第42話 血の契約
「ハビナちゃん!しっかりするんだ!・・・クソッ!僕の責任だ!あの時ちゃんと止めていれば・・・!」
ハビナの顔から徐々に色が失われていっている。脇腹を貫かれる程の傷だ。相当量の血が流れてしまったのだろう。
「ガジュージ、数値だけを見て判断した俺の責任だ。絶対に助ける!」
「だがどうすれば!?先程ギンジさんが僕にしてくれた魔力贈与では血は作れないだろう!?」
そうかもしれない。向こうの世界にある造血剤なんかここにあるはずは無いし・・・まてよ、血・・・血か。もしかすると・・・
(銀次よ。お前の能力、スキルに血がどうのとかいう物があったはずだが。)
「ああ。俺も今それを思い出したところだ。この使い方があってるかはわからないが・・・」
リオウと契約した際に俺には新たなスキルが2つ追加されていた。一つは[
当初は2つともどんなスキルなのか意味が解らなかったが[差し伸べる手]については理解した。そして今2つ目のスキルの効果も理解する事が出来た。
「恐らくこのスキルを使えばハビナは助かる、が、ハビナに取ってツラい選択になってしまうかもしれない。」
「それでも!このまま死ぬよりはいいはずだ!僕からも頼む!ハビナちゃんを救ってくれ!」
ガジュージが目に涙を浮かべながら叫んだ。そう、だよな。ハビナには後で精一杯の謝罪をしよう。
「・・・わかった。ハビナ!戻ってこい![
シュパ!
俺は手に魔力剣を作り自らの手首を傷つけ流れた血をハビナの口に持っていった。
────ドクン────
「ぐっ・・・!こ、これは!力が・・・ステータスが抜かれている・・・!?」
スキル使用と共に力が吸い取られる様な感覚に襲われた。これは使ってみないとわからない所だった。
逆にハビナは先程まで青白い顔をしていたがみるみる血色が良くなっている。これで一命は取り留めたとみていいだろう。
「・・・ん。ギ、ギンさん・・・ガジュージ君・・・私・・・あれ?もうダメかと思っていたのに・・・」
すぐに目を覚ましたようだ。よかった。
「ハビナちゃん!目を覚ましたんだね!ギンジさん。いったいどんなスキルを使ったんだい?」
「恐らく、というか憶測になる部分もあるが・・・ハビナは俺と隷属関係になったみたいだ。」
「隷属だって!?」
「ああ。俺が死ねばハビナも死ぬ。が逆は無い。ハビナが死んでも俺は死なないだろう。一応言っておくが俗に言う不死者とかになったわけじゃないからな。」
「なっ・・・!そんな都合の良い・・・!ハビナちゃんはあなたの奴隷になったとでも言うつもりか!」
俺も都合がよすぎると思う。だがあの場面では・・・
「いや、奴隷ではないはずだ。命令に服従という事はないと思う。この感じからすると・・・ああ、やっぱりな。俺のステータスが減っているかわりにハビナはかなり強化されているみたいだな。」
今の戦闘でレベルもかなり上がったみたいだ。まとめて数を倒したからな。それで俺のステータスがこうなっている。
ギンジ・スドウ
人間 男性
レベル 30
物攻 650
魔攻 650
防 650
敏 650
スキル オートMリカバー 双飛竜 差し伸べる手 血の契約
称号 転移者 勇者 契約者
これはスキル[
力が抜かれた感じがしたのはこれのせいだったんだろうな。
本来ならレベル1毎に20程の値が上がっていたのか・・・今まで1ずつしか上がらなかったのにな。
そして[血の契約]を使われたハビナはというと
ハビナ・バーサス
獣人 獅子族 女性
レベル 35(隷属)
物攻 400
魔攻 160
防 180
敏 300
スキル ブーストダッシュ ビーストクロー(風) ファングクラッシュ
オートMリカバー(小)
称号 族長の娘 隷属者
ステータスが全て2倍になっていた。スキルにもオートMリカバーがついている(小)となっているという事は俺のリカバーより吸収値が少ないのだろう。
感覚でしかないがこの[血の契約]を使える人数に制限はなさそうだ。
逆に言うと俺がコスト?とでも言えばいいのかステータス50払い相手を隷属させる事に抵抗がなければステータス倍の仲間を作れるという事か。
