第43話 摂理と決意
ハビナが隷属したことによって思いもよらぬ戦力アップとなったな。
先の戦いで魔獣たちも警戒しているのか襲撃もなく目的の湖周辺までたどり着くことができた。
「見れば見る程数日前とはえらい違いだな。」
俺がリオウと契約する前に死ぬ寸前という所でたどり着いた時は湖の色は澄んでいて湖面がぼうっと淡く光っているかのようだったはずだ。
それが現在では湖は赤く染まり禍々しい空気が辺りに広がっている。
(うむ。我も驚いている。数百年封印されていた間何もなかった事が不思議なほどだ。やつらの封印がそれほどに強力だという事だな。)
リオウもその変異ぶりに驚いているようだ。というかお前の魔力がおかしくしているんだけどな。
「これ程の水場が隠されていたなんて・・・ここが使えるようになれば獣人たちの生活もさらによくなるだろう。このままでは難しいけれど・・・」
「全部飲んじゃったら湖なくなってしまうしな・・・」
「ハビナちゃん・・・それは無理だろう?」
何言ってんだこいつ。[血の契約]には頭が弱くなる要素でもあったりするのだろうか。
「じょ、冗談だ!冗談!ギンさんも!かわいそうな子を見る目で見ないでくれ!それぐらいどうしたらいいのか分からないという事だ!」
冗談ならいいんだけど。まぁ俺もどうしたらいいのか見当もつかないという点では同じだが。そもそも異変を沈めると根拠もなく言ったがそれはリオウが解決策を知ってると思ったからだ。
「リオウ、どうすれば湖と融合している魔力を取り出すことが出来る?」
(何かが媒介となって湖から周囲の森に魔力を流していると思うのだが・・・その媒介を無効化出来れば魔力は少しずつ自然へ帰っていくだろう。かなり肥沃な土地にはなると予想するが。)
「媒介か・・・手分けして湖の周囲を探してみるか。湖の中だとしたら厄介だな。」
「水の中ならば僕が適任だろう。伊達に鰐族の族長をやっている訳じゃない。」
「ガジュージ君は私が小さい時からよく泳ぎを教えてくれたな。私は泳ぎが苦手だから感謝している。」
なるほど。水の中の鰐はかなり強力そうだな。水の中ならばレオンにも勝てそうだ。
俺たちはまず周囲を注意深く探したがそれらしきものは見つける事が出来なかった。
「となると湖の中・・・か。ガジュージ頼めるか?」
「わかった。泥や藻はなく綺麗だが結構な深さがありそうだ。少し時間がかかるかもしれない。」
「ガジュージ君!頼んだよ!」
ガジュージは任せてくれ!と湖の中に飛び込んでいった。俺たちが出来る事は待っていることぐらいかな。
「しばらくガジュージに任せて休ませてもらうとするか。」
「うん。」
俺たちは湖のほとりに腰を下ろしガジュージが出てくるのを待つことにした。
もちろん背後等への警戒は怠らないようにだけどな。
「ハビナはもう怪我の方は大丈夫なのか?俺の判断ミスでこんな事になってすまなかったな。」
「うん。傷跡も残っていないし全く問題ない。私が勝手に油断しただけだからギンさんは気にしないでほしい。逆にこんなに強くしてもらって感謝しているくらいだ。この力がもっと前にあったら母上は・・・」
ハビナはそう言いながら拳をぎゅっと握って少し下を向いた。この力があれば母親を奪われずに済んだ、そう思っているのだろう。
「ハビナ、それはお前のせいじゃない。俺にしたって裏切られなければここに来て力を手にすることもなかった。逆にそれがあったからハビナは今こうしているわけだ。」
「そうか。ギンさんが大森林に来なければギンさんに知り合う事もなかった。ギンさんにとって辛かった事が私にとって良かった事・・・?うう゛~!モヤモヤするぞ!」
俺は頭をくしゃくしゃっとしているハビナの頭をポンポンとして答えた。
「要はタイミングの問題だ。俺の気持ちが消える事は無いがそれでも俺はお前たち獣人を少しでも知ることが出来てよかったと思っている。当初のイメージでは人間即斬!って思っていたからな。こんなに強く、こんなに仲間思いの種族だとは思いもしなかった。」
「ギンさん・・・!ありがとう。やっぱり私は・・・ん?でもギンさんは裏切られたと言っていたがなぜなんだ?それにギンさんほどの強さを持つ人間もあまりいまい。そんな人間を良く倒せたものだな?」
ハビナは俺が元から今に近いスペックを持っていると思っていたようだ。ハビナと初めて会った時、衣服は血と泥でボロボロだったが腕と目はリオウに再生して貰った後だったか。
「いや、元々俺はこの世界に召喚された時は最弱だったんだ。リオウという
(我は銀次に目をつけていたのだ。遅かれ早かれこの結果になったであろう。)
「まさか!ギンさんが・・・だとしたら弱かったから裏切られて貶められたって事なのか?そんなのはおかしいぞ!獣人は強きものが弱きものを守る!それが摂理であり掟だ!」
「ああ。そういった優しい世界が一番いいと思う。だが俺は・・・」
俺は異世界に召喚されてから大森林に投げ出されるまでを掻い摘んで話した。仲間と思っていた勇者、協力者、国に裏切られ奪われた事実を。
「そんな!自分の欲しいモノだけを選んで後は利用して必要なくなったら切り捨てる、そんな事が許される訳が無い!」
ハビナは顔を真っ赤にし、目に涙を浮かべながらまるで俺に怒っているかのような怒りを見せていた。本当に優しい子のようだな。
「だが弱肉強食と言う言葉もある。強ければ生き弱ければ死ぬ。それもまた自然の摂理だろう?力を手にいれた今、俺はその力を振るおうとしている。みじめにも全てを奪われた俺が逆襲しやり返してやろうと思う事は間違っているだろうか。」
ハビナと話していたつもりがいつの間にか自分に問いただすような話になってしまった。
だがそれでも俺は・・・!
