第38話 獣老+1

俺の左腕に浮かんだ文字を呼んだ獣老達は久しぶりに凄いモノを見たと満足気な表情でいる。だがちょっと待ってほしい。





「これで獣人の皆も納得するじゃろう。では以上じゃ。各部族にギンジ殿に協力させるように通達をしておいて欲しいんじゃが・・・」





「なぁ。ちょっといいか?」





さっきから何か引っかかっていてモヤモヤしていたんだが今やっとわかった。





「なんだ?ギンジ殿。やはり獅子族を配下にするか?構わんぞ!」





「だからいらないって。これ獣老会議なんだろ?五大獣老っていうくらいだから5人いるんじゃないのか?どうみてもここに獣老は4人しかいないんだが。」





サルパ、レオン、ガジュージ、ミズホだ。ハビナは出席しているが獣老ではない。





「「「「・・・・・」」」」





また沈黙。なんだ?こいつら誰か忘れてたのか?


しばらくして4人は目を合わして一斉に無言でうなずく。なにかおかしいぞ・・・





「ギンジ殿!今この時をもって貴殿は五大獣老だ!」





(うむ。それが妥当か。)





「ギンさんが五大獣老に!?という事は私は族長夫人か!いいぞ!」





・・・は?何言ってんだこいつら?





「ちょっと待て!なんの理由があって俺が獣人の族長にならなくちゃいけないんだ!?俺は人間だぞ!?お前らそれでいいのか!?リオウもだ!妥当ってのはどういう事だ!」





「混乱しておる様じゃの。こりゃ説明が必要じゃな。」





「当たり前だろ!頭の中湯けむりで出来てるんじゃないだろうな!?」





「僕だって気乗りしているわけじゃないけどこうするのが一番いいはずだ。」





????ダメだ。理解が出来ん。





「お姉さんが説明しましょうか。そうね~。現在の五大獣老は4人しかいなくて1人は空席なのよ。その空いた1つにあなた、ギンジ君がなって貰おうってわけね!」





「わけね!じゃない!はぁ・・・その理由を言ってくれ。」





突っ込むのも疲れたな。





「ほっほっほ。本来獣老はある程度の種族をまとめてその中で強さ、統治力等秀でている者が獣老となり自分の家臣を守るのが仕事じゃて。ワシなら猿族、剛猿族、齧歯種やその亜種を。」





「私は鳥族全般ね~。」





「僕は主に水棲種だ。」





「俺は獣系全般だ。数が多いから一番広く領地を預かってる。」





「まぁ基本的には主に、じゃよ。ワシの所にも鳥族や虎族も少数だがおるしの。」





そうなのか。色々大変なんだな。





「元々は四大獣老だったみたいなんだけどかなり昔に私のおばあちゃんを始めとした獣人と共に闘ってくれた・・・あら?まぁ、そうね。ある方を皆が獣老に推薦して五大獣老になったそうよ。」





ミズホのばあちゃんと?さっき聞いた気が・・・まさか。





「そのある方というのが・・・その顔は察したようじゃの。」





「竜族だ!」





(我だな。)





「お前か!」





レオンの言葉とリオウの言葉が俺の中でハモった。思わず突っ込んでしまった。





「僕はまだ生まれていなかったからわからないけど相当な力を持っていたらしい。そんな方と契約するとは羨ましい限りだよ。」





ガジュージはそういうが・・・





「リオウ。なんでそんな大事な話をしなかったんだ?っていうか昔ミズホのばあちゃんと闘ったと言っていたがお前は長らく封印されていたんだろう?」





(うむ。竜族族長と言っても我と数体しかいなかったからな。先程思い出したが特に統治などもせずにいた事もあって忘れていた。我の中では長い時の中でのたった一幕であったからな。確か封印される少し前、数百年前だった気がするが。)





「なぁ。それはどのくらい昔の話なんだ?サルパも若い時にリオウに会っているみたいな事いっていたが・・・」





そう。そのあたりがいつ起きていたのかがよくわからなくなってきた。





「私のおばあちゃんは亡くなった時が400歳くらいだったから100~150歳ぐらいかしら?長生きだったのは確かみたいね~。」





「ワシは今年で309歳になるぞ。」





400歳に309歳か・・・他の連中の歳は知らないが獣人って長寿なんだな。人間とは比べ物にならないな。というかサルパよ。そんな昔から湯けむりに青春をささげてきたのか。ある意味尊敬するな。





「ギンさん!私はまだ22歳だからな!」





そうなのか。というとハビナはサルパなんかに比べたら赤ちゃんみたいなもんか。そりゃあレオンもそんな子が結婚とか言ったら怒りもするか。





「はぁ・・・そうか。でその空いていた竜族の族長を俺にやれというんだな?言っておくが俺は住人、領地の管理はしないぞ。」





「もちろんその辺りは大丈夫だ。あくまでギンジ殿は人間だからな。獣人の統治は気にしないでいい。以前の竜族の族長もそうだった様だしな。最も竜族の領地には今は住人はいないだろう。長らく主が不在だった為に魔獣の住処となっているだろうからな。」