しないけどな。俺の目的は自分の手であいつらに逆襲する事だ。手下を使って・・・なんて冗談じゃない。ステータス50下がるのも痛い。俺のステータスも無限じゃないしな。
今回に関してはもったいないとかそんな思いは全く無いが。
「うん。なんだか自分の身体じゃないみたいだ!今なら父上にも勝てるような気がする!」
ハビナはシャドーボクシングのように拳をシュッシュッとやっている。
「レオンさんに勝つだって?という事は僕よりも・・・」
「ああ。現状ではハビナの方が数値的には強いぞ。」
「そ、そうなのか・・・」
ガジュージは俯き悲しそうにしているな。先程まで守るべき対象だった女性が急に自分より強くなるとかなんとなく辛いのもわかる。けど逆に考えればガジュージの労力は減るわけだよな。
「だ、だが!やはり相手の意志を無視して隷属させるなんて言う事は・・・!」
「それについては緊急を要するとは言え本当に申し訳なく思っている。ハビナ、勝手にこんな事をしてステータスを変えてしまってすまない。」
再度言うがしかたが無かったとはいえこのスキルをこれからむやみに使うつもりもない。だがガジュージの言う事も最もであると思う。
俺はハビナに深く頭を下げた。
「ギ、ギンさん!?頭を上げてくれ!私はむしろ本当に嬉しいんだぞ!」
「ハビナちゃん・・・本当なのかい?」
「うん。私は元々ギンさんに従っているし、隷属って言っても強制力は無いみたいだし、アッテモイイケド…こんなに強くなってこれでギンさんや父上、皆の力になれると思うと嬉しいんだ!少しだけズルしたようで申し訳なくはあるが・・・」
「そうか・・・わかったよ。全く後でレオンさんが狼狽えそうだけどね。」
確かに娘が出かけて帰ってきたら父親より強くなって戻ってきたとかどう反応すればいいのかわからないな。想像したら面白くなったきたぞ。
「っふ、ははは。それは面白そうだな。」
「あ!ギンさんの笑った顔初めて見た!うん。笑った顔もカッコイイな!」
「そっちの方がとっつきやすい様に思うよ。」
そうか、大森林に来てからというか、裏切られ逆襲を誓った時から今まで笑おうなんて考えた事もなかったな。
だが、俺が本当の意味で笑えるとしたらそれは・・・
「そういえば忘れていたんだがまた魔獣が出るとも限らない。パーティーを組んでいた方が効率がいいだろう。」
先程は忘れていて惜しい事をした。強力な魔物をまとめて倒したのだから共有できれば大きかったはずだ。現に俺は勇者補正があるみたいだけど5も上がったしな。
「ぱー、てぃー?」
ハビナとガジュージは首を傾げているがまさかパーティー機能を知らなかった?それとも獣人にはないとか?
「いや、ステータス魔法の一種で共に戦う者同士でパーティーが組めるみたいなんだけど知らなかったか?」
「初耳だな・・・」
「そうなのか。じゃあ今から申請を送ってみる。すぐに確認出来るはずだ。」
俺はガジュージに申請を送ってみた。
「!ステータスに承認しますか?という言葉が来たぞ・・・!」
「承認すると念じてみてくれ。」
「ああ・・・っと。パーティメンバーにギンジさんの名前が出てきた。なるほど。人間はこうやってレベル上げの効率化を図っていたのか。」
「え!ガジュージ君ずるい!ギンさん!私も誘ってくれ!」
「わかった、わかった。待ってろ。送ったぞ。」
「・・・あれ?何にもならないぞ!ガジュージ君、私からは申請出来ているか?」
「ハビナちゃんからは来ているよ。今承諾しておいた。」
「わ、私はギンさんとパーティーが組めないのか・・・」
ハビナはズーンと落ち込んでいる。なんでなんだろう?あ、もしかすると以前勇者同士で申請が送れなかったな。恐らく自動で組まれているのだろうと。
[血の契約]によって隷属関係にあるから多分勇者勢と同様なのかもしれない。
「ハビナ。俺のスキルのせいで俺たちは自動的にパーティーが組まれている可能性が高い。戦闘してみないと断定できないが。」
「そうなのか!私は特別だという事だな!?そうか!嫁補正か!」
「そ、そうだな・・・」
ハビナの顔が途端に明るくなったので今はこれで良しとするか。
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