第34話 蒼炎の武人

「わ、私と結婚してくれ!」




唐突にハビナがそう大声で言いながら寝転がってお腹を見せるようなポーズをとった。


何やってんの?この子・・・





「ほっほっほ。ギンジ殿も隅に置けんのぉ!ハビナ嬢は尽くすタイプと見える。」





サルパは愉快そうに髭を撫でている。いやおかしいだろ。








ハ、ハビナ様突然何を!?





ハビナ様が服従のポーズ・・・だと・・・!??





あの人間め!ハビナ様に何をした!





殺せ!







周りも相当ざわついている。そりゃそうだ。族長の娘が結婚したらその相手が将来の族長候補なのだろう。世襲制なのかは知らんが。





「リオウ!おいリオウ!この状況なんとかならないのか!?」





(我にどうにか出来る話ではないだろう。我は今眠いのだ。銀次の魔力は心地よく眠くなる。)





こいつも駄目か!





「と、とりあえず起き上がってくれないか?話が見えない。なんでそんな事になってる。・・・おい!そのポーズで目をうるうるさせるのをやめろ!」








ハビナ様渾身の服従のポーズを否定するとは!





おのれ!人間め!





殺せ!








「くっ!おい!とにかく話を聞かせてくれ!」





そういうとハビナはようやく服従のポーズとやらを止め立ち上がってくれた。





「わかった。何も説明もせずに結婚とは私も若干早まってしまったな。」





若干じゃないが。まあいい。





「ああ。ちゃんと説明してくれると助かる。」





「うん。私は私より強い男とでないと結婚したくない。以上だ!」





駄目だこいつ・・・早く何とかしないと・・・





「もう少し詳しく頼む!」





「むぅ。恥ずかしいんだけど・・・今まで獣人、少なくとも私が出会って立ち会った中には私より強い男はいなかった。いや、もしかしたらいたのかもしれないが、いいよって来た男は皆私の後ろにいる父上の幻影を見ているのだろう。それに臆したのか打算なのかはわからないが私に勝った男はいなかったんだ。スドウギンジ以外はな。」





そういう事か。大きな存在である父を見て自分を見てくれないってのは女性にとってはつらい悩みなのかもしれないな。





「という訳で、私と結婚してくれ!」





言いながらハビナは服従のポーズをとった。





「に、人間の男は大きい胸が好きなのだろう!?友人のハナちゃんが教えてくれたんだ!いつもはさらしを巻いて隠してたんだぞ!だから・・・どうだ!?」





何がどうだ!?だよ。ハナちゃんってサルパの所の、さっきまで一緒にいたハナちゃんかな?ハナちゃんや。何を教えているんだい?胸の大きさの好き嫌いは人それぞれだよ?








ハ、ハビナ様の胸・・だと・・・?





人間め!羨ましい!





殺せ!





殺せ!








もう周りも良くわからない事になってるな。





「はぁ・・・なぁ、レオンさんよ。娘の暴走を何とかしてくれよ・・・ん?おいレオン?」





娘がさっきからおかしな事を言っているのに父親のレオンが全く関わってこない。普通娘がこんな事してたらなにかあってしかるべきだと思うんだけど・・・





「レオン坊。レオンや!聞いておるのか?なんじゃ、笑顔が張り付いたような顔しおって・・・ッッ!?」





「ウガアアアアオオオオオ!!!スドウギンジ!!決闘だ!!!!」





バキャアア!!





「ぐおっ!!」





サルパが凍りついたような笑顔のレオンに問いかけた瞬間レオンの顔が阿修羅のごとき顔になりそのまま俺に突進し殴りつけてきた。





ドゴォン!





「ギンジ殿!?」





「スドウギンジ!」





サルパとハビナが一瞬の出来事に面食らって叫んだ。





俺はそのまま殴り飛ばされその勢いでレオンの家の壁をぶち抜きレオン邸の裏手まで吹き飛ばされてしまった。クソ・・・!完全に油断してたぞ!





「おい・・・!娘の事はいいんじゃなかったのかよ!」





ガラガラとがれきの中から起き上がりながら一人ごちる。





「グルルルル・・・あのおてんば娘が少しでもおとなしくなればと思っていたが事情が変わった!結婚だと!?それこそ俺より強い奴以外認める訳がないだろうが!!!」





俺の言葉が聞こえたのかわからないがレオンが唸りながら叫んでいる。知らんよ、そんな事。お前の娘が勝手に暴走してるだけだろ。


ともあれ試合のゴングは鳴ってしまったようだな。なんか試合じゃなくて決闘とか言ってたけど。





「一発貰いっぱなしってのもな!まずはご挨拶だ。<<フレイムランス>>×2!」





ゴバアアアァア!!