「しばらくはここでもどこでも間借りするといいわ。異変を収めたら改めて住居を構えたらどう?」





レオンとミズホはそう言うが・・・まあとりあえず俺のせいでおかしくなったと思われる場所をなんとかしないとな。俺にはこいつら獣人が悪い奴には見えない。今のところはな。





「まぁいいか。とりあえずは住居は置いておいてだ。なあミズホ。お前はばあちゃんからリオウの名前聞いたりしていないか?」





確かリオウが真名を奪われていて取り戻せば力がより戻るとか言ってた気がしたんだよな。





(銀次よ。恐らく無駄だと思うぞ。)





「ん~。確かにちゃんと聞いたはずなんだけど~。さっきも言葉に霧がかかったみたいに名前が出てこなかったのよ~。」





「そうなのか・・・何歳か知らないがボケたんじゃないだろうな?」





ジャキン!





「あらぁ~。ギンジ君?ギンジ君に勝てるかわからないけどお姉さんの命を賭した大鎌受けてみる?」





ミズホの両手にはいつの間にかどこからか出現した大鎌が握られていた。まずい!こいつ目が飛んでるぞ。





「い、いや!失言だった!すまん!」





「わかってくれればいいのよ~。もう少しレディの扱いに気を付けてね。」





ミズホは大鎌をどこかに消したようにしまってくれた。レオンの蒼炎状態の時より厚いプレッシャーだった気がするんだが・・・こいつも年齢が地雷なのか。というか手持ち鎌じゃなくて大鎌だったな。





(やはりな。奪われた我の真名を取り戻すには封印を解かねばなるまい。同じく「時」と「創造」もな。この世界のどこかには間違いなく存在しているはずだ。)





「わかった。リオウのおかげで俺は強くなれた。互いの目的の為にもリオウの力、必ず取り戻す。」





(うむ。我は良い契約者に巡り合えたようだ。)








「まずは異変の調査に向かおうと思う。俺一人で勝手に行ってもいいが出来れば道案内を付けてくれると助かるんだが。」





「そうだな・・・新たな族長の初仕事だ。誰か腕の立つものがいいか!俺が行ってもいいが・・・」





「ハイ!父上!私に行かせて下さい!ギンさんの嫁として必ずや異変を沈めて参りましょう!」





ハビナが元気に手を挙げている。嫁って。俺は承諾してないぞ。まあ強さは族長には劣るかもしれんが問題はないだろう。





「むむ!ギンジ殿の事は俺も認めた事だし却下する理由はないが・・・」





「レオンさん僕も行きます。大森林の水の守り手として新たな水場周辺の異変は僕の問題でもある。それに・・・」





ハビナに次いでガジュージも行くと言い出した。





「ガジュージか。お前なら問題ないだろう!道案内にも最適だしな!ギンジ殿とハビナをよろしく頼むぞ!」





「はい!まかせて下さい!レオンさん!」





「ガジュージ君がついて来てくれるなら安心だ!よろしくな!」





「ハビナちゃん!」





ガジュージが顔を真っ赤にしてもごもごしている。おや?これはもしかして、だな。





「今日はもう日も落ちる。今宵は食事を取ってその後風呂でゆっくりしてから調査は明日の朝からピーちゃんに乗せて貰うとしようかの?うひょひょ!」





ニヤニヤ顔のサルパがそんな提案をする。夜の大森林とか危険でしかない気がするから提案はいいんだが・・・このじいさん懲りてないな?





「サルパおじいちゃん?次やったらホントにヤルわよ?」





「ひ、ひぇ・・・だ、大丈夫じゃよ!ワシはしょうきにもどった!」





そのセリフは!?確信した。サルパはやる。間違いない。





「ではその通り調査は明日の朝、ギンジ殿、ハビナ、ガジュージで向かってもらう!これにて族長会議を終わる!食事を用意させよう!ギンジ殿は酒はいけるか!?」





「ああ。こちらの世界の酒は飲んだことがないからわからないが恐らく。」





「あら~。私もお酒好きなのよ~!ギンジ君と契約したドラゴンのお話なんかをよく聞かせて欲しいわ~。」





「それは是非僕も聞きたいな。」





やはり獣人はドラゴン、リオウに興味があるようだな。








(ギンさん!私はまだ22歳だからな!)





ハビナがミズホを気にしながら俺の耳元で小さく言った。なんのアピールだよ。





「ハビナちゃん・・・」





ガジュージはしょんぼりしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る