第48話  それでも俺は

獣人の住む国、大森林へと入り込みレオンに捕えられていた勇者は俺の同期、西城香織ともう一人はヴァルハート王国騎士団団長ライーザ・キューラックだった。





「須藤!あんた一ヶ月もどこで何してたんや!王国は今えらい事に・・・あ・・・でもまぁ生きててよかったなぁ。」





「ギンジ殿が無事でいてくれて何よりです。これで勇者が二人!しかもギンジ殿がいる。かなりの希望が出てきましたね!カオリ殿!」





一ヶ月?俺がここへ来て数日しかたっていないはずだが・・・?それに王国が大変?希望?何言ってるんだ?見た目もボロボロだし命からがら逃げてきたって雰囲気だが・・・





「なぁ西城。お前たちさっきから何言ってるんだ?お前らが俺に何をしたのか忘れたのか?その俺の目の前に現れたって事の意味がわかっているのか?」





俺はこいつら、勇者共とその国に裏切られ、焼かれ、殺されかけた。正直な所この二人に関しては直接関わっていたかと聞かれると疑問ではある。

だけど。もし絡んでいたとしたら俺は・・・!





「なんや?須藤・・・前と雰囲気変わったな・・・なんかピリピリしてるというか・・・」





・・・この反応。西城は何も知らなかった?でも・・・





「おい!貴様ら!ふざけるな!お前たちのせいでギンさんがどんなに苦しみ辛い思いをしたか分かっているのか!」





ハビナが怒りを抑えきれない様に激昂した。





「な、なんや!急に!あんた誰や!?って胸デカっ!?」





「獅子一族だとお見受けする。私はヴァルハート王国騎士団団長ライーザ・キューラックだ。最も今は元がついてしまう可能性が高いが。」





元、だと?ライーザさんが団長じゃなくなったとすれば誰が団長をやっているんだ。





「私たちはギンジ殿が外敵にやられたあの日からしばらくの間、遺跡やその周辺を捜索していた。外敵によって相当な重症であったはずだから皆大変心配して・・・」





「心配だと!?最後に手を下したのは外敵かもしれない。だが!その前に回復する振りをしてギンさんに魔法の矢を放ちその腕を燃やしたのは誰だ!?シノノメマユミ!お前たちの仲間の勇者だろう!!」





「ッッ!?」





ハビナの言葉に西城は青ざめた顔だ。対してハビナは顔を真っ赤にしてはぁはぁと肩で息をしている。ここまで怒ってくれるのはこいつだけかもしれないな。





「そういう事だ。ちなみにあの後俺の左手無くなってただろう?暗い霧で分からなかったかもしれないが俺の左手を切り飛ばしたのは・・・勇人だ。」





「なんやて!?神宮寺が・・・でも・・・そうなんか・・・」





「ぐっ・・・!彼が・・・どこかおかしいと思ってはいたが・・・」





やはりこの二人は勇人が俺を切った事は知らなかったようだ。





「その様子だとやはり知らなかったみたいだな。でも実際に俺を裏切った東雲さ、嫌、東雲、勇人、それに加担したヴァルハートの関係者。それらに俺がされた痛み、苦しみを味あわせて逆襲する!それが俺が今生きている意味だ!」





俺は目に思いっきり力を込め、歯が欠けるくらい奥歯を噛んでそう言った。





「ギンジ殿!誤解です!ヴァルハートは決してその様な事は考えていなかった!少なくとも王女やメーシーは何も知らなかった!」





「ち、違うんや!まゆまゆは!まゆまゆはあの時の事は・・・!!」





「五月蠅い!話は終わりだ。あんたたち二人は知らなかったみたいだから放っておいてやる。だがもし俺の逆襲を邪魔する様なら容赦しない。それは覚えておくんだな。レオン!こいつらを大森林から放り出しておいてくれ。抵抗するなら・・・好きにしてくれて構わない。」





「ああ・・・わかった。」





二人は懇願するように話を聞いてくれというが俺にはもうほとんど聞こえていなかった。今さら何を言っても遅い。あの絶望感、虚無感が解ってたまるか!





