第32話 森の異変

とりあえずその日はそのまま眠らせて貰って次の日の朝になった。


せっかくの露天風呂だったというのにほとんどゆっくり出来なかったな・・・


今度またゆっくり入らせて貰いたいものだな。その後食事も出して貰えたから文句を言うつもりはないが。大森林、というか獣人の食事はこれまた想像と違っていた。


てっきり虫とかゲテモノを好むのかと偏見を持ってしまっていたがそんな事はなかった。食用の家畜も飼っているし農園もある。味付けは豪快だが俺としてはヴァルハートよりこっちの方が好きだ。


肉を焼いたものなんかはジューシーなのにいくらでも食える程美味くておかわりをしてしまった。





ボロボロになった衣服も新しい鎖帷子に皮の胸当、肩当にマントまで準備して貰えた。


淡く光る左腕は意識すれば光を抑える事は出来るが念のため包帯の様なものでグルグル巻きにしてある。若いころの妄想みたくなってしまっているが仕方ないだろう。





そういえばリオウはしばらくおとなしいな。





「おい、リオウ。起きてるか?」





(どうした?我は今お前の魔力を少しずつ吸収しておるのだ。どの程度の魔力が必要か定かではないがそれなりに蓄えれば我も自由に動けるかもしれぬ。最も契約者が銀次だから出来る事だがな。)





確かにオートMリカバーがなければ魔力を与え続ける事など不可能だろう。そういう意味では俺で良かったのかも知れないな。





(すぐにどうにか出来る物でもなさそうだが。本来契約した場合こうして会話出来る事もほとんどないのだがな。)





「そうなのか。そりゃあ運が良かったという事か。」





しばらくするとサルパが体から湯気を立ち上らせながら戻ってきた。昨日温泉にいたハナちゃんも一緒だ。


俺が食事してる間ずっと風呂入ってたのかよ。やっぱお猿さんは温泉好きなんだな。





「ギンジ殿。どうでしたかの?ワシの自慢の風呂と湯けむり乱舞は。あのスキルについてはどうか内密に頼みますぞ。」





「あ、ああ・・・スキルはともかく風呂にはまた邪魔させて貰いたいと思っていた所だ。」





湯けむりを任意に発生させることが出来れば相当強いと思うんだがそういった事を目的としてるんじゃなさそうだしなぁ。





「気に入って頂けましたか!是非またゆっくりお休み下され。」





「ギンジさん。今度はゆ~っくりご一緒しましょうね?うふふ。」





ハナちゃんが艶っぽい笑みを浮かべてそう言った。昨日見た事を思い出してしまうじゃないか。まずいまずい。





「それで昨日何か事態が深刻とかなんとか言っていなかったか?」





確か昨日サルパが現れた時にそんな事を言っていた記憶がある。俺には関係ない事だと思うが一宿一飯の恩もある。強くなったはいいが空腹で倒れたなんてしゃれにもならないからな。





「あ、いやギンジ殿には関係が・・・あるのかもしれぬが。」





あるのかよ。じゃあなおさら放っておくのは心苦しいじゃないか。





「だとしたら聞かせてくれないか。なにか出来るかも知れない。」





「わかり申した。数日前より大森林の深部に見た事もない湖が発見されたのじゃ。深部といってもワシら獣人は大森林の事を良く知っておるつもりじゃ。解明出来ていない場所もあるにはあるのじゃがどこに何があるぐらいは概ね把握しておる。」





湖だと?十中八九・・・





(我が封印されていた場所だな。銀次と契約したことで封印が解かれ同時に不可侵の結界も消えたのだろう。)





だよなぁ。





「・・・サルパ老。原因は俺だ。多分。」





嘘をついても仕方がない。心当たりがありすぎるのだから。





「やはりギンジ殿が関係しておったか。これはワシの推測だがギンジ殿と契約なされたドラゴンと関係があるのではないかの?」





さすが森の賢人の称号を持つだけあって鋭いな。





「そうだと思う。」





「別に湖が発見された事自体には特に問題があるわけではないんじゃ。水場が増える事に関しては獣人にとってメリットでしかないからの。」





というと何か他の問題があるわけか。





(ふむ。我が長きにわたって留まっていた事により湖自体が魔力だまりになっていたのだろう。我が離れ結界が解けた事により湖の魔力を浴びた周囲の魔獣が活性化した、とこんな所か。)





そんな事が起きるのか。あんな巨大な力が留まっていれば何か変調があってもおかしくない、か。俺はリオウの推測をサルパに話してみた。





「・・・という事なんじゃないか?」





「ワシもギンジ殿がドラゴンと契約したと聞いてそれが一番近いのではと考えておった。ただでさえあの辺り深部の魔獣はやっかいでの。それが活性化しより強力になっておるので周りの獣人たちに被害が出始めているんじゃよ。」





