第64話 作戦
「戦争やって!?須藤!あんたの気持ちはわかる!でもそんな帝国みたいな事する奴やないやろ!」
「ギンジ殿が恨みを持っている事は承知です!ですが!」
西城とライーザさんは声を荒げて問い詰めてくる。王国にいる王女や東雲が心配なんだろう。
俺は王都の現状を二人に説明した。
「そんな・・・さらに税金を上げるなんて王は何を考えているんだ!」
「黒い甲冑の騎士なんてウチは知らんなぁ。」
二人のいた頃とは急速に情勢が変わっているらしい。
「ほう。ヴァルハートか。そこの騎士団長がいない王国に歯ごたえがあるの疑問だがな。」
「ギンさんの行くところが私の行くところだ!戦争?やってやろうじゃないか!」
「レオンさんがやると言うのなら僕も出る。それにギンジさんの頼みとあればね。」
「人間とやりあうのは久しぶりね~。でも本当にいいのかしら~。」
対して獣人たちはやる気らしい。獣人が人間にされてきた事を思えばわからないでもない。
「だが捕らわれている仲間たちは・・・」
「・・・・」
プラネの発言に皆考え込む。獣人たちは非常に仲間意識の強い種族だ。仲間の事を思うとなかなか踏み出せなくなるようだな。
「まぁ焦らないでくれ。戦争を仕掛けるとは言ったものの本気でそれを望んでいる訳じゃない。戦闘は避けられない可能性があるという事だ。」
「では何が目的なんじゃ?ギンジ殿に限って領地が欲しいとかではあるまい。」
「そんなものは欲しくはないさ。ちゃんと説明する。まずここに転がってる人間、こいつは俺や西城と同じようにこの世界に召喚された勇者だ。同期ってやつだ。」
「!?何者かと思っていたが・・・なんだかだらしない顔しとるのぅ。」
「ああ、なんとなく下品だ!」
サルパとハビナが亮汰に対して辛辣な事を言う。起きてたら憤慨しているだろうな。
「まぁこいつも仮にも勇者だ。ヴァルハートに取って勇者は大きな存在だ。現状、俺・・・は別にそうでもないだろうが西城が逃亡したって事は向こうにとって痛いはずだ。それにライーザさんもいなくなった。」
「ギンジ殿が行方不明になった時も騒ぎになりました!市民には不安を煽る恐れがある為公表されませんでしたが・・・」
「そうや!王女様やまゆまゆ、せんせだってずっと元気なくなってしまって・・・」
西城とライーザさんがフォローしているがそれは今はいい。
「人によるだろ。お前たち二人は王国にとって特別だ。それに亮汰はいわばヴァルハート王国帝国支部の重鎮だ。名前だけは総帥補佐なんだろ?プラネ。」
「そうですね。建前は権力を持っている事になっている。」
勇人に次いで実質№2だ。実質であって本質はどうかは知らないがな。帝国軍を好き勝手に動かすなんてことは出来ないだろう。
「その権力者の解放を条件にして王都にいる奴隷獣人の解放を要求する。」
「!?」
「なるほどのう。」
「ギンジ殿!」
「あら~。建前でも軍の№2。無下には出来ず交渉せざるを得ないって訳ね~。」
獣人たちは諦めかけていた仲間の解放という事実に期待感が高まっているようだな。亮汰を拉致出来たのは思いのほか大きかった。
「そういう事だ。その隙に王都にいるメーシー、王女を奪還する。東雲は・・・西城、お前の好きにしろ。」
そう。この作戦のもう一つの目的はライーザさんと西城の願いを叶えるためでもある。特にメーシーについては獣人たちを真の意味で開放する鍵になると考えている。
「須藤!あんた忘れてなかったんやね!」
「ギンジ殿・・・ありがとうございます!」
先程とはうって変って二人も笑顔を見せた。
「交渉の場はヴァルハートと大森林の間、草原地帯が良いと思っている。その際に西城とライーザさんには交渉に当たって貰いたい。人間に対して奴隷解放を勇者と元騎士団長が獣人と共に叫ぶ。かなり効果はあると思う。」
