第37話 獣老会議

大浴場でゆっくり休んでかなりさっぱりした俺は指定された会議室へ来ていた。レオンが目を覚ましたらしい。もう回復したのか。流石にタフだな。ああ、もちろん大浴場は男湯だ。女湯の方が騒がしかったが。





しばらくするとサルパが顔を腫らし、しょんぼりしながら会議室へ入ってきた。


そうか。失敗したのか。湯けむり乱舞が敗れるとはな・・・





「おぉ・・・ギンジ殿・・・待たせてしまったようじゃな。酷い目にあったわい。」





「だから気を付けるように言っただろう?」





「うむぅ・・・あれの攻略法が伝わっておるとはのう。これからはもう少し上手くやらんと・・・」





こりないじいさんだ。そのすぐ後にハビナ、ガジュージ、ミズホが入ってきた。





「あ、ギンさん。待たせたか?サルパ様ったら女湯に侵入していたずらしてきたんだ!ミズホ様のおかげでこらしめる事が出来たけどさ!」





「ハビナ嬢。老人にはもう少し優しくしてほしいのう。ワシのこの顔を見ておくれ・・・」





「サルパおじいちゃん?まだそんな事言える元気があるのね?今度はも~っと凄い事しちゃおうかしら?」





「ミ、ミズホ嬢や。もう勘弁してくれんか!あんなのトラウマになってしまうわい。」





「全く・・・アレを教えてくれたおばあちゃんに感謝しなくちゃ。」





アレとは何だ?湯けむり乱舞対策か。おばあちゃんとか言ってたな。ミズホのおばあちゃんだろうか?





「ミズホ、と呼んでいいか?おばあちゃんとはお前の・・・鴇族のおばあちゃんか?」





「ええ。両親が早くに亡くなってね。長らく鴇族は族長のおばあちゃんと私だけだったの。数年前におばあちゃんも亡くなって今は私だけって事ね。私の事はミズホでいいわよ~。若い子に呼び捨てにされるのって久しぶりね~!ドキドキしてきちゃうわ~。」





「ミズホ様!?いくらミズホ様でもギンさんは譲れませんよ!?」





「あら、ハビナちゃん。ちょっとくらい摘んでもいいでしょ?男の人ってね、毎日脂っぽいのものばかりだと飽きるの。たまにはさっぱりとしたものが欲しくなるのよ。これは人間も獣人も同じよ~多分。」





「わ、私は脂っぽくなど・・・!」





「こ・れ・よ。これ。」





「きゃん!ミズホ様!そんな・・・胸を揉まないで下さい!」





「よいではないか~。よいではないか~。」





「ハ、ハビナちゃん・・・」





はぁ・・・何やってんだこいつら。このミズホは西城辺りと仲良くなれそうだなとふと思った。なんだか少し懐かしい感じがするな。





ガジュージはハビナとミズホがじゃれてるのを見て目を白くさせて呆然としている。全く、レオンはまだ来ないのかよ。





「皆の者!遅くなって済まなかった!おお!ギンジ殿も来ているか!先程の事は礼を言うとしよう。」





早く来ないかと思っていた矢先に突如会議室のドアをバン!と豪快な音を立てて空けながらレオンが入ってきた。





「気にするな。俺がしたくてやった事だ。」





(あの獅子族の族長。魔力総量がなかなかに増えているようだな。魔力を空にしてさらに生命力まで燃やしていたからな。限界値が増えたようだ。最も銀次が魔力を送らねばそのまま燃え尽きていたがな。)





リオウが入ってきたレオンを見てそう分析する。





「そうなのか。レオンの様に魔力を消費し続けるスキルがあれば俺の差し伸べる手マジックギフトと合わせて永久機関が出来るんじゃ・・・」





(さあな。どこかで止まるのか増え続けるのか。それは我にも解らぬ。)





まぁ試すのにも色々面倒そうだしな。








「ガハハハハ!本当にお主は面白いな!まあ良い!とりあえず遅くなってしまったが五大獣老サルパの緊急招集による獣老会議を始める事にする!まずは・・・」





「レオンさん。少し待ってください。その前に聞きたいことがあります。」





レオンの進行を遮るようにガジュージが発言した。先程言っていたことを確かめるのだろう。





「なんだ、ガジュージ。言ってみるがいい。」





「レオンさんは本当にここにいる人間に敗れたのですか?賢人様の言葉を疑うわけではありませんが直接確認したく。」





「うむ。その通り!お前が聞きたいようだから先に言っておくが[獅子の咆哮]まで使って相打ち覚悟で行ったが完膚なきまでに負けたわ!そのまま死ぬかと思ったが彼は俺を救ってくれた。魔力も生命力も使い果たしたこの身体に魔力を送ってくれてな。」





「・・・やはり、本当の事でしたか。ただ他人に魔力を送るなど直接聞いてもにわかには信じられませんが・・・それでレオンさんはどうするおつもりですか?」





「事実なのだから仕方あるまい。む?どうするつもりというのは?」





「この人間に従うのか、抗うかという事です。僕はレオンさんについていきます。」





「決闘の前に俺も言ってしまったからな。互いに強い奴に従う、と。俺はギンジ殿の配下になる!ガジュージよ、お前は俺についてくると言ったな?ギンジ殿!よかったな!こいつもギンジ殿の配下になるようだぞ!」





