第14話 強襲

翌朝俺はとても気持ちよく起きる事ができた。昨日は風呂というか湯浴みをしたのだ。


こちらの世界では浴槽に湯を張ってつかるという概念がないらしく湧水を温めた物をかけ流す感じだったが体を清める事はとても大事なんだなと再認識したな。





出来れば大浴場みたいな所を作れたらいいなと思う。湯浴みを提案した姫崎には感謝しないとな。女性陣は昨日の時点で提案していたのだろう。





コンコン





「おはよー!ギンジ君。あれ?エミリア王女は来てないの?てっきり昨日の夜からこっちにいると思ったのに。」





「おはようございます。そんな訳ないじゃないですか・・・勇人たちならまだしも俺になんて来ませんよ。」





「メーシーでいいよ!あと敬語も別にいいって。友人感覚でいこうよ!」





「いや・・・はい、じゃなかった、わかったよ。よろしく頼む。」





年上の人にそれはちょっと・・と言いかけたが先日の禁止ワードを思い出して口には出さなかった。俺は見えてる地雷は踏まない主義だからな。





「ふふ。ホントにギンジ君は優秀だね。ちゃんと色々わかってるじゃない。」





「はは・・まぁね。」





口に出かかったのばれてたかも知れないな。手の中にキラリと光ったメスを袖口にそっと戻すのが見えたぞ。危なかった。





「あー!銀次君!先生といつのまにそんな仲良くなったの!?」





「なんやまゆまゆ。ええ事やん。」





「クッ!さすがメーシー先生・・あなどれませんね・・・」





そこへ東雲さんと西城、エミリア王女がやってきた。





「おはよう。ついさっき友人になった所だよ。ところで今日は修行というか色々教えてくれるんだろう?」





「うん。先日の闘いを見てもう少し強い魔獣と戦っても問題ないだろうという判断をさせてもらったよ。今日は少しだけ遠足でビシエ遺跡に行くつもり。護衛も昨日より減らしてもいいかな。夕方には戻ってこられると思う。」





「ビシエ遺跡ですか・・先生は相変わらずですね。でも勇者様なら大丈夫かと。」





「王女様も申し訳ありません。お忙しい身分だと察しますが」





「いいえ!今日は公務もありませんし問題ありませんよ。」





「それなら良いのですが。」





「わたしにも普通に接して頂きたいのですが・・・」





「王女様になると周りの目もあるでしょうから。」





そういってくれるのはありがたいけどな。


昨日より強い敵か・・俺に対応できるだろうか。レベルも上がったし出来るといいけど・・・女性に頼るのはツライものがあるが東雲さんと西城もいるしな。





「大丈夫だと思ってるけど仮に勇者さんに何かあると困るという事で今日は騎士団長殿が護衛につくみたいだよ。こなくていいのにねー。」





ライーザさんが来てくれるのか。昨日来たそうにしてたしな。ライーザさんは城門で待っているらしい。





「そういえば神宮寺と加瀬と杏奈ちゃんはこーへんの?杏奈ちゃんは朝から姿が見えないけど。」





「ああ亮汰は久しぶりに飲みに行きたいとかで侍女の女性を誘ってどっかいったな。勇人と姫崎も朝早くに二人で出かけたよ。」





「勇者色を好むといいますが・・ギンジ様もそういった事がご趣味ですか?」





ドキッ。エミリア王女がピッタリとした戦闘服に包まれた胸を両腕でギュッとおさえながら上目使いで聞いてきた。ちょっとくらくらしてきたぞ。





「い、いや・・興味ないって事はありませんがって何言ってるんだ俺は!何分経験がないものですから・・・」





それこそ何言ってるんだ・・動揺してしまったんだ。仕方ないだろう。





「そうですか!よかったです!」





「よかった?」





「いえ。こちらの話です。」





「銀次君・・?早く行かないとライーザさんに怒られるよ・・?」





パキ、パキパキパキ





!?な、なんだ!?急激に寒いと思ったら東雲さんの背後に氷の塊が出来てるんだけど・・・誰かが上位魔法を使ったのか!?





「そ、そ、そうだ・・ね!早く行こう!先生!早く案内して!早く!」





俺たちはメーシー先生に案内をしてもらってライーザさんの待つ城門まで向かった。


向かっている途中で西城に「あんたアホやな。」って言われて肘打ちをもらった・・俺が何したっていうんだ・・・





「遅いぞ!メーシー・ローイング!勇者様に何かおかしな事をして時間を取らせたのではあるまいな!?」





俺たちが城門に着くとライーザさんがすでに待っていた。





「そんなに待ったのなら先に一人で行ってればいいのに。ライーザ・キューラック騎士団長殿が露払いしてくれれば私たちも楽出来るんだけどなー。それに時間を取らせたのは王女様の方だと思うんだけど。」