「ウチもしばらく大森林にいて獣人の皆がホントにええ人たちってのは重々承知や!ええよ!やったるで!」
西城は快く引き受けてくれた。正直こいつが俺を裏切った連中と関係が無くて良かったと思ってしまった。そのくらい西城の笑顔は眩しく可愛いものだった。
「だがそれをして交渉に失敗すればお前たちは王国に戻る事は不可能になるぞ。それも分かっているのか?」
「・・・でしょうね。だが先のギンジ殿が説明した状態の王国では未来はありません。王女様達さえ奪還できればもう一度・・・」
「それについては亮汰が情報を知っているのを願うばかりだな。細かい所はまた詰めようと思う。何か質問は無いか?」
「ハイ!ギンさん、質問です!交渉に成功した場合大量の獣人をどうやって大森林まで移送させるのだ!?」
俺が促すとハビナは手をビシっと上げてそう質問した。
「交渉場所である草原地帯の獣人側に転移魔法陣をあらかじめ設置しておく。かなり大きめの魔法陣だ。王国側が奴隷を解放した場合は亮汰と引き換えに転移魔法陣に乗って貰えばそのまま奪還だ。転移先は・・・ほとんど住人のいない俺の領地でいいだろう。」
「なるほど。転移魔法陣ならばとりあえずでも乗せてしまえば仮に人間が交渉に応じたふりをして背後から襲って来ても獣人たちは既にいない、と。」
「おお!そういう事か!ガジュージ君はギンさんの意図を理解しているのか!流石だ!だがそんな大規模な転移魔法陣ではギンさんの負担が大きいのでは?」
ガジュージが皆にも分かり易いように補足してくれた。というかハビナ以外は分かってただろ。
「俺が言いだした事だからな。それにこの間の各獣老間のインフラ整備で魔力量も鍛えられたしコツも覚えた。ああ、そういえばスララ。あと5日間で転移を最低でも往復分使ってバテないように鍛えておけ。俺以外にちゃんと飛べるやつがいないとマズイ。」
「あい!特訓なのですね!魔力を使い切ってご主人様に補給して貰うのです!」
魔力量を増やすためには空にしないといけない。最近知ったのだが普通はギリギリでセーブがかかってしまうが意志の力で使い果たす事が出来る様だ。その後行動不能になるが。スララには頑張って貰うしかないな。
「奴隷解放が首尾よくいけばいいが仮に決裂した場合戦闘になる可能性が高い。その際には俺と西城、ライーザさんは王都へ飛んでいるから後は任せなくてはならない。その時はレオン、指揮を頼めるか?」
「うむ!任されよう!ガハハ!腕が鳴るぞ!」
あくまで戦闘になった場合なんだが。獣人、特に獅子族は戦いを楽しむ傾向にあるからな。
交渉が成功するしないにしても俺の存在は隠しておきたい。あいつが出てくるなら別だが・・・
「でも戦いになったら戦闘奴隷として向こうに捕らわれている獣人と戦わなあかんのやろ?獣人同士でそんなんツラ過ぎやんか・・・」
西城はそう言いながら落ち込んでいる。
「その点は心配いらないと思う。私が見た限りでは獣人の戦闘奴隷はほとんどいなかった。主に完全奴隷、命令に忠実な意識の無い奴隷だな。後は性奴隷だ。完全奴隷は戦闘には向かない、護衛ぐらいは出来るが・・・あなたはギンジ殿の様に人間でも優しい人の様だ。ありがとう。」
「そ、そんな事・・・ただウチは・・・」
プラネがそう言いながら西城の頭を撫でている。西城は照れている様な恥ずかしそうな顔をしているな。
「よし、それじゃあ詳しい事はまた明日色々伝える。俺は
俺の問いに4人がうなずいてくれた。
本当は尋問管としてレオンかプラネに頼もうかと思ったが久しぶりの家族の再会を邪魔しちゃ悪いからな。
俺はその4人と共に自分の領地へと転移した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます