第31話 湯けむり乱舞

森の奥の方から誰かが来たようだ。獣人なのは確かだろうが・・・





「皆の者!武器を下げよ!」





おお!あのお方は!





賢人様だ!








賢人?偉い奴かな?話が出来るといいが。





「よく来た。人界からの来訪者よ。まずは我が獣人たちの非礼を詫びよう。」





そう頭をぺこりと下げた人物を見て見ると、猿だ。間違いなく猿の獣人だな。


身体も大きくなく年齢も初老に入っているだろう見た目だが・・・





賢人様!?





サルパ様!なぜ人間などに頭を下げるのですか!








うるさい外野だな。少し黙らせるか。





「<<ウインドカッター>>」





「・・・やば。」








お、おい! うわあぁ!!





シュパアァ!!





なんだ・・・この威力は・・・





あいつ危険だぞ・・・








少し威嚇しようと詠唱略でウインドカッターを放ってみたが以前とは比べ物にならないほどの威力が出て自分でも驚いてしまった。獣人たちがかろうじて避けてくれて助かった。当たっていたら恐らく真っ二つになってしまっただろうな。





「お前たち。静まれといったはずだが?」





先の猿獣人がやじっていた獣人たちをギロリと睨む。睨まれた獣人は気まずそうに目をそらすがこの猿獣人、見かけによらずかなりの強さを持っているんじゃないだろうか?


ステータスを見て見るか。





サルパ・ジマク





獣人 猿族 男性





レベル 50





物攻 190





魔攻 320





防   70





敏 250





スキル 残像拳 マジックブースト 湯けむり乱舞





称号 猿族族長 5大獣老 森の賢人








先程のハビナと比べてもなかなかの強さだ。特に魔攻と敏の値が高い。獣人は魔法が苦手というイメージを持っていたがどうやら違うようだ。


森の賢人とはなんとなく頭も切れる様だし先制しておくか。





「あんたは話が出来る人みたいだな。俺の名前は須藤銀次。一応異世界から召喚された勇者だ。獣人と争う気はない。わけあってこの通りの見てくれだ。少し休める場所と少々の食事、衣服も借りられたらありがたい。謝礼は・・・金は今は持ち合わせていないが出来る事があれば雑用でも何でもしよう。必ず礼はする。俺は裏切らない。」





「ふむ・・・」





猿獣人は俺の話の真偽を見極めているのだろう。本来いるはずのない場所に急に現れた人間ともなれば当然か。ならば・・・





「疑われるのは仕方がないと思うが。先程も言ったが俺はドラゴンと契約した。これは紛れもない真実だ。信じてほしい。湯けむり乱舞使いのサルパ・ジマク殿。」





「!?お主それをどこで!??」





「俺には「視える」んだよ。」








湯けむり乱舞?お前知ってるか?





いや・・・適当に行ってるんじゃ?





でも名乗っていないサルパ様の家名も言ってたぞ








今まで目を細めていたサルパが突然目を大きく見開いた。周りもザワザワしてるしこれは効果あったかな。





「もしかするとこの御仁が言っている事は正しいかもしれぬ。取り急ぎワシの家に案内しよう。」





「なっ!サルパ様!?人間を招くというのですか!?」





付き人の猿獣人が困惑したように言う。





「そうじゃ。異例かもしれぬが事態は思ったより深刻じゃな。」





「なんと!・・・賢人様がそう仰るのなら。」





深刻だと?何か起こっているのか?


よくわからないが俺はサルパの案内で大森林内の獣人の集落へ案内されることになった。明らかに他の獣人から警戒されたり不安な表情をされているが仕方がないか。








「ここが族長、サルパ様の住居だ。人間よ、失礼の無いようにしろ。」





付き人の猿獣人に案内された場所は木造ではあるがかなり広い屋敷の様な家だ。





「失礼の無いようにってお前の態度も十分に無礼なんじゃないか?」





「この人間が!」





「よい。」





「サルパ様!ですが!」





「よい、と言っておろう?今の現状ではお主の方が無礼な振る舞いをしておると思うが?」





「ぐっ・・!失礼した。」





へえ。5大獣老だっけ?上に立つものだけあって(多分だけど)話がわかる人物のようだな。


そのまま中へ通されて客間の様な所で座るように促された。内装はかなり渋いが何か安心感があるな。ああ、田舎のじいちゃんちみたいな雰囲気だ。





「おほん。では人払いをするのじゃ。お主も部屋の外で待機しておれ。」





サルパが唐突におかしな事を言い始めたぞ。俺が言うのもなんだが流石に一人はまずいんじゃないか。





「サルパ様!それは危険すぎます!ビハナ嬢を一撃で倒したこの男が何をしでかすか!」





「ほぅ。それはワシが、5大獣老の一人サルパがバーサスの所の娘より弱いと申すか・・・?」





サルパが付き人をギロリと睨む。


俺がドラゴンの眼で見た限りではそれは無いな。このおっさん?じいさん?の方が多分強い。





「い、いえ!そのような事は決して・・・わかりました。どうか十分にご注意なされますよう。」





そういって付き人は出て行った。さて、人払いまでしてしたい話とはなんだ?何か事情がありそうだったが・・・





ビュン!