「それは・・・活性化を止める方法はあるのか?」





止める方法があるなら手伝おう。とりあえず猿族のやつら、サルパには世話になっているしな。





「湖に溜まっている過度の魔力を取り除ければあるいは・・・新たに魔獣が活性化する事は避けられるじゃろう。既存の魔獣も元に戻るかむやみに攻撃はしてこなくなると思うんじゃが・・・」





「というか獣人と魔獣は意志の疎通が出来たりしないのか?」





「その辺りは人間と魔獣の関係と同じじゃよ。人間は我らと魔獣を同一のものとしてひとくくりにしている輩がほとんどじゃがな。普通の獣ならば我らの話を聞いてくれるし獣は子を作り育てる。魔獣はどうやって生まれて来るのかわかっておらん。倒しても倒してもどこからか沸いてきよる。」





そんな違いがあるとは。獣の中で気性の荒い奴が魔獣とかだと思っていた。





「人間、というか俺は勘違いをしていたようだ。すまなかった。」





俺はそういいながら頭を下げた。今までの認識では獣人に申し訳ないと思ったからだ。





「ほっほ。人間が皆ギンジ殿の様な心を持っておったらのぉ。我らも排他的種族などと言われることもなくなろうに。じゃが残念なことに人間の心の闇とでもいおうかの。それは恐ろしいものじゃて。獣人が人間にきつく当たるには理由があるんじゃ。」





そうなのか。人間は獣人に何をしてきたのだろう。





「そういう意味でも俺が出来る事を手伝おうと思う。」





「そう言ってくれるのは嬉しいの。じゃが話を通しておかぬと人間の力を借りる事に否定的な者も少なくない。獣老会議で決を採った方がスムーズにいくじゃろう。」





代表に協力を認めさせるという事か。目上の者に敬意を払うという獣人には効果的かもしれないな。





「すぐにでも集められるのか?この広い大森林で他のやつらに伝わるのか?」





全員あつまるまで1週間とかかかるんじゃないだろうか。そんな事して待っているなら俺だけでも向かいたい所だ。





「心配は無用じゃ。5大獣老に代々受け継がれる獣水晶じゅうすいしょうを使うんじゃ。この水晶は他の獣老の所にある水晶とつながっていてな。魔力を流し念じれば水晶の色が変わる。それなりに急ぎの時は黄色、緊急の時には赤とな。」





そう言いながらサルパは獣水晶に魔力を流し水晶の色を赤に変えた。水晶に文字が浮かんでいるみたいだがするがどんなしくみなんだろうか。





「これで招集の意志は伝わったじゃろう。赤はそれなりの強制力を持つ。他の使い方もあるんじゃが今はよいじゃろ。」





「他の獣老が来るのを待つのか?早く来るといいけどな。」





「いやギンジ殿。こちらから獅子族の獣老、バーサスの所へ出向く。獣水晶にもそのように記載しておいた。次の定例会議の場所もちょうど獅子族の受け持ちじゃからの。」





獅子族・・・昨日のライオン女の所か。ハビナとか言ったか。





「わかった。さっそく向かうとしよう。サルパと俺と他に誰か付けるのか?」





「大森林は広い。普通の獣人がゆけば急いでも3日はかかろう。」





「そんなにかかるのか。ぐずぐずしていられないな。」





すぐにでもここを出た方が良さそうだな。





「ワシなら全力で向かえば半日程で行けると思うがの。恐らくギンジ殿の方が速いはずじゃが・・・」





急いで3日を半日で行くのか。さすが5大獣老という所か確かにステータス的には俺の方が速いと思うが場所もわからないし土地勘もないからな。





「ワシももう年じゃからのぉ。ハナちゃんや。」





「はい。サルパ様。ライドホークですか?」





「うむ。頼むぞ。」





ピィー!!





サルパが声をかけるとそれまで後ろで静かに控えていたハナちゃんが指笛を吹いた。





ピュイ~!





大きな鳴き声と共に庭先に両翼を広げれば15mはあるかという大きな鷹?が飛んできた。バサァっと大きな羽をしまうとお座りの形でじっと待っている。お利口さんの様だな。まさか・・・





「これに乗っていくのか?ライドホークと言っていたが・・・」





「そうじゃよ。ギンジ殿。隣の領地の鳥族から借り受けているライドホークのピーちゃんじゃ。ピーちゃんに乗って空から行けば数時間でつくじゃろう。ほれ、ピーちゃん。挨拶しておきなさい。」





ピュイ!





ピーちゃんは鳴き声と共に頭をペコっと下げた。本当にお利口さんだ。俺は元々動物が好きなほうだ。近くへ寄ってピーちゃんをなでるとピーちゃんも嬉しそうに目を細めてくれた。





「じゃあ行ってみよう。ハナちゃんも来るのか?」





「ええ。向こうではピーちゃんと外に控えさせていただきますが。」





「では出発じゃ!ピーちゃん頼むぞ。」





ピュイ~!! バサァ!!





ピーちゃんは俺たちを乗せて一鳴きすると羽を大きくはばたかせて一気に大森林の森の上まで離陸した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る