第30話 大森林の獣人
目を覚ました俺は銀色のドラゴン、リオウと契約した湖を出て深い森の中を歩いていた。
「リオウ、まずここはどこなんだ?ヴァルハート王国なのか?」
(いや、ここは大森林の深部だ。我が封印されていた湖はやつらによって不可侵の結界を張られていた。よって大森林の獣人も侵入してこなかった。)
「やつらってのは今は話す気がないんだろう?それより大森林だって?獣人の国か・・・ヴァルハート王国のビシエ遺跡にいたと思ったが・・・そもそもなんでリオウはあの国の遺跡なんかに結界を張ってたんだ?大森林に封じられていたのに。」
(すまない。いずれ必ず話す。あの国に結界を張っていたのは異世界より勇者を召喚できるのは人間だけだからだ。エルフも出来ないことはないがあいつらはまずしないだろう。)
「ちなみにあの時結界の先に進んでいたらどうなったんだ?」
外敵に襲われず、裏切られず、空間の裂け目に落とされなかったらという意味だ。
(あの先には魔法陣があってな。我が封印される直前に力を三分の一程思念体に変え、それに魔法陣の設置と守護をさせていた。思念体は随分と前に劣化して何かの武具に宿るしかなかったようだがそれはまあいい。その魔法陣に入ればあの湖近くまで飛んでくるはずであったぞ。)
「転移の魔法陣か。使えたら便利だろうな。」
(使えるぞ。あれも竜言語魔法だからな。)
「なんでそんな便利なモノを先に教えない!あんな高威力攻撃魔法ばかり教えやがって!」
俺が竜言語魔法をぶっ放すたびに素晴らしいだことの美しいだことの感慨にふけっていたようだったが。
(待て待て。転移は「時」の竜言語魔法なのだ。我が封印される際に真名、時、創造の力を奪われたようだ。まずは時の力を取り戻せば使える様になる。)
なんだかよくわからないが重要そうな力を3つも奪われておいてなおかつ三分の一の力で思念体を作り本体は厳重に封印ときた。このドラゴン、リオウは何者なんだ?
「まずはその奪われた力を取り戻すことが先だっての目的になるわけか。そういえば聞きそびれていたが仮に俺が死んだらリオウはどうなるんだ?」
(仮にか。考えていなかったが仮に銀次が死ねば我も同時に消えるだろう。そういう意味では奪われた力を探す事が重要かもしれぬ。真名もいいが今のこの名前も気に入っているがな。)
リオウに力が戻れば俺ももっと強くなれる。もうあんな思いはごめんだ。
(銀次よ。まずは獣人の集落に行ってみてはどうだ?服もボロボロだし体中、血と泥で酷い見てくれだぞ。)
ああ、そんな事気にしてる余裕もなかったからな。確かにこれは酷いな。だが獣人か・・・
「獣人という種族は排他的なんじゃなかったのか?」
メーシーがそう説明していたはずだ。
(獣人は血の繋がりを重視するが目上の者に対して敬意を払う者がほとんどだ。)
「俺は獣人に対して権力も何も持ってないぞ。勇者の称号があれば大丈夫なのか?」
(我を誰だと思っている。獣人を見下すつもりは全くないがドラゴンという存在は獣人の中で神聖視されているのだ。)
なるほど。その神聖なドラゴンがいれば獣人も協力してくれるか。獣人に対して事を荒げたくない。獣人に俺は何もされていないからな。
人間だ!我らの大森林に人間が入り込んだぞ!
人間め!今度は何をたくらんでいる!
一人で大森林に足を踏み入れるとはいい度胸だ!
殺せ!
俺は数十人の獣人たちに包囲されていた。なぜだ。話が違うぞ。
「おい!リオウ!どうなってる!?ドラゴンは神聖な存在じゃなかったのか!?」
(うむ。間違いない。失念していたが我は今銀次と同化している。我がここにいるという証明ができんな。銀次、死ぬなよ。)
クソ!リオウめ!覚えていろよ!
「俺はヴァルハート王国で異世界より召喚された勇者、須藤銀次だ!訳あってあの国と敵対している!そして俺はドラゴンと契約した!お前たちと事を構えるつもりはない!誰か話を取りまとめられる者に通してくれないか!」
・・・・
獣人を初めて見るんだが俺が想像していた獣人像と少し違っていた。顔立ちはほぼ人間と遜色がない。
耳が頭の上についていたりしっぽがあったりするので獣人だとわかるぐらいだ。でも個人差があるのか。手足の部分も動物の者もいる。
俺の言葉に一瞬面食らったような顔をしていた獣人たちだったがやがてまた大きな声を上げ始めた。
勇者だと!?ふざけるな!
人間は嘘つきだ!
よりによってドラゴンと契約だと!?我ら獣人を愚弄する気か!
殺せ!
