第63話 決断
「貴様は何者だ!?何の目的でこやつを拉致した?それとなぜ人間がわが娘ハビナと夫レオンを知っている!?」
「あまり騒ぐな。亮汰が起きる。まぁどっちみち起こすんだが・・・とりあえず説明する。信じるかどうかはあんたが決めろ。というか俺に何かを感じたからこそ急な芝居に乗ったんだろう?」
俺は自分も勇者の一人である事、勇者の中のいずれかもしくは複数人に裏切られ大森林へ落とされた事、そこでドラゴンと契約しハビナたちと出会い、色々あってハビナが俺の隷属者になっている事をざっくり話した。
「・・・勇者と言えども人間にハビナはおろか我が夫レオンが敗れたなど信じがたいが・・・まさか本当にドラゴンと・・・?だが先程の動き、転移魔法、只者では無い様だ。私もどうにかして大森林へ戻る方法を探していたがあいにくこの魔具のせいで身動きが取れないのだ。幸い戦闘力を買われ意識を奪われる事も性奴隷にされる事も無かったが・・・」
「そうか。もしかしたらその魔具を外すことが出来るかも知れない。だが賭けだ。失敗した場合どうなるかわからない。それでも試してもいいか?」
「・・・わかった。もとよりこうなった以上死は恐れていない。それにハビナはよほど貴殿を気に入っているらしいな。でなければレオンが仮に勝てないとしてもその隷属関係に黙ってはいまい。」
そう言いながらプラネは警戒を解きそっと目を閉じた。俺はプラネの首に装着された魔具の魔力が込められた部分、おそらくこれが核だろう。そこにマジックギフトの要領で魔力を送ってみた。
「・・・送る事は出来てるみたいだがこれでは駄目なようだな。」
いまいちしっくり来ないのだ。長い時間かければいけるのかも知れないが俺の魔力が無くなりそうだ。
(普通の魔力贈与では駄目なのかもしれぬぞ。普通の魔力では。)
リオウが焦らすような発言をした。普通の魔力では・・・ああ、でも大丈夫なのか?何かあっても俺には回復魔法が使えない。魔力の回復は出来るが・・・
「ちょっと危険かも知れないが・・・」
「かまわない。私は貴殿を魂で信じよう。」
プラネは目を閉じながらも即答した。そこまで言われたら失敗するわけにはいかないな。俺は意識を集中して赤い魔力を魔具の核に送り込んだ。
ビキッ パリン!
俺が赤い魔力を送りこんですぐに魔具の核は内側から乾いた音を立てて割れた。
よし!やったか。簡易版紅魔爆掌こうまばくしょうだ。使いづらいと思っていたスキルが役に立つとはな。
「こ、これは・・・魔具が!?まさか、本当に・・・!」
「どうだ?魔具の拘束は解けたのか?」
「ああ、おかげ様で・・・なっ!!」
ジャキン!
プラネは言葉を言い終わる前より速く、両手の手甲から爪を出し俺の背後へ回り込み首筋に爪をあてがった。
「・・・なんの真似だ?一応は恩人のはずだが?」
「なぜ回避や反撃をしてこない。貴殿ならばどちらも出来るはず。」
「なぜって殺気というか当てる気がまるでないだろう?仮に当てても恐らく爪は通らないな。それにあんたはさっき魂で信じると言った。獣人がそんな言葉を使った後に即裏切るなんてありえない。」
プラネはふっと笑い爪を下して俺に跪いた。
「試すような真似をして申し訳ありません。本当にあなたは獣人の事をよくお知りだ。それと遅れましたが助けて頂き誠に感謝致します。」
「構わない。とりあえず|こいつ(亮汰)を確保したし色々聞きたい事がある。一度大森林へ戻るか?ハビナやレオンも喜ぶだろう。」
俺がそう言うとプラネは予想外に首を振り言葉を続けた。
「いえ、私の仲間の獣人が城に捕らわれています。私が抜けだしたと知ったら彼らは始末されるか完全奴隷にされてしまうでしょう。」
「ではどうする?戻ったとしてまた魔具を付けられたら同じことだ。」
「奴隷のままの振りをしていて助け出す機会を探るつもりです。」
うーん。運よく奴隷獣人たちを連れ出せたとしても魔具を無効化出来なくては意味がない。奴隷を一列に並べて俺が順番に無効化させていくのか。出来なくはないが・・・やはりネックはどうやって王都の獣人を連れ出すかだよな。
・・・ここは肚を決めるか。上手くいけば俺の・・・
「俺に考えがある。さっきと同じ、いやそれ以上に上手くいく保障は無く危険なものになるだろう。だが上手くいけばこの国から奴隷をなくす事が出来るかも知れない。そして俺は全力を尽くすことを誓おう。」
「・・・わかりました。私の家族が信じた貴殿を信じましょう。」
「ありがたい。よし、紹介が遅れたな。俺の名前は須藤銀次。人間で、勇者で、獣老だ。よろしく頼む。」
「こちらこそよろしくお願いします。ギンジ殿。私の事はなぜかお分かりの様ですね。不思議な感覚だ。先程あったばかりなのになぜか信じる事が出来る。」
