第62話 勇者と奴隷

「あいつは・・・!?亮汰じゃないか・・・!」





突然の同期の登場に思わず声が出てしまった。幸いこの程度の声では周りの喧騒にまぎれてばれなかったようだ。





亮汰の姿を目にしたとたん俺の心の中にドス黒い炎の様な感情が生まれたのを感じた。


いや、焦るな。ここで早まって亮汰をどうにかしたとしても手掛かりを失ってしまう可能性がある。





「あれがご主人様のお仲間なのですか・・・?少し意外なのです。」





(確かに5人の勇者の中の一人で間違いないな。)





リオウの言葉にスララはえー・・・という顔をしている。


リオウの話では勇者は5人、今の所俺、西城、亮汰か。という事は東雲、勇人、姫崎の内一人は勇者としてではなくこの世界に来たという事だ。





目の前にいる亮汰はなんというか荒れてるな。まぁ酒癖女癖が良いやつじゃ無かったのは確かだが。





「だからよ!俺の酒が飲めないってのはどういう了見だ!?ウィ~。勇人、じゃなかった神宮寺総帥の補佐を務める勇者リョウタだぞ!わかってんのか!お前がいくら強くてもその魔具を付けてる限り逆らえねぇんだよ!ヒック。」





勇人の補佐、だと?亮汰が?それは無い。大方そう言った名前の特攻隊長みたいなもんだろう。だが亮汰もそんな事に気が付かない程馬鹿じゃない・・・はずだ。


あえて乗っかって甘い汁を吸おうとする、そんな奴だ。





「私に与えられた命令は魔獣の殲滅。それ以外の命令は与えられていない。よって貴様の酒を飲む事は拒否する。」





「この野郎!ちょっと強くて、ちょっと・・・いやとんでもなく乳がデカいからっていい気になってんじゃねぇ!その魔具の命令を俺の言う事を聞けって書き換えてやる!」





「無駄だ。わかっているだろう?この魔具に命令を刻めるのは初めの一人だけ。それに忘れたのか?私の魔具に命令した魔術師を貴様の所の大将が気に入らないと打ち首にしただろう。さらに言うなれば意識を奪えば戦闘奴隷としての役目は果たせなくなるが。」





「チッ・・・!勇人の奴!余計な事しやがって!だが俺に手を出したら仲間の獣人がどうなるかはわかってるんだろうな!?」





「だからおとなしくしているだろう。大前提として人間に手は出せない。だがもし私の仲間に手を出せば・・・私は死を選ぶ。」





「クソッ!めんどくせぇ!せっかくの酒が台無しだぜ!もういい!なぁ~そっちの姉ちゃん、一緒に楽しもうぜ!」





あぁ~ん、リョウタ様~どこ触ってるんですか~もうエッチ~!








そう言いながら亮汰は別の女を口説き始めた。やはり勇者であり騎士団と帝国軍の幹部?の権力はそれなりなんだろう。その女もまんざらではないようだ。








・・・なるほどな。獣人を縛っている魔具は万能では無く何かしらの命令を魔具に刻んでその命令を遂行させる代物らしい。その命令は多岐に渡る様だが一番いいのは亮汰が言ったように言う事を聞けってやつだろう。


だがその命令にすると外で会った獣人のようにぼーっと指示を待つだけの奴隷になるのか。逆に魔獣の殲滅となれば意識がなければ無理だろう。そうすると他の命令には逆らえるって訳か。





それにしても奴隷の獣人はずいぶん凛としているんだな。亮汰が手を出さないって事は実力は亮汰より上って事か?いや、人間には手を出せないと言っていた。まぁ恒例の竜眼タイムだな。








