第33話 獅子親子の提案
「おおっ!これは凄いな・・・!」
ライドホークのピーちゃんは俺たち3人を乗せて力強くはばたいている。
いくら異世界に召喚されたといっても大型の鷹に乗って空の旅を出来るとは思ってもいなかった。
「ギンジさん。ライドホークは初めてですよね?ピーちゃんがこんなに安心して人間を乗せるなんて・・・同じ獣人でも初めての者は乗せてくれる事はほとんどないのに。今回はなんとか我慢してねって説得するつもりだったんですよ?」
ハナちゃんが驚いた顔をしているな。というか普通にハナちゃんでいいのだろうか。雰囲気的にハナさんって言うのもなんか違う気がする。
「もちろん初めてだ。そうなのか?こんなに利口な生き物なかなかいないと思うぞ?なあ?ピーちゃん。それとサルパにならってハナちゃんと呼んでしまったがいいかな?」
そう言いながらピーちゃんの背中を撫でるとピュイ!と嬉しそうに鳴いてくれた。
「ふふ。ホントにギンジさんを気に入られたのですね。私の事はハナちゃんでいいですよ。皆そう呼びますから。」
「じゃあそうさせて貰うよ。うーん。このままどこか遠くまで行ってしまいたいくらいだな。」
ごろんと仰向けになりながらそう一人ごちる。それくらい気持ちがいい乗り心地だ。
「ギンジ殿。残念じゃがピーちゃんに限らずライドホークは大森林からまず出ないんじゃ。人見知りなのか縄張り意識なのかははっきりしとらん。ライドホーク自体数が少ないんでその方が助かるがの。」
「へぇ。まさに大森林専用ってわけか。誤解があったらすまない。そのくらい気持ちがいいって事だ。俺のせいで起こった問題を投げ出すつもりもないし衣食住の恩も返していないしな。」
「全く持って人間にしておくのがおしいぐらいじゃの。」
俺は自分の思いを素直に言っただけなんだけどな。
それからしばらくピーちゃんの背中で大森林の大空を堪能させてもらった。向こうでもこんな移動手段があれば朝の満員電車に悩まさせずに済むし旅行にも簡単に行けるよな。
あ、でもこんなのがデフォになったら電車やら自動車やらの交通産業は死ぬな。貿易も出来なくなるし全てがおかしくなるだろう。世の中は簡単にいかないな。
「ギンジさん。そろそろ着きますよ。降りますからつかまってて下さいね。」
「了解した。」
ピーちゃんはピュイっと鳴きそのまま大森林の中の広場へ向かって降下していった。
「到着です。サルパ様、ギンジさん。私はここで待機しておりますのでお気をつけていってらっしゃいませ。」
「ハナちゃんや。ご苦労だったの。しばらく休んでいなさい。」
「ありがとう。ピーちゃんもありがとな。また頼むよ。」
ハナちゃんとピーちゃんにお礼を言うと二人とも気にしないでという仕草で見送ってくれた。
あ、あれはあのときの人間!
ハビナ様に手を挙げやがって!
なぜ賢人様と人間が・・・
「さて、ついたはいいがあまり歓迎されておらんようじゃのう。この辺りは獅子族を筆頭に喧嘩っ早い連中が多いからの。ギンジ殿、あまり気にせんでおくれ。」
まあ確かにやるならいつでもやってやるという気概が伝わって来るな。獅子族に、多分犬か。それにあれは熊だと思う。
今は争いに来たわけじゃない。とりあえずはサルパについていくことにした。
「ここが獅子族、レオン・バーサスの屋敷じゃよ。」
そういわれたどり着いたのはサルパの所の日本庭園風の住居ではなくどちらかと言えば西洋風の豪華な屋敷だった。サルパの家も大きかったがこちらもなかなかの大きさだな。
「お待ちしておりました。5大獣老が一人サルパ様とギンジ・スドウ様。レオン様がお待ちです。どうぞこちらへ。」
屋敷の前にメイド姿の獅子族が待っており中に案内された。もっと挑戦的な出迎えかと思っていたが・・・サルパの権威か族長会議という事で特別なのか。
中に入り応接間のような場所に通されると一人の獅子獣人が腕を組み仁王立ちで待っていた。
「よく来た!サルパ老と人間よ!俺が獅子族族長、レオン・バーサスだ!」
一瞬吠えられたと勘違いしてしまいそうな大声で獅子族族長レオンが自己紹介をしてきた。かなり声がでかいな。亮汰みたいだ。
おや?レオンは他の獣人の顔立ちと違いかなり獣っぽいな。りっぱな鬣がそう見させるのだろうか。なんとなく武人を想像させる。
失礼かもしれないがステータスを拝見させてもらおう。