「先程偉そうな事を言ったがやられた以上何もしないと言うのも獣人としては名折れと言う事もある!直接の原因は人間の言う外敵の襲撃にあったとしてもその隙を狙ってギンさんの腕を飛ばし貶めたジングウジユウト!その前に信頼していたギンさんを裏切り弓矢で焼いたシノノメマユミ!さらにその協力者たち!絶対に許さん!」
(その為にも我の力を取り戻しさらなる力をつける必要があるな。)
「ああ、そうだな。リオウ。」
「!?今のは!敵か!?」
ハビナがあたりをキョロキョロと見回している。なんだ?
(銀次と隷属関係になった事で我が意識すればその獅子族の娘にも我を感じる事が出来る様だ。向こうからの言葉は銀次が聞かねば解らぬがな。)
そうなのか。特に何もメリットは無いような気がするが。
「ええ!?い、今のがドラゴン、リオウ様・・・確かにとてつもない力を感じた。」
「まぁそういう事らしい。ハビナがリオウの声が聞こえるって事も俺が契約したといういい証明になるかも知れないな。」
「えへへ・・・ギンさんとの特別な関係・・・二人だけの秘密・・・ううう・・がおおおお!!」
一人で何かブツブツ言っていると思ったら急にハビナが俺に飛び掛かってきた。
「ちょ、ハビナ!おい!やめろ!こいつ発情してるのか!?ハァハァ言ってやがる!」
「ギンさん・・・!私はこういう事したことが無いがハナちゃんがこういう時女の子の方がリードするべきだって言うから!頑張るから!」
「チッ!またハナちゃんか!後でお仕置きだ!や、やめろ!胸で顔が・・・!」
ハビナの2つの爆乳が俺の顔を挟み込む。やわらかくて気持ちが・・・ってそんな事をしている場合じゃない!
ザバアッ!!
「ハビナちゃん!ギンジさん!湖底で凄い魔力を秘めた物体を見つけ・・・!?2人とも何をやっているんだ!ハビナちゃん!やめてくれ!・・・くっ!発情している!」
ガジュージが何かを見つけて戻ってきたようだ。
「ガジュージ!助けてくれ!ええい!いい加減に離れろ!」
ガジュージも一緒になってなんとかハビナを離すことに成功した。なんだこいつ、急に制御が効かなくなる時があるな。
「ご、ごめんなさい!今ちょうど発情期で・・その・・・」
「はぁ、ギンジさん。獣人はいつでも妊娠出産出来るんだが特にそうなりやすい
そういったものがあるのか。
「まぁいざとなったら当身でもして貞操は守るさ。それでガジュージは何か成果があったみたいだが・・・」
「ああ、これなんだが。明らかに異常な魔力を発している。僕も長く持っていると少しおかしくなりそうだ。これが媒介となっているんじゃないかと。」
そういってガジュージが見せてきたのはバレーボール程の大きさの水晶玉のような物だ。中に大量の魔力が内包されているのだろう。ぐるぐると渦を巻いている様に見える。
(こ、これは!)
「どうしたリオウ。何をそんなに驚いている。やはりこれが原因なのか?」
(これは我がやつらに奪われたモノの一つ「時」の力!)
え?
何でそんなものがリオウと同じところに落ちているんだ?
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