「エミリア王女様がそんな事するはずがないだろう!?いい加減にしろ!」





「はいはいはい。もう行かないと時間ないんでしょ?」





「はいは一回でいい!はぁ・・皆様申し訳ありません。早速ビシエ遺跡の方に参りましょう。先日の草原とは別の方角になります。」





俺たちは用意してもらった馬車に乗って出発した。あまり大きい馬車だといざという時に小回りが利かなくなる、と言われジャンケンの結果3人ずつに別れて乗ることになった。


俺・西城・ライーザさんグループと東雲さん・王女・メーシーグループだ。


ちなみにこちらの世界にジャンケンの文化は無いようだが説明するとすぐに理解してくれて助かった。





「ふー。ライーザさん遺跡までどのくらいかかるん?」





「そうですね・・2時間弱で着くと思いますよ。その間の魔獣は騎士団にお任せください。」





騎士団が倒した討伐した場合経験値はさすがに入らないんだろうなぁ。


道中の分も経験値おくれ。ちなみにパーティーってどうやって組むんだろう。





「ライーザさん。パーティーってどうやって組むんですか?昨日俺たちはそんな事した記憶もないので自動で組まれてるみたいですが。」





「そうなのですか。自動で組まれるなんて聞いた事ありませんが勇者様は特別なのでしょう。一般的にはステータス魔法と同じで相手に申請を念じる感じでしょうか?無意識にやっているのでなんとも言い難いのですが。人数は5人までですね。」





「なるほど。ライーザさん、やってもらえますか?」





「わかりました。・・・どうでしょうか?」





ライーザさんが、言い終わると目の前にステータス画面が出てきてそこには





<パーティー申請が来ています 承諾しますか>





と出ていた。





「後は承諾か拒否を念じて貰えれば。」





「わかりました。」





承諾・・っと。おお。ステータスに





パーティーメンバー ライーザ・キューラック 





と出てきたぞ。なんか連帯感みたいなものが勝手に出来るな。


あれ?そういえば同期の連中ってどうなってるんだろう?パーティーにいないけど。





「ちょっと西城も俺とライーザさん両方にやってもらっていいか?」





「ええよ。んー、どうや?」





「サイジョウ様。こちらには申請が来ましたよ。」





「わぁ!パーティーメンバーだって!仲間って感じやん!」





西城もテンションが上がっている。なんとなくこの機能は現実世界では合わない気がするな。ところで俺の所には来ないんだけど・・・





「西城。来ないぞ。」





「えー。じゃ須藤やってや!」





俺も西城に対して申請を送ってみる。





「あかん。なんもこないわ。」





なんでだろう。元々パーティーになっているとかで勇者同士は意味がないのかな。


少しさみしいが同じことなら仕方ないか。後はもう一つの馬車に乗っているエミリア王女とメーシーにも送ってみたが反応がなかった。恐らく距離か何かの制限があるんだろう。一度休憩を取った時に試したが今度は問題なく申請が出来た。





それからうとうとしながら馬車を走らせ渓谷地帯に差し掛かりしばらくすると急にガクンッと馬車が停止した。





「ライーザ様!魔獣が現れました!」





「この辺りに現れる魔獣はラビ―ぐらいだろう。お前たちで対処しろと言ったはずだ!」


ライーザさんが騎士団長の顔になっている。やっぱりおっかないよな。





「い、いえ!それが現れたのはラビ―ではなくハイエナウルフの群れとトロールです!」


「なんだと!?トロールだって!?遺跡の奥地か大森林にしか出現しないはずだぞ!なぜこんな街道に!」





「わかりません!」





「チッ!私が出る!スドウ殿、サイジョウ殿お二人にも力を貸して頂けませんか?」





なんだ?察するにこの辺りでは出現しないはずの高レベル魔獣が現れたっぽいが・・・





「もっちろんやで!パーティーまで組んどるんや!やらな勇者の名がすたるで!」





「そうだな!力になるか分からないがやってやる!」





そもそも俺の修行に付き合ってくれるという事でみんな来てくれてるんだ。危ないから知りませんって話は通らないな。





「恩に着ます!」





外に出ると東雲さんたちも同時に馬車から降りてきた。彼女たちも戦ってくれるという事だろう。





「状況は!?」





「ハイエナウルフ60体にトロールが3体です!トロール1体につきハイエナウルフ20体がついている形かと!先頭を務めていた数名が強襲を受け軽傷ですが傷を負っています!すでに後方へ移しているので大事はないかと!」





「そうか・・けが人の治療を最優先しろ!こちらはわたしたちでやる!トロールが3体か・・まわりのハイエナウルフも鬱陶しいが・・・メーシー!」





ライーザさんの問いに兵士が答え、それを受けライーザさんはメーシーと何か話している。作戦会議かな?何やら決まった様でメーシーは俺たちと兵士に向けて大きな声で話をしだした。





「おっけー。みんな!こんな魔獣が出るとはついてないね!けど今日は王女と勇者さんたちもいる!それにライーザ騎士団長がいるんだ!絶対に大丈夫!無事に帰ってお酒でも飲もう!」





おおおお!やってやる!





勇者様には指一本触れさせんぞ!





王女様は俺たちが守るんだ!








護衛の兵士たちの士気が凄い事になっている。というかそんなにヤバい魔獣なのか?





「確かにトロールは大きくて力がありそうだけどヤバい相手なの?」





「うん。恐らくライーザと王女がいなかったら一般の兵士は誰か犠牲になってた思うよ。」





メーシーは多分ね!とバチコンウインクをしてるがそれって俺も犠牲候補なんじゃ・・








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