「フン!詠唱もろくにしていないフレイムランスなど避けるまでも・・・!!?[ブーストダッシュ]!」





ジュジュウ!!








ああ!レオン様の屋敷が・・・





溶けてデカい穴が開いちまった!





ただのフレイムランスで・・だと・・?





「凄い・・!格闘だけでなくここまで魔法も操るとは・・・さすが私の旦那様!」





獣人たちはフレイムランスの威力に驚いているようだ。まぁご挨拶といっても結構魔力を込めたつもりだったがな。


というかハビナがまたおかしな事を言っているが・・・





「ハ、ハビナ!!認めん!認めんぞ!俺の一人娘を人間などにくれてやるものか!」





認めろともくれとも言ってないんだが。





「人間よ!それがお前の最高魔法だな!?なかなかの使い手の様だが俺には当たらんぞ!特別に少しだけ本気を見せてやる!」





「ち、父上!?あれはやりすぎでは!?」





最高魔法じゃないけどな。ハビナが心配そうな声を上げている。スキルを出してくるか?





「死んだらそれまでの男よ!行くぞ![炎撃流舞えんげきりゅうぶ!]」





ボウッ!ボウッ!





やはり出してきたか。炎撃流舞、思った通り炎系の打撃か。両拳に炎を宿しながらこちらに突進してくる。


素手で受けるのは熱いかな?昨日こっそり訓練していたアレを試してみるか。





「よっ・・・っと。」





ブゥゥン





「出来たな。剣はステ任せのド素人だけど許してくれよ。」





(む。銀次、それが昨日寝る前に魔力を出し入れしてた成果か?なるほど魔力の剣か。ちゃんと受けられるようにしておけよ。込めすぎると攻撃してくる獅子の拳が身体と離別するぞ。)





俺の魔力にリオウが反応した。昨日からなにか武器があったほうがいいかなと思い自分の魔力で剣を作れないか試してみた。本当は刀がよかったんだけど魔力で刀を作るのは難しく諦めたが。





「なんだそれは!?赤い・・・魔力の剣?人間!貴様なにものだ!?」





「須藤銀二。異世界人だ。」





「まあいい!炎撃流舞!受け切れるか?!」





フォン!





ブーストダッシュと組み合わせているのかかなりの拳速だな。合わせられないほどじゃないが・・・?っと。





ヒュオ!





ガィン!





「ガハハハ!炎に明確な形は存在せん!だが初見でよくぞ見切った!」





レオンの拳に合わせて正面で受けようとした瞬間、やつの拳がおかしな軌道を描いて俺の側面に接近してきた。なんとか受けられたが・・・なるほど、流舞とはよく言ったものだな。





「次は連続していくぞ!!」





ヒュオ!ヒュンヒュンヒュン!!





ギン!ガンガンギン!





レオンの炎撃が不規則な軌道で迫ってくる。このままカウンターを合わせられなくもないが致命傷を与えないように手加減出来るほどレオンは弱くないし俺にそこまでの剣の腕もない。・・・よし。ここだ!





ギュオオ!





ドン!





「ぐはぁ!お、俺の拳に合わせただと・・・!し、しかも剣でなく拳だと・・・!人間よ!俺をなめるか!・・・がはっ!」





「この剣じゃ上手く扱えないからな。」





魔力の剣だからな。形は自在に変えられる。剣では加減が出来ないからレオンの強力な一撃に合わせて拳のカウンターを叩きこんだ。








「父上!!」





「・・・・」





ハビナは心配そうにしている。サルパはじっと俺を見ている。というか観察されてる気がするな。





「ああ。あまり長くかかっても色々面倒だ。終わらせるか!」





「言うじゃないか!人間よ!俺にも獣人としての、獅子族としての意地がある!後悔するなよ!人間!スドウギンジ!!オオオオオオ゛オ゛オ゛オ゛!![獅子の咆哮レオ・ハウリング]!」





ゴッッ!!





レオンがスキルを使い咆哮するとレオンの身体から蒼い炎の様なオーラが立ち上っていた。なるほど蒼炎の武人とはこのことか。





「こうなっては殺さぬように手加減は出来んぞ。せいぜい長く楽しませてくれるよう頑張るんだな![蒼炎撃流舞そうえんげきりゅうぶ]!」





「こんな所で殺される訳にはいかないんだよ!」





レオンが蒼い炎を纏いながら突進してくるのを見て俺もレオンへ向けて駆けだした。

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