第68話 10秒スキル

キツく締められた拘束を解かれ喜んでいる亮汰に俺はもう一つ気になっていた事を尋ねてみた。





「見張りは付けるからな。あ、そういえば亮汰。お前のスキルに天上天下ってのがあったな?あれはどんなスキルなんだ?」





「ッッ!?なんでそれを!?まだ誰にも言ってねぇのに・・・」





亮汰は目を丸くして驚いている。この状況を打破出来るようなスキルだったら何か対策をしなくてはならないからな。





「俺には視えるんだよ。」





「見える・・・?まぁいいや。これからの事はわかんねぇけど銀次や西城たちの敵に回るつもりは無いからよ!俺の天上天下は10秒間無敵になれるスキルだ!スゲーだろ!?」





亮汰は腰に手を当てて胸を張った。無敵にってずいぶんと抽象的だな。文字通り無敵だとしたらかなり使い勝手がよさそうだが・・・10秒ねぇ。





「10秒間無敵・・・か。試してみてもいいか?」





「おう!いいぜ!って言っても銀次のへなちょこパンチじゃスキル使わなくてもノーダメなんじゃねぇか!?」








「加瀬・・・あんた後悔するで・・・」





「カセ殿。残念です。」





「あら~。知らないって怖いわね~。」





「ガハハ!ご愁傷様って奴だな!」





「そんな事言ってる相手に貴様は気絶させられたんだがな。」



「?」



最後のプラネを含む皆の言葉の意味が分かっていないようで亮汰は何言ってんだ?みたいな表情をしている。


一同が憐みの顔を亮汰に向けているな。ここにハビナがいたら亮汰は殴られてたかもしれないな。あいつは俺を馬鹿にしたりするやつに容赦ないからな。





だが亮汰の反応も仕方が無い。亮汰は王国にいた頃の俺しか知らないんだから。

と言っても舐められっぱなしも癪だよな。





「亮汰。一度自分の力を試させて欲しい。お前のスキルは使わないで一発受けて貰えないか?」





「お!しょうがねぇな!いいぜ!」





周りはあ~あという顔をしてるがいいだろ。社会勉強だよ。


俺は亮汰を連れて一度表へ出て適当な距離を取らせた。





「よし、この辺でいいだろう。スキルは使うなよ?」





「おう!いつでもこい!」





「じゃあ行く・・・ぞ!」





俺はそう言いながら地面を蹴った。ステータス変動は使わない。


以前亮汰に当身を入れた時に素で十分すぎる事が分かったからだ。








「あ?消え・・・」





「ふっ!」





「なっ!いつの間に・・・ぐへぇっ!!」





俺はまっすぐ亮汰に向かって行って腹に掌底を入れた。


ドンッ!という体に響くような音と共に亮汰は5、6メートル吹っ飛んでいった。


かなり抑えたんだがな。亮汰がスピードについてこれずに攻撃の瞬間に防御を固めなかったせいだろう。





「ちょっ・・・おま・・ホントに銀次・・・か?ガハッ!」





綺麗に入ってしまったからな。あばらが逝ってしまったかもしれないな。仕方がない。





「ライーザさん、回復を頼んでもいいか?」





「わかりました。・・・カセ殿?これからは相手の所作、雰囲気等で対峙する者の力量を量れるようにしなくてはなりませんよ?」





「あ、ああ・・・わかったから・・・回復して・・くれ・・よ・・・!」





「『清らかなる水の精霊よ。我に従い癒しの水泡にて彼の者の傷を復し癒したまえ。<<ツヴァイヒーリング>>』」





ライーザさんが中級回復魔法を唱えると亮汰の青ざめていた顔の色がすーっと戻ってきた。やっぱり回復魔法が使えるといいな。マジックギフトでは怪我は治せないし。





「助かった・・・って銀次!お前もめちゃめちゃ強くなってんじゃねーか!勇人と同じ・・いや、それより余裕で強えーぞ!・・・あ!お前分かってて一発殴らせろなんて言ったな!?」