「お主!スドウギンジと申したな!?で!?あれは・・・あの事は誰から聞いたんじゃ!?誰にも・・誰にもばらしてはいないはずじゃ!どこから漏れた!?」





人が辺りにいない事を確認すると凄いスピードで俺の耳元までやってきてまくしたてる。おいおい。なんだこのじいさん・・・反応できなかったぞ。





「あの事ってどの事だよ。名前を当てた事か?」





「違うわ!あれじゃ!ワシのスキル湯けむり乱舞の事じゃ!それは誰にも教えておらんのじゃぞ!」





「だから視えるって言ったじゃないか。俺もスキル名だけしか知らんぞ。実際なんなんだよそれ。まったく想像できん。」





ステータスが見えても効果は解らない。それも視えればもっといいんだけどな。





「ううむ・・・そうか。ならばお主がドラゴンと契約したというのは本当かも知れぬな。ワシがまだ若いころ一度だけ光輝くドラゴンと出会った事があった。その時にもワシが湯けむり乱舞を持っている事を当てられたことがあったのじゃ。」





光り輝くドラゴン?ひょっとして・・・





「おい。リオウ、知ってるか?」





(む?ああ、そういえば昔そんな能力を持った獣人がいたな。珍しい能力であったから覚えているぞ。確か湯けむりの中では視認不可となりなおかつ高速移動できるという能力だった気がするが。)





なんで湯けむり限定なんだ?限定だけあって相当強力なスキルなようだ。けどこの世界の人間は風呂でも湯を張らないんだったよな。獣人は違うのだろうか?





「契約したドラゴン、今はリオウと名乗っているがそいつが言うには湯けむりの中で視認不可で高速移動できるスキルらしいが・・・?」





「な、なんと!まさか本当に・・・うむ!間違いなくお主、いやギンジ殿はドラゴンの契約者!全獣人に協力する様に伝えよう!仮に拒否されたとしてもワシは協力を約束しよう。」





信じてくれた様で良かった。流石は神聖視されているというドラゴンだ。





「では皆に伝える前にギンジ殿にこのスキルの素晴らしさをご覧にいれよう!」





「え?いや・・なんとなく強力なスキルだなってわかるぞ。超限定的だけど。」





「いいから!いいから!人間にはなじみがないかも知れんが慣れると素晴らしいぞ!こっちじゃこっち!」





は?慣れると?何言ってんだ?





俺はそのまま引っ張られるように家の裏手へ連れてこられた。








「おい。これって・・・風呂?しかも露店風呂じゃないか!」





「む!ギンジ殿!お主知っておるか!人間はこの良さを知らないと思っていたぞ!やるのう!」





サルパに連れてこられた場所は家の裏手にある大きな露天風呂だった。天然の温泉が湧いているらしく一面湯けむりに包まれていた。ヴァルハート王国にいた頃風呂に入りたいと思っていたからこれは嬉しいサプライズだな。





「知っているなら話は早い!ささ!参られよ!」





サルパは一瞬で服を脱いで全裸になっていた。相変わらず素早い。・・・あ、お尻赤い。





「じゃあ遠慮なく・・・って他に誰かいるじゃないか!しかも・・女!?」





そこは混浴なようで先に女性猿獣人が何人もくつろいでいた。





「もう!サルパ様、入る時はお声をかけてって・・・人間!?」





湯けむりで大事なところは見えないがやはり人間という事で相当な警戒をされているようだ。





「ハナちゃんや。この御仁、ギンジ殿は人間だが大丈夫じゃ。ワシが補償しよう。」





「そうですか?サルパ様が仰るならそうなのでしょう。うふふ。変におどろいてしまってごめんなさいね。」





「い、いや・・・気にしないでくれ・・・」





そういうとハナと呼ばれる猿獣人は立ち上がりぺこりと頭を下げた。急に立ち上がらないでくれ。目のやり場が・・・





「あら。ギンジさん。カワイイ反応ですこと。いじわるしたくなっちゃうわ。」





猿獣人と言ってもこの女性しっぽと雰囲気ぐらいで体つきやしぐさもほとんど人間とかわらないように見えるぞ。まずい。このままだとのぼせてしまう。





「さてギンジ殿。ワシのスキルとくとご覧あれ![湯けむり乱舞]!」





「き、消えた・・・」





サルパがスキルを使うと彼の姿が湯けむりに溶けるように消えていった。まさか罠か!?


そう思い湯から立ち上がって警戒の構えを取ったが・・・








きゃあ!





もう!またサルパ様!?





サルパ様のエッチ!





「うひょひょひょひょひょ~!!ほ~れ!ほれ!今日も皆一段と良い体をしておるのぉ~!」








は?どこからともなくサルパの声が聞こえる。





「サルパ様が来るといつもこうなんですよ・・・女の子にいたずらばっかりするんだから!お仕置きしたくても何故か絶対に捕まえられないし・・・きゃん!もう!サルパ様!」





何やってんだ・・・確かに姿は全く見えない。本当に恐ろしいスキルだ。


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