獣人+王都奪還編

第61話 王都の異変

翌朝。俺とスララはヴァルハート王国近隣の草原に来ていた。


俺が勇者としてヴァルハートにいた頃、初陣と称して他の5人の同期と共にラビ―と戦ったあの草原だ。





「うわー!ここがご主人様のふるさとなのですか?」





「違うな。言ってなかったか?俺は違う世界からこの世界に召喚されたんだ。」





「そうなのですか。あたちと同じような感じですね!ワンワン!」





スララと同じ?どういう事だ?こいつも違う世界から?・・・考えても仕方が無いか。俺の世界に喋る犬はいない。俺はスララの事ほとんど知らないんだな。





「さて、ヴァルハートはどの方角なんだ?・・・っと。向こうにうっすら見える城がそうか。この辺りはラビ―しかいないはずだがゆっくり散策する必要もないな。少し飛ばすか。スララついてこれるか?」





スララがワン!と元気よく返事をしたのでリオウとの契約で高まったスペックに任せて地面を蹴った。


元いた世界、この世界に勇者として呼ばれた当初、そのどちらでも体験したことの無いスピードで草原を駆け抜ける。自分でもこんなスピードが出るなんてびっくりしている。





スペックが上がってから戦闘をした事は何度もあるが単純に速く走ろうとして走った事が無かったからな。これでステータス変動で敏に振ったらどうなるのか・・・西城の分身スキルをスキルじゃなく素で出せそうだ。








あんなに遠くに見えていたヴァルハートの城だが城下町まですでに数百メートルの所まで来てしまった。


ふと後ろを振り向くとスララが小っちゃい体で舌を出しながら一生懸命走ってきている。途中まで横で走ってたんだけどな。





「ハッハッハッハッハ、ご主人様ー!速すぎなのです・・・」





「悪い悪い。少しだけ勢いに乗ってしまった。ほら、これ飲んでおけ。」





俺はマントの内側から竹の様な素材で出来た水筒をスララに手渡した。スララは器用にそれを受け取るとゴクゴクと喉を鳴らして飲んでいる。





「あまり飲みすぎるなよ。予備は持ってるが。」





「あい!わぁー少し元気が出てきたのです!ガジュージさんに感謝ですね!」





「そうだな。」





この水筒の中身はリオウが封印されていた湖の水だ。大森林の水の守り手であるガジュージが調査を行った所この湖の水には魔力が溶け込んでいるらしく(恐らくリオウのだろうとの本人談)飲むと極少量だが魔力が回復するらしい。魔力回復の手段が時間経過しか無かったので凄い発見だと言っていた。


ああ、俺のマジックギフトは例外だそうだ。





(元は我の魔力だぞ。我に感謝するべきではないのか?)





「まぁそう言うな。リオウだって魔力回復の効果があるとは知らなかったじゃないか。あの周辺は肥沃な土地になるとは言っていたけど。」





「リオウさんにも感謝しているのです。リオウさんの力が無くてはご主人様とこうして会う事も出来なかったでしょう。前のご主人の事は覚えていませんが多分今の方が幸せな気がするのですワンワン!」





(銀次に一番先に目を付けたのは我だからな。なんとこの世界に来た瞬間だ。)





なんか話がズレていってないか?スララもすごーい!なんて言っているし。





「そろそろ行くぞ。ここからは何があるかわからん。慎重に進むとしよう。」





しばらく進むと城下町の手前までたどり着いた、が。どうも様子がおかしい。


以前俺がいた頃の城下町は人々があわただしく行き来し活気があった様に思った。





空気も朝の太陽に反射して輝くような澄んだ綺麗なものだったはずだ。城の中庭からこの城下町を眺めた時の感動は今でも覚えている。





ところが今目の前にある城下町の気配はなんというか異様にドス黒いというか重苦しい雰囲気がただよっている。


街の門には王国騎士団の騎士とは格好の違う黒い甲冑に頭まで身を包んだ兵士が門の両脇に立っていた。





「ワンワン!大森林の美味しい空気と違って何かどんよりしていて嫌な感じがするのです・・・」





「確かになにか異様な空気だな。顔は見えないがあの兵士、俺の事はわからないはずだ。多分。死んだ事になっているようだし装備も違うし目つきが悪くなったなんて西城にも言われたからな。・・・冒険者って事で行ってみるか。スララ、こっから先は喋るなよ。」





確か以前メーシーが冒険者のギルドみたいなものがあると言っていた。勇者諸君には関わり合いがないよと言われた記憶がある。


ギルドか。ネットゲームとかでよくあるやつだよな?魔獣の討伐とかで食っている人々のイメージだ。ネトゲはほとんどやらなかったからわからないが。





「お勤めご苦労さん。冒険者なんだが街に入れて貰えないか?」





「む?誰だ貴様!どこから来た!」





随分と高圧的なやつだ。これは西城がいっていた帝国軍の駐屯兵か?