リョウタ・カセ





人間 男性





レベル 25





物攻 210





魔攻  65





防  170





敏   90





スキル パワーナックル 闘気拳 天上天下





称号 転移者 勇者 








西城と比べてレベルが低いな。こいつ色々サボってたな?それでもレベル25でこのパワーは相変わらずだな。


それにスキルに天上天下ってのが増えているがなんだろう。こればっかりは分からないんだよな。


例の獣人は・・・見たところ獅子族の様だが・・・








プラネ・バーサス





獣人 獅子族 女性





レベル 60





物攻 460





魔攻 160





防  190





敏  290





スキル 殺撃流舞 ブーストダッシュ ファングクラッシュ 獅子の咆哮





称号  刹那の武人








・・・ッッ!?プラネって確かハビナの母親か!?それにこのスペック・・・レオンより強いってのは嘘じゃないな。


胸もあのハビナよりデカいとか。スキルも殺撃とか称号に刹那とか物騒なものが並んでいる。確かに戦闘で活用しないともったいないと思わせるようなスペックだ。





「どうしたのですか?ご主人様?あの獣人が何か?うーん、ハビナさんみたいな卑しい乳なのですね・・・それにどことなくハビナさんに似ているのですね。全くどうして獅子族って言うのは・・・」





スララが何やらブツブツ言っているがなんとなくハビナっぽいってわかるんだな。





「ああ。あれはハビナの母親だ。リオウ、あの魔具を無効化する事は出来ないのか?以前それらしい事言ってたよな?」





「それは本当ですか!?助けてあげたらハビナさんたちが喜びますね!ワンワン!」





(うむ。あれが魔力を用いて命令を刻んでいるとするならば銀次の魔力贈与で魔力を溢れさせればあるいは無効化もしくは上書きが出来るかもしれぬ。あくまで、かもしれぬと言うのを忘れるなよ。)





そうか。どれだけ万能なんだこの差し伸べる手マジックギフトは。いや、マジックギフトもそうだがやっぱり肝はオートMリカバーか。魔力を送っても自分が倒れたら意味無いしな。





「さて、どうするか・・・」





出来る事なら亮汰から色々情報を聞き出したい所だ。それとハビナの母親もどうにかしてやりたいが・・・まぁいい。ぶっつけ本番だ。





「スララ、俺にしっかりつかまっていろ。」





「あ、あい!」





俺はステータス変動で物攻と敏に数値を振った。それにより常人には目で追う事は出来ないだろうスピードで亮汰の隣に近づいた。





「おっとっと。すいませんね。足がもつれてしまって。」





「んだよ!気を付けろ!俺はゆうsy・・・がはっ。」





「何!今のは・・・!」





俺は亮汰の首筋に当身を入れ亮汰を気絶させた。俺が攻撃したのを悟られないように敏に値を振り、防御が高い亮汰にちゃんと通るように物攻にも振った。少し強く入れすぎたかもしれないが。


だが今の当身をハビナの母親、プラネは見えていたようだ。流石だな。





「悪いな、亮汰。ちょっと寝ててくれ。おーい。勇者様が飲み過ぎで倒れたみたいだ。ちょっとそこの獣人のお姉さん。城まで運ぶのを手伝ってくれ。勇者様の奴隷なんだろう?」





「あ、ああ・・・わかった。だが貴様は一体・・・」





あっけにとられているプラネに俺は小声で言った。





「ハビナとレオンの知り合いの者だ。あんたを解放出来るかも知れない。何、悪い様にはしない。それにこいつには個人的に聞きたい事が山ほどあるんでな。」





「!?・・・わかった!すぐに手伝おう!」





俺たちは酒場から亮汰を担ぎながら店の裏手に回った。そして人気のない事を確認して転移の竜言語魔法を発動する。行先はとりあえず例の草原だ。そのまま大森林へ行っても良かったが色々と確認しなければいけないことがある。








「なっ・・・!ここは王都近くの草原・・・?いったいなぜ?貴様はいったい何者だ!なぜハビナとレオンの名前を出した!?」





プラネは何が起こっているかわからず混乱しているようだ。辺りは日も落ちかけ薄暗くなってきていた。


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