第67話 筋肉男の葛藤




          須藤銀次side








全部俺が貰ってやる。そう言って俺を絶望の底に叩き落としたやつ。


神宮寺勇人が今の王国を取り仕切っているのか。


だとすればすぐにでも王を名乗りそうなもんだけどそれをしない理由が何かあるのか?





亮汰への尋問は続いているが暴れたりする事はなくあらかた知っている事は吐いているようだ。


もう少し手こずるかと思ったが思いのほか亮汰は王国、というか勇人に対して不満が溜まっているらしい。





要約すると勇人は亮汰に対して総帥補佐という地位を与えはしたが政治や軍の実質的は支配権はほとんどが勇人一人が握っているという事だった。


勇人曰く「亮汰には自由に動いて貰いたい。」という話らしい。





勇者の名前と総帥補佐の名前で街ではそれなりに好き勝手出来た様だが城では兵一人も動かせない様だ。


この話だとさっきの私兵もいらないんじゃなくて付けて貰えなかった可能性が高いな。





「俺の知ってる事はこれで全部だ。ここまで素直に話してみるとあの王国に戻る意味があんのかって気がしてくるぜ!」





「・・・なんかあんたちょっとかわいそうやな。」





「片や王国の実質トップ、片や街のガキ大将って感じよね~?」





「やめろ!俺をそんな目でみるんじゃねぇ!」





さて、どうしたものか?初めの予想通り亮汰は俺を裏切って殺そうとしていたわけではなさそうだ。


よく思い出してみると俺たちがあの外敵に襲われた時、西城と亮汰は必死に俺を助けに来ようとしてくれていたな。これであれも演技だったら相当なものだ。





レオンやプラネ、ミズホの獣人や西城たちがこれからどうする?と目で合図してきたので俺はスッと亮汰の前に姿を現した。





「久しぶりだな、亮汰。相変わらずデカい声だな?」





「誰だ?お前?俺の事を流暢に名前で呼ぶ奴はほとんど・・・って銀次!?お前銀次か!?死んだんじゃ・・・!お前も生きてたのか!西城!知ってたんなら早く教えやがれ!」





亮汰は目を涙ぐませながら俺を見ている。生きていたのを知って良かったと思っている目だ。





「俺自身死んだと思ったさ。だが俺は生き延びた。俺を裏切った奴らに逆襲するためにな!」





「ウチらは暗部に襲われて大森林に逃げ込んだ後は須藤と獣人の皆に助けて貰ったんや。」





「そうか・・・それでお前たちが奴隷獣人の解放を獣人と一緒にやるって話なんだな?」





「ああ。お前は人質だ。人質をどうにかしたら交渉も何も無いからな。おとなしくしてこっちの質問に正確に答えるなら手出しはしない。」





俺はそう言いながら亮汰を睨みつけると亮汰は少しぶるっと震えたように見えた。





「ぎ、銀次・・・お前少し見ない間に変わったな。若干びびっちまった・・・」





「変わりもするさ。あんな目に合わされたら誰だってな!いいか?亮汰。さっきも言ったが質問に正確に答えろ。」





「あ、ああ。わかった!約束するぜ・・・!」





俺はゆっくりだが出来る限り力強い口調で亮汰に問いかけた。





「お前は俺を裏切ったのか?」





「・・・は?銀次、お前何言ってんだ?裏切った?俺が?お前を?いつの話だ?」





亮汰は俺の問いに対してぽかんと口を開けている。質問の意味が分かっていない感じだ。やっぱり亮汰は白なのか。





「はぁ・・・そんな気がしたよ。いいか?あのビシエ遺跡で俺たちが外敵に襲われた時の話だよ。」





俺は亮汰にあの時とその後の顛末を話した。何度も同じ話をするのは疲れる。





「・・・なんだって!?真弓ちゃんが誤射したのは見てたけどよ・・・!あの暗い霧の中で勇人が・・・チッ!なんで同期にそんなひでぇ事が出来るんだよ!そりゃあいつは前々から手段を選ばない感じだったけど・・・!」





「そんなもの俺が一番聞きたい!だから俺が味わった痛み、苦しみ、絶望、それをあいつらにも味あわせてやるんだよ!」





「・・・そうか。だけどよ!真弓ちゃんがお前を裏切ったって本気で思ってんのか!?あの子がそんな事出来るはずが無いってのを分かってんだろ!?」





「知るかよ!西城にもいったが俺の腕は焼かれた!頭では否定したとしてもそれが事実であり真実だろうが!」





「須藤・・・加瀬・・・」





西城は悲しそうな顔をしてうつむいている。これも以前と同じで平行線だ。ここで議論しても仕方がない。あくまで俺は自分の気持ちで動く。





「俺は・・・この後どうすりゃいいんだ?銀次にそんな事した勇人の所になんか戻れねぇよ!俺もいつ切られるかわかりゃしねぇ!」





亮汰は頭を抱えている。こんな話を聞けば無理もないが。





「どうしたいかは自分で決めろ。どっちにしても亮汰は王国側との交渉材料だ。それまでは軟禁させて貰う。これより5日後に王国側に書状を叩きつける。」





「下手ないたずらだと取られかねなくはありませんか?」





ライーザさんは心配そうな顔をして言うがまあ普通はそうかも知れない。


だが勇人に届けば確実にいたずらではないという事がわかる。書状を日本語で書くからな。


届けば確実に西城か亮汰が書いたと気が付くだろう。俺の事は死んだと思っている様だし。





「断言するがそれは無い。まあ心配しないでくれ。とりあえず・・・亮汰はこの倉庫でしばらく生活してもらう。飯は届けるから変な気は起こすんじゃない。何かあったら完全に拘束するからな。」





「ああ・・・そんな気はねぇよ。」





とりあえず拘束を解いてやる。亮汰はやっとだぜと言いながら背伸びをした。





そういえば亮汰には聞きたいことがもう一つあったな。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る