「それとすまないが風呂を貸して貰えないか?少し疲れた。その後あの湖であった異変等について報告したいんだが。」





「うむ。そうするとしよう。」





俺はゆっくりと体を休めようと風呂へ向かった。





「ギンさん!わ、私が背中を流そう!」





「あら~。お姉さんがマッサージでもしてあ・げ・る。」





脱衣所になぜかハビナとミズホがタオル一枚を巻いた姿で待っていた。こいつらいつの間に。特にハビナはレオンが泣くぞ。





「嫌、今は一人でゆっくりしたい。悪いが・・・」





「だ、大丈夫だ!私は嫁としてギンさんを癒す義務がある!」





「わたしも今がチャンスかな~って。」





何がチャンスだ。全く・・・





「本当に一人になりたいんだ・・・頼む。」





俺は頭を下げながらそう言った。なぜか解らないが気分が良くない。気分が良くても一緒に入るのは勘弁してほしいが。





「あ・・・わかった。無理を言ってすまない。」





「わかったわ~。なにかあったら言ってね?ちょっとだけなら体を貸してあげるから。」


「ちょ!ミズホ様!流石にそれは駄目だ!」





ハビナ達はわーわー言いながら脱衣所から出て行った。ふう。これでゆっくり入れるな。





俺は乱暴に体を洗って相当な広さのある浴槽に使って天井を見上げた。そういえば西城たち俺がヴァルハートを離れて一ヶ月経っているとか言ってたな。


大森林の外と中では時間の流れが違うのだろうか?まぁいい。何だか色々起きたな。


裏切られて、目も腕も潰され、ドラゴンのリオウと契約して昔の俺からしたらとんでもない力を手に入れて・・・





(どうした。銀次。元仲間だった人間を見て揺らいだか?我にとってはどちらでも構わないが。)





突然リオウが話しかけてきた。





「揺らぐ?そんな訳あるかよ。逆だ。リオウに力を貰って目も腕も元以上になったがあの時の痛みは覚えている。なぜ俺があんな目に合わなくてはいけないんだ!絶対に思い知らせてやるって再度認識しただけだ。」





(そうか。今まで話していなかった我の敵についてももうすぐ話せるはずだ。)





「それこそ俺にとってはどちらでも構わない。ただリオウの目的の為に力を振るうだけだ。それが契約だからな。」





そう言いながらリオウに修復してもらった淡く輝く左手をお湯から出して眺めていると突然近くで声が聞こえた。





「わぁーご主人様の手、光っていてカッコイイのです!あたちもしっぽが光ったらカワイイと思うのです!ワンワン!」





「スララか。出来れば一人で休みたいんだが・・・まあいいか。犬だしな。」





「むむ!あたちはレディなのですよ!・・・っと。ご主人様が辛そうな顔をしていたのでつい。ごめんなさいなのです・・・」





スララは浴槽の端にちょこんと座りながら頭を下げた。ハビナもミズホもこいつも先の勇者の事に気を使ってくれたのだろう。





「というか今まで普通に受け入れていたがお前なんで犬なのに言葉が喋れるんだ?」





この世界にも家畜はいるしペットとしての動物もいるようだが喋る動物は見た事が無い。





「あたちは犬じゃなくて聖獣なのです!普通の犬と一緒にして貰っては困ります!ワンワン!」





ワンワンって言ってるじゃないか。こいつのステータスに新たに追加された力の器という称号も気になる。まぁ今考えても答えは出ないか。こいつ自身も解らないだろうしな。


それからしばらくぼーっと頭と体を休める事にした。





「よし。ゆっくり出来たし頭も冷えた。レオンの所に向かうとするか。」





「あい!」








その後風呂から出た俺はスララを頭に乗せてレオンが待っている部屋へ向かった。俺と一緒に湖に向かった奴らも来ているだろう。





「入るぞ。・・・ッ!?お前ら・・・!それにサルパ。おいレオン!放り出してくれと言ったはずだが。」





そこには先程別れを告げたはずの西城とライーザさんに髭を撫でながらニコニコしている五大獣老の一人サルパがいた。





「須藤!もう一度話をさせてや!もう頼れるのは須藤しかおらんのや!」





「ギンジ殿!よろしくお願いします!」





そう言って二人は頭を下げてきた。





「くどい!話は終わったと言ったはずだ!」





「ほっほっほ。ギンジ殿。ギンジ殿を最初に拾ったこのサルパに免じて少しだけでも聞いてやれんかのう。」





サルパまで頭を下げてきたぞ。クソ・・・なんだって言うんだ。確かにサルパがいなければ獣人たちに話を通せず「時」の力も戻せなかったかもしれないが・・・





「チッ!わかった。少しだけだ。他の皆もすまないが一緒に聞いてくれ。」





獣人たちはみな気にするなという仕草でうなずいてくれた。





「須藤!獣人の皆、ありがとう!」





西城は泣きそうな、あぁ半分泣いてるな。そんな表情で再度頭を大きく下げた。





「では私から話そう。私はここへ来る3日前の夜中に何者か・・・信じたくはないが恐らくギャレス達から襲撃を受けた。」





何だと!?あのライーザさんを姉御姉御と慕っていたギャレスが!?





「うちも・・・同じ日の夜、顔は隠してたけど王国の騎士団何人かとあの背格好、それに鞭・・・多分杏奈ちゃんだと思う。」

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