第11話 異世界情勢
「え?文字読めないの!?私の字、汚い?研究者の割には綺麗な字だと思ってたんだけど。」
全くわからん。ミミズがのたくった様な跡が確認出来るくらいだな。
メーシーが目と口を大きく開いて驚いている。話が通じれば字も読めると思うよなぁ普通。
「恐らく字の綺麗さの問題じゃなくて単純に文字が理解出来ないんだと思います。」
「あぁ~そっちか。口語が通じるのが幸いね。そうじゃなかったら召喚された時点でお互いがパニックになって今は無いね。絶対。」
「でしょうね・・・」
急に召喚された挙句言葉も理解できない。そんな中で俺たちは冷静でいられただろうか。まず無理だな。メーシーに完全同意だ。
「あら?でもステータス紙に書いてあった文字は双方理解できたのではなくて?」
確かに姫崎の言うとおりだ。俺が魔力を通したステータス紙はエミリア王女は読めてたよな?
「あれはステータス紙に魔力を投影する物なんだ。字を読むというか魔力を読む感じかな。だからか見る側によって見え方が違うのかも知れない。あれも数が少なくてなかなか不思議な紙なんだよね。」
「そんな凄いもん、なんで量産しないんだ?出来ない理由でもあんのか?」
「そんな事出来たら苦労しない!あれはそんな簡単なモノじゃないんだ!」
「ライーザさん・・・」
亮汰が軽く疑問を口にした途端、じっと聞いていたライーザさんが急に大きな声でカットインしてきた。怒ってるみたいだな。エミリア王女もなぜか気まずそうだが・・・
「なんか変な事言っちまったみたいだな。すまん!」
亮汰はしっかりと頭を下げて謝った。こういうところはしっかりしてるな亮汰。
「いえ、カセ殿。こちらこそ大きな声を出して申し訳ありません。メーシー、勇者様方には聞いておいてもらった方がいいだろう。頼む。」
「いいの?んー。ステータス紙の原料にはある魔獣の部位が使われてるんだ。その魔獣はかなりの強さを持っていていくつもの騎士団の小隊が数日かけてやっと1体討伐出来るレベル。その魔獣との戦いでライーザの弟で王女様の幼馴染であったハンス小隊長が殉職したんだよ。」
「・・・っ!そうだったんすね・・重ねて詫びさせて下さい!」
「大丈夫です。おとう・・ハンス小隊長は勇敢に闘った結果ですから。」
「ええ。ハンスは本当に立派な騎士でした!」
「エミリア様・・・ありがとうございます。」
「殉職・・・」
「・・・・」
さっきまで訓練したりしてたけど異世界に召喚されたっていう事がどこか実感としてなかった。しかも実戦もしていない。殉職。死ぬ。この言葉が重くのしかかってくるな。
ゲームとは違う。セーブ&ロードもリスポンもないと強く考えなければいけないだろう。
「そ、その恐ろしい魔獣はなんていうのかしら・・?」
「ん。ドラゴンだよ。」
「ドラゴンってあのよくゲームとか映画で出てくるドラゴン?」
ドクン
────くこい────
え?なんだ?少し前も聞いたような・・?
