第39話 獣人情勢
俺がなぜか獣人の五大獣老の一人になってしまった夜。
各獣老やその側近も一風呂浴びてレオン邸で酒を飲みながら食事を取っていた。
食事もそうだったが獣人の所の酒も美味い。度数は高めだが飲みやすくペースが上がる。
おや?猿族族長のサルパは風呂にいなかったようでまた懲りずに女湯へ行ったと思っていたが顔が綺麗だな。綺麗って言うのはボコボコになっていないって意味だ。
「サルパは風呂に行かなかったみたいだな。フラグが立っていたから間違いなく行ったと思ったぞ。」
「フラグ?なんじゃそれは?風呂へはもちろん行ったぞい!うひょひょひょ。なぁ~に、先は抑えきれんでお触りしてばれてしまったが覗くだけならまずばれぬ。ワシの湯けむり乱舞を舐めるでない・・・ぞ・・・ほ、ほっほっほ・・・ハビナ嬢?何かお顔がワシの尻より真っ赤じゃが・・・ちと失礼させてもらうとするかの。」
「このエロじじい!待て!!おかしいと思ったんだ!ミズホ様!やっぱり猿が覗いていたようです!」
「お、お助け~!!」
さわがしいやつらだ。サルパについては自業自得だろう。
「ガハハハハ!ギンジ殿!飲んでるか!獣人の酒は口に合うか!?」
獅子族族長レオンが木製のジョッキを持ちながら隣で飲みだした。
「初めて飲んだが美味いな。俺の世界のビールよりも野性的だが味わいが深い気がするな。」
「そうか!それは良かった!重ねてになるが先は命を救って貰い感謝する!」
レオンをそう言いながら頭を下げた。
「いや、そういった状況になったのは俺と闘ったからだろう?もちろん命を取ろうなんて思って戦ったわけじゃないぞ。だがレオンは強かったよ。」
「それは重々承知だ!元々俺が暴走したのが原因だからな!といっても[
「俺はそんな褒められる程の人間じゃない。」
レオンに勝てたのはチートじみた力を使ったからに他ならない。元々の俺のスペックだったら一瞬にして灰にされていただろう。
ハビナにも勝てずサルパにも話を通せず、大森林でのたれ死んでいたか仮にヴァルハートへ戻ったとしても俺を裏切った勇者たち、その国とやっていけるはずもない。
生きていた事がわかれば下手したら始末される可能性もある。逆襲なんて土台無理な話だ。
そう考えるとやるせなさ、喪失感、憤怒、そういった感情が心を包んでいく。クソッ!
だが今の俺には力がある。俺の力では無いものが大半だが。
それでも持てる力を全て使って俺を裏切った奴には思い知らせてやる。
その為にも・・・頼むぞ、リオウ。
(うむ。我と銀次は一蓮托生だ。目指す先、行きつく先は同じであろう。)
「っ!リオウ!?心を読むなと言ったはずだが?」
(すまんな。銀次の心が揺れていたのでつい、な。そんなに心配するな。)
「まあいいけど。」
そこへミズホとハビナが息を切らせながらやってきた。
「はぁ、はぁ、あのエロ猿!じじいの癖に素早いんだから!」
「さすが五大獣老!あなどれん!エロいけど!」
サルパはなんとか逃げ切ったのか。確かに俺の竜眼でも敏の値はサルパが一番高かった様な記憶がある。反面防御の値はかなり低かったかな。まあ当たらなければ、というやつだ。
「ふぅ。あら、ギンジ君。どうしたの?何か難しい顔してるわよ~?」
「いや、考え事をしていただけだ。そうか顔に出ていたか。」
「父上!ギンさんに負けたからって何か報復しようとしたんじゃないんですか!?それか誰か他の者が隙を窺って・・・」
「俺はそんな事はしない!」
ハビナはグルルルルと威嚇しながら周りを見回している。怒ったりなついたり忙しい奴だ。さっきも思ったがなぜこんなに気のいい獣人たちは人間を敵視しているのだろう?逆に人間もそこまで獣人たちを良くは思っていなかったかな?
「一つ聞いていいか?歴史の事に疎くて申し訳ないんだがなぜ獣人と人間は仲が良くないんだ?表だって争っている感じはないが・・・先程言っていた鴇族の羽を乱獲していた事が原因なのか?」
「・・・ふむ。」
「まぁそれもあると言えばあるわね~。」
「人間は弱いくせに卑怯だ!あ、ギンさんは強いぞ!」
「じゃあそこについては僕が説明しよう。」
ガジュージがワイングラスみたいなものに赤い液体を入れクルクルさせながらやってきた。匂いはかなりワインに近いな。
「ガジュージか。その酒いい匂いがするな。少し貰ってもいいか?」
貰って飲んでみたがうん。これワインだ。美味いよ。少し度数高い気がするが。
「あなたの事はギンジさんと呼ばせて貰ってもいいだろうか?」
そうか、他の連中はそもそも勝手に呼んでいたな。
「ああ、構わない。別にさんなんか付けなくても問題ないぞ。」
「レオンさんに勝った人物だからね。敬意は示させてもらう。」
ガジュージの中でレオンは特別な存在なのだろう。
「それで今ギンジさんが言っていた獣人と人間の関係だけどこうなったのは根本は人間側にある、と僕は思っている。」
「・・・・」
とりあえず黙って聞くことにした。
「数百年前に鴇族の乱獲を人間が行ったと言っていたけどそれ以前から人間は獣人を定期的に捕える事を生業にしている奴らがいる。」
「獣人を捕える?・・・まさか奴隷とか言わないよな?」
「そのまさかだよ。人間は僕たち獣人を労働奴隷または性・・奴隷として売買しているんだ。」
ガジュージは奥噛しながら言いずらそうに答えた。ちっ・・・!まさかとは思ったが胸糞悪いな話だな。だが待てよ?
