第65話 尋問
俺たちは俺の屋敷の一角に倉庫の様な建物に亮汰を連れてきていた。まぁ屋敷はまだ建設中なんだが。
亮汰は手を後ろ手で縛り足も自由が効かないようにしてある。こいつもまがりなりに勇者だからな。馬鹿力だしそこは俺が厳重に拘束した。
「う、う~ん・・・ここは・・・?なっ・・・!体が動かねぇ!どうなってやがる!」
亮汰が目覚めたようだ。初めはミズホとサルパに尋問を頼もうと思っていたのだがインパクトに欠けるだろうとミズホ、レオン、プラネが来てくれた。
家族水入らずの時間を申し訳ないな。
確かにプラネがいた方が話が早いかもしれない。俺とライーザさんと西城は隠れて見ている事にした。後々直接話を聞くつもりだがとりあえずはだ。
「あら~。目覚めたかしら~。」
「ようこそ!大森林へ!と、言いたい所だが貴様の返答しだいでは・・・」
「ようやくお目覚めか。総帥補佐のリョウタ殿。」
3人にはあらかじめ話は通してある。後は亮汰がどう出るか、だな。
「誰だ!お前ら!じゅ、獣人!?あ!お前は戦闘奴隷の!それに大森林だって!?クソッ!どうなってやがる!」
「落ち着け!俺はレオン・バーサス。獣老の一人だ!確認する。貴様はリョウタ・カセ。ヴァルハート王国軍の総帥補佐で間違いないか!?」
「レオン・・・マジかよ・・・あ、ああ。そうだ・・・!俺は勇者だぞ!それをわかっててこんな事しやがって!ヴァルハートが黙ってねぇぞ!」
レオンの迫力のある言葉に亮汰は若干びびってる様子だな。無理もない。
自分たちが奴隷として扱ってきた獣人の代表たちだ。その獣人側に捕らわれたのなら何をされてもおかしくないと考えるのが普通だろう。
「私の事は知っているな。質問に答えて貰おう。分かっているとは思うが奴隷の魔具は解除された。いつでも貴様を攻撃できる事を忘れるな。」
「なんだって・・・!魔具を解除・・・チッ!帝国の奴ら、何が自分たちしか解除できない。だよ!」
「言っておくけどここにいる3人はみ~んなあなたより強いわよ~?試してみてもいいけど~?」
「・・・この姉ちゃんも獣人かよ・・・わかった。話せることは話す。目的はなんだ?」
プラネとミズホの脅しに亮汰は観念したようだ。暴れなかっただけ誉めてやろう。
そうなった場合力ずくで吐かせる必要があったからな。事と次第によっては俺が尋問から拷問に変えてやる。
「我らの目的はまずヴァルハートにいる奴隷獣人の解放だ。最終的には帝国の同胞も解放して貰う。」
「・・・奴隷の解放か。わかった。俺が口を聞いてやるよ。」
ジャキ!
なぜか尊大な態度の亮汰にミズホが突然大鎌を取り出し首にあてがった。
「多少強引にやらせてもらうわよ~。大前提としてこれは交渉じゃなくて要求なの。あなたはその為の材料なのよ?そこを勘違いしないでね~?」
「・・・ヒッ!わ、わかった・・・!助けてくれ!なんでもする!俺はまだ死にたくねぇ!」
ミズホの口調はやわらかいが殺気のこもった言葉が効いてるのか急に態度を軟化させた。敵陣のど真ん中で生殺与奪を握られているという現実にやっと気づいたようだな。
初めは獣人だけに任せて正解だったな。俺たち、というか西城とライーザさんがいたら助けて貰えると思ってここまではいかなかっただろう。
「その痴態、王国軍の№2とは思えんな。まあいい、まずは一つ目だ。現在ヴァルハートに滞在している黒い甲冑を着たやつらは何者だ?」
「チッ・・・黒騎士たちの事か・・・あいつらは一月程前にヴァルハートにやってきた帝国軍のエリートたちらしい。はっきり言って強いぜ。殴り合いなら俺より少し下かってぐらいだな。」
プラネの質問に亮汰は少し悔しそうに話した。黒騎士、か。
勇者と渡り合うエリートたちか。亮汰としては面白くないのかもしれないな。
帝国は強さ至上主義だと聞いていた。自ずと弱い奴は淘汰させていくわけか。
「それと情報によると妙な被り物をした集団がいるらしいな!そいつらは何だ?」
西城たちが襲われたと言うやつらだ。ライーザさんも気になる様子で亮汰を見つめている。
「被り物?ああ、多分だが勇人と杏奈ちゃん、総帥とその付き人の私兵じゃないか?元騎士団が多く引き抜かれて作ったとか聞いた気がする。確か暗部って呼んでたはずだけど・・・すまんが俺はあまり詳しくは知らない。本当だ!」