「しがない村出身の冒険者だよ。大森林で一稼ぎしようと思ったらこのザマだ。治療もしたいしギルドで食い扶持を稼ごうと思ってな。」





俺はボロボロの包帯巻きになっている左腕を見せながら最もらしい事を言ってみた。


ギルドで仕事の斡旋をしていないなんて事があったら困るぞ。





「大森林へだと?・・・一人でよくその程度ですんだな。」





「一人じゃない。元は5人いた。」





「・・・そうか。入れ。」





兵士はそう言うと城下町への門を開けた。なんとか通用したようだ。


とりあえず情報と言えば酒場だよな。これはゲームでは基本だ。とりあえず人に聞いて酒場に向かってみよう。


あ、黒甲冑兵士を竜眼で確認しておくべきだった。・・・今さら戻るのは怪しいか。


今は置いておこう。





酒場に向かっている途中にいくつか気づいた事がある。以前俺がいた時にはほとんど見た事がない獣人をちらほら見かけるのだ。


恰幅の良いおやじや道の真ん中を偉そうに歩く兵士の後ろをうつろな目をしながら荷物を持って付いて行っている。


恐らくあれは・・・奴隷だ。





俺がしばらく大森林の獣人たちと共に過ごしたせいだろうか。獣人たちがうつろな目をしながら人間に使われている所を見ているとどうしようもなくイライラしてくる。


今すぐにでもあの人間達に竜言語魔法をぶつけてやりたい衝動に駆られる。


だが今俺がそれをやって騒ぎを大きくしても意味がない。そんなモヤモヤした気持ちを感じていると頭の上にいるスララが小声で話しかけてきた。





「ご主人様・・・!この国には獣人はほとんどいないはずでは!?それにあの熊獣人も馬獣人も何か様子が変なのです・・・」





「ああ。わかっている。多分以前レオンやガジュージ達が言っていた特殊な魔具を使って奴隷にしているんだろう。主に帝国で使用されていると言っていたが完全にこっちを飲み込むつもりでいるんじゃないか?・・・と言うか喋るなと言っただろう?怪しまれたらまずい。」





西城達の話では町の住人にはそこまで帝国の力は及んでいないとの事だったが・・・ここ一ヶ月で強引に権力を出し始めたのか。


酒場までの道のりに露店で果物を売っているおばちゃんに赤いりんごの様なものを指差しながら話しかけてみた。





「おばちゃん。それ一個貰えるか?」





「冒険者かい?ここ最近仕事なくて大変だろうけどあたしらもヒィヒィ言ってんだ。値切りは勘弁しとくれ。」





冒険者の仕事が無い?討伐する魔獣がいないって事か?冒険者の仕事についてライーザさんに聞いておくべきだったな。


とりあえずライーザさんに貰った金を渡しながら話を続けてみよう。





「ああ。わかってるさ。ところで最近獣人をよく見るんだがどうしてだ?ここ数か月、外に出稼ぎに行ってたから王都事情にうとくてな。」





「毎度。大きな声じゃ言えないけど最近帝国の連中が幅利かせてきてね。とんでもない税金かけてきてんだよ。ああ、それで獣人の話だったね。獣人も帝国軍が連れてきたんだよ。あたしらも初めはおっかなかったけど特殊な器具で言う事聞かせてるから安心しろってさ。実際何もされちゃいないからそうなんじゃないかい?」





俺はおばちゃんに礼を言い店を後にした。先程買ったりんごの様なものをかじる。


お、りんごっぽいが味は桃だ。美味いな。





それにしても奴隷か。もしかしたらハビナの母親も・・・ただ女性獣人はいわゆる性奴隷にされるケースも多いとガジュージは言っていた。


・・・これ以上は憶測になってしまうな。今は酒場へ急ごう。








「おい!俺の注いだ酒が飲めないってのか!?俺を誰だと思ってんだ!?俺の名前を言ってみろ!!ウィ~ヒック。」





酒場の前にたどり着くと中から相当デカい声量で誰かが喚いているな。





「全く五月蠅いです!寡黙なご主人様を見習って貰いたいのです!」





我慢できなかったのかスララも苦言を呈している。酒場の喧騒でスララが喋っているのもわからないだろう。





「さあな。熱血穴掘りか暗殺拳法の三男あたりじゃないのか?」





「???」





流石にわからないよな。まあこれだけ荒れてたんじゃ情報収集は期待できないか?


一応中に入ってみるか。








中に入ると一人の大男が奴隷?だろうか獣人の女性に酒を強要していた。


現代社会なら完全にアルハラで誰かが動画を取って流しているだろう。








・・・ってあの大男は!?・・・亮汰・・・!?


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