レオン・バーサス
獣人 獅子族 男性
レベル 55
物攻 400
魔攻 100
防 230
敏 220
スキル 炎撃流舞 ブーストダッシュ 獅子の咆哮
称号 獅子族族長 5大獣老 蒼炎の武人
物攻の値が飛びぬけて高いな。かなり強そうだ。
今の俺なら力押しでも勝てそうだがスキルと称号欄に不可解な点もあるな。
まず炎撃流舞、炎系の打撃かな。ブーストダッシュは娘のものと同様だろう。
解らないのは獅子の咆哮と称号の蒼炎の武人という所だ。蒼炎・・・蒼い炎を使うのか?獅子の咆哮ってのもどんな効果か字だけでは判断できないな。
「急な招集をかけてすまなかったな。レオンや。じゃがお主もなんとなく事情は聞いておろう?」
「須藤銀次だ。一応ヴァルハート王国に勇者として異世界より召喚された身だ。あいつらとは袂を割った。先日俺はドラゴンと契約した。俺が契約したせいで起きてしまった大森林の異変を止めたいと考えている。力を貸してくれとは言わないが俺が動いている事を黙認してもらいたい。」
こういうタイプに駆け引きは逆効果な気がする。協力してくれれば一番ありがたいが無理なら無視しててさえくれればいい。
「・・・・」
レオンはしばらく黙って俺を品定めするように眺めている。あまり気分の良いもんじゃないな。
「おい、何かいったr」
「人間!!ギンジといったか!!俺と勝負せい!!」
いきなりどうした?
「なんでそうなる!俺はお前たちと戦いたいわけじゃないんだ!お前の娘の事だったら向こうから仕掛けてきたんだ!それについては証人もたくさんいるはずだが。」
「やっぱりこうなったかの・・・レオン坊にも困ったもんだわい・・・」
サルパはやれやれという顔をしている。やっぱりという事はいつもこうなのだろう。
「俺は!強い奴が好きだ!ハビナについてはなんとも思っておらん。最近調子に乗っていたようだから逆にいい薬になるだろう。とにかく俺は強い奴ならば認める!仮に俺に勝てたとしたら配下になってもいいぞ!仮にだがな!」
別に配下とかいらないし。どうする?なんか言い出したら聞かなそうだよなぁ。こういう所も亮汰そっくりだ。
「やれやれ・・・他の族長がまだ来ておらんのに勝手を言いおって。ギンジ殿、悪いが殺し無しの試合形式という形で受けてやっては下さらんか。」
「試合形式?まぁそうしないと話が進まないというなら仕方がないけど・・・」
「ありがたい。ちなみにギンジ殿の眼からみてどうじゃ?」
どうってのは勝てるかって事か?
「恐らくだけど負ける事はないと思うぞ。」
「・・・レオン坊もかわいそうにの。」
サルパはレオンに対して殺し無しの試合形式ならば余興として受けても良いと提案した。
「そうか!そうか!安心しろ!殺したりはせん!ハビナに勝つような人間だ。俺の所で鍛えればかなりのものになるだろう!」
何か話が変な方にいっている気がするぞ。なんで俺がレオンの所で鍛えられなきゃならないんだ?
「おい、待ってくれ。話が見えないんだけど・・・」
バァン!
「父上!例の人間が!スドウギンジが来ているって本当ですか!?」
「ハビナか!つい先ほど来たところだ!」
突然ドアを激しく開ける音と共に先日俺に絡んできたレオンの娘、ハビナが息を切られながら部屋に入ってきた。
この前に見た時と随分印象が違うな。前回は皮の鎧に山賊の様な服を着て赤い髪の毛もポニーテールのようにしていたから若干野蛮な印象があった。顔は整っていて美人だと思うけど。
今は髪を下していてお嬢様みたいな恰好をしている。実際お嬢様なんだろうが。
前回は気が付かなく飾りじゃないと思うが手首と足首にモフモフの毛がついているんだな。それに驚いたのは胸がかなりデカい。前回はさらしでも巻いていたのだろうか。動くたびにユサユサ揺れていて直視出来ないぞ。
「ス、ス、スドウギンジ!昨日は随分と世話になったな!覚えてろよ!あ、後は・・・良く来たな!ゆっくりしていくがいい!えっと・・・そ、それとな?」
何言ってんだこいつ?かなり動揺しているように見えるんだが。
「お、おう。昨日の事は恨むなよ。お前が話を聞かず問答無用で攻撃してきたんだからな。何か言いたい事でもあるのか?」
「わ、私と結婚してくれ!」
は?
は?
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