チッ!ダメか・・・!全て正直に話したんだがな。どうする?今の俺のスペックでこいつらと戦えるのか?相手の力量がわからない事には危険だ。
とりあえず竜言語魔法でもぶっ放してみるか?いや、そんな事をしたら確実に獣人から追われることになる。
仕方ない。とりあえずいったん退くか。
「むっ!こいつ逃げる気か!やはり先の言葉は口から出まかせか!いいだろう。5大獣老の一人、族長バーサスが嫡子ハビナが成敗してやろう!」
そう言いながら整った顔立ちをした獣人が中から出てきた。耳と尻尾、あとは雰囲気を見るに恐らくはライオンの様な獣人だろう。
ライオンの獣人か・・・手ごわそうだが・・ん?なにか視界の端に映っているぞ。自分のステータスウインドウとは逆側だ。
(お。銀次よ、気が付いたか。それが昨日我が話した特性の一つよ。お前のその左目に魔力を通して相手を見てみよ。)
昨日話した特性って・・・ああ、俺がリオウと同じ能力を持ってるって話か。
なんだかよくわからないが言われた通りにしてみるとするか。魔力を左目に流すんだったな。どれどれ・・・へぇこいつはいい。
ハビナ・バーサス
獣人 獅子族 女性
レベル 35
物攻 200
魔攻 50
防 110
敏 150
スキル ブーストダッシュ ビーストクロー(風) ファングクラッシュ
称号 族長の娘
リオウに言われた通りにして相手を見て見ると自分にステータス魔法を使った時と同じように相手のステータスを見る事が出来た。これがドラゴンの特性なのか。
戦う前に相手の情報が丸見えになるとは・・・便利すぎるな。仮に勝てない相手なら避ければいいのだ。卑怯でもなんでもいい。俺は死ぬわけにはいかない。
とはいえこのハビナという獣人はパワーで言ったら外敵との戦闘前に聞いた亮汰よりもあるな。女性となっているが顔立ちを見るに人間的には美人だと思う。まあ決して弱くはないがリオウとの契約の際にステータスが大幅に上がっている俺の方が明らかに強い。
ハビナは全てのステータスが俺の三分の一以下だ。
「なるほど。これがドラゴンの、リオウの見ている景色か。ずいぶんだな。」
(なかなかであろう。大体の者が内容的に平凡で飽きて来るがな。)
リオウの力をステータス的に見た事は無いがドラゴンの、しかも恐らく相当な上位にいるであろうリオウのお眼鏡にかなうやつなんて早々いないだろ。
「何をぶつぶつ言っている!あまりの恐怖に頭がおかしくなったか!?」
ハビナは自信たっぷりに俺を煽ってくる。こいつの力が獣人族の中でどれほどか知らないがいいものさしにはなるだろう。
「なんでもいいからやるならさっさと来な。ダッシュスキルで近づいて風を纏った爪か牙で攻撃してくるんだろう?」
「なっ・・・!」
なぜハビナ様の得意技を!?
こいつ何者だ!?
ハビナはこれから行おうとしていた攻撃を見破られてびっくりした様な恥ずかしい様な顔をしているな。スキルまで丸見えだとやろうとしてくる事は大体が想像がつくんだよ。西城のフォールダガーあたりはスキル名見ただけじゃわかりずらいがこうも直接的だとな。
「う、うるさい!大方我わが名声が人間の間に広まっていたのだろう!わかっていても私の連携からは逃れられんぞ!」
「いいから早くしろ。もう少し会話が出来るやつと会いたいんでな。」
「こ、この人間風情が!!八つ裂きにして大森林の外に放り出してくれる!ガオオオオオ![ブーストダッシュ]!」
ハビナは叫びながらスキルを使いながら突進してきた。言うだけあってなかなかのスピードだ。西城ぐらいあるかな。以前の俺なら目で追う事さえできなかったかもしれない。だが今の俺にとっては遅すぎる。
「人間め!反応する事さえできぬではないか!くらえ![ビーストクロー]!」
ハビナがダッシュで俺に突進し体当たり寸前で背後に回り込み風を纏った爪で俺の首筋を狙ってきた。反応出来ないんじゃなくてする必要が無いからなんだがな。
「はっはぁ!貰ったぞ!!」
ガキン!
「なにっ!?」
完全に俺の首を獲ったと思ったのだろうがハビナの爪は俺の首に当たり止まってしまった。心配する事はないだろうと思い避けなかったがここまでとはな。少し痛いかなーくらいだ。
「どうする?まだやるか?」
俺は目だけ背後のハビナに向け確認する。これ以上やると言うなら反撃しなくちゃな。
「な、なめるな![ビーストファング]!」
ハビナは至近距離で再度スキルを使ってきた。
なかなか強力そうだがこれ以上あえて喰らってやることもないな。
「ふっ!」
俺は素早く身体を反転させてそのままハビナの鳩尾辺りをカウンター気味に突いた。
ドンッ!
「かは・・・この私が・・・」
思い切り突いてはいないがハビナのスピードも相まってハビナは数メートル吹き飛んだ。そのまま意識を失ってしまったようだ。
女性を殴ってしまったのはいただけないと思うが先に手を出してきたの向こうだからな。大勢の前で証明も出来るし仕方がないだろう。
「話を聞く気になったか?俺は戦いにきたんじゃない。」
ハビナ様が・・・
まさか一撃で・・・
他に誰かいないのか!?
ハビナ様でも相手にならないやつだぞ!?
こうなったら一斉に・・・!
「皆の者!静まれ!」
なんだ?森の奥から誰かが来たようだ。話が通じるやつならいいんだが・・・
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