ばれたか。





「そんな事はないぞ。まあ色々あったからな。以前は役立たずだったからどれだけ勇者加瀬に通じるかと思ってな。とりあえず今と同じ力でいくからスキルを使ってみてくれ。」





「上手くごまかしやがったな?まぁいいや!じゃあ俺の新スキル行くぜ!・・・[天上天下てんじょうてんげ]!」








亮汰がスキルを使うと亮汰を中心に一瞬強い風が吹き出したような感覚があった。





「・・・これは。」





「ほう・・・」





「あら~。綺麗ね~?」





獣人たちも亮汰の変化に驚いているようだ。





「カセ殿!その姿は!」





「加瀬!なんやあんた!どっかの戦闘民族がキレたみたいになっとるやん!」





そう。向こうの世界で大人気アニメの主人公がある事がきっかけで変身して超パワーアップするんだがそれと同じ身体が金色に輝いている。





「スゲーだろ!?なぁ!試すなら早くしろって!10秒しか持たないって言っただろ!?」





亮汰は自慢げに腰に手を当て胸を張るがすぐに焦りだした。時間制限があるんだったな。





「わかった。じゃあもう一度行くぞ!」





俺はさきほどと同じように地面を蹴り亮汰に近づくと掌底を繰り出した。





ドンッ!





「!?・・・なるほど。無敵ってのはあながち間違いじゃないみたいだな。」





さっきは思いっきり吹っ飛んで行った亮汰だったが今回は俺の攻撃を受け平然としてニヤリと笑った。





「へへ!そうだろ!?試してねぇが魔法も効かないと思うぜ!」





そりゃ凄い。まさに無敵だな。





「と言っても攻撃力はいつもと変わらないし時間が過ぎると・・・おっと・・・時間・・切れ・・・だ・・後は・・頼む・・・ぜ。」





そう言いながら亮汰はバタンと仰向けに倒れて気を失った。





「加瀬!大丈夫か!?」





「カセ殿!・・・駄目だ。回復魔法は効きませんね。」





・・・無敵時間を過ぎるとぶっ倒れるのか。ピンチになっても10秒間で完全に打開&離脱が出来なければ意味が無いんじゃないか?


前言撤回だ。このスキルはえらい使い勝手が悪いな。








ぶっ倒れた亮汰を横にさせた俺たちはどう動くか思案していた。


亮汰の話では王女と東雲は自室に、メーシーは俺たちが召喚された時に初めて来たあの離塔に隔離されているらしい。





「やはり奴隷解放の状況によって王女奪還組の動きも変わって来るな。」





「そうね~。プラネ姐さんの話からすると今や王国でも奴隷は貴重な働き手にもなってるみたいだしやすやすと解放してくれなさそうね~。」





レオンの発言にミズホも同意する。確かに王国にとっては賃金を払わなくても使える奴隷は手放したくないだろうな。





「恐らく王都には2百~3百程の奴隷がいるはずだ。その人数を飛ばせる魔法陣となると・・・ギンジ殿の負担は想像に難しくない。」





「わかった。その規模だと回復に時間がかかりそうだ。そっちは出来るだけ早めに取りかかる事にしよう。そうだな・・・明日には転移魔法陣の方はやっておく。」





(いくら銀次でもその規模の転移魔法陣に魔力を流せば丸一日、下手をすれば丸二日は動けなくなるだろう。そして起動は一度きり。その後は再度魔力を流さねば使えなくなる可能性が高い。)





そうか・・・リオウが言うのならそうなる可能性が高そうだ。なんといってもリオウが創った魔法だからな。


プラネとリオウの意見を聞き俺はすぐに取り掛かる事を決めた。





「戦闘になってしまった場合はレオンさんと僕が指揮を務める事にした。こちらの兵の数もそれなりになるだろうからレオンさんだけでは指揮が届かないからね。」





「儂は奴隷たちがこっちへ転移してきた時の取りまとめをハナちゃんたちとしようと思うとるんじゃが。」





「ああ。そういった役目が必要だよな。頼んだ。」





「私は母上と共に遊撃に参加する!久しぶりに母上の闘いを間近で見れる!」





亮汰の尋問が終わってガジュージとサルパ、ハビナももう一度会議に参加していた。


各々が自分たちの役割をこなそうと頑張っている。絶対に成功させなくてはな。

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