・・・気のせいか。
「そっちの世界でもドラゴンいるんだ?この世界のドラゴンはほとんど姿を現さないけどとても頭が良くて凶暴なんだ。生態系もはっきりと解明されていない。そのドラゴンの眼がステータス紙を作るのに必要なんだよね。取れる数も少ないから価値も高騰するって訳。」
「おとぎ話の中でしか聞いた事ないですね。」
それだけの強敵でめったに現れないんじゃ量産なんかできっこないな。ドラゴンの眼って見るだけで相手の事が分ったりするんだろうか。
「少し話がそれちゃったけど言語の一覧表みたいな物を渡すから少しずつ勉強してくれればいいんじゃないかな。字が解らないと不便な事出てくると思うし。私にも勇者さんたちの世界の文字教えてくれると嬉しいな。」
「うげぇ・・結局勉強かよ・・・」
「研究者って貪欲だなあ。尊敬しちゃうねー。」
俺たちはとりあえず字はわからないがメーシーの書く地図の説明を聞くことにした。
「まずこの世界にはいくつかの大きな勢力があるんだ。この一番大きな大陸の西側にこのヴァルハート王国。その隣の大きな森林地帯が獣人族が多く暮らす大森林。さらにその東側に広がる大国がユニバル帝国だね。」
「大森林!いろんな獣人の人たちがいるんだー!行ってみたいなー!」
「帝国という事は皇帝制度ってわけか・・よっぽどのカリスマじゃないと皇帝なんて務まらないよな。」
「カリスマなら勇人様だって負けていませんわ!」
「帝国は完全実力主義で、軍事国家と言っても過言ではないでしょう。外敵が現れてもお構いなしで戦争して領土を広げる事にしか頭がない輩です!」
メーシーがギリッと歯噛みしてるぞ。帝国の事を良く思っていないようだ。
「ライーザ騎士団長殿の帝国嫌いは相変わらずだね。言ってる事は間違っちゃいないけど。後、獣人は結構は排他的っていうか仲間意識が強いからよっぽどの事が無いと対等に話してくれない可能性が高いかな。人間嫌い、血筋・伝統主義ともいうけど。」
「絶対仲良くなる!」
東雲さんは獣人に興味があるみたいだ。カワイイ獣人ばかりならいいけど多分違うんだろうな・・勇人は確かにカリスマ性あるけど皇帝ってどんな人なんだろう。
「メーシー先生の故郷のエルフってどこにいるんや?大森林って所に獣人さんと一緒にいるん?」
「違う違う。エルフは帝国よりさらに東へいった海を越えた大陸に主に住んでるよ。国って考え方はあまりないかも。女王はいるんだけどあくまでエルフは精霊に使える使徒みたいな存在である、って考えかな。思えば遠くまで来たもんだねー。」
メーシーは自分の書いた地図を見ながら目を細めている。なにがあったのかわからないけど懐かしい感覚があるのだろうか。
「まぁ私の事はいいとしてそのエルフの大陸にはかなり高等な魔法使い養成所があるんだ。魔法の才能があれば種族を問わず学べるよ。ある意味では帝国に近いのかも知れないね。」
「魔法学校か。あれっぽいなぁ。」
「あれっぽいとはなんですか?ギンジ様?わたしも3年間ほどそこの施設で魔法について学びました。とても有意義な時間を過ごさせて頂きましたよ。」
へぇ。エミリア王女クラスの魔法使いも学びがあるのか。一度行ってみたいな。
「凄くザックリの説明になるけどヴァルハート王国はエルフと友好関係。獣人は排他的。帝国は全方位に喧嘩しかけてるって感じ?個人個人はその限りじゃないからね。ホントザックリ。外交は一応どこもやってるし。」
メーシーによると他にも小さな大陸や島がいくつかあるらしい。あ、ちなみに時間や日にちの概念は俺たちの世界と同一だった。なんというか不思議だがそうらしい。混乱せずに済むのはありがたいけどな。
そこでコンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「勇者様方。夕食のご用意が出来ましたぜ。明日はレベルを上げにというか実践形式での戦いをして頂けとの国王からの通達でさ。」
「実践・・・」
「危険はないのかしら・・・」
「な、なーに!俺たちは勇者なんだぜ!死んだりしねぇよ!」
「カセ様。過信は慢心につながります。慢心は死へと。気を引き締めていかないと。」
「し、死・・・」
皆さっきのハンス小隊長の話でおよび腰になってしまった。俺もびびっているが仕方がないだろう。平和ボケした現代日本人だ。
が、びびっているだけじゃ始まらない。俺はなぜか少しだけワクワクしてしまっている。俺がこの世界に来た事に何か意味があるんじゃないか。そんな気がしているのだ。明日は出来る限りやってみよう。
低スペックだけど。
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