いわね~。でも自分で行くって言っちゃったから我慢するわ~。」





「ああ、是非我慢してくれ。とりあえず王城まで行くとするか。」





全く。でも大森林の綺麗な空気に慣れていると淀んだ感じがするのも確かだ。以前の王国ならいざ知らずな。


俺たちは酒場裏を抜け王城まで歩いて向かう事にした。獣人のミズホには申し訳ないが奴隷のフリをして貰えるように頼んだ。





「ギンジ君の奴隷~?ちょっとエッチな響きね~。」





ミズホはそう言いながら俺にしなだれかかってきた。ハビナと違い胸は控えめだがすらっとした手足に少しドキドキしてしまった。





「やめろって!観光じゃないと言っただろう!俺はそういった事に慣れて無いんだからからかうなって。」





「あらあら~?ギンジ君ってそうなの~?お姉さん嬉しくなっちゃうわ~。」





こいつ・・・楽しんでやがるな?まぁいい。とっとと行くとしよう。


王城へ行く途中、やけに冒険者と思われる奴や金持ちっぽい男に話しかけられる。


そいつらは皆ミズホに興味があるようだ。








そんな綺麗な奴隷どこで見つけたんだ!?





鳥族?それにしてもスタイルがいい・・・





金ならいくらでも出す!一晩だけ貸してくれ!








チッ・・・五月蠅いな。こいつら獣人をモノとしか見ていない様だな。


こんな下衆な奴らに使われている獣人が不憫でならないぞ。


俺はしつこくせまってくる太った髭面の男を思いっきり嫌悪感を前面に押し出して睨みつけながら言った。





「・・・黙れ。それ以上こいつに近づくと殺すぞ。」





男はヒエッ!とまぬけな声を出して走り去ってしまった。全くせいせいしたな。





「あら~。今のは俺のモノってアピールかしら~?お姉さん困っちゃう~。」





「だから目立つからクネクネするのをやめろ!・・・はぁガジュージ辺りに来てもらった方が良かったか。」





「そんな事言わないで~。ってここが王城の入口かしら~?門番がいるみたいだけどどうやって入るのかしら?」





ミズホをあしらっていると王城の目の前までたどり着いた様だな。一人の門番が入口を警備しているようだ。


街の入口にいた兵士と同じく黒い甲冑を着こんでいる。あれが亮汰の言っていた黒騎士か。亮汰の言う事が正しければそれなりの強さって話だが・・・・ってあれ?どうしたんだ?竜眼であいつらのステータスが視えない・・・?





「リオウ、あの黒い甲冑にはドラゴンの力を遮る何かがあったりするのか?竜眼が使えない。」





(そんな事はないはずだが?・・・もしかするとあれかもしれんな。銀次よ、鴇族の娘の目を隠して竜眼を使ってみよ。)





目を隠して?なんでまたそんな事を・・・ミズホはきゃーなんてわざとらしく言っているが無視だ。





・・・!?視えない。これはあれか。相手の目を直接見ないと発動しないのか。黒騎士は頭まで黒い甲冑で覆われているから見えない、と。


確かに俺が今まで竜眼で視てきた相手は全て目を出していたな。





「リオウの思った通りの様だ。リオウ自身も相手の目が見えないとダメだったのか?」





(いや、我はそういった縛りは無かったと記憶しているが。)





リオウの力が奪われていた事が関係して俺に与える時に劣化したのか?別に構わないけど。多分俺とミズホが後れを取る事は無いだろう。





「さて、門番は一人か。楽できそうだな。」





「あら~?ギンジ君正面から力押しでいくのかしら?そういうのも嫌いじゃないんだけど・・・ねぇ?お姉さんに任せてくれないかしら?騒ぎにならないように上手くやるわ~。」





当身でもなんでもして突破するつもりだったが・・・騒がれずに城に入れるならそれに越したことはない。





「わかった。ミズホに任せよう。だがどうやって?」





「いいからいいから。ギンジ君は近くの・・・そうね、あの辺に隠れていてくれるかしら?」





そう言われ俺はミズホの指差した門近くの木の陰に身をひそめた。





ミズホは真っ白で深くスリットの入ったチャイナドレスの様な服からその服よりも白く美しい足を揺らし門番の目の前まで歩いて行った。





そのあまりにも堂々としたウォーキングに門番は見とれてしまっている様で目の前でミズホが挑発的に微笑んでいるのにもかかわらずしばらくぼーっとしていた。





「・・・ハッ!だ、誰だ!お前は!?じゅ、獣人!?ず、ずいぶんと見てくれのいい獣人だな・・・こんなび、び、美人な獣人がいるのか・・・」





門番は酷く動揺している。あれだな?この反応は童貞だな?俺にはわかるぞ。





「あら~。素敵な門番のお兄さん?ちょっとお尋ねしたい事があるんだけど~・・・」





「な、な、なんだ!?なんの用だ!獣人が一人で出歩くなど・・・誰かの奴隷じゃないのか!?」





「奴隷?私のお願い聞いてくれたらお兄さんの奴隷にならなってもいいけど~?」





「なんだって!?フー、フー、俺の?奴隷に?・・・ゴクリ。お願いって・・・なんだ?」





門番の顔は兜で見えないが何だか見るに堪えない、少年誌には載せられない顔になってる気がするぞ。





「お兄さんのド・レ・イ。お願いごと・・・大きな声で言うのは恥ずかしいから兜を取って下さらない?」





ミズホはそう言いながら門番に顔を思いっきり近づけた。





「はぁ、はぁ、ま、待ってろ今取るからなッ!!・・・そらっ!ど、どうした?何だお願いって!?ん?」








「はい、ご苦労様。[脊黒羽せぐろばね]、えいっ。」








「え?」








門番が急いで兜を脱ぎすてた瞬間にミズホは自らの羽を一枚抜いて門番の頭に突き刺した。何やってんだ?確かミズホの脊黒羽ってスキルは相手の能力を下げる特性があるって話だったはずだ。





「は~いギンジ君~。もう出てきていいわよ~。」





ミズホが俺の方を向き手をひらひらと振っている。大丈夫なのか?門番の男は頭に羽を刺してぼけーっとしているが・・・





「よっ、と。なあミズホ。お前こいつに何したんだ?」





近づいて行って手を目の前で振っても無反応だ。お?頭の白い羽が上から徐々に黒く染まっていっている。





「完了ね。私の脊黒羽には能力を下げる他にもう一つ特性があるの。」





「もう一つ?」





「そうよ~。前に見せたみたいに上空からとか飛ばして相手に刺した時は能力ダウン。今みたいに直接刺してあげれば相手を操る事が出来ちゃうのよ~。」





相手を操るだと?それは凄いな。





「一度に操れるのは2人までになっちゃうかしらね~?後、自分と同等か自分より各上、例えばレオンちゃんやギンジ君になんかは効かないと思うわ。」





「まあその辺りはお約束だよな。それにしても魅惑の戦乙女の称号は伊達じゃないって事か。」





「あらあら。その呼び方なつかしいわね~。それじゃこの門番さんに兜を被せて・・・っと。さぁ~総帥のいる所まで案内してちょうだいね?こ・ぶ・た・ちゃん?」





「ぶ、ぶひぃ~!わ、分かりました!ど、どうぞこちらへ。はぁはぁ。」





ミズホがそう命じると門番は門を番するという自分の仕事を放棄し城の中へ俺たちを招き入れた。


ぶひぃーって。そういった感じになるのか・・・こりゃ操られるのは嫌だな。なんかはぁはぁしてるし。

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