第10話 座学
「なんでそんな嫌そうな顔してるん?ライーザさん。」
西城がライーザさんに尋ねた。確かに嫌そうというかイライラしてる感じだったので気になっていたが。
「嫌なわけではないですよ。気が進まないだけです。」
同じことでは?
「メーシー先生とライーザさんはお互い口では嫌がっていますが本当はとても仲が良いんですよ?」
「王女様!それは誤解です。あいつと仲が良いだなんて眩暈がします!」
「そうですか?私には良きお友達であり、良きライバルのように見えますが・・羨ましい関係です。」
「そうなんか。ちょっとどんな人か楽しみになってきたわ!それにしてもこの恰好はちょっと恥ずいんやけど・・まゆまゆはええなぁ。何着ててもかわいくて。」
「香織の方がとってもかわいいよ!いつもの感じと違うけどわたし好きだよ。」
あ、そういえば忘れていたが俺たちは召喚された時に来ていたスーツではなく訓練の前に渡して貰った服を着ている。
西城は嫌がったがロングスカートで訓練ってのもな。
その西城は動きやすさ重視という事で上はぴったり目のノースリーブでヘソが出る程の短さだ。
下はホットパンツの様な物に膝上のパレオを巻いている。意識していなかったが西城ってスタイル悪くないんだな。
一方東雲さんも流石の一言。薄紫色の短い司祭服のような物に下は白のパンツスタイルでニーハイのブーツ。マントも付けていて実に素晴らしい。
姫崎は赤っぽいワンピース風の服にタイツだ。服装はカワイイと思うよ。
俺たち男性陣はいいだろう。鎖帷子の上に冒険者っぽい服。肩当や胸当て、マントをつけた感じだ。勇人については勇者感が出ている。亮汰はバイキング系か?俺は・・ザ・冒険者って感じだろうか?
「皆様、つきましたー!先生のお部屋兼研究室がこちらになります。先生!いらっしゃいますか?勇者様方をお連れしました。」
「あぁ。エミリア王女か。入ってくれ。」
ガチャリとドアを開けるとそこには浅黒い肌に緑色の髪、白衣のようなものを着崩したメガネの女性が文献とにらめっこしていた。
「こんにちは。先生!こちらが世界の危機に立ち向かって頂ける勇者様御一行です。」
「メーシー・ローイングだ。研究者をやってる。また難儀な事だったね。あぁ言葉使いは勘弁してね。堅苦しいのはちょいと苦手なんだ。」
「おい!メーシー!貴様!王女様や勇者様に失礼であろう!こら!エールとつまみを食べながら大事な文献を読むのをやめろ!」
「ん。ライーザ・キューラック騎士団長殿もおいでであられるか。はいはいはい。失礼しました。ごめんなさい。これでいい?」
「はいは一回でいい!クソッ!これだから・・・」
この人が王女の先生か。ずいぶんとラフな人だな。俺は全然気にしないけど。
・・・っとこの人、耳が・・若干ぼやけてるけど。
「お。ずいぶんと目ざとい勇者さんがいるみたいだね。私の偽装魔法は一般人にはほとんど判らないはずなんだけどね。聞かれる前にいっとくけど私はエルフ族だ。その中でもダークエフル種。別に闇に堕ちたとかじゃなくて単に色の違いさ。」
「エルフ族ですか・・ふーん。耳が長くとがってる所以外なんにも変らないんだな。でもなぜこの国にいるんですか?ここでは今の所人族しか見てないので。」
「ま、色々あってね。あなたみたいに特に偏見を持たない人もいるけど中には人間以外って理由でいちゃもんつけて来る輩がいるおかげで偽装魔法を使ってるってわけ。」
ライーザ騎士団長殿はそういうんじゃないからねとウィンクしてきた。ライーザさんはそういった事で対応を決める人じゃなさそうとは思ってるけど。
「エルフ族!すごーい!映画だと弓を使っててとっても強くてわたし大好きです!とっても美人だし憧れちゃうなー!」
「確かに顔立ちは整っていますわね。」
「そ、そう?ふふ。まぁ、弓を使うエルフは多いね。私も使えなくはないけど投げナイフの方が得意かな。」
「エルフ族は長寿ってイメージが本なんかではあ・・っっ!」
シュ!カッ!