「え?レオンさん?反目するんじゃないんですか?僕はてっきり・・・って僕も配下に!?」





ああ、そんな事言ってたな。配下とかいらないと言ったはずだが。ん、直接は言ってないかも・・・





「いや、配下なんていらないぞ。一族をまとめるなんて俺には無理だろ。俺が欲しいのは俺のせいで起こった大森林の異変を止めるのに協力してくれる者、ないしは俺が動くことを黙認して欲しいだけだ。大森林を歩いている度に狙われるのは面倒だからな。」





「ふむ。そうか・・・そうなると俺は吐いたつばを飲む事になるが・・・まぁギンジ殿、勝ったものが言うのならば甘受せねばなるまい。だがギンジ殿に協力はさせて貰うぞ!」





「・・・ほっ。」





ガジュージはほっとしているようだな。





「ああ。それはありがたい。」





族長と協力体制にあれば俺もめったな事はされないだろう。





「よし!では議題に入る!先もギンジ殿が言っていたが皆も知っての通りここ数日大森林に異変が起きている!それについてギンジ殿でも良いが、まあ慣例に習って招集者のサルパ老より説明して貰う!」





「では説明させてもらおうかの。数日前より大森林の深部に見た事がない湖が発見された。これは皆も知っておろう。特にガジュージ坊にはいち早く話が行ったじゃろう。」





「ええ。僕の配下から報告を受けた時は驚きました。確実に今までは存在していなかった湖です。水場を管理するものとして誓いましょう。隠していたなんて事はありえません。」





なるほどな。大森林の中では水場を独占出来れば色々とかなり有利になってくるかもしれないな。





「ほっほ。大昔ならいざ知らず今はそのような事はないと皆信じておるよ。その湖の周辺の魔物がかなり強力になって手が付けられなくなって来ておるのも知っておるな?その辺りの原因も恐らくだが掴んでおる。」





「へぇ~。さすが森の賢人様ね。賢人様は覗きなんて品の無い事しちゃ駄目よ~。」





ミズホが皮肉を込めて言った。こりゃあまだ怒ってるな。





「ミ、ミズホ嬢・・・それはまた別の機会に改めての・・・オホン!それでの、原因はギンジ殿と契約したというドラゴン、今はリオウと名乗っているようじゃがリオウ殿が封印から解かれた事にあるようじゃ。」





「その湖にドラゴンが封印されていたから今まで湖が発見できなかったの?」





「その通りじゃ、ハビナ嬢。ギンジ殿伝いじゃが何者かによって封印されておったらしい。何者かと言うのはギンジ殿もまだ聞いていないようじゃ。」





「早く話して貰いたいものなんだがな。」





(すまぬ。だが今は難しい。我は契約者を裏切らん。それは信じてくれ。)





その力強い言葉に俺は納得しているからいいんだけどな。





「リオウ殿曰くリオウ殿が長きにわたって留まっていた事により湖自体が魔力だまりになり、リオウ殿が離れ結界が解けた事により湖の魔力を浴びた周囲の魔獣が活性化した、との事じゃ。」





「「「・・・・・」」」





他の族長は皆目をつぶって考え事をしているようだ。しばらくしてレオンが発言した。





「理屈はそれでわかった。俺がギンジ殿に協力する事は前提だがあえて聞く。ギンジ殿は本当にドラゴンと契約したのか?何か確証があれば他の獣人たちの協力も容易いだろう。」





「私たち鳥族はドラゴンに会う事が少しだけあるけど最近大森林に来ないからちゃんと聞けてないのよね~。」





(我の封印が解けてから我の存在に気づいて近寄って来ぬのだろう。俗にいうビビってるというやつだろう。)





そうなのか。どちらにしてもなにか証拠が欲しいよな。これは素直な意見だと思う。





「ワシは確信しておるんじゃが・・・ワシとそのドラゴンしか知りえぬことをギンジ殿は当てて見せたからのう。というか皆の者、ただの人間がレオンと1対1で戦いあまつさえ勝利するなど出来ると思うのかの?」





「うむ。」





「それは・・・ないでしょうね。」





「まず無理よね~。」





(銀次よ。左腕を出してみるがいい。試行錯誤の末、我がここにいるという証拠を思いついた。)





リオウからの指示だ。俺は左腕に巻いてある包帯をぐっと上に捲り左腕を出してみた。





「リオウの指示なんだがこれで何かわかるか?」





「ギンさんの腕、淡く銀色に輝いていて綺麗・・・!何か腕に浮かんでるけど?何だろう?」





ハビナが俺の腕を覗き込むと確かに何か腕に浮かび上がっている。なんだこれ?この世界の(といってもヴァルハート王国の文字しかしらないが)文字とも違うおかしな記号の様なものが並んでいる。





「!?こっこれは!?」





「ああ!間違いないようだ!」





「本当にドラゴンと契約を・・・!羨ましい。」





「これは決まりじゃのう。」





獣老たちは何か納得しているようだ。





「なぁ。何があったんだ?これは何かの文字なのか?」





「ギンジ殿が知らないという事は契約者であるドラゴン、リオウ殿の力じゃな。この文字は古代獣人語じゃ。もう5大獣老以外は誰も読めやせん。逆に5大獣老を継ぐ者は確実に覚えなくてはならぬ文字じゃよ。」





「そうなのか。これにはなんて書いてあるんだ?」





「我、リオウは異世界からの来訪者、スドウギンジと契約せり。願わくば共に闘いこの世界に安寧を。って所かしら?」





ミズホが書いてある文字を教えてくれた。


世界に安寧を?どういう事だ?俺の目的は逆襲であり、元の世界に帰る事なんだが・・・しかも今まであった違和感がやっと解ったぞ。

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