「そうなのか・・・でも俺はヴァルハートにいた時には獣人の奴隷という存在は見た事がないんだが・・・」
そう。あの国には俺の見る限りでは奴隷はいなかったはずだ。なんとなくだがライーザさん辺りはそういった事に反対しそうだ。
「ああ、ギンジさんはヴァルハートから来たと言ったか。確かにヴァルハートはあまり奴隷を使っていないみたいだ。だが帝国はかなりの数を使役しているよ。」
「帝国か・・・全く知らないがそうなのか。だが俺の見た感じでは獣人のほうが人間よりも強いと思うぞ。スペックが違う。」
ヴァルハートの兵士はライーザさん、ギャレス辺りは除いても部隊長以下の兵士と大森林の獣人たちとでは獣人の方がスペックが高いと思う。実際竜眼で見比べたわけじゃないけど間違いないだろう。
「もちろん個々では僕たち獣人の方が勝る部分が多いだろう。だが昨今人間は恐ろしい道具を生み出したんだ。」
「恐ろしい道具?」
「ああ。魔具といってもいいかも知れない。それを付けられた獣人は完全な操り人形にされてしまうんだ。一人付けられてしまえば後は・・・わかるね?」
「・・・なるほど、そういう事か。」
操られた獣人が正常な獣人たちに近づいて行って魔具を付ける。獣人たちは仲間意識が強い事もあり攻撃もしづらい。こうして獣人奴隷は加速度的に数を増やしていった訳か。
「人間は卑怯だ!あいつらは母上の友人を操って母上を・・・」
ハビナが怒りながら話に入って来たがすぐに表情を暗くした。そうか、自分の母親が奴隷に・・・
「ハビナちゃん・・・」
「ハビナよ、すまん。俺がふがいないばかりにプラネが・・・」
「いえ。父上のせいではありません!それに母上はきっと無事で生きています!だって本気になったら父上より強いんですよ!?そんな方が死ぬはずありません!」
「・・・そうだな。」
ハビナの母親でレオンの妻、プラネと言っていたか。レオンより強いとかマジかよ。向こうの世界でもライオンは雌が狩りをするらしいけど・・・
「とまあそんな事があって今ではワシら獣人は大森林からほとんど外へは出ないようにしておるんじゃよ。若い連中は外に憧れる者が多く行商やらで外へいく仲間が捕えられる事も無くはないんじゃがのぅ。」
「あっ!サルパ様!こんな所に!」
「ま、まぁまぁ。もう許しておくれ。老人に追いかけっこはきついんじゃよ。」
「誰が原因だと思ってるのかしら?ふぅ。もう覗いちゃ駄目よ!」
「仕方ない、自分の所だけで我慢するとするかのぅ。」
サルパが突然現れた。なんとかハビナとミズホから許しが貰えたようだ。それでも諦めない精神に脱帽だな。
「事情はなんとなくだが分かった。獣人が排他的種族なんて言われてるのは自衛の為という側面もあるって事だな。何かしら魔具を無効化する術があればいいんだが・・・」
魔具が無ければ獣人を無理やり従わせる事は出来ないだろう。
「現状では難しいね。僕たちも色々調べてみたのだが魔具を外すことは出来なかった。壊すことは可能だけどそれをすると付けられている獣人も命を落とす。」
「なっ・・・!」
随分と厄介な代物を作ってくれるじゃないか。
「僕たちはそもそも攻撃魔法は使えるけど魔具であったり間接的なものは得意では無いんだ。少しずつ研究はしているけど今はこれ以上あちらに奴隷としての獣人が増えないようにするしか無い。」
「そうか。なぁリオウ。どうにかする方法を知ってたりしないのか?」
(我は直接見ていないからなんとも言えぬ。だが魔力を使っているのなら銀次ならあるいは・・・いや、憶測では何も言えぬな。)
まぁ変に期待を持たせてぬかよろこびさせても悪いな。
「では今日はこの辺でお開きにするとしよう!ギンジ殿、ハビナ、ガジュージよ。明日は頼むぞ!」
よし。まずは大森林の問題を収める事に専念するとしよう。
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