勇人が言い終わる前にメスの様な物が勇人の顔のすぐそばを通って後ろのドアに突き刺さった。めちゃくちゃ速くて俺では見逃しちゃうね。
「だ・れ・がババアだって!??」
「いや!言ってないぞ!」
「ジングウジ様!先生に年齢を想像させる事を言ってはいけません!」
「!?あ、あぁ・・わかった・・・」
エミリア王女が小声で勇人に告げた。王女よ、先に言っておいてくれ。
ライーザさんはおだてられて調子に乗るからだとニヤニヤしている。
「で?何の用で来たの?」
「おい!メーシー!」
「ライーザさん抑えて下さい。今日は勇者様方にこの世界の事を色々と教えて貰いたくてやってまいりました。」
「社会勉強ってわけね。いくら勇者でも何も知らずに大森林になんて行ったら大変だしね。わかったよ。ちょうど研究も行き詰ってた所だし少しばかり講義しようかな。まずは何を聞きたいの?」
そうだな・・・
「まず勇者と外敵について。世界情勢等についても聞きたいです。」
俺はこんなところかな。
「じゃあわたしは種族について聞きたいな。いろんな人たちがいるって聞いてわくわくしちゃうね!」
「俺は魔法とスキルについて聞きたいかな。」
「わたくしもですわ!」
「あー俺はいいや!勉強なんてめんどくせぇ!」
「うちもー。須藤達の質問以外で気になった事出来たら聞くわ。」
亮汰と西城は予想どうりだな。
「オッケー。じゃあ勇者の前に外敵からね。外敵ってのはそのままで外からの敵。外ってゆうのは多分、この世界以外・・・・・・からの敵の事だね。多分でしかないけど。」
「この世界以外だって?」
俺たちが召喚させられた元の世界以外にも世界があるのか?
「うん。奴らが来る時に空間が割れるんだ。どっから来てるのかはわからない。だから多分って言ったんだよ。」
「そいつらと戦った時捕まえて聞けばええやん。」
捕虜的なものか。西城にしては冴えてるな。
「そうしたいのはやまやまなんだけどあいつらコミュニケーション取れるとは思えないし殺したと思ったら消えちゃうんだ。キラキラの光になってさー。」
そうなのか。直接調べられないことには解明するのは大変だよな。
「姿形は様々なんだけど共通している事は核みたいな物がどこか見えるところにあってそれを壊せば奴らは消える、かなり固いけどね。あと奴らの見た目がグロイ。」
メーシーはうげーって顔をしながら説明している。グロイのは嫌だなぁ。
「急にそんなのが出てきたらパニックになっちゃうね。」
東雲さんが言う事はもっともだな。急にそんなグロイのが隣にいたら腰抜かすぞ。
「一応割れた空間を色々研究して王都の中に出てこない様に結界みたいな物は作ったんだ。それからは今の所街中に奴らが直接出てきた事はないんだけどいつどうなるかは不明だね。」
「メーシーさんは優秀なんですね。」
「おっ!私の偽装魔法を見破った事といい勇者さんはわかってるね。名前は?」
「須藤銀次です。」
「ギンジ君か!一緒に研究してみない?」
「銀次はデスクワーク得意だしその方がいいじゃないか?」
えぇ・・食事いかない?みたいなノリで研究に誘われてしまった。勇人も変に焚き付けないでほしいんだけど。
「いやぁ俺、文系だし・・・」
「銀次君は勇者として世界を救うからダメだよ!」
東雲さんがフォローしてくれた。ありがとう助かった。
「残念だけど仕方ない。勇者だもんね。で、その肝心の勇者なんだけど正に伝説の存在で詳しい事はわからないかな。ふるーい伝承に世界の危機に勇者が現れて世界を救う。って言葉と召喚魔法陣が乗ってるんだ。それがちゃんと今に受け継がれて本当に召喚できるなんてね。所詮伝承だと思ってなめてたよ。ステータス紙がなかったらまず信じなかったと思うよ。」
俺だって実際に召喚されてなければそんな話があったとして一笑に付してただろう。
「しかもこんなにも普通の人たち。カワイイ女の子ばっかりだし。」
女性陣は嬉しそうだな。
「次に世界情勢についてだけど。皆これを見て!」
メーシーはノリノリでボードに地図、のような物を書き出した。が。
「「「「「「・・・・???」」」」」
「ん?どうしたの?」
そこには見た事の無い文字が描かれていた。
言葉が普通に通じるから意識していなかったが文字が全くわからない。
「先生。なんて書いてあるか全く解りません!」
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