「暗部・・元騎士団・・・やはり・・・!でもなぜ・・・」
「ライーザさん・・・」
ライーザさんは予想はしていたようだがやはりショックはある様だ。西城もそんなライーザさんを気の毒そうにして見ている。
暗部か。何か嫌な響きだな。
「あなたには同じような私兵はいないのかしら~?」
「俺はいらねぇって断ったんだ!部隊を率いるのなんてめんどくせぇからな!」
亮汰らしいと言えば亮汰らしいな。
「まぁいい!では我らからの最後の質問だ!今ヴァルハートにいる一番の実力者は誰だ!?」
おや、俺はこれは聞けとは言っていないぞ。レオンの個人的な興味だろうな。
「実力者・・一番強い奴って事だよな?俺だ、と言いたい所だがそこは勇人、総帥だろうな。あいつ少し前から急に強くなりやがってどこでレベルを上げたのかわからねぇが・・・」
「そうか!プラネはそいつを見た事はあるか!?」
「一度だけ魔獣討伐で戦う姿を見た事がある。若い割にそこそこといった所だ。成熟してからはわからないが。今の所はレオンや私が負ける相手ではないだろう。」
「・・・え?あんたらそんなに強いのかよ!いや、ハッタリだな!俺たちは勇者だぞ!」
プラネの言葉に亮汰は困惑しているようだ。残念だったな。こいつら獣人は本当に強い。獣人と戦争になったら人間は数の力でどうにか戦えるがタイマンで獣人に勝つのは難しいだろう。
「ハッタリじゃないで!獣人、特に獣老と呼ばれてるこの人たちは半端やないで!」
「私とて現状、正攻法では勝てませんよ。カセ殿。」
「なっ・・・!!お前!西城!?それにライーザさんまで・・・!報告じゃあ俺たちを裏切って生死不明だって・・・生きてたのかよ!」
ここで西城とライーザさんを投入した。王国じゃこの二人は裏切った事になっているのか。そして生死不明の報告か。西城達の話では被り物の集団、暗部は二人が生きて逃げた事を知っているはずだが・・・
「裏切ったのはそっちやろ!?ウチもライーザさんも急にその暗部だか臀部だかに襲われたんや!そのせいでメーシーせんせはウチらの盾になって・・・」
「う、嘘だ!俺はお前らが帝国との同盟が気に入らなくて王を殺したって・・・」
「なんやそれ!ウチらがそんな事をするはずないやん!!」
情報が事実と異なって伝わっている・・・?誰かが西城たちを嵌めようとしていた?それとも・・・
「いや、待て・・・・今、王が殺されたと言わなかったか・・・!?」
ライーザさんはいつも俺たち勇者に使っていた敬語も忘れて亮汰に詰め寄った。
今聞いた事実が間違いであって欲しいと願うかの様な表情をしている。
「ああ・・・西城たち二人がいなくなった日の夜に自室で死んでるのが見つかった。その現場には二人の髪の毛が見つかったって・・・」
ドカァ!!
ライーザさんが突然部屋の壁を思いっきり殴った。思いっきり歯を食いしばり殴った拳から血が流れている。
「私は!私たちは誓って王殺しなどしていないっ!!私の誇りに泥を塗ったやつ!絶対に許すものか!!」
絶叫に近い声でライーザさんは言った。騎士として国へ身も心も仕えてきた誇りを踏みにじられたのだから相当な思いなのだろう。
「俺だってライーザさんがそんな事したなんて何かの間違いだと思った・・・!でも俺には・・・」
「加瀬!あんたアホちゃう!?向こうの世界ならいざ知らずこっちで髪の毛って!DNA鑑定なんて出来へんやろ!そんな事も忘れる程異世界ボケしとったんか!?」
「あ・・・!そう・・だな・・・」
それにしても王が殺された、か。じゃあ今のヴァルハートの国王は誰なんだ?
普通に考えれば王女なんだろうが。
「あら~。それじゃ~今ヴァルハートは誰が統治してるのかしら~?」
おお、ミズホが俺の思っている事をそのまま聞いてくれた。やるな。
「この事はまだ公にされてないみてぇだ。王女もふさぎ込んじまって今は帝国と共同で勇人が暫定的に取り仕切ってるらしい。ここ最近あいつも忙しいらしくてほとんど会ってねぇが・・・」
「ジングウジ殿が?そうか・・・」
勇人。俺が裏切られた時あいつの言っていた言葉・・・
これでお前は終わりだ。以前も言ったが後は全部俺が貰ってやるよ。
全部俺が貰ってやる。確かにあいつはそう言った。
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