第60話 竜言語魔法:犬

翌日俺とスララはヴァルハート王国領へ向か・・・えなかった。


俺が設置した転移魔法陣を見たサルパに各獣老の領地間にも是非設置して欲しいと頼まれたのだ。


ヴァルハートの様子は気になったがサルパを初め獣人たちには世話になった事もあり出来る事はやろうと思い魔法陣の設置にいそしんだ。


ただ転移魔法陣の設置には魔力消費がキツイ事もあって一日1カ所にしか設置出来なかった為これで約2週間ほどかかってしまった。





ライーザさんと西城は焦っても仕方がないと快く了承してくれた。





獣老の要望に応え各5大獣老の領地からそれぞれに飛べるようにしたので一つの領地に4つの転移魔法陣が並んでいるといった不思議な絵図になってしまった。


今後はその魔法陣を管理・守護する仕事を作るとガジュージは言っていた。





「ふう。やっと終わったな。」





最後の魔法陣の設置が終わった俺はそのままガジュージの屋敷で休ませてもらっていた。





「ギンジさん、お疲れ様。これで各獣老との連絡が素早く出来るし輸送も楽になる。本当に感謝したい。このお礼を獣人たちは必ずする事を約束しよう。」





「そんなに気にしないでくれ。こっちだって人間の俺を寝泊まりさせてもらってタダ飯を食ってるわけだからな。」





「それでもおつり以上のものを渡さなくてはならない程の偉業だと僕は思う。」





タダ飯といえばこの世界に来てからは金で物を買った事がない。ヴァルハートにいた時は勇者という事で色々融通してもらっていたし大森林でも似たようなものだ。


その内なんとかして自立しないとな。





西城達が覚えているか知らないが一応は最低でも一年後には帰れるという事になっていたはずだがこうなってしまった以上それも難しいんじゃないかと最近考えるようになって来た。


どっちにしろ俺の逆襲が先かリオウの復讐が先かはわからないが両方を達成するまで帰る気はないけどな。


そういった事も含めて金を稼ぎ、物を食べなくては死んでしまうからな。何か考えておこう。





「と言っても俺が定期的に魔力を入れないと使えなくなるってのもな・・・何か良い案があればいいんだけど。リオウ?何か方法は無いのか?」





(銀次と同じ量の魔力を送れるならば維持出来ると思うが・・・仮に破壊されたりした場合はもう一度陣の構築と竜言語魔法が必要になるぞ。)





「そうか。ガジュージ、とりあえず少しずつでもいいから魔法陣に魔力を送っておけば俺がいなくても維持出来るかもしれないぞ。確証は持てないが何か考えておいてくれ。」





ガジュージは皆にも伝えておくからゆっくりしていてくれと言い魔法陣に乗っていった。あれは・・・レオンの所への魔法陣だな。しかし領主が勝手にポンポン出かけてもいいのか?








「あ!ギンさん!ここにいたんだな!」





「ご主人様ー!」





しばらくくつろいでいるとハビナとスララが魔法陣でやってきた。





「ハビナにスララか。どうした?ヴァルハートへの件ならハビナは駄目だと言ったはずだが?」





ヴァルハートの調査については前述したとおり獣人のハビナは目立ちすぎる。


同様に顔が割れているライーザさんと西城にもNGを出したのだ。それはこの前伝えたはずだが・・・





「凄く辛いがそれは了承した!今はそれではなくギンさんの所にいる職人がギンさんを呼んできてほしいと言っている。」





「後あたちも見て欲しいものがあるのです!」





「あいつらが?わかった。向かおう。それでスララの見て貰いたいものってのは何だ?」





職人が呼んでいるのなら魔法陣でもいいし直接ゲートで飛んでもいい。なるべく早く行こうと思うんだがスララはなんだか緊張しているような表情だ。犬だけど。





「あ、あい!あたちも転移魔法が使える様になりまちた!まだ一度使ったらフラフラになっちゃうけど・・・」





(ほう。我の時の力に触れた影響だとしてもなかなかの才能と魔力量だな。)





リオウも感心しているがやるじゃないか。あれから練習していたのは知っていたが使える様になるとはな。





「そうか。よく頑張ったな。」





スララの頭を撫でてやるとスララは嬉しそうに目を細めた。隣でハビナが羨ましそうに指を咥えている。





「じゃあ俺の領地まで行ってみるか?俺も今日は魔力を使う予定は無いから倒れたらマジックギフトで回復してやるよ。」





「わかりまちた!じゃあ行きますよー・・・んー『同空間転移カオスゲート』!」








・・・・








「おお!着いたぞ!やったなスララちゃん!」





スララの転移魔法は問題なく発動し職人たちがせわしなく働いている俺の領地まで飛ぶことが出来た。


スララも竜言語魔法が使える様になった事はなかなかのメリットになるだろう。


別行動していてもすぐに合流できるしな。





「よし。誉めてやろう・・・ハハ、寝ちまったのか。」





「やりましたよぉごしゅじんさま・・・ムニャムニャ・・・」





スララは魔力切れなのかぐでーと寝てしまっている。軽くマジックギフトで魔力を送ってやってから抱っこして休ませてやる事にした。








「お!兄貴!ハビナ様!見て下せぇ!突貫工事でかなり進んでますぜ!部下のやつらに休めって言っても気合入り過ぎてて聞かないんですよ!」





レオンの所の職人であるトカゲ獣人、名前は確かゲンって言ったな。ゲンが急がしくも嬉しそうにこちらにやってきた。


確かにゲンの指さす方と見るとつい2週間前まで何も無かった更地とは思えない程の豪邸の基礎が出来ていた。





「素晴らしいぞ!ゲンさん!以前も言ったように寝室のベッドは広くだな・・・ぶべっ」





とりあえずのチョップだな。





「ご苦労さん。それで倒れられても困るからな無理言ってでも休ませてくれ。それで?俺に用ってのは進捗の報告か?」





「いや、それもあるんですがね。とりあえず仮住居って事で一つ作ったんでそちらを使ってほしいと思いまして!」





ゲンが作ってくれたという仮住居は現代でいう平長屋の様な造りになっていた。


これでも5世帯ほど入りそうな大きさだ。


はっきり言ってこれで十分なんだが。職人たちが腕を振るってくれている様なので止めないけど。





「ありがたい。これで一応は根無し草にならなくてすみそうだ。」





とりあえずライーザさんと西城もここで寝泊まりして貰うか。


もちろん部屋と言うか世帯の所は別でな。





ハビナに二人を呼んできてもらうように言うと私もここに住む!と言っていた。


まぁ3人で仲良くやってくれればいい。





今はスララも寝ているが明日こそスララを連れてヴァルハートへ向かおう。


そこで何が起きているのかをしっかり見極めなくては。


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