俺が握手を求めた手をプラネも迷うことなく手を差し出し握り返してくれた。
人が人を信じる心というものは理屈ではないのだろう。それは獣人だって同じだ。
これから俺のやろうとしている事でヴァルハート王国、大森林の両方が大きく変わる事になるだろう。その責任を俺が取れるかは分からない。
でも俺はやると決めた。その為に手に入れた力だ。
「ところで今までの経験上、あんた、プラネと呼ばせて貰うがいいか?プラネと亮汰が不在になった場合どの程度の時間で騒ぎになる?」
「こやつはよく酒を飲みに街をぶらついたり女性の所を訪問したりで色々と遊び歩いているから招集が無い限りほとんどいなくてもバレないでしょう。一週間、少なく見ても5日でしょうか。私もこやつに目を付けられてからは連れられていたので同様かと。」
なるほど。亮汰のいい加減さが役に立ってくれたな。正直そこまで時間が取れるとは思っていなかった。
「わかった。とりあえず大森林まで戻ろう。スララ、頼めるか?」
「あい!やっと出番なのですね!忘れられてしまったかと思ったのです!」
スララは体を犬が水を弾く時の様にブンブンと大きく振るとそのままゲートを起動しようとした。
「喋った・・・?普通の犬ではなかったのか・・・」
「ああ、こいつも俺と隷属関係になっている。そうだ、スララ。亮汰も忘れずに飛ばすんだぞ。」
「あい!・・・ホントは忘れてたのです!」
・・・・
スララの転移魔法により大森林の俺の領地に戻ってきた。
もう夜になっているのにもかかわらずリーダーのゲンを初め職人があわただしく動き俺の住居、いやこれは屋敷だな。屋敷を作ってくれている。
「こ、ここは・・・!大森林!本当に戻って来れたのか・・・!!」
プラネは目に涙を浮かべ喜びを噛みしめているようだ。しかしすぐに置いてきた仲間が気になるのか凛とした表情に戻った。
「プラネもまず自分の家族に会いたいだろう。レオンの所に行くとしよう。スララ、疲れている所悪いが主要な奴ら全員レオンの屋敷に集めてくれ。後で回復してやる。チーズもやるぞ。」
「わー!チーズ!あい!行ってきまーす!ワンワン!」
スララは喜んですっ飛んでいった。スララはチーズが好物らしくよくチーズを貰ってかじっている。
俺とプラネは設置してある魔法陣を使いレオンの屋敷へと転移した。その際に亮汰が目を覚ましそうになったので再度、当身で気絶させた。
屋敷へ着くと周囲の侍女や使用人らしき獣人たちがプラネを見るなり驚きそして歓喜の表情を浮かべている。中には気絶したやつもいたな。
屋敷内の部屋に入るなり奥の方から相当な勢いでドアを開け放ち走ってくる2人がいた。
レオンとハビナだ。
「は、母上!?母上!生きて・・・生きて帰って来てくれたのですね・・・!!」
「ああ、ギンジ殿のおかげでな。ただいま、ハビナ。」
ハビナは涙で顔をぐちゃぐちゃにしながらプラネに抱きついている。
久しぶりに、それも人間の奴隷にされた母親が帰ってきたのだ。無理もないか。
「プラネ、すまない。俺がふがいないばかりに・・・」
「いいのよ、レオン。あなたも獣老としての責務がある。先走って捕えられた私にこそ非がある。」
「いや、俺は・・・まずはギンジ殿、プラネを救って貰い誠に感謝する!異変、転移魔法陣に続きプラネまで・・・もう何をしたら報いる事が出来るのか想像も出来ぬ。」
「ギンさん!本当に、本当にありがとう!もう一生ついていく!絶対絶対だ!母上!私はこの人の嫁になるんだ!今は候補者の一人だが必ずなってみせるから!」
レオンとハビナ、それにプラネは俺に深々と頭を下げた。
「出来る事をやっただけだ。それに俺はあんた達に話がある。それについては他の奴らが集まってからにしよう。」
しばらく待っているとサルパ、ガジュージ、ミズホの獣老とスララが西城、ライーザさんを連れてやってきた。
獣老たちもプラネがいる事に驚き、そして喜んだ。
「集まったようだな。皆、夜にすまない。まず俺がこれから話すことはヴァルハート王国の人間に係る事が半分、獣人に係る事が半分だ。それに加えて俺の個人的な目的も入っている。よって選択はお前たちに任せる。」
「なんや、須藤。もったいぶって・・・ってそこに転がっとるの加瀬やないか!?一体どうなってんねん!?」
「カセ殿・・・!?ギンジ殿、あなたは一体何を・・・?」
「儂ら獣人はプラネ夫人の事もあるし助力する気概じゃが。」
「そうね~。ギンジ君は何をしようとしているのかしら~?まさか・・・」
西城とライーザさんは亮汰を見て混乱しているようだ。無理もない。
サルパ、ミズホを初め獣人たちは何かを察しているようだ。
「俺は5日後、ヴァルハートに戦争